第4話 文字が読めないのは辛い
移転しながら、推敲と校正
本格的に推敲と校正するのは
もっと後になりますが
今日もダンジョンに潜る。
フィアも俺もガチガチの鎧装備で。
強化でいくら身体能力が上がるとはいっても
0に倍数をかけても0でしかない。
つまり、基礎身体力が高くなければ
持てる重量も大きくはならないわけだ。
俺はここに来てからずっと、
泣きながらダンジョンに潜ってたので
毎日の狩りが筋トレになった。
故に最初の頃に比べればマッチョさが上がった。
普通のサラリーマンが、
こっちの世界に来て土方みたいな仕事になったから、
それ相応の筋肉がついたという話だ。
そこに強化の能力で装備重量が増えるから
皮の鎧の上に鉄のブレストプレートなどを張り付けて
肘やすねや股間など要所要所を鉄版補強した
プレートレザーアーマーを装備している。
ここら辺、完璧なプレートアーマーを着れば
良いんじゃないかとも思えるが、
残念な事にこの時代に、俺があっちの世界で見たような
プレートアーマーは完成してない。
知り合いになった鍛冶屋の親父に
俺が身振り手振りと下手な絵を描いて
俺の知っているプレートアーマーを説明すると
『そんな曲線のある鉄板なんか、
街の鍛冶屋に作れるわけないだろう
魔法を使った鋳造所でしか、作れないわっ!』
と、こっぴどく怒られた。
なので、鎖帷子の上に部分鉄板を補強するか
皮の鎧の上に鉄板を補強するか、という部分プレートが
この時代の強化された鎧の姿になる。
防御的には鎖帷子の上に鉄板が強力なのだが
さすがにそれでは重い。
強化の能力を使えば、動けなくはないが
あっちの世界で問題になった様に
敏捷性が著しく落ちてしまう。
敏捷性を上げれば、物理防御力が下がり
物理防御力を上げれば、敏捷性が下がる。
つまりトレードオフの関係。
そんな天秤の妥協の末が、皮の鎧の上に鉄板を張る
変則的な部分プレートメイルになった。
しかし、妥協とは言え
これも俺の提案で作ってもらった特注なので、
元のハードレザーに対して更に鉄板の追加改良で
特注価格の200ゴールドが吹き飛んだ。
コンピューターゲームでやってた頃は、
「なんだよ、たった200ゴールド、
金貨200枚じゃないか」
と価値も分からず笑っていたところだが
金貨1枚、1万円相当の価値があると実感すると
200万円で作ってもらった特注品になる。
『200万円で防具を強化している!』
と気づいたときには、戦慄した。
しかも『これは面白い防具の構造を考えてくれた』
というアイデア提供の部分で割引してもらった金額で
鍛冶屋がハードレザー込みの同じ防具を
新規に作って売った場合、それは店頭価格で
400~500ゴールドの値がついている。
この防具をまともに買ったら500万円…
流石に、元のハードレザーに比べると
重量追加の強力な装甲なので
飛ぶように売れるわけでもなく
鉄材料だって高価だから、納得の値段になっているが
今までゲームで扱ってきた金や装備は現実に扱うと、
そんな金額なのだと分かって、
価値を知らなかった自分に赤面する所だ。
しかし鎧は命を預ける生命線。
これに金をかけない奴から、
ダンジョンで死んでいく現実に出会うと
防具に金をかけないアンポンタンとは話にもならない。
俺と同じ新米が、防具も買わずに一攫千金で
ダンジョンに潜った結果は…
つまり、そういう事だ。
で、筋力が基礎的に低いフィアは、
そんな重装備は着れないので
軽い皮の鎧で体を覆って
敏捷性を殺さないながらも、
それなりに硬さを保った装備にしている。
それでも彼女の素の能力からすると
俺の強化の能力が発動しなければ
機敏に動くこともままならない装備だが
ありがたい事に邪神がくれた能力のおかげで
重量問題がクリアできて
十分な防御力と敏捷性が担保できている。
悔しいが、こればっかりは邪神様様だ。
俺が大盾でフィアの大部分の防御を担い
フィアが弓か槍で獲物を捕る。
このフォーメーションと、それに対応する武器と防具で
投資した武装金額に相応の報酬が得られるのだから
痛しかゆしといったところか。
残念な事に、皮の鎧で体の大部分を覆ってしまうので
フィアの豊満な体は隠されてしまい
仕事をしているときは目の保養にはならない…
しかし、ゲームにあるような、
半裸同然のビキニアーマーなんぞで戦っていたら、
命がいくつあっても足りないわけで
それは、やむおえない所だ。
だから、そのフラストレーションは
宿に帰ったら透け透け下着を着て貰って
目へのサービスを堪能して解消してるので
まぁ、プラマイゼロと思いたい。
ただ、俺たちの武装に使った金額を思えば
総額で1000万相当は下らないハズで、
その金額なら小さな家くらいは買えてしまうので
資産が家ではなく、商売道具に吸われている格好だ。
とはいっても商売道具をケチれば、
代償になるのは命なのだから
ここら辺がもどかしい。
『冒険者をやるには初期投資がかかりすぎる』
というのが、貧乏冒険者の嘆きだが
今ではそれがよく分かる。
どこぞのゲームで、王様が、なんとなく勇者に
いきなり100ゴールドを支給した時
「なんだよ100ゴールドぽっちで魔王討伐かよ」
と、渋い支援金に愚痴ったモノだが
今の価値観で考えれば、
まだ海のものとも山のものともいえない英雄の息子に、
気軽にポンと100万円渡して
うまく魔王を倒してくれないかと
勇気の投資をしたという話だ。
それは、ものすごい覚悟なんじゃないかと
現実の価値が分かると、今では王様の胆力の方に驚く。
こうやって、鎧だけでも実感を伴うと、
価値というのは実感しないと分からないモノなのだな
と、頭をかく所だ。
ともあれ、使った金額はダンジョンで稼がねば。
そして、あっさりと死んでしまう同輩、先輩の
二の舞にならないようにしなければ…。
ダンジョンの地下二層まで来て、
そう自分に言い聞かせる。
「フィア、このゴブはこっちで抑えるんで、
あっちのゴブを槍で!」
「はい!ご主人様っ!」
俺たちは5匹くらいのダンジョンゴブリンに遭遇して
それを狩っていた。
これも万象強化様様で、聴覚と視覚も強化されるから
集中して耳を澄ませば、物音を察知して、
相手の集団を音で先に索敵できる。
視覚も視力が瞬間的に上がるだけでなく
暗闇を深く見通す暗視の能力さえ上がるので
視野に捕らえるのもこちらが先になる。
先制攻撃の圧倒的優位性。
先制攻撃を遠距離から行える事の恐ろしさよ。
フィアの弓矢による奇襲攻撃で、
先に1匹、2匹と絶命させた。
向かってくる残った集団を、俺が大盾で進路を塞いで止め
自分の持っているショートソードを抜いて切ったり
盾の横からフィアが槍を穿って、屠っていく。
それで3匹目が絶命した。
「どりゃぁぁぁ!!!」
最近は、いわゆるレベルアップなるものをしたからか
相手を抑えるだけでなく、このままシールドバッシュで
吹き飛ばして殴殺もできるようになり…
俺が抑えていた4匹目のゴブを
吹き飛ばして壁にぶつけて絶命せしめた。
「逃げます! 逃がしません!」
4匹を瞬時に殲滅されて
ようやく逃げの一手に出る、最後のゴブ。
ここら辺、農民の娘は、
農地を荒らすイノシシなどの獣と戦ってきたからか、
獲物を撃つ時は度胸がある。
手に持っていた槍をすぐさま弓に切り替えて、
弓矢でゴブリンの背後を射抜く。
「ギャ」
背中から矢で射貫かれて、哀れな断末魔とともに、
その呪われた怪物は絶命した。
「ふぅ…多数相手だったが
ダンジョンの二層では苦戦もしなくなったな…」
本来はこんなにあっさりと倒せる相手では無い
ゴブリンの集団を『害獣処理』の様に始末できるのが
今の俺達の実力だった。
いわゆる『レベル』なるモノが
今の俺達とゴブリンでは全く噛み合ってないのだろう。
始末したゴブ共から武装など金目のモノを回収し始めて
また体内にある『魔石』とかいう不思議石と
怪物固有の特産物…このゴブではゴブの骨だったか
それらを解体して戦利品にする。
街から引いてきた荷車に戦利品を入れ
今日の戦果を眺めて見た。
おおよそ、9匹のゴブリンを狩って
金目のモノを積んでいる。
これなら、1日目標目安の
10ゴールドに届いているだろう。
10匹もゴブリンを始末するなんて
毎日していたら、ダンジョンだって
化物を生産する能力が追いつかない。
今日はここまでだろうな
と潮時を感じた。
こんな時、ゲームの様に、
ステータスオープンとか唱えたら
中空にメニューが現れて、
現在の自分達のパラメータを表示してくれると
楽なのだろうなぁ、と思うが
哀しいかな、
この世界にそんなサービスシステムは無いようだ。
同時に、四次元ポケットの
アイテムストレージなんかも。
俺達の分かるレベルという強さ単位は、
『なんとなく昨日できなかった事が出来る様になった』
というアバウトなアナログ感覚でしかない。
ここら辺はあっちの世界での感覚と同じか。
俺達は自分達の力を客観判断できる
『自己の数値化』の術を持ってないので、
敵に対してどれだけ有利不利なのかを
数値判断できない。
レベルミスマッチというのがあったとしても
それを数値判断できないのだ。
挙げ句に俺達は、俺の謎能力『万象強化』によって
全体強化されているので、
そもそもの基本的な『レベル』強さが謎なのに、
さらに強化能力で倍化してるせいで
どんだけのレベルに数値的になるのか
さっぱり分からなくなるわけだ。
全く、数値化された社会の有り難みよ。
こうやって異世界に来て
数値化の方法を失ってしまうと、
あの世界の、
『客観判断する為の数値指標を作る術』
それの素晴らしさに震えてしまう。
これも失ってみて、初めて分かる事で
皮肉な話だ。
だが、まぁ二層のゴブリンという
駆け出しの冒険者なら死んでもおかしくない相手に
余裕で勝利が出来るあたり、
それだけの強さが今の俺達にはあり
この二層においては、圧倒的な力量差
レベルミスマッチになっている事は
数値化しないでも確実な事で…
三層に下りても、似た様なモノで
それほど苦戦はしてない。
三層には角シカや巨大クモの様な化物がいる。
ゴブリンよりは、明らかに手こずる相手だが
致命的な遅れをとる相手でも無かった。
フィアがクモを相手にするのは凄く嫌がるので、
相性という大問題はあったが。
そいつら相手の方が戦利品の質は上がるので、
一つ下で狩りをするのも悪い選択ではない。
だがゴブリンは、
不思議に装備も込みで産まれてくるので、
装備武器を剥ぎ取れば、今日のように
1日10ゴールドちょいは稼げる。
日当10万円。
その稼ぎなれば、稼ぎだけなら二層でも十分であり
日帰りするには、ちょっと億劫になるというか
最初から行く気で準備しないと
日帰りが面倒な三層よりは、
楽に日帰りが出来る二層の方が楽というのもあり…。
地下二層と三層、
どっちで狩りをするのが効率がいいのか、
未だに結論が出せない。
最早、古いダンジョン故、
マッピングも九層まで作られており、
人側のなんとなくの休憩ポイントまで
作られてるようなダンジョンだから
迷う事はほぼ無いのだが
二層と三層の到着時間の差というのが
意外に笑える要素ではなく…。
いや、俺達みたいに、毎日、浅い層で淡々と
稼ぎを続ける様な冒険者が奇特なのだ。
普通、一攫千金を狙う冒険者は、
数日潜る準備をして四層以下の地下まで潜り、
価値の高い化物を狩って瞬間的な大儲けをして
数日は遊んで暮らすという、そういう感じだ。
ダンジョンは目標階層までキャンプを道中でしながら
数日かけて下り、獲物を倒して地上に帰る。
それが『普通』のスタイルだった。
それはまぁ、そうだろう。
だから、そんな考え方を否定はしないが
しかし大事な事は、冒険者の冒険に対する掛け金は
”自分の命”という事。
大儲けが出来る場所というのは
同時に、死ぬ確率が跳ね上がる場所だ。
そんな場所に数日かけて下り
致命的な問題がその場で起きた場合どうなるか?
当然、地上に生きて帰るのは絶望的になる。
その例に従って、帰ってこなかった
先輩、同輩の、何と多い事よ…。
こんな自分の嫁と生活費と
マイホームを買う資金を稼いでいる様な俺では
とてもではないが、そんな冒険は出来ない。
嫁の命は、今は俺にとって
何よりも大事なモノになっている。
そんな冒険、出来るわけがない。
恐らくはレベルミスマッチで
四層領域でも、今の俺達の方が
オーバーレベルであったとしても、である。
なので、結局、二層のゴブリンか
三層にたまに足を伸ばしては、角シカを狩って
丈夫な角資材を持ち帰るとか、
せせこましい狩りを続けているのだが…
そんな時、どこからともなく
『ピロロンピン~♪』という
優しい音楽なのだが、
ダンジョンの中にいるという状況雰囲気をぶち壊す様な
けったいな音が鳴り響き、
俺達の目前の中空に光の文章行列が現れていた。
「ご、ご主人様…また、あの文字が…」
「ああ、そうらしいね…」
フィアにとっては2回目、
俺にとってはもう何回目か忘れた
例の『アレ』が起きた。
俺達の目の前に、ゲームのステータスオープンの
何となく模倣の様な、中空への光の文字列が
そこに現れていたのだった…。
そう…
この世界には、ステータスオープンとか唱えたら
中空にスクリーンが現れ、自分のパラメータが
表示されるという事は無い。
そう、誰にもそんな事は起きない。
俺以外。
しかし、俺もあのアニメのような
ステータスオープンとかを唱えたわけではない。
突然、こいつは現れるのだ…。
そして何度もこれが現れて
これと何度も付き合って
なんとなく、これが何かは分かった。
これは俺だけの不思議現象。
俺の『万象強化』の能力のレベルアップ選択肢だった。
こればっかりは、あの邪神が
俺の元の世界の知識でも使って
アレンジをしてくれたのだろうと考えるしかない。
そう、恐らく…
俺達が数値閲覧できるようなモノでは無くとも
俺達には何らかの『レベル』があり
そのレベルが上昇したら、コレが現れるのだろう。
俺の万象強化の能力を、より強くするために…。
しかし…
「相変わらず、文字が読めん…」
俺はその重要な選択肢の
致命的な問題を口にした。
心優しいサービスなのか、
悪意の塊の意地悪なのか不明だが
せっかく、文字情報で何かを選択させる様
中空に光の文字で何かが行別に書かれ
選択肢的になっているのに…
肝心の文字が読めず、何を書いているのか
サッパリ分からんのだ…。
俺がこの世界に来て
最初に泣きそうになった事…
『この世界の文字がサッパリ分からん』
という大問題は、
俺のレベルアップにさえ波及していた。
なんて事だ。
「まぁ、一番上のが効果維持時間なのは
分かってるんだけど…」
と、今までの経験則で上昇した能力の性質を口にして
ため息をつく。
もう、これが出る毎に実験で
その実験検証のおかげで、
一番上が持続効果時間を上げるか?
次が強化の倍率を上げるか?
という事は分かっている。
しかし、それが分かったせいで
三番目と四番目を実験強化するのに
二の足を踏んでいるのだ。
何分、効果時間延長と効果の倍率だけで
俺の人生は十分にサポートして貰えている。
何度、この1と2を増やしたのか覚えてないが
今では強化の持続時間は12時間
強化倍率は1.5~3倍と、定常と瞬間の
強化の程度に到達している。
倍率の方は持てる重量などでの試験でだ。
効果が既知なモノを上げず
謎の効果を選択する…というのは
冒険心が必要過ぎる。
俺は、三つめを変えてみようか?
という冒険心に心を揺さぶられながら
しかし、ベターな選択肢の
強化倍率の更なる伸張、という二番目に手をやる。
ああ、この光る文字が何を書いてるか
分かったらなぁ…
なら三番の選択肢も気持ち良く検討できるんだが…
何書いてるか、文字が読めねぇからなぁ…
俺は、こっちの世界に来て
異世界に転生する事の恐ろしさ
『この世界の文字が読めない』
という大問題に、
自分のチートレベルアップにさえ煽られて、
絶望するしかないのであった。
いやー、昔、学会でアメリカに行かされた時は
貧乏旅行というか、学校から支給される予算が完全に決まってたんで
リッチな旅のツアーみたいに、ガイドがいるわけもなく
一人で泣きながら、二泊三日の大冒険をしたのを思い出します。
全く言葉も通じない、書いてる文字も、分からんでもないけど
全部、英語で(表札やらなんやら)表示様式さえ違って
文化の違いって、こういう事かいな…って身を以て知った事があるんですけど
異世界って、結局、こういう事なんだろうなぁ…ってのを
文字が読めないって所で表現してみて…
まぁ、現代はね…飯は、流石に食えるからね…
いや、アメリカで標準的に飯食うのって、何が正解だったのか
結局分からなかったんですけど…
バスステーションにある、ジャンクフード屋で安い飯食ったり
泊まってるホテル(??)に出てくる、「何なのか分からん謎の食べ物」で
腹を満たしたり、もう食事のレベルでアレだったんで
飯と水って大事なんだよねぇ…
水は怖くてコンビニでミネラルウォーター買って
ずっとミネラルウォーター生活でしたし…
懐かしい話




