第19話 このオジサン、マジキチ
うーん…
うーーーーん…
「い、異世界人、そ、そんな…
そんな馬鹿な話っ!!
異世界から人が来るなんてあるわけが!!」
俺はトンデモナイ事を指摘されて
大慌てになって誤魔化そうとした。
「さぁ?どうなんだろうね…
ただ、『異世界』というのは
我々の常識では『有る』とされている。
だから、我々の考えも及ばない何かが
あったとすれば、
異世界から人が来るという事も、
全くは否定できない」
その男は、飄々とした調子で、そう語った。
「はぁ!?異世界がある!?
そんな馬鹿な!!!」
俺は彼があまりにも簡単に
異世界の存在を許容しているのに驚き
思わずそう言ってしまった。
「いや、異世界そのものは
あるとされてるんだ…
かつて、古代魔導帝国という
2000年以上は前だろうか?
今の我々の何倍も魔法を極めた
超文明があったと言われてるんだが
しかし、その文明は、一夜にして滅んだ」
「はい!?」
その男が突如、
何だか御伽話の様な事を言い始めた。
「その超文明が、最期に行った大実験
それが…
『異世界への門を開け
次元の彼方に行くこと』だったそうだ」
「は!?」
俺は彼がトンデモナイ事を口にして
唖然とするしかなかった。
この世界が過去に
異世界への門を開けようとした!?
「だが、その実験は大失敗し…
古代魔導帝国は、一夜にして崩壊。
古代の超文明は、そこで失われたと
魔術や祈祷の古文書には書かれてある。
なので、『異世界』というのは
我々には荒唐無稽な概念じゃないんだ」
言って男は満面の笑みを浮かべた。
何だって!?
異世界は、この世界では
荒唐無稽じゃないだって!?
「え?
いや、え?
でも、え?
異世界への門を開ける実験で
文明崩壊っ!?
えええええ!?」
俺は今まで、全然知らなかった
この世界の古代帝国の事を聞いて愕然とした。
そんな古代文明があったんなら
先に教えておいてくれよ!
いや、そういう考古学を
学ぼうとした事なんか、無いですけど!!
え?凄く秘密にしてたのに
異世界人って、
もしかして、ありきたりなの!?
「それじゃぁ
俺みたいな異世界人は
過去にもこの世界に来た事があると!?」
俺はそこで、思わず最高の迂闊を口にした。
そう思い込んでしまって、そう言ったのだ。
「ほぉ…自分で認めてくれるのか
自分が異世界人であると…」
その男は、俺があっさり秘密を口にした事に
やや呆れた表情になる。
ん?どういう反応?
あれ? 何か、マズった?
「リョウ様!!
やっぱり貴方、
異世界から来た人だったんですか!!」
そこでメイヴィアが、話に乗っかってくる。
その台詞に驚く俺。
いや? やっぱりって何?
やっぱりって!?
え?俺、メイに異世界人って
疑われてたって事!?
何で!?
「何で俺が異世界人って
みんな分かるんだ!!
フィアなんか、何度説明したって
理解してくれなかったのに!!」
俺はそこで、思わず泣き言を口にした。
確かに普通の人に喋るには
あまりに荒唐無稽で危ないとは思ったが
『万象強化』を使うにあたって
嫁のフィアには素性の事を明かさなければ
ならなかったのだ…
だが、何度説明しても、フィアには
『異世界転生』という概念だけは
理解して貰えなかった…
だからこの世界は異世界なんて
分からないのだと、思っていたのに…。
「ご、御免なさい御主人様!!
私、御主人様の言ってる事が
よく分からなくってっ!!」
そこでそう詫びを入れてくるフィア。
「リョウさん、そこは怒る筋ではないですよ…
魔法を扱う者でさえ、
異世界を否定する人も多いんです!
農民出身の子が、異世界なんて言われて
分かるワケが!!」
と、そうメイが俺をたしなめた。
ああ、それはそうか…
それが知識階級とそうでない者の違いか…
なるほど?
「ふむ…興味が尽きないな…
だが、1つだけ言っておくと
我々の世界から
少なくとも我々が知る限り
この世界から異世界に行ったという
記録はないんだ…
やろうとしたら、文明が滅びるほどに
それは難易度の高い事だったらしいのでね」
そう、その男は話を添える。
え?
そうなの!?
簡単に行けるとかじゃなくて
行こうとしたら文明滅びるような事なの?
「逆もまた然りだ…
君の様に、自分で異世界から来たと
言葉にする者は、扇動政治を行う王侯貴族か
詐欺師くらいのモノで、
魔法のトリックでそう見せかけて
世の中をだまくらかした者だけで
記録で知られる限り、
本当に異世界から訪問してきた者は居ない。
まぁ、記録に無いだけで
真に来訪者がいなかったのかは
悪魔の証明でしかないが…」
言って肩を上げる彼。
そして興味津々で彼は俺を見つめた。
「参考までに、君はどうやって
異世界からこの世界にやって来たのか?
聞かせて欲しいのだが…」
彼はとても力強く、
俺がこの世界に来た経緯を聞いてきた。
「畜生! もうこうなったら
隠してても仕方がねぇ!!
とは言っても、どうやって来たかなんて
俺だってわからねぇんだ!!」
俺は自分の状態が
追い詰められのだと判断するしか無く
やむなく激昂してそう言うしかなかった。
「自分でも分からないんですか?」
俺の言葉にメイが驚く。
「仕方ねぇだろ!!
俺は、俺が元いた世界で、交通事故で死んだ!
死んだんだ!!
そしたら変な空間に居て
神様と名乗る、悪魔みたいな男が居て
『君、良い魂してるね?
異世界転生しない?』
とか言われて、
この世界に飛ばされたんだぞ!!
そんな滅茶苦茶な経緯で飛ばされて
どうやって来たとか
分かるワケがねぇ!!!」
言って俺は絶叫する。
あの時の事が瞬時に思い出されて
俺は思わず泣きそうになった。
「なるほど…
自分の意志で来たわけではなく…
神と名乗る、悪魔みたいなのに
死んで転生をさせられたと…
ほぉ…」
その男は、俺の荒唐無稽な説明を聞いて
難しそうな表情になって、ため息を吐いた。
暫く思案を続けていたが
それが終わった頃に、次に言葉を添えた。
「外側の神か…」
そう呟いて、苦そうな表情をする。
その言葉を聞いてメイもビクついた。
「やっぱり…そんなモノを
肯定するしかないのですか…」
メイも彼のその言葉を聞いて
表情を沈み込ませるしかなかった。
「何だそれは? 外側の神って!?」
彼らが突然言葉にした
不思議な単語に俺は狼狽える。
外側の神?
外側???
俺はその単語から思わず連想して
俺の中でまだ記憶に残っている
神を自称した、あの男の顔を思い出した。
いや、もう朧気で、どんな顔だったのか、
だんだん忘れているのだが。
「古代魔導帝国が作った仮説だよ。
異世界があるのなら、この世界の神ではない
異世界に固有の神がいてもおかしくない。
我々の信仰する、水の女神…
それは、この世界の神ではあるが
異世界においては、全く別の神がいて
その神の元に、
異世界の法則が決まるのではないか?
だから異世界の門を開けるのは
容易ではないのでは? という
我々の外の世界に存在してる
外側の神、それを仮説として
アウターゴッドと称したのさ…」
その団長は、そう言って深いため息をついた。
その表情からは、出来るだけ
そんなモノを肯定したくないと
言ってる様だった。
俺はその時、あの転生の瞬間を思い出す。
『うーん、超越存在っていうか
空間境界を越えた者っていう奴で
厳密には、君達の言う所の神様じゃないんだけど
君達の基準では、超越存在だから
まぁ、ギリ、神様でもいいのかなって…』
あの男が言った言葉を思い出した。
超越存在…
外側の神…
つまり、アイツが、この世界で考えられた
外側の神…異世界の神…
しかし本人は、
厳密には神ではないと言っていたが。
「なるほど、受け入れ難い面もあるが
君の知識と、君が纏う不思議を思えば
そういう事で納得するしかないのだろう。
君のアンバランスさも、それなら納得できる。
外側の神が強制的に送り込んできた…のなら」
「アンバランスさ?」
俺は彼が総評した意味を問うてみた。
「そりゃぁそうだろう?
君には分からないと思うが
私ぐらい修行を重ねるとね…
君の周囲を纏う空気が違うのが分かるんだ。
マナ感知よりも、もっと超越的な感覚だが。
そんな恐ろしい空気を纏っているのに
その中心の君は、どちらかと言えば
人畜無害の一般人の存在感に近い。
これは異常な事だ…
君の周囲だけ、異世界に見えるのに
君という存在に、
この世界に与える害意を感じない。
だったら、アンバランスだろう?」
そう彼は説明する。
ええ、そうなのか…
彼の言うそれはきっと『万象強化』を
行使した時の、俺の周りに出来る
強化空間の事だろう。
昔、フィアと一回、測定した事がある。
『何処まで離れても、
万象強化はフィアにかかるのか?』
を…
その結果は、半径50mくらいだった。
それを越えると、フィアが自分の装備に
元々の重量を感じて動きにくくなり
普通の女の子の能力に戻ってしまったのだ。
だから、フィアを地上に置いて
ダンジョンに潜るという分離行動が
出来ないなと判断した由縁なのだが…
「だが問題は力のアンバランスさではない。
もっとも我々に重要なのは
君は何故ここに異世界転生したか?
それだろうな……」
彼はその点に話を移し、俺にそう問いかけた。
その言葉に俺の眉はつり上がった。
「そんなの俺が知らんよ!
俺が、あんたらの言う所の
外側の神に、何を言われて、
ここに異世界転生したと思ってるんだ!?」
俺は冷静さを失って、
泣き声に近い音で絶叫する。
「何を言われたんだい?」
彼はそんな俺を軽くいなして
鋭い瞳でそれを尋ねて来た。
「私達、神の手違いで
死ぬハズじゃなかった君が死んだから、
本来の寿命をまっとうする為に
異世界に転生して帳尻を合わせて!
ゴメンね!
とか言われて、ここに連れてこられたんだぞ!
俺は神の手違いで死んだって!!!」
俺はあの時の事を思い出して
絶叫するしか無かった。
「は?神の手違い?
本来の寿命をまっとうする為に
異世界に転生して帳尻を合わせて!?
ですって!?
はぁぁぁ!?
それが神様の言う事なんですか!?」
メイは俺の話を聞いて唖然として驚声を上げ
目を見開いていた。
「だよね!そういう反応になるよね!
それが普通の反応になるよね!?
そうなんだよ!
滅茶苦茶なんだよ!
今、俺がここに居るのは!!
異世界に転生するなんて
滅茶苦茶なんだ!!」
俺はその時、
メイに共感して貰って嬉しくなり
怒りと狂喜がまぜこぜになった感情で
床をガンガンと蹴った。
思い返せばやっぱり腹が立つ。
なんだそれ!?
それを聞いて、
団長の彼も額に手をやって
表情を深く沈み込ませた。
「ふう…なるほど…
外側の神が、必ずしも善的な存在では
無いという事か…
どうも聞く限り、
神然している神に聞こえないが…
害意がある様にも聞こえないので
やや安心もできるか…
そうなると、我らが崇める、水の女神は
やっぱり神様なのだなぁ…」
そう呟いて団長は俺の言葉に
何やら、同情に近いモノを感じた様だった。
あれ?分かって貰えるの?
俺の事…
なんか嬉しいんですけど!!
「…と、いう事は、
君は異世界から、外側の神に
一方通行でこちらに送り込まれ
帰る事も出来ないでいる…でいいのかな?」
彼は俺の現状をそうまとめ
それを確認してくる。
「ああ、そうだ!
帰れるんなら、とっくに帰ってるわ!
こっちの世界で
残りの寿命を消化するしかねーんだとよ!
まったく、あんなの神様じゃねぇ!
邪神だ!邪神!」
俺はその言いようを思いだして
また腹を立てる。
「じゃぁ特に何をする目的も無いと?」
団長がそれを尋ねる。
「ああ、もう何をしていいか分からんから
フィアみたいな可愛い子を嫁に貰って
ここで幸せに暮らすしかねーなって
割り切ったんだよ!
異世界転生を俺に施した神とやらに
特に何をしろとも言われなかったんだから!
言われたのが、
残りの人生、帳尻あわせに消化して!だぞ!?」
俺は頭を抱えてそう言う。
「無目的で異世界転生なんて
荒唐無稽な事をさせられたのか…
本当の事なら、確かにそれは
神というより、邪神に近いな…
神のミスで帳尻合わせ…
そんなの神とは認めたくないが…」
言って団長は俺の説明に目を伏せる。
「…で、ではその私が気になってしまう
君の異能は?
君の周囲の空気を強化する
不思議な能力…」
団長は今度は値踏みをする様な目で
それを尋ねてくる。
「これは、あの神様を自称する邪神が
何も無しで転生なんて
可哀想なんでって言って
この世界で俺が生きていけるように
するためにくれた特典らしいぞ!
『万象強化』って、人間の能力を
倍化させてくれる異能なんだってよ!!」
俺はヤケクソになって
自分の異能さえ口にして公開した。
「人間の能力を…倍化…か…
ほう? シンプルだが恐ろしい能力だな…
無目的に異世界から飛ばして
そんな能力をオマケで与えるとか
思想はアレだが、力だけはある外側の神か…
寒気がする話だ…
しかし、それは、君だけに適用されるのか?」
彼は感想を口にしながら
間を詰めるように、それを尋ねて来る。
「いいや、どうもこの能力は
俺が与えたいと思った人間にも
適用されるらしい…
だから、フィアも、この能力の影響下にある」
俺はそこで、もの凄く油断して
『それ』まで口にしてしまった。
「ああ!そういう事ですか!
フィアさんが、異常な身体能力を持っているのは
そのせいだったんですか!!」
そこでメイが、
ようやく腑に落ちたという顔で
俺にそう叫んだ。
そうか…
メイには、フィアが異常な身体能力を持ってる
女の子に写ってたのか…
いや、そういえば、起きてる間はずっと
万象強化をかけてたんだから、
そうなるのも当然か…
結構、重たい装備をしてるのに
平然と動いてたもんな、フィア…
「素晴らしい!!」
その時、俺の言葉を聞いて
団長は満面の笑みを浮かべて、手を叩いた。
団長が突然、手を叩くほどに大喜びをして
上機嫌になった事に驚く。
「そうか! これが『選択』か!
女神よ!これが貴方の望みなのか!
貴方には、これが見えていたのか!!」
団長は意味不明な事を口走って
歓喜に震えていた。
え?何!?
『選択』って何?
ん?女神の望みって!?
「まぁ、色々とまだまだ聞きたい事はあるが
それは、もうウチの聖女に後は全部任せよう。
私に残されている時間は
1日程度もないのだから…
この子も、これから暇になるのなら、
ちょうどいいだろう…」
言って、フッフッフ謎の笑いを浮かべる団長。
「君の異世界転生の件は、
ひとまずここで打ち切ろう。
もう私には十分だ…
十分な逸材だと確認できた…
なので、本来の話に戻ろうか…」
そう切り出して、
団長はにこやかな微笑みを浮かべる。
「な、何だいったい!?
選択とか、女神の望みとか、なんとか
本来の話って、何だ!?」
俺は、いきなりテンションを切り替えた団長に
ただ呆然とする。
「いや、聖女の処遇だよ…
本来、私はそれを遂行する為に来たんだ」
そこで真顔になって、その団長はそう言った。
「あ?え?
その話? その話に戻るの?」
突然、元々の対立の根源の話を振られて
些か呆然とする俺。
「それ以外、私は何をしにここに来たと?」
真顔でそう返す団長。
「いや、その…異世界転生した俺を
調べに来たんじゃ?
今の流れって、そういう事ですよね?」
俺は、メイよりも俺が気になるんで
テストをしていたと言ってた
彼の今までの態度を指摘して、首をかしげる。
「まぁ、出来るなら、直接、私が調べたい所だが
話を聞くに、外側の神による
手に負えない話らしいし
君の異世界転生に、特に世界に対する
害意も無いようなので、それなら良いだろう。
君が世界を破壊する何かであったら
大問題で話は変わるが…
私に組み伏せられる程度では、
そういうモノにも思えないしね…
なら、監視役はウチの聖女くらいで十分だろう」
「は?監視役?」
彼がそんな事を口走るので
俺はそれを問う。
「それは最終的に、そうしたいという話だ。
流石に異世界から転生した者を
ノーマークというわけにもいかんし…
かといって、緊急性が無いのなら
緊急性のあるタジャルモリの方が
私にはよっぽど、大事なのでな…」
言って苦い顔をする団長。
「ん?タジャルモリ?
攻めて来てる帝国の事か?」
俺はそう問うた。
「ああ、もう、それが全ての問題だ…
革命に近い事までやって教皇を討伐したのも
全てが全て、タジャルモリに対してだ…
腐敗の粛正など、副産物に過ぎん…」
「え?そんなに酷いのか?」
俺は彼がそう口にするので
噂の東方帝国について聞いてみる。
「教皇が、今攻められている
西方の端国家に我ら神聖騎士団を
直ぐに派遣していれば、
まだ戦線は維持できたろうに…
『支援軍派遣に金も出せない国に
国防の要の騎士団は出せん』とか
やってくれたおかげでな…
抵抗している3国のウチ、
1国が陥落して、
早く支援軍を派遣しなければ
残りの2国も危うい状況になった。
まったく、あの法皇は…」
「そんなに悪くなっていたのですか!?」
団長のその言葉にメイも青ざめる。
え?ええ??
もしかして、西方って凄く劣勢なの!?
「それで、支援軍として私が出ないと
いけなくなっているのに
国内は革命の影響で、まだボロボロ。
アリアス派の残党が復権を画策して
安心して、援軍にも出られん…
となると、聖女問題は
今の我が国には致命的な問題なのだ…」
そう嘆いては彼はメイを指さした。
「な、なるほど!?
だから、ここでメイを捕らえるって事か!
畜生、俺の身の上話ばかりさせられて
その事を忘れていたぜ!!」
俺は団長の長々とした、
そして思った以上に深刻な背景を理解し
メイの身の上問題を思い出して、
また身構えた。
さっきまでは対立姿勢よりも
俺の事に興味津々で、
友好的ですらあったのに!
「いや、本当に困っていたんだ…
幽閉もダメ、処刑もダメ、
かといって放逐すれば
隣の国と結託して、何をするか分からない
そんな策謀をする子ではないと
分かっては居るが、
アリアス派のバカ共が策謀をして
利用されると、厄介な事この上ない…
どうしようかと思って…
最終手段を用いるか、悩んでいた…」
彼はそう言って、
深く苦悶の表情を浮かべた。
「最終手段? 殺すって事か!?
いや、今、
処刑はダメって言って無かったか?」
彼が凄みを増して言葉を紡ぐので
俺はそれを問うた。
「処刑なんか、ダメに決まってるだろう?
そんなの、むしろ女神への殉教だ…
悪逆の限りを尽くした教皇なら兎も角
聖女なんか処刑したら
逆に偶像が神聖化されて
民衆の反乱の原因になる…
彼女は、聖女として民衆に人気が高いのだ。
幽閉にしても、民衆が開放しろと
直ぐに騒ぐに違いない…
大問題だったのだ…捕縛する事さえ…」
そう言って彼は額に手をやって
とても苦しそうな表情を浮かべた。
えええ…
そうなるの…
「だったらどうするんだ!?
自由にさせてやればいいのか?」
そう問い返して、俺は眉をひそめる。
「自由など、もっとダメに決まってるだろう?
他所の国に入られても、どうせ利用される。
アリアス派の残党も利用しようとする。
水の女神の信徒は、我が国だけでは無い。
農耕の神でもあるのだ。
大衆信仰の幅は、西方諸国の全てだ」
彼はそう呟いて、
苦しそうに頭をかきむしった。
「八方塞がりじゃねーか!」
俺は団長と聖女が置かれている状況を聞いて
そう評価するしか無かった。
「ああ、通常手段では
八方塞がりなんだ…
だから最終手段を考えるしかなかった」
「最終手段?」
その時、団長に凄まじい凄みが沸いた。
「彼女が聖女だから、問題の全てが始まる。
ならば、彼女に聖女で無くなって貰えばいい」
「は?」
団長はそこで凄まじい眼光を放った。
「彼女をどこぞの下郎に犯させて
神聖不可侵の聖女から、普通の神官にしてやれば
少なくともアリアス派のバカ共の
旗印になる事は無くなる…」
言って、もの凄く冷たい目をする団長。
「なっ!」「なっ!」
俺とメイの悲鳴が重なった。
「200年前の聖女、
イレイネ・アルクシオーヌ様は
出産と同時に聖女の力を失ったと
伝承に書いてある。
嘘か真か分からんが、これは手だと思った。
その子、メイヴィアも同じなら
妊娠でもすれば、聖女の力を失うし
それよりも聖女が処女を失って
聖女では無くなったとでも喧伝すれば
権威が大好きな奴らの事だ。
絶望して聖女から興味を失うだろう。
そう考えた」
団長はそこで、
猛悪な手段を俺達に口上する。
「は!?
まさかお前!!
自分の国の聖女を犯して
地位から引きずり下ろす気か!?」
俺は彼の狂気に溢れる言葉に絶句した。
「私とて、こんな手段、乗り気では無かったのだ。
参謀が苦肉の策で出して来た方法に
個人的には、閉口するしか無かった。
本当に最終手段、どうにもならない場合に
何らかの善後策でやるか…と、思っていたのだが…」
そこで彼は俺を見つめた。
「そこに、ちょうど都合の良い
下郎役が現れた…」
「はい?丁度良い下郎役?」
非常に外道な事を言っているのだが
何故か晴れやかな顔をして俺を見つめる団長。
「つまり…君だよ…」
そう言って、
団長は楽しそうに俺を指さしたのだった。
「は!?」
「え!?」
「え!?」
そこで、俺とメイとフィアの間抜けな声が連なる。
「なぁ、ビタミン君。
ウチの聖女を犯して、
ずっと引き取って貰えないか?」
団長はにこやかに、そんな狂気を口にした。
「お前、何言ってるんだ!?」
「何を言ってるんですか!
グレゴリアス卿!!」
俺とメイは真っ赤になって
彼の狂った提案に反発する。
「まぁ、そう言うだろうな…
それは普通の反応だろう。
だが、私が気に入ってしまったんだ。
君を…
下郎に、親戚を犯させるなど
到底納得できなかったが、
信頼できる男に、嫁に貰って貰うなら
それなら、悪い話ではない…
親戚としては、ちょっと変わった縁談を
作ってやるようなモノだしな…」
そう言って団長は笑う。
「え?貴方、メイの親戚なの!?」
そこで不意にそんな言葉が混じったので
俺はそれを尋ねた。
「ああ、彼女のパシュネット家は
私の家と近い親戚でね…
私からすると、姪っ子の様に
思ってたんだ…その子は…」
そう肯定する団長。
「ちょっと待てよ!
自分の姪みたいなのを
下郎に犯させるとか
何考えてるんだ!!」
俺はその滅茶苦茶な思考に悶絶した。
「嫌に決まってるだろう?
共に民の治療に奔走してくれた
姪っ子のような子だ…
何でこんな良い子が
あんな法皇の元から生まれてきたんだ?
と、嘆きと嬉しさで、見守ってきたんだ。
だが、聖女という、その1点で
にっちもさっちもいかなくなる。
ずっと思っていた。
この子を聖女から引きずり下ろさねば…と。
そこで、君の出番だ!」
彼は満面の笑みを浮かべて
両腕を広げて、そう言った。
「アホか!!!
何で俺がそんな事を
せにゃならんのだっ!!!」
俺はあまりの意味不明さに、ただ絶句する。
「だって、仕方無いじゃないか!
私が君を気に入ったんだ!
なんとか信頼できる男の嫁に出来れば…
と夢想していた時に
君が現れた!
これこそ、水の女神の思し召しと言うべきだ!」
そう言ってキラキラした目で
彼は両腕を広げ、満点の空を仰ぐ。
「お前、昨日、今日、出会った男に
何を期待してるんだ!!
何処の娘さんが、3日前に出会ったばかりの
冒険者ギルドで雇った護衛に
犯されて喜ぶ奴がいるんだよ!
メイだって嫌に決まってるだろうが!」
そう言って俺はメイの方を見る。
その時、メイは僅かに頬を赤らめて
やや首を傾げていた。
そしてフィアも顔を横に向けて
何か遠くの方を見つめている。
…あれ?
「まぁ君の意見は、この際、どうでもいいよ。
私が気に入ったのだから、私がそうするだけさ…
結果的に悪い事にはならないと思うが
今の君達には、踏ん切りも付くまい。
それは分かる。
なので、これからは、親戚のお節介だ」
「アンタ本当に何言ってるの!?」
俺は目の前の狂気の塊に、
ただ絶句するしかなかった。
「さて、どっちを使うかな…
【強制】を使うか【依頼】を使うか
いや、下手に習熟の低いギアスを使えば
彼の異能で抵抗されそうだ…
縛りが弱いが、神官らしく【依頼】を使うか…」
なんだか、ワクワクしながらそう呟く団長。
「は!?【依頼】!?」
その時、メイの顔が引きつった。
「え?何!?」
「【我らを守護する水の女神よ、
彼の者に命題を課し、其を遂行させし盟約を】」
その時、団長は詠唱を行って祈祷を行使した。
詠唱終了と同時に、
俺の中に何かエネルギーの様なモノが流れ込んできて
何かが俺を縛り上げる。
「抵抗して下さい!!リョウさん!!」
メイが叫んだ。
だが既に遅かった。
俺は団長が放ったエネルギーの様なモノに
縛り上げられていた。
「さぁ、君に依頼だ…謝礼は払う。
我が可哀想な親戚を、犯して女にし
聖女という呪縛から、解き放って欲しい」
団長は俺にそう『依頼』した。
「うぉぉ何だこれは!?
体が勝手に動こうとする…」
俺はそんな滅茶苦茶な依頼を受けて
体が勝手に動き出そうとしていた。
俺の意識で、それを必死に止める。
「ほぉ? 若い男子なのに、抵抗するのかい…
もっと情動に正直だから、
性奴隷を嫁にしてると思ったが、節度はあると…」
言って彼はその場に座り込んで
高みの見物と洒落込み始めた。
コイツ!!!
これは、対象に行動を強制的に
起こさせる祈祷か?
俺の体が勝手にメイの方向に
近づこうとする。
「まぁ、親戚のお節介さ…
でもメイヴィア…
本当はまんざらでもないんじゃないのか?
【我らを守護する水の女神よ、
この者を拘束し熟慮する時を与えたまえ】」
今度は団長は、メイに向かって
【拘束する捕縛の膜】の祈祷をかけた。
彼女は一瞬で黄色い膜に包まれて
その場に拘束された。
「そんな!グレゴリアス卿!!」
地に伏せられ、横になったまま
悲鳴を上げるメイ。
「どの子もこの子もシャイだな…
若いんだから、
もっと気持ちに正直になっても良いだろうに」
そう言って団長は難しそうに笑う。
「あっと、忘れてた…
映像記録は撮らないと…
証拠を見せろと、どうせ言うだろうからな
アイツらは…」
そう言って団長は懐から、銀色の球体を取り出す。
は?『映像記録』だと!?
俺は団長の口から信じられない単語を聞いた。
映像なんて単語、
こんな時代にあるハズが無い。
俺は俺の意志に逆らって動こうとする体を
必死に押さえつけて、その球体を見た。
「これはね、法皇の式典の時に使う秘宝なんだ。
ほら、動かしてみよう」
そう言って、それを起動すると
それは空間に映像スクリーンを映し出し、
さながらあっちの世界のテレビションの様な
録画された映像を宙に映し出した。
法皇ぽい法衣を来たオッサンが
宮殿の壇上の上で、
偉そうな説法をしている光景が
そこに映し出されていた。
何だと!?
この世界にもテレビのような技術が
あるだって!?
「全く、古代魔法帝国が残した秘宝遺産の
なんと凄い事よ…
こんなモノ、現代では作れないからね…
国宝級の秘宝なんだこれは」
そう言って俺にウィンクする団長。
「ちょっと待て!
その装置ってもしかして
今の状況を録画する機能があるのか!?」
俺は青ざめてそれを聞く。
「ああ、そうだとも。
それが無いと、この装置の魅力は半減だ。
その場の光景を記録して
映像として映し出す。
それがこの秘宝の能力だ」
団長はニコニコしながら、それを説明した。
その説明に、俺は総毛立った。
「お前、自分の姪っ子のAVを撮る気かっ!?」
俺はあまりの事に絶句する。
「はい?AVってなんだい?
君の世界の何かかい?」
俺の世界の単語が分からず、
それを聞き返す団長。
ああ、それはそうか…。
そんな単語もそんな概念も
この世界には無いのか…。
恐らくアレは一般に普及してるモノでなく
その古代帝国とやらの遺産で
希少なモノなのだろう。
俺達の世界の様に、
誰もが使える録画カメラなんて
都合の良いモノがあるわけではない。
だから、この意識齟齬か。
だが、そういう問題じゃねぇ!
「自分の姪っ子が辱められた映像を撮って
公開しようとか、ふざけんな!!
お前に人間の血は流れてるのか!!」
俺は俺の意志を無視しようとする
体の動きを押さえつけて、ただ抗議する。
「そうでもしないと、
聖女信仰の盲目を解くことは出来ん。
自分の姪っ子の辱めの姿を
アリアス派の連中に公開するのもアレだが…
これぐらいしなければ、
普通の女の子にも戻れないのだから
この世界は、業が深いのだよ…」
言って、団長はため息をついた。
「辞めて下さいっ!!」
そこでフィアが至近距離まで近づいて
団長に弓矢を構えて、矢を撃とうとした。
「ふむ?嫁さんとしては
夫の不倫を目撃するのは耐えられないと?」
そんなフィアの姿勢に、
彼女の心理を分析する団長。
「こんな互いに思い合ってない状態で
行為を強要するなんて酷すぎます!!」
フィアは涙目になって、そう叫ぶ。
「なるほど…酷いか…
まぁ、酷いかな…
でも、いい薬だろう?」
「薬?」
団長の言葉に、それを訝しむフィア。
「弱いという事は、蹂躙されると言う事だ。
弱いという事は、己の意志を通せないという事だ。
弱いからこうなる。
それを命を代償にせずに学べるなら
人生の薬ではないかね?」
言って僅かに笑う団長。
「貴方って人は!!」
激昂したフィアは、そのまま矢を放った。
団長はそんな至近の矢を難なく交わし
そのままバッとフィアの所まで移動して
フィアを組み伏せた。
「その意気や良し!
君の方が旦那よりも気骨があるか?
だが弱いな…弱いからこうなる…」
組み伏せた上のまま、
彼は哀しそうにそう言った。
「フィア! おい辞めろ!!
俺のフィアに乱暴するな!!」
その時、俺は身動き取れないままに
そう叫んだ。
「哀しいなぁ、
弱いと吠えるだけしか出来ない。
君の異能は絶品だ。
異世界から与えられた能力だけの事はある。
だが、君自身が弱すぎる。
君が鍛錬をもっと積んでいれば
今のこの立場は逆だったかもしれないのに」
そう言って団長は強くフィアを押しつけた。
「畜生!!」
身動き取れない自分の有様に
さらには、余りに団長に痛い所を突かれた事に
俺は泣き叫ぶしか無かった。
「どうしてこんな酷い事が出来る!?
自分の姪を俺に犯させようとするとか
力尽くで何もかも為そうとするとか
これが神官のする事か!?」
俺は自分の体がメイにジリジリ
近づくのを何とか阻止しながら
それを叫んだ。
「どうしてこんな酷い事を…か…
ははは、それは私自身の憤りもあるだろうな…
どうして人は、そんな酷い事が出来るだろう?」
その時、団長は虚ろな目になって、そう呟いた。
ん?
「我が父は、その娘の父の法皇に異を唱えた。
『それが神官のする事か!?』と…
開祖イフェピネの志に従って、
法皇庁に審問したのだ。
そうしたら、どうだ?
法皇はそれを逆賊扱いし
異端審問にかけて…
背信者として、最後には公開処刑したのだ…
力なき抗議の結果は、いつもそれだ…
力なき、『弱さ』には、呆れてしまう…
抗議には力が必要だ…
それを私はあの時、父の死を代償に悟った。
そして、人生の全てを鍛錬に費やした。
結果、法皇を討つだけの力を得た。
それはいい…。
でも、今でも思う。
どうしてあんな酷い事が、人間に出来る…と…」
ただ乾いた笑いを漏らして団長は呻いた。
「それは…そんな…」
俺は彼の辛い過去を聞いて、息を詰まらせた。
この人には、この人なりの辛さや疑念
憤りが存在してるのだと、
その短い言葉で思い知る。
「だからその恨みを、教皇の娘を
君で強姦する事で、帳尻を合わせるのだと
そういう理屈でもいいさ…
結果がオーライになるのなら
理由付けなど、何でも良い」
力なく、そう言う団長。
言葉の内容は滅茶苦茶だったが、
あまりに虚ろにそう言うので
より濃い思いがそこにあるのだと分かる。
だからといって!
「ダメです!ダメですよ!
こんな愛の無い形なんて!!」
下で組み伏せられているフィアが
涙目になって暴れていた。
「ふむ?ん?」
そこで、団長はフィアの何かに気づいて
さっと首に手をやった。
「危ない!忠誠の証が取れかけ…
って、何だこれは?
全く同じ様に作ったニセモノじゃないか」
彼はフィアの首に巻いていた
ニセモノの黒ベルトを取って、上に示した。
「ええ!?」
その光景にメイが驚く。
「ははぁ?
なるほど…忠誠の証のニセモノを
首に巻かせて、人さらいの目を
欺こうとしたのか…
つまり、この子は奴隷でも
何でも無かったのか…」
そう言ってニセモノのベルトを
指でクルクルと回す団長。
「クソッ!」
俺は組み伏せられた衝撃で
ニセモノのベルトが取れかけたのを悟り
その工作がバレた事に舌打ちした。
「よほど、君にとって、
この子は大事な子だったのだね…
奴隷偽装してまで、護りたいとは…
今、そこまで抵抗するのも
この子に操を立てているからか?
男なのに純情だなぁ…」
そう言っては、またニッコリとなる団長。
「ますます、
ウチの姪っ子の婿に欲しくなった。
これだけ、この子を大事にしてるなら
ウチの子も大事にして貰えそうだ…
なら、こういうのはどうだ?
悪役をするのも、悪く無い」
言った後、彼はフィアの革鎧を強引に外し
彼女の衣服を力ずくで破り裂いた。
「キャァァァ!!」
フィアの悲鳴が、
誰も来ない廃墟の神殿に木霊する。
まぁ、一気に全部、
書けると思って無かったんで
前半で
後半で上手く纏めれるか
どうだろなぁ
書いてみないと…
まぁ、ここまではイメージの’7~8割で書けたけど
異世界転生がバレたのをフォローするパートを
緊急に作ったんで、「だったこうならないか?」
要素が増えて、後半の要素が、元々の構想より
増えちゃったなぁ…
オジサンは「おかしい」とは思っても
異世界転生には気付かないという案配が
理想的だったんだけど、
こんだけ強いと、普通は気付くわなぁ…




