第11話 あ、この世界の正規の強化ってそうなんだ
いや、アーツや戦技の説明というか、この世界の在り方の説明
してるだけなのに、どうしてこんな文量になるんや…
いや、説明だから、こんなモンなのか…
まぁあの後、なんやかんや、後始末は大変だったが
ヒヤヒヤしながら、荷車を引いて地上まで戻って来て
安堵の息をひとまずついた。
そして、商館に向かい、そこで荷車の資材を収めて
後日に査定代金を貰うという話になって、
酒場兼宿屋に帰ったのだが…
ボブに呆れられた。
「いや…あのな…リョウ…
2人でサラマンダーを狩ってこいって
意味じゃ無かったんだがな…
臨時でもいいから、複数人でパーティー組んで
5~6人で狩ってくるってやり方に
なると思ったんだが…
毒を使って、毒殺でサラマンダーを
2人で狩ってくるとかお前等、正気か!?」
と、依頼達成の報告を入れた後に
『普通はこういう流れになるだろう?』
という一般回答を添えられて、唖然とされた。
ああ、普通の冒険者だったら、
そういうのもありか…
臨時雇いで冒険者を募って、
みんなで狩猟、みんなで山分け…
ああ、それも手ですなぁ~~。
ええ、俺の万象強化の能力を使わないのなら
それはそれで、手ですねぇ…
いや、俺の能力を使わないなら、
俺もフィアも凄い雑魚なんで、話にならんのだが…
ともかく帰ってきたその日は、そんな感じで
簡易報告した後に呆れられ
妙に疲れたので詳細は明日という事で
2人、二階のベッドにダイブした。
硬いベッドだったが、この時ばかりは天国の様で
2人で寝る前のイチャイチャをする余裕もなく
疲労困憊の中で、至上の幸せを感じる睡眠に
意識を微睡ませていったのだった。
そして朝、2人でグチャグチャに絡み合って
抱き合った状態で起きて、
ようやく大変な化物との戦いに勝利して、
そこそこの金額の仕事を達成したのだと理解して、
その後に喜びがわき上がってくる。
そうだ、俺達は、
『あんなのどうやって狩るんだよ!?』
って偵察してたときに、ドン引いてた化物を
見事に討伐したのだ!
アア、毒万歳! 毒殺万歳!
これこそ人類の叡智よ!
俺は自分達の必死の努力より
圧倒的な恩恵をもたらしてくれた
人類の叡智、『毒』に感謝した。
そして昨日の今日なので自炊をする気力も無く
外食で済ませようという話になって
飯を食いに1階に下りて
食堂で金を払って朝食を作って貰った。
マスターの嫁さんは食堂の女将をやっていて
冒険者達の胃袋を満たしてくれる
旨い飯を作ってくれる有り難い人だ。
彼女に1人1銀貨相当の
女将さんの”日替わり定食(上)”を頼む。
2人で2銀貨のリッチな朝食。
いや、1銀貨もする食事なので、
肉系がたっぷりの
朝食の範囲を超えるボリュームだったが
昨日の戦いで、心も体も腹が減っていたので
俺もフィアも肉系をガッツリと食った。
というか、フィアは冒険者を始めてから
自炊だろうが外食だろうが
「こんな美味しい食事、
毎日、食べさせて貰えるんですか!?」
と農民時代の質素な食事からは考えられない
肉や魚などの豊富な肉性タンパク質の摂取に
感動しっぱなしで
「ご主人様、一生、側にいます!絶対に側に居ます!
捨てないで!!」
と、餌付けの方面でさえ溺愛される事になった。
”はたしてそれでいいのだろうか?”
と、迷うのもあったが
毎日、美味しそうに幸せそうに
御飯を食べるフィアを見ていると
それだけで愛おしく
”もっと食いねぇ、もっと食いねぇ”
と、栄養をいっぱい供給してしまう。
というか、そのせいで肉付きが
出会った最初の頃より更に良くなり
元々、けしからん体が、更にけしからん体に
成長しているようで、
今後、何処まで成長するのか怖くなる所ではある。
俺は、まぁ、あっちの世界の
調整された味付けに慣れてるので
こう…豪胆な味付け、というか
”塩!ハーブ!酸味!”
という、『これソースなの?』って悩む
濃厚なソースみたいなのに、まだ慣れず
これはこれで、食べれるのだけど
美味しくない事は無いのだけど…
あの質素な味の中にあった深みの
米と味噌汁が、
どんどん恋しくなってしまうのだ…
いや、豪胆な肉の食事も、イイのですけれど…
焼き魚もイイんですけど…
美味しいは美味しいんですけど…
食べれなくなってしまうと
醤油を付けた刺身とか…なぁ?
恋しくなるよなぁ…
と、いきなりステーキならぬ
いきなり肉料理に、朝っぱらからエールとかいう
一見、駄目人間の食事を、2人で続ける。
でも、分かったんだけど…
食堂で出る飲料水的な意味合いの飲み物って、
エール酒なんだよな…
冒険者のみんな、エール酒ばっか飲んで、
酒場で飲んだくれてるってのは
確かに飲んでくれてるけど
ぶっちゃけ、エール酒って水代わりなんだよ…
だって川の水も井戸の水も、濁った泥混じりのアレで
病気の元みたいな飲み物だもん…
あんな水飲むくらいなら、
アルコール消毒がナチュラルに出来てる
エール酒飲んだ方がマシって事で、
飲み物がエール酒なんだよ…
これ、水代わりなんだよ…
たまに子供でも飲んでるからな…
ハーーーーーー
中世テクノロジーーーー
そんな感じで2人で朝飯を食い終わって
まだ呆れてるボブに、
狩猟の詳細なのを報告をして…
概ね、簡易の報告も
詳細な報告も特に変わらないので
狩猟の流れを報告して
で、ボブに頭を抱えられる。
それでも依頼達成なのは間違いないから
依頼の件はそれで終わりになった。
で、俺は、その後の世間話の流れで
とある疑問をビクビクしながら、ボブに尋ねてみる。
「あのーーーー、
時に、矢を撃ってるとか続けてると、
たまーに、矢尻が白く光ったり、
矢に誘導性が生まれたり
そんな、おもしろ可笑しい事って、
起きたりするんですかねー?」
と、言葉にすると、アホ丸出しな事を聞いてしまった…
「…あ!?
おいっフィアちゃん、
矢を光らせれるようになったのか!?」
そんなアホみたいな質問に、
マスターはもの凄い顔になって食いついてくる。
え!?
ちょっと頭が可哀想な人を演じて
空想とか妄想とか妄言を口にしたつもりだったのに
なんか、真剣な顔になってマスター、
食いついてきたんだけど!?
俺はその反応に驚いた。
「おい、冒険者始めて、2~3ヶ月くらいだろう!?
なのに、もう『魔力乗せ』が出来る様になっただと!?」
マスターは続けてそう叫ぶ。
「魔力乗せ?」
俺は初めて聞く…
……ん?初めて?
いや、なんか、そういえば冒険者の先輩方が
新人の頃に、初心者研修みたいな事をしてくれた時に
なんか、ゴニョゴニョ
”魔力乗せが出来る様になったらなぁ”
みたいな事を言ってた様な、言って無かった様な…
「スゲぇな!フィアちゃん!
もしかして、
魔法使いに成れる適正持ちだったのかもな!
冒険者始めて、直ぐに直ぐで、
魔力乗せを開花させるとか
末恐ろしいぞ…」
と興奮気味になるマスター。
「え? 魔力乗せって、何ですか?」
俺は興奮してるマスターにビクビクしながら聞いてみた。
「…あ? 魔力乗せっていったら
いっつもお前がやってる、っていうか
まぁお前は東方人だから体質なんだろうが
魔力を身体に自然に乗せて、
身体能力を強化させる事だろうがよ…
えっと、東方では、気孔術とか言うんだっけか?」
「はいーーー!?」
俺は、マスターのビックリ説明を聞いて、目が点になった。
そんな俺を訝しげな表情で見て、マスターは続けた。
「まぁ、ここには初心者も多いからなぁ、いい機会だ。
本来は中級冒険者か上級冒険者に師事して
有料で修行して貰うもんだが
情報だけならタダでもいいさ。
それで強い冒険者が生まれりゃ、
ギルド的には悪くはねぇしな」
そうボブが切り出した。
そうか、その話は俺達よりキャリアがある先輩冒険者に
金を払って修行して貰うような話なのか…
それが分かって俺は耳を澄ませる。
「いいか?お前らも知ってるように
この世界は、魔法使いや神官の様に魔法や祈祷を使って
人間が本来はできねぇ『超常』って奴が起こせる。
で、これを行える力の源が、魔素って奴だ」
あ、それ、魔法使いとか見ててなんとなくは分かってたけど、
やっぱマナってあるんだ…。
「だが、これは本来は、魔法使いや神官だけが持ってる
専売特許なんかじゃねぇ。
マナってのは、学者様の見てたでは、
誰しもが持ってる、あるいは扱える、生命力から絞り出せる
そういうモンらしい」
え?何? マナって誰しもが持ってる?
じゃぁ俺も持ってるの?
俺はマスターの言葉に強い視線を送った。
マスターは腕を組んでゆっくりと続けた。
「学者とか、まぁそれに類する魔法使いや神官の研究では
本来は人が自然に持ってる、そんな”超常”を扱える力を
呪言や祈りなどで、具象化するのが、
いわゆる、魔法や祈祷であって
それに詠唱やらの手続きが必要なわけだが…」
「ボブさん…
そんなの魔法使いの基本じゃないっすかっ
マナを扱って自分のマナを呪文で変換して
魔法を行使するんが
俺ら魔法使いっすよ」
初級魔法使いのグーデンが合いの手を入れる。
なるほど、そういうシステムだったのか…
いや、なんとなくは分かってたんだけど
最初の頃にパーティーを組んだ時に
魔法使いが宙に炎の矢を生み出して誘導攻撃してたの
見た事あるんで、『やっぱ魔法ってあるのか…』って
理解はしてたが…
マナを呪文で変換して、魔法を使うと…ほうほう。
「まぁ、ここまでは一般論なんだが
重要なのは、ここからだ…
マナを扱う素養ってのは学者の考えでは
『誰でも持ってる』って事でな…
俺みたいな戦士やアーチャーでも、
持ってるモンは持ってるわけだ。
魔法使いの様に自由に扱えないだけで…」
「ええ!?」
ボブの言葉に俺よりグーデンの方が驚く。
いや俺も、ああいった能力は魔法使いの
生来の才能か何かだと思ってたが
そうではないらしい。
「とはいっても、
持ってるだけで使う方法がわからなきゃ
あんまり、無いのと変わらねぇ
たくさんの詠唱のお勉強とマナを感じて操作する
何年もの修行を繰り返して
魔法を使えるようになるのが魔法使いだ。
常人がポンポン使えるようになるんなら
魔法の勉強なんか要らねぇし
それらな世の中は
魔法使いであふれかえるからな」
ボブが誰もがマナを持っていたとしても
魔法使いになるのには制約がある事を口にする。
それはそうだろう、と俺は心の中で頷く。
誰でも魔法が使えるんなら、
俺だって魔法使いになりたいよ。
遠距離攻撃、万歳じゃないですか!
ああ、でも、なら、修行次第で
俺でも魔法使いになれるって事なのか?
どうなのか…
「だがな、この世界はいいバランスで出来てる。
俺みたいな戦士専業の人間でも、長い事戦って
動きやなんやの洗練を繰り返して鍛錬をしてると
俺の体の中にあるマナって奴が血の流れに循環して
動きをより強力にしてくれるって事が起きてくる。
これが、いわゆる中級冒険者以上が習得する必要のある
『魔力乗せ』って奴だ」
とマスターは、カウンターからホールに出てきて
じっと周囲を眺めた。
「言ってもピンとこねぇだろうから
まぁ実演してやるよ。
この魔力乗せって奴は、2つの修行の系統があって
常時消耗を低く抑えて基礎能力を底上げする方法と
瞬間的にマナを消費して強い力を出す方法とな。
まぁ俺はどっちも鍛えたが
分かりやすいのは、瞬間的にマナを使う奴だ
いくぜ?」
そう言ってマスタが足を指さしてみんなに
注目を集めさせると…
その時、マスターの足が、
僅かに、ほんの僅かに白く光って
次の瞬間には…
凄まじい速度で俺の所に間を詰めて、
立っていたのだった。
「今のが『魔力乗せ』を使った高速歩法だ。
中級戦士や上級戦士を目指すんなら、
習得は必須レベルの技よ。
これがねぇと、6層あたりじゃ、
あのクラスの化物に刃が立たねぇ」
俺の傍に立った状態で、
腕組して周囲に不敵に笑うマスター。
うえぇぇ!!
あの巨体が一気に俺の所まで間を詰める…
なんだそれ!!
ガタイのいいおっさんが、目でとらえられん速度で
接近するとか、恐ろしすぎるだろっ!!
それが出来る様になったら
滅茶苦茶強くなれるじゃねーか!!
俺はマスターが見せた動きに泡立った。
「だが、出来るといっても、誰でも出来る事じゃねぇ。
まず筋肉使って基礎鍛錬を繰り返し
安全な所で、型の稽古を積み重ねるのは基本だ。
だが型の稽古をずっとしてても習得はできねぇ。
鍛錬したモノを実戦で化け物相手に競り合って
本当の生き死にをかけた体の動きって奴を
十分に繰り返したぐらいに、だんだん体が馴染んでくる。
そこら辺でマナって奴の流れが、なんとなく感じれて
だんだんと出来るようになってくって寸法だ。
ぶっちゃけ、これが出来る様になったら
俺はそいつを中級冒険者と認めてもいいと思ってる」
と言って、鼻で強い息を吹くマスター。
その説明で俺は唐突にその現象を理解した。
『あ、これMP使った特殊技巧って奴だ…』
と。
俺のゲーム脳が活性化され、あっちのゲームで
似たような事があったのを思い出す。
職業固有のアーツとか戦技とかあって、
戦士でも魔法みたいなのがMP消費で使える奴…
あーーなるほど?
この世界って、そういう感じなん?
ああ、MPみたいなのあって
魔法使いだけじゃなくて
戦士も使えます的な世界なん?
あっちの世界の様な、魔法なんかねーから
純粋物理ですってキビシーのではなくって、
人間の運動に
この世界特有の魔法の要素が絡まってきて、
あっちの世界の人間以上の動きを
こっちの世界の人は出来るようになると…
そんな感じか?
俺はマスターの説明をそう理解した。
「で、フィアの嬢ちゃんは、弓使いだったからな…
リョウの奴から、
東方秘伝の気孔術とかいうのを教わったのか知らんが
前々から分かってる、
その華奢な体からは考えられん膂力、
それで、魔力乗せによる誘導射撃と来たもんだ…
たった2~3か月でそこまで成長するのは驚きだが
あんなに狂ったかのように、毎日ゴブリン狩ってたら
戦闘量としては、1年、冒険者してたのと遜色もねぇ
1年で中級冒険者ってのも、末恐ろしいが
生まれながらに魔法使いになれる素質があるのが
狩人やってて魔力乗せに開花したんなら…
まぁ、分からんでもないか?」
と、マスターは自分で言いながら、自分の分析で
”でもそんな事あるんか?”みたいな思考の迷宮に陥って
眉をひそめながらフィアの能力開花に
理屈をつけようとしていた。
いやまぁ、それは俺も不思議に思う。
俺だって半年そこそこの冒険者歴だが
フィアが来て最初の一ヶ月くらいは
万象強化が自分以外に適用できるか?の実験で
1層をウロウロしては帰るとか
おおよそ化物討伐とか
冒険者らしい事は出来なかったし
弓で攻撃が成立すると分かって
本格的に仕事をしだしたのはその後の2ヶ月だ。
僅か2ヶ月の鍛錬で、中級冒険者レベルの
力が開花しましたとか、俺だって納得できねぇ。
そこは俺も理解しかねる所だったが
一方、元々、最初からフィアは弓の扱いが
上手かったというのもあり
農民時代の獣を短い弓で追い払う期間も
鍛錬だったと考えるとトントンなのかもしれない。
短弓から長弓にコンバートするまでに
時間が掛かった面もあり、
弓の扱い技能では、そもそも習熟者だったのかも…
そんな事を思いながらも
別件でボブの言葉が耳に引っかかった。
「えっと、マスター、俺の東方秘伝の気孔術って何だ?」
俺は、マスターが俺への謎の解釈を口にした事に
それを尋ねてみる。
「何言ってるんだオメェ…自分で秘密にしてんのに
何でそれを俺に聞く?」
と俺の質問に眉をひそめるマスター
あ、やべぇ、この世界にはこの世界にある
何かの常識的なのがあって、
俺はそれを知らずに踏み抜いたみたいだ。
「お前ら東方人は、いっつもそうだ…
一族の体質なんで自分では説明ができんとか、
これは一族秘伝の方法なので、教えられないとか
秘密主義に徹する癖に
全く、東方人って奴はよぉ…」
マスターは、そう腐る。
いやいやいや、知らん知らん知らん。
この世界の東方人のキャラ付けとか、
半年くらい経ってようやく知ったよ俺。
あ、そうなの?東方人ってそんな感じなの?
いやいや、いい情報提供ありがとうね、マスター。
ああ、気孔術とか、
気の力とか中華系の人がよくいうアレ
それがこっちの世界にもあって、
それが体質的な『魔力乗せ』だって事?
マナが気孔みたいなモノ?
いやまぁ、あっちの世界的な感覚なら
それはそうかもしれないが…
「そんな質問するって事は、おめぇ
東方人でも秘伝一族か、王族系の何かの出なのかぁ?
あいつらと冒険した時に聞いたのにゃ、
気孔術ってあっちの世界で考えられた
『魔力乗せ』の方法は術として修行で獲得できるが
そんなの全て無視して、
生まれながらに体が気孔術を纏って
人の2倍も3倍も力を発揮する、
特殊な秘伝一族がいるとか言ってたし
俺は、最初っから、
お前がそういう一族の何かだと思ってたんだが…」
とボブ…
ああ!!
あああああ!!
俺ってボブの中では、そう認識だったんだ!!
なるほど、今まで根ほり葉ほり
俺の事を追及されなかったのは、それか!
異世界人として持ってる俺の『万象強化』の能力は
この世界で解釈すると、
その東方人の秘伝一族の特異体質で
説明する事ができるのか!!
なるほどーーー!!
冒険者みんなの追及がそこまで圧が無いのも
それが理由かぁぁぁぁぁ
「本人がピンと来てないのが恐ろしいな…
お前が秘伝一族なのは、俺の目には明らかなんだが…」
「へ?」
ボブの不思議な物言いに首を傾げる俺。
「だっておめぇ、
その気孔術なのか何なのか分からん『魔力乗せ』
まったくマナ拡散しねぇじゃねぇか…」
「はい?」
ボブの説明に、ずっと目が点の俺。
「体質持ちはいいよなぁ…
こっちの西方人でもたまに体質持ちがいるけどよぉ…
あいつらは、そういう事さえ認識しねぇんだからよ…
常人はな…『魔力乗せ』をすると、
マナを体に流すのが下手で外に漏らすんだよ…
『魔力乗せ』習熟が足りねぇ証拠だ…
下手な奴ほど、マナを漏らして
マナが光になって、周囲に派手に光を放出するんだ。
で、達人になるほど、
マナが内側に残って光が出なくなる。
ところが体質持ちは、そんな達人の素養を
生まれながらに持ってて、ちっとも光が漏れねぇから
『魔力乗せ』してんのか、してねーのか、
目視でわかりゃしねーんだから…」
そう言ってマスターは腕を組んでため息をついた。
何か過去を思い出して、頬を引きつらしている。
えええええええ
そうなのぉぉぉ!?
なんか重要情報が右から左に
今日はあふれてるんだけど!!!
あ、そうなんだ…
俺の万象強化の能力って、この世界で測れる事象では
特殊体質の東方人が、
マナ漏れもせずに、魔力で自己強化してるとか
そんな風に見えるんだ!!
っていうか、万象強化って、
もしかしてそういう能力なのか!?
特殊体質持ってる東方人ってレアキャラなら
誰でも乗ってる能力だったり???
俺は自分が最初から持ってた
得体の知れないスキルを
改めて考えさせられた。
ともあれ、マスターの一通りの説明を聞いて
この世界での『真っ当な方法で強くなる方法』
が分かった俺達。
つまり、あのフィアの矢が光ったり
俺の槍の先が光ったりする『魔力乗せ』って奴が
この世界で人間側が化物に対抗するために
強くなる方法で、鍛錬の正規ルートなわけだ。
で、完全なチートが俺の万象強化で
自分や仲間だけ特別に何の代償も無く、
効果時間だけ全体強化するふざけた能力。
正規ルートで攻撃を強化するなら
精神力だか自分のマナだか
要するにMPを消費して使用するしかない。
ただし、1日の回数制限があって使用に限度があると。
で、俺の万象強化の方は、
MP消費なんて縛りが無いんで、
効果時間中は能力が上がりっぱなしと…
いやー、あの邪神、
良いチート持たせてくれてるじゃん…
邪神の癖に…
で、それらの正規の肉体強化、攻撃力強化と
万象強化が噛み合うと、もっとふざけた強化になると…
それこそ、冒険者歴2~3ヶ月のフィアが
中級冒険者と同等の能力持ちになるような…
そういう事かーー
っていう事は、
俺達がこの世界的に正規に強くなるには
そんな『魔力乗せ』の鍛錬をしないといけないと…
ほほう?興味深い話ですね?
マスターも締めで
「『魔力乗せ』は中級冒険者になるには必須の技能だが
そこに至るのは、日々の鍛錬と訓練の積み重ねの上で
ふっと自分に訪れるモノで
何もしないで才能が突然に開花するとか、
そんな事が起きるのは
本当に特別な天賦の才を持ってる奴だけだ。
鍛錬もしないで強くなろうと思うな。
実戦を異常なまでに繰り返して、
実戦の中で強くなる事もあるが
それだけも良くない。
実戦を積み重ねた上で、
修練場で自分のフォームを見直すとか
実直な鍛錬が『魔力乗せ』を誘って、
より精練されるんだ。
結局は基礎訓練と実戦の積み重ねよ」
と言っていた。
なるほど、強くなるのは1日にして成らずか…
そりゃそうだろうな…
ゲーム感覚で言えば、
レベリングをしっかりしろと
そういう事か…
ゲームには訓練場でフォームの洗練とか
そんな鍛錬模様は無いが…
まぁでもあっちの感覚なら
当たり前の事だよな…
スポーツとかでは
練習場で練習をいっぱい重ねて、
何かの大会の本番で
積み重ねた技術で競い合ってたんだし…
そこら辺の基礎は、こっちでも同じって事か。
でもマスターは続けて、こうも言っていた。
「だが、中級者になってからは
鍛錬をするにしても、ただの反復じゃダメだ。
『魔力乗せ』が分かってしまえば
その『魔力乗せ』の再現性
そして、どういう風に『魔力乗せ』を使うか
そのスタイルの選択とスタイルの習熟
それが重要になってくる。
こっから先は、選択肢が多岐に渡るんだ。
中級者になってからは
訓練も頭使って、何を鍛えるか
自分で考えながら鍛錬を積まなきゃなんねぇ。
それが中級者から更に強くなるのに難しい所だ…
俺達が辿り着けなかった8層から下ってのは
そういった選択をして強くなった先の奴だけが
到達できる世界だ。
だから、おめえ等も、中級者以上は
頭を使って、自分を鍛えるんだな…」
と…
うーん、ここら辺が俺とフィアには
どうしてもザルになるポイントだ。
なんせ万象強化のおかげで
全体がただ単に能力底上げされる。
俺達にはそんなド級のチート支援がある。
それは能力強化の方向性を選択して
固有鍛錬するという方法の真逆だ。
マスターの言う『魔力乗せ』の選択派生。
移動歩法を強化する、脚力への魔力乗せ、
攻撃武器のインパクト時に武器を強化する、
攻撃への魔力乗せ
身体能力を全体的に強化させる、
常時強化の魔力乗せ
大雑把な分類でも選択が分かれるのに
この分岐から、武器なら武器でどんな武器に
何処の部位に魔力を乗せるか?とか
選択派生が増えていく。
特定の行動の魔力乗せは、反復訓練によって
練度が上がるというわけだから、
本当に何を選んで強化するかが
死活問題になるわけで…
いやまぁ、あっちの世界でも、
そもそも、そんなモンか…
スポーツで例えるなら、
野球選手には野球のルールがあって、
更にポジション固有の鍛錬が必要。
サッカー選手にはサッカーのルールがあって、
更にポジション固有の鍛錬が必要。
行動の選択分岐をして、更に個別分岐で、
特有能力の鍛錬が必要なんだから
こっちでも『魔法』とか『マナ』とか、
この世界固有の性質を伴った
強くなるための鍛錬があるって事だ。
逆に『万象』という俺の能力の恐ろしさが
それでようやく分かってくる。
『何でも基礎上げ』
のなんとふざけた能力である事か…。
地味なんだけど、凄く地味な能力なんだけど…
選択強化をしないといけない、
というのが自然のこんな世界で
それをドン無視するっていうのは、恐ろしい話だ。
そして、それが選択強化と噛み合うというのも…
ともあれ、こっちの世界での正規ルートでの
自分の強化をするというのは、悪い話ではない。
そのうち、俺はまた、
1人で泣きながら地下に潜る冒険者に戻るんだろう。
フィアの腹が膨れてしまったら、
好むと好まざるとそうなる。
そんな時に、1人でも余裕で戦える様な戦闘力を
鍛錬で手に入れれるなら、それは是非とも欲しい。
2層のゴブリン10匹を
1人で余裕で倒せる様になったら
3人が食うのに困る様な事は絶対に無いのだから
『魔力乗せ』とかいう訓練…
やってみようかなぁ…と
俺はボンヤリ考えたのだった…
ーーーーーーーーーーーーーーー
余談
川の漁民とかと話してて、飲み水とかの話をしてると
「それなら、泥を落とす為に、沈殿させたらどうか?」
という意見を聞いた。
沈殿…
俺が小学校か中学校の頃に、
朧気に聞いてた話をボンヤリと思い出す。
水を水槽というか、水を溜めるところに入れて
ずーっとそのままにして、放置する方法。
そうすると、重い泥とかが時間経過で下に溜まって
上澄みが綺麗になっていくという、
そんな話だった気がする。
それを聞いて、木の水槽をDIYで作って
川の泥込みの水をくんできては入れて、
沈殿させてみた。
なるほど、時間はかかるが泥が沈殿して、
上澄みの水が綺麗になる…
時間がかかるのが難点だが
たったこれだけの事で、水が綺麗になる。
凄い!
いや、やってる事は全然凄くなく
水を放置してるだけだが
それでも凄い!
上澄みを、木のコップですくってみて
元のアレな泥水と比べて愕然とする。
なんという綺麗な水か!
だがしかし、俺は有り難い事に、
これが「見た目は綺麗なだけの水」
である事を知っていた。
昔の事だが、中学の頃の理科の実験で、
川の水を取ってきて
プレパラートの上に載せて
顕微鏡で見るという実験を
理科の先生がしてくれたのだ。
そして俺は顕微鏡で
おぞましい光景を見ることが出来た。
ぱっと見で綺麗な水であっても、その中に、
『凄く気持ち悪い形の小さな虫』が居るのを見せられ
「こんなのを飲んだら、腹を壊したりするんで
一見、川の水が綺麗でも安心して飲まない様に!」
と理科の先生に注意して貰ったモノだ…
そして理科の先生が添えて言ってた事に
なので、我々が飲む水道水は
一度これらを消毒して除去しているので
上流水とは加工された水で、川の水をそのまま
みんなが飲んでるわけではない、とも。
あの時は、
「へーそうなんだ」程度にしか聞いてなかったが
こんな生活になると、
それがどれだけ大事な教育だったかよく分かる。
バクテリアという概念が存在しない時代だ。
この綺麗な上澄みの水をすくっても
その水は、まだ安心できない。
居るのだ…
病原菌が…まだ…。
なんというもどかしい話…。
俺は、その木のコップにすくった綺麗な水を、
じっと眺めて
あと一歩なのになぁ、
この水の中の病原菌を何とか殺せたらなぁ…
と、ずっと悩む。
悩む。
水の中の雑菌が殺菌できたら…
でも殺菌する為の消毒液なんて無いし…
消毒…消毒液…
エタノールか…
エタノールはこの世界でも作れるよな…
エタノールをこの水に混ぜると
殺菌は出来るな…
水にエタノールを入れてみるか…
…………
おいおい、それって酒じゃん…
エール酒飲むのと同じじゃん…
ああ、だからエール酒か…
ただ、水とエタノールのみとか
飲めたもんじゃないだろうが…
そういう風に殺菌の事で悩んでいた時
不意にふっと思い付く。
「あれ? この水を湯で沸かしたら、
煮沸消毒になんね?
バクテリア、みんな死ぬだろ?」
…と。
そうか、エタノールなんか使わなくても
湯にすればいいじゃないか。
蒸留器で蒸気にして水を分離できるんなら
あの一部を使って、湯を沸かせば
簡単にできないか?
と思い付いて、やってみる。
沈殿させた上澄みの綺麗な水を
蒸留器用の金属鍋に入れる。
そして鍋の下で薪を燃やして
鍋を熱して中の水を湯にする…
そして湯を冷ます…
残った煮沸消毒された水。
その、同じ様で違う水…
飲んでみた…
「あ…これが水だ…」
蒸留して、何か抜けてる気がする蒸留水に対して
その水は、俺があっちで飲んでた水に
かなり近い水の様な気がした。
いや、バクテリアとか、熱で殺してるんで
死骸とかあるから、完全に安全とは言えないだろうが…
それでも、蒸留水をずっと作って飲むよりは
こっちの工程の方が楽な、新方式の水…。
沈殿+煮沸
俺は、新しい水を作る方法を見いだした…。
いや、本当にダクソとかの戦技を小説的に組み込んだら
こうなんだろうなぁって説明回なんで、それ以上、それ以下じゃないです
でも、こういう戦士系でも特殊技能がなかったら
普通は魔法使いが成長しきったら、魔法使いの独壇場になるのが
魔法有りの世界なんで、まぁ、バランス的にね…
あと、水の話は、あんまり伏線というわけじゃないっす
『僕は今は~』の方で、
(自分も10年前にどんなギミック展開を作ってたのか
読み直してる時にすっかり忘れてたんだけど)
よもやまさか、それをそうギミック展開してるとか
そんなのがあるんで、伏線っぽいですけど
(いや、まぁ、後々で『それギミックにしよw』
とか、何か思い付くかもしれないけど)
今の所、そんなアイデアでやってるんじゃなくて
生活感を出したいのと、異世界人が
おぼろげな知識でDIYをやって頑張る的なのを
要素に入れたいんで、入れてるだけ
丸々一話、そんな工作してる回をやってもいいけど
今は、主要メンバー出てくるまでの整備を
優先したいのでねぇ
ちょっと、急ぎ足になってるかもしんない。
二人目が出て来た後の方が、
工作回の躍動感も変わるだろうし…




