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第6話 交渉ごとは頭の悪い奴には難しい

ここは三連で続く、過去回想なので

その2です

フィアとの馴れ初め編


なかなか、壮絶な光景だった。


護衛の冒険者も山賊も血まみれで倒れている

死屍累々の凄惨な状況。


で、こんな所で呑気にしていたら、

逃げた山賊が戻ってくるかもしれず

こっちも早急にこの場から、

逃げ出さなければならなかった。


死体の埋葬とか倫理的な問題はあったけど

様子を見に戻ってきた山賊に

死体の埋葬中に襲われたら目も当てられない。


ともかく、商隊の護衛を依頼で受けている以上

荷の一部でも持ち帰らないと面目が立たないので

最低、荷馬車の1つは持って帰る事にして

荷馬車での逃走を考えた。


山賊も襲った後の物資の輸送を

荷馬車で行おうとか考えたのか

荷馬車のフレームも馬も無事であった。


なんとも幸運だが、馬を殺されなかったのが

逃げる算段に大いに助けになった。


そういう流れで、死屍累々の惨状を放置し

俺は3つある荷の1つの荷馬車に、

賞金首の死体と、まぁ義理で商人の死体、

山賊のある程度の装備類をはぎ取っては積んで

フィアと一緒に荷馬車を走らせたのだった。


聴覚の強化のおかげで、

気配察知なんてマネを音で聞き分けられ

自分達の状況を判断できる。


追っ手はいない。


そもそも、4人か5人ほどが逃げたのだ。


食うに困って山賊になった輩など

首領がいなくなったら

集団で組織だった行動は出来ないか。


そんな感じで、安全圏と思わしき所まで逃げれたら

一端、落ち着いて、自分達の問題に対峙する。


やるのか…今、ここで…。


しかし、時間は無い。


依頼主がおかしいと感じるより早くに

状況を報告しないといけないし

載せている遺体も、時間が経てば腐っていくから

油を売っているわけにはいかない。


そして帰る前に、必ず彼女の命レベルの問題を

なんとかしないといけないのだ。


ここで覚悟を決めるしかない。


それはむしろ俺への契約だった。


彼女の望み通りにして彼女を傷モノにすれば

俺は俺という人間の、俺の期待感から

彼女を見殺しには出来なくなる。


それは確実にそうなると思う。


だって、それが最低限の俺だもの。


だから、そう…


それは自分を追い込んで

『逃げない自分』を作る為の

俺への契約なのだ。


そう俺は自己正当化した。


そう俺は俺に言い聞かせて事を行う事にした。


彼女の方を見てみると

彼女は俺以上に自分に入れ込んで

自分への覚悟を決めた様だった。


街道から少し外れた森の中に荷馬車を少しだけ隠して

そこで、フィアのいうところの願いを、

2人の同意の上で実行する事にする。


もう街までは近い所に来ているのだ。

彼女の計略を実行するには、

早急に、そして、街に入る前の

このタイミングしかない。


荷馬車から死体の血の匂いが

漂っている様な気がする領域近く、

森の中で俺達は情事に及ぶ事になった。


なんという情緒の無い場所で

事に及ぶ事になってしまったのか…


まともな精神で、できる事じゃないと

後々になってみれば思うのだが

終始フィアの気迫に圧倒されていた俺だ。


彼女はこの企みに、

己の生きるか死ぬかを全て賭けている様で

最早、彼女を冷静にさせる事は出来なかった。


何より彼女の魅力的な肢体を前に

男の欲情を我慢するなど、不可能だ。

ガンジーですらできはすまい…


…………


いや、それはガンジーに失礼か…


少なくとも、

俺はガンジーではないので無理だった。


どう考えてもおかしかったのに

どう考えてもおかしい事をした。


それだけ…端的に言えば、

俺はこの子に一目惚れをしていたのだろう。


女性という魅力に…と、この時は思っていたが

今から思えば、それ以上の事を、

この時すでに無意識は感じていたのかもしれない。


それらモロモロの引力によって

お互いに緊張しながら情事が始まる。


いや、本当に今から振り返って見ると

何でこんなおかしな状況で、

俺は性的な興奮が出来たんだろうな?


どんだけ魅力的な美少女が目の前にいたって

直ぐ近くには死臭を放ち始めた死体があって

ちょっと前まで、

血まみれの死屍累々の光景だったんだぞ…


普通、精神的に萎えないか?


後から考えたらスゲェな俺…。


それだけ、俺の心の天秤は、

死んだ護衛仲間より

後の嫁になる、この子に傾いていたのか?


いや、まぁ、傾いていたんだろうなぁ…


もう最初も今でも、めっちゃ可愛いモンなぁ

そりゃそうか…


『この子をここで抱けば

 この子の命は助かる』


なんていう、よく考えると

あまり根拠のない可能性だったのに

それがさも当然であるかの如く

その可能性にお互いが全振りして、

真剣に抱きしめ合っていた。


互いに怯えながら、それでも交わる。


やがて短い情事が終わり…


呆然としながら、

彼女は俺の肩に寄り添い

腕を絡ませていた。


挿絵(By みてみん)


あまりに一生懸命であったので

何をどうしたのか、明瞭には覚えていなかった。


「その…痛かったですけど…

 でも、その…優しくしてもらえたんで

 へへ…」


彼女は俺の肩に顔を預け、

恥ずかしそうにそう呟く。


全く素晴らしい体験だった。


俺に、命乞いをして助けを求める美少女に

心の底から優しくしてやる、なんて事は

快楽以上に、本当に素晴らしい体験で…。


俺はガンジーではないが、

それでも最低限の優しさくらいは

持っていたかったのだ。


だから出来るだけ…

俺の認識の上では出来るだけ、

優しくしたつもりだった。


少なくとも彼女の言う様な、

性奴隷を暴力的にいたぶり

性的かつ暴力的に乱暴をして

挙げ句に殺すのを好んでいるという

かなり猟奇的な特定の貴族様に比べたら

俺なんか、何百倍もマシなのだろう。


それは作り笑いではない

素ではにかんでる彼女の笑顔を見れば分かる。


だから、俺は本当に幸せな思いになった。


逆に、それがこの体験で分かってしまうと、

『いやー、この世界の貴族様は、

 頭がちょっとアレなのだなぁ』

と、そのような高尚な趣味と精神に

感心してしまう。


普通、そんな、殺すまでするか?


っていうか、どうしてそこまで?


俺は彼女の口にする

猟奇的な貴族の精神に眉をひそめる。


しかし、そういえば、俺の世界でも、

俺には理解しがたい、

NTRおじさんからのリョナが大好きとか

高尚な精神を持たれていた方も多かったので

時代と場所は違えど、

そういう人たちが生まれるのは

あんまり変わらないんだなぁと、変に納得もする。


俺は単純な男なので

こうやって体を重ねただけで

この少女を一生自分のモノにして

護っていこうという気持ちになった。


それは、男としては

つまらん性格なのかもしれないが

そんなつまらん男で、俺はいたかったのだ。


だから、それはそれでいいと思えた。


ともかく、俺はこんな極限状態で

極限の体験をしたので、ゆえにこの子を

何としても俺のモノにするしかないと

覚悟を決めれた。


それは、奴隷商人が彼女の売買を拒否したとして

そんな風に交渉が決裂した場合は、

その奴隷商人をその場で切って

彼女と共にどこぞの別の街に逃げようと、

それでも構わないと、居直る程度には、であった。


その後、互いの心の整理に

体感で1時間程度を過ごして、

しなければならない次の事への、

心づもりを作ろうとした。


大変なのはこれからだ。


それから、彼女は、妙に機嫌が良くなり

俺の肩に寄りかかって頬を赤らめていた。


彼女をほんの少し前に傷モノにしてしまった俺は

それにどう答えていいのか分からず

ただ、彼女が押しつけてくる豊満なおっぱいに

鼻の下を伸ばす駄目な大人をするしかなった。


荷馬車を引く御者席で隣り合って座って

胸を押しつけて抱きついてる美少女と

デレデレしながら馬を引いている御者の俺。


遠目からみると、凄いバカップルに

見えないでもないだろう。


いや普通にバカップルか…。


後ろに死体を二体も積んでなければ

目も当てられないバカップル男女に

みえなくもなかったのだろうな…。


そんな感じで、半日ばかりの移動を経て

俺は俺が住んでいる城塞都市に帰還した。


そして、帰るやいなや

大雑把にだが、街の門番に事情を説明しては

事後処理をする人々の手配を求める。


が、門番には、その管轄は商人の組織にあると言われ

奴隷も扱ってる商人館に話をしろと、あしらわれた。


うん、お役所仕事は、この時代でもそうか…。


そりゃそうだな。


俺はため息をつきながら、

護衛の本当の依頼主がいる商館に向かい

荷馬車を商館に到着させた。


様子のおかしい荷馬車を見て

慌てて駆け寄ってくる、店の者。


その下っ端の者に、

襲撃された大雑把な事情を説明して

残された荷と死体の事後処理などの手配を

担当の者に話をつけてくれと懇願する。


すると、荷馬車などが家の者の手に渡り

俺は家の中の応接室に通された。


「大損害ですな…」


挿絵(By みてみん)


この商館の主であろうか?

貫禄のある髭を生やした男が応接室で俺に対応する。


開口一番が、ため息であった。


「こういうのから、荷馬車を完全に守ってもらうために

 貴方たちを手配したのに、3つの荷馬車のうち

 2つがダメになるとは…」


と、皮肉。


まぁ、それはそうか。

俺、護衛で雇われたんだもんな。


「とはいえ、相手が山賊のジサ…

 相手がジサなれば全損も在りえたのですから、

 ジサを討ち取って、荷が1/3も帰ってきたのなら

 何もかもダメというわけでもないですか…」


と、頭を押さえて、その主は、また、ため息をつく。


「山賊のジサ?」


俺は主にその名前を問うた。

とはいえ、あの力量を思えば、おおよその見当はつく。


「賞金首として500ゴールドの値が付いてる

 ここら辺を荒らしている、名の売れた山賊です…

 いや、もう、『でした』ですかな?

 多くの商人仲間が、全損級の被害にあっていた。

 そういう手合いだったので、ジサに襲われたら

 流石にひとたまりもありませんか…」


首領の死体を検分した家の者からの報告で

状況を俺より深く理解していた主は、

被害甚大なるも遭遇した相手が悪かったと悟り

俺をそれ以上咎める気にならなかった様だった。


「むしろ、あのジサを討ち取って

 街道の安全を確保してくれたのですから

 何か褒美を出さなければならないくらい…

 …の所ですがね。

 しかし、何分、我々も、被害甚大なモノでしてね…

 それ相応で、お願いしたいのですが…」


と、主はむしろ戦果の方に価値を見出してくれて

俺に褒美の用意を提案してくれた。


「なら、あの奴隷の娘を、俺に売ってくれないか?」


俺は反射的に、それ口にしてしまった。


いささか、簡単に釣り針に食いつきすぎたか?

とも思えたが、俺は頭が悪い。

高度な交渉術など、あっちの世界でも不得手だった。


「奴隷?ああ、荷に一緒に積んでいた奴隷の子ですか…

 …ふうむ? 何故?」


思わぬ要求に面食らった主。

値踏みをする様に俺を見て、理由を尋ねる。


「俺はこの街で独り身だ。

 身の回りを世話してくれる者が欲しかった所だ。

 今回、運よく生き残った俺とあの子で

 ここまで荷を運ぶのを手分けして来たんだ。

 2人で作業をするのは、素晴らしい効率だった。

 なので、これからも人手が欲しくってね…」


俺は、虚実…いや、かなり実ばっかりが多い

ちょっとした虚の混じった話を、主の前に出した。


「ふむ…冒険者の貴方だ。

 そういう需要があるのは、わかります…

 しかし…」


「…しかし?」


そこで主は辛そうな表情を浮かべる。


「あの子は、近隣でも評判の子だったそうで

 貴族様方に、そういった無垢な子は居ないか?と

 求められていた所なのです。

 目利きの見立てで、

 売れば1000ゴールドは下らないだろう素材。

 わが館で磨けば、上級貴族にさえ売れて

 2000~3000の値が付いても相応と聞いています。

 そんな素材を報酬というのは、少し…」


そう言って主はやや嫌そうな顔をした。

なるほど、フィアの言った通りか。


俺のなけなしの銭では、

買う事もままならん子だったのは

主の言葉で理解できた。

そこで彼女の無茶が効いてくる。


「だが、もうあの子は処女ではない。

 俺が助ける前に、山賊に…その…」


と、俺は一世一代の下手な芝居を試みた。


「なんですと?」


その言葉にギロリと主の目が光った。


主は慌てて家の者を呼び寄せ、確認するように指示する。


確認って、おい…お前らさぁ…。


「俺にはよくわからないが、

 貴族様は、処女の娘にご執心と聞いた。

 傷物の価値は、転落するのでは?」


俺は白々しくフィアの入れ知恵を口にしてみる。


「いやはや、おっしゃる通りで…

 我々としては、初物とそれ以外で何の違いがあるのか

 分かりかねる所ですが

 懇意の商売相手は、いささか気難し屋でして…

 純粋無垢な娘子が、心を壊していくのを見るのが

 至上の悦楽との…

 いやいや、まったく貴族の次男坊というのは…」


そう言って主は、ハァとため息をついては

ハンカチで冷や汗をふく主。


俺はそれを聞いて吐き気を催した。


美しい娘を押し倒して愛でたいという気持ちは

どんな男にでもあるだろう、本能的な欲求に思える。


しかし、それに対して、

『壊れていくのを見るのが気持ち良い』とは

どういう捻じ曲がり方なのだ?


あんな子なら、

愛でて可愛がって幸せにして子供でも孕ますのが

生物的本能という所だろうに…壊すって…なぁ…


そしてフィアが言ってたとおり、

壊した後に殺すのか…

その貴族の次男坊ってのは…なんという…


俺はやはり、

高尚な趣味を持たれているレベルの高い人とは

お友達になれない事を確信した。


と、そうしていると家の者が帰ってきて

主に報告をしていた。

その報を聞いて、青ざめる主。


「なるほど、貴方のおっしゃる通りですか…

 これは、手痛い損失だ…

 あれだけの器量の子、替えを探すだけで

 大変というのに…」


そう言って冷や汗を更に浮かべて

青息吐息になっている主。


あ、これは、この主も商売相手の貴族様に

無理難題を要求されて、困ってたんだ…

と、その様子で分かった。


あ、そうか。


あの子ってそういうレベルの逸材だったのか…


ああああ…。


俺は既にやっちまった事の価値が

そこで明瞭に分かって呆然とした。


そう、初めての一夜(俺は夜では無かったが)で

最低でも1000ゴールド

夜の技を磨けば

およそ2000~3000ゴールドの価値を

見出されるモノを

俺は、あの森で、勢いで奪ってしまったのだ…。


1回、2000~3000ゴールド…


1回、2000万から3000万円!!


ああ。


あああああ。


それはこの主でなくとも、絶望するわ…。


なんて事を俺は、してしまったのか!!


つまり、そういう事だった。


「いやいやしかし、たとえそうでなくても

 見積では800ゴールドで売れるくらいの素材だ…

 傷物でも構わない相手なら…」


「800ゴールド!?」


そこで主が言い出した事に仰天する俺。


手持ちの400でなんとか…と思っていたが

その倍は、今もなお価値を見出されるとは…


「そういえば、貴方もあの子をご所望でしたな…

 貴方は如何ほど出せますかな?

 今は雇いの護衛とはいえ、

これが終われば、お客様にもなるわけで…

 冒険者の方も、そういう需要は確かに多いですし…

 稼ぎも下級貴族並ですからねぇ」


と、そう、こちらの方に話を向けてくる。


「直ぐに出せて600ぐらいか…

 もう2か月、時間をくれたら、

 800も出せると思うが…」


俺は持っても居ないのに

600とか精一杯の虚勢を口にして

支払いが不可能ではない事を示した。


いや、800は想定外だった。


1000ゴールドの価値が傷物なら

400ぐらいで行けるんじゃないかと

勝手に思い込んでいた。


誤算だった。


しかし、よくよく考えれば、あんな可愛い子

処女じゃなくても買える金額が800万円なら

買いたい奴など、いくらでもいるだろう…


そう考え直すと

流石に俺はアホだった。


その迂闊が、一回転して怒りとなり

冒険者特有の短絡思考

『暴』の力で全部解決するか?という情動を誘う。


それも悪くない。


胸糞の悪い貴族相手に商売してる奴隷商なら

殺しても神様も何もいわんだろ?


そんな思考が過って、

殺気に近いモノを体に巡らせた。


いや、金が無くて悔しかったわけじゃないよ。


ふっと空気が変わったことを察したのか

その主は慌てて言葉を紡ぎだす。


「ふむ…即金で800は難しいと…

 困りましたな…

 ではどうでしょう?

 山賊のジザの報奨金を、

 全て我々が貰える様に賞金の受け手を変え、

 残り400ゴールド程度を

 支払金として追加でいただければ…」


そう主はいやらしく提案して来る。


「おいちょっと待て。

 ジザの報奨金は500で、俺が払うのが400?

 足して900で800より高いじゃないか…」


俺は瞬時に商人のおかしな計算を指摘して

彼を睨んだ。


商人得意の会話のもつれでの値上げ交渉か?


それを察して目が座る俺。


こんなに交渉が面倒なら

『暴』でもう解決するか?


そう思うと、押さえられない殺気が溢れた。


「足し算はできるのですな…」


そんな俺の威圧に、悪びれもせず

淡々とした言葉を口にする主。


「馬鹿にしてるのか?」


「いえ、交渉をするに

 相手に算術があるかどうかは

 私たちにも大事な所でして…」


主は何かを値踏みするように

俺を見つめていた。


俺は殺気を隠せていないというのに

その態度は豪胆なモノだった。


「しかし、この様に、あの子の価値など

 我々がどうとでも値がつけれるのです。

 傷物とはいえ、我が館での教育を施せば

 貴族級の上級娼婦にも、できましょう。

 なれば、まだ1000ゴールドの価値も見出せます。

 貴方の手持ちが600なら

 その内の400を即金で貰って、

 ジザの報奨金と合わせれば、まぁ、トントンの所か

 と、判断したのですが?」


そう言って主は、それが嫌ならこの商談はここまでだ

と言わんばかりの冷淡な表情を浮かべる。


その顔つきで、なんとなく分かった。


この男は、あの子が処女で無くなっているのが

山賊に強姦されたのではなく、

俺と共謀しているのではないか?

と疑っているのだ。


ぶっちゃけの真実を。


そこで俺は手詰まりになった。


『暴』以外の口での交渉は、やはり俺は不得手だ。


値切り交渉という最終手段もあるが

そんなのをやってボロが出てしまっては

目も当てられない。


しかし400ゴールドだと!?


俺の全財産!?


あの子を買うために、今までコツコツ貯めてきた金を

一瞬で失うだと!?


最初にここに来た時に、ゼロだった財産が

またゼロの振り出しに戻るだと!?


俺はその要求に悶絶した。


そんな事、出来ると思っているのか!?


最低生活費は小銭で別にあるとはいえ

心の安寧をもたらしてくれるのが貯蓄だ。


それを全部失ってまで、あの子を手に入れると?


そんな天秤、成立するのか?


いや、滅茶苦茶だろう?


全財産!!!!


だが、好機でもある。


つまり、俺たちが共謀しているのを疑っているとしても

400ゴールド払えば、あの子を俺にくれると

この主は妥協案を提示してくれているのだ。


あからさまな『暴』の威圧を送っていたとはいえ

頑張れば1000~2000ゴールドは

磨けそうな逸材を俺に売ってもいいと。


それは、あの子を開放するのに

千載一遇のチャンスだった。


俺の中であの子を抱きしめた感覚が蘇る。


あの柔らかさ。


この世界に来て無意識に感じていた『寂しさ』

それを温もりで癒してくれた、あの感覚を。


それが引き換えに手に入るなら、

400ゴールドは、むしろ安いのではないか?


そう考えて項垂れる。


『今の俺にとって、一番大事なモノは何だろう?』


俺は俺に不意にそう問いかけた。


あの生きる希望を全て失った様な

そんな表情をしていた子が

さっきは俺に寄り添って、

嬉しそうに、はにかんでくれていたのだ。


生きる血色を取り戻したあの笑顔。


それが見れて、俺は何故か嬉しかった。


そんな光景を、これからも見れるというなら

ゼロに戻っても、また頑張れるのではないか?


不思議に、そう思えた。


そうだ…


あの子の価値が1000ゴールド程度で

測れるのか?


俺にとっての価値が。


そう思えたから、だから俺は決断した。


「わかった、即金で400ゴールド払って

 その条件で、あの子を買おう」


俺はそう告げた。

その時、商館の主の目が楽しそうにギラっと光った。


「よい決断です。」


主は腕を組んで不敵に笑う。


「貴方、これから名の上がっていく冒険者なのでしょうね…

 これを機に、我々と商談の機会を

 もっと広げていくのはどうでしょうな?」


そう重ねて、互いの縁を提案してくる。


「どういう事だ?」


俺は真意が分からず、言葉の意味を尋ねた。


「いえいえ、貴方の様な善良で、なおかつ強い冒険者なら

 商売相手にするには上質のお客様になるでしょうからね…

 そういうお客様は、

 難しいお客様よりは、御贔屓にしたいモノでして…」


と、面白そうに笑う主。


「善良?俺が善良だと?

 どうして分かる?」


主の不思議な物言いに、首をかしげる俺。


「いや、不思議な方だ…異国人の風貌もさる事ながら

 我々にとっては違和感ばかりの事に

 平然とされるのがね…」


とクックックと笑う。


「言ってることの意味が分からんが?」


俺はますます分けが分からずに重ねて尋ねた。


「だってそうでしょう?

 あの子が欲しければ、その場で奪って逃げればいい。

 あの積み荷を我々が裁けば、

 1000ゴールドは下らない貴重な商材だというのに、

 護衛任務が失敗したなら、資材を奪って逃げるでもなく

 仕事に従って、ここまで運んでくれたのですから…

 それで、我々にお金を払って、あの子を売ってくれ等と

 これが善良でなくて、何だと?」


そう言って主は、根本的なミスを俺に指摘した。


その指摘に、俺は思わず「あっ」と声を漏らす。


あの積み荷、1000ゴールドの価値があったのか!!


完全な盲点に俺は絶句した。


「ふふふ、これは先行投資です。

 貴方は魅力的な方だ。

 手練れのジサを倒した力量と、それにしては善良すぎる姿勢。

 ここで、あの子を貴方に差し出すことで

 貴方と縁ができるのなら、悪い商談ではない。

 これからダンジョンで貴重な資材を手に入れた時に

 我々を御贔屓にしてくれれば、

 我々としても嬉しいですし…」


そう言って、薄く笑う主。


その言葉に俺は顔に手をやった。


最後の最後で、完全に一本取られた気分だった。


やはり、海千山千の相手がいる鉄火場を

口先一つでやり繰りしてる商売人は違う。


口での交渉事で相手より優位に立つのは

どうも俺には無理の様だった。


ともあれ、それで商談は成立した。


俺はフィアを俺のモノとして買えた。


どんな経緯であれ、目的が達成できればそれでよい。


交渉とはそういうモノだ。


家の者に400ゴールドを手渡し、

数え終わって間違いなく求められた金額が確認されると

羊皮紙に契約の内容が書かれ

(しかし俺は文字が読めなかったが)

互いに印をそこに書き込んだ。


いや、俺は日本語のサインだったんだけど、

日本語でもよかったのかな…

俺の国の文字だと、押し通したんだけど…。


そんな感じで、紆余曲折して

フィアは性奴隷として俺のモノになった。


二人の共謀は、危ないところもあったが

まぁ、予定通りに当初の目論見に落ち着いたのだった。


俺の全財産は、それで吹き飛んでしまったのだが…


いやー、ちょっとフィアちゃんが

『計算高い女』に見えなくもないんで

峰不二子キャラと思われたら、アレなんですけど

そう読めなくもないかもなぁと


個人的には

「命の危機で生きていけるなら、できる限りの事をするよ」

ってのがあって、計算高く見えるかも的にしたいんですけど

中世の農奴って難しいんですよねぇ…

よくわかんねー所もあるんで、意外に、生存欲求低くて

「死ぬしかないなら死ぬかー」

みたいな淡泊なのかもしれんし…

特に西洋の中世はキリスト教暗黒時代なんで

当時のローマカトリックの論理思考が色濃く市民の考え方の軸になってるんで

何か現代ではよく分からん価値観が当たり前に出て来て、困るというか…


中世のファンタジーって、キリスト教があるという前提で世界が成立してないんで

「キリスト教が無かった場合の西洋中世」っていう

ナニソレ、存在そのものが破綻してない? って世界感を作ろうとすると

グチャグチャになるっていう…

ここら辺、日本なり、中国なり、中東なりの、教会が思想をそこまで矯正しなかった

中世も考慮して、世界思想を再構築するべきなんでしょうけど…

難しいよね…

日本なんか9世紀とか、平安京末期か、平家の台頭ぐらいの時間なんで

その頃の市民生活と価値観なんて、よーわからんしね…

リアルに考えていくと、物語って難しいよネー

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