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第18話 いきなりラスボス!

まぁ、この話ではラスボスなんだし、嘘ではないか…

メイヴィアはそれからまた1日

不思議な2人と逃亡の旅を続けた。

たわいない会話…

…ではない。


漏れてくる知識の欠片が

全くたわいなくない…


”ビタミン”の話を彼が語ってから

彼の言葉の使い方は、

より秘密主義であろうとした。


だが、それは逆効果だった。


彼の存在感、そこから漏れ出てくるモノ。

その全てが知識の欠片だった。


空にある太陽を見てため息を付き、

「時計があればなぁ…」

と呟く。


”時計”とは何か?


砂時計?そんなモノがあってどうする?

精々僅かな時間が知れるだけだ。

日時計?それを普通は時計にする。

だが、まるで”携帯できる時間を測るモノ”

そんなモノが存在してるかの様に

彼は僅かに振る舞っているのだ。


他に、道を歩き、疲れが出てくると

「ハァ、車があればなぁ…」

と小声で愚痴る。


…車。

普通なら馬車の事だと思う。

だが、何故”車”と言うのか?

馬車の事を短縮して”車”とは言わない。

普通なら”馬”という。


そして、恐らく言葉のニュアンスから

彼は”馬車”とは違う”車”なる

何かを思って、ため息を吐いている。


観察すれば観察する程に

違和感が膨れ上がり、だんだんと彼が

『この世界の人間』

に見えなくなってくる。


まるで、自分達が全く知らない何かが

当たり前の様にある世界に生きて来て

それが存在していない事を

ずっと嘆いているような…


そんな言葉の組み立てに、

常になっているのだ。


本来は、それは彼の故国の事だろう。

そして、それは彼の所作で

故国を思う行動の節々に感じる。


だが、その”故国”がおかしい。


この世界に存在しえない

恐るべき魔法王国を彷彿とさせる

そんな故国感を、

彼は僅かな言葉の中で

メイヴィアに垣間見せるのだ。


それは今の西方の国々を脅かす

タジャルモリ帝国など相手にならない

まるで、古代に存在したという

古代魔導帝国に近しい存在感であり

尚且つ、”魔法”の臭いがしない。


マナの存在があまりに希薄な

”それでも凄い何か”を彷彿とさせられる。


『この世界の人間ではない』


メイヴィアの印象は、そこに集約した。


そしてその疑念を助成した、大きな因子。


色々と彼と一緒に秘密を隠そうと

努力しているフィアが、

たった一回だけ言葉で漏らしたのだ。


『異世界転生』


と。


異世界…転生???


その言葉が耳に入った時、

メイヴィアは目眩を覚えた。


”そんな事が、ありえるのか?”


まず最初に思った事。


そして次に記憶の中から引っ張り出された事。


『古代魔導帝国』


それが末期に行ったという

帝国を最終的に滅ぼした、巨大な魔導実験。


”異世界への門を開ける大魔法”


だが、それは大失敗し、魔導帝国は

その力の全てを消失させて1夜にして滅んだと

半ば御伽話の様に伝えられている。


各地に残る古代魔導帝国が作ったと言われる

巨大な廃遺跡。


その痕跡さえ残ってなければ

誰もが御伽話にしたであろう、

現在からは考えられない超文明とその魔法実験。


この世界の学者界の常識では

”異世界は存在する”

であった。


だが、そこにアクセスする方法は

ほぼ存在せず、古代魔導帝国が

全てをかけて滅んでしまう様な

そんなモノなのだ。


しかし、その彼の異質を

『異世界』という言葉で補ってみると

何故かしっくりとくる。


『彼は異世界から来た人間』


であれば、

彼の不思議は簡単に説明できるのだ。


彼の故国がこの世界に存在しない

超文明であったのも、それで説明がつく。


しかし


『転生』とは何だ?


異世界までなら、まだ、理解が許せる。


この世界の常識は、異世界を許し

魔導師が求める、魔導の究極は

『異世界の門を開け、未知の時空に飛び込む事』

なのだから…


だが、”転生”、となると

些か話が異なってくる。


こちらから行くのが、魔導の夢なら

”向こうから来る”という事も十分あり得る。


可能性は本来、双方向だ。


だが、そんな話を許容するなら

メイヴィアは『とある仮説』を受け入れなければ

ならなくなってしまう。


それだけは、

彼女の『聖女』の称号が邪魔をした。


しかし、現在のどうしようもない事実が

彼女にそれの許容を迫っている。


彼女が敬愛する水の女神が

わざわざ”神託の啓示”で声を発し

『その出会いを大事にせよ』

と指示を出して来たのだ。


それこそが、動かぬ証拠ではないのか?


メイヴィアはそれを思って

やはり目眩を覚えた。


『とある仮説』


古代魔導帝国の秘書に書かれてあったという

御伽話寸前の仮説。


今、彼女は、

自分の難儀な現在の運命なんかより

遙かに恐ろしい何かに巻き込まれ

女神に何かを期待されている

そうなのではないか、と…


半ば希望的観測を抱いては

その不思議な冒険者を、観察し続けるのだった。


と同時に、哀しいほどに

彼に惹かれている自分を自覚している。


彼女が知る事の出来ない彼の秘密の中核を、

恐らく打ち明けてもらっている

奴隷嫁のフィアに、

嫉妬の炎を燃やしている事も、また。


しかしそれさえも、

メイヴィアには心地良い事だった。


何故なら”女の子の様な嫉妬”など

彼女は今まで、その精神の中で

許されたことがないのだから…。


だから、その感情さえも、

メイヴィアには甘美な麻薬だった。


そんな、ある一種の安寧の時間は

しかし、唐突に終わりを迎えた。


―――――――――――――――――


街道の脇にあった、元神殿の廃墟。

誰もそこに気付かず、大声を出しても

まず他の者には伝わらないであろう、

人の気配の無い場所。


潜伏しながら休憩するには

その3人にはうってつけの場所であった。


やや心細いとするなら、

壊れすぎて天井が崩落して無くなっており

満天の夜空がむき出しになっている事か。


雨天であったら、雨に打たれほうだいという

そんな建て付けであったが

今日は、月が綺麗な晴天であって

雨を心配する事は無かった。


そして、何時もの様に火をおこし

夕食を食べて…何か歓談をし、寝る…

という流れに、なるハズであった。


そう、その者が来なければ。


1人の男が、

その3人の前に唐突に現れた。


そして、それに気付いた時に

リョウは激しく動揺した。


自分の『万象強化』で強化してる

聴覚や視覚を以ってしても

こんな距離まで接近している事に

気付かなかったという事に。


(しまった!)


ばっと立ち上がって、構える。


――――――――――――――――


何だ!?

どうして気付かなかった!?


こんな、戦闘距離に入られるまで!?


そこまで油断してたか!?


いや油断してたかもしれない。

こんな美少女2人と

楽しく会話してたのだから…


だがしかし??


そう焦って、相手を見て…唇を噛む。


何だろう…僅かに頬がこけ

そこそこの年齢だとは分かるが

金髪のかなり美丈夫の男。


そして、神聖騎士団の者であろう

分かりやすい鎧…

いや、随分豪華なので、騎士団の中でも

一見して幹部クラスの何かと分かる出で立ちだ。


その外見からして

既に”強そうだ”という印象しかない。


「ど…どうして貴方が…ここに…」


挿絵(By みてみん)


メイが彼を確認して、一瞬で震えだした。

その怯え方に嫌な予感がする俺。


彼女は強い。

彼女に祈祷で先制を取られたら、

俺でさえ拘束されるかもしれない程に

彼女の神官の能力は高い。


そんな彼女がこんな怯え方をするとは?


「どうしてと言われましても…

 私に、貴方を捕縛する事以外

 最も重要な仕事があるとでも?」


彼はメイに対して、淡々と語った。


「貴方が直接、来るほどの事なのですか?」


メイはガクガク震えながら、そう問い返す。


ちょっと待って、誰?


っていうかメイが震えるほどの相手で

貴方が直接来る、とかいうレベルの人!?


「貴方は自分の価値を、過小評価し過ぎなのでは?

 今はお互いに派閥のトップ同士。

 なら、当然、こうなるのは当たり前でしょう?」


その男は、特に感情も出さず、そう言った。


派閥のトップ同士!?

何だって!?


トップとか言った!?


「一応、誰なのか、教えて貰えるかいっ!?

 メイ!!!」


俺はもう何となくは分かったが

名前はよく分からんので、とにかく聞いてみた。


「この方は、イフェピネ派の首座

 グレゴリアス枢機卿…

 神聖騎士団の団長です…」


メイは震えながら、そう口にする。


うわーーやっぱりっ!!

相手派閥のボスで、騎士団でもボス!!


ボスがいきなり来たーーー!!!


俺は真っ青になった。


「お初に、愉快な冒険者殿。

 私が言うのも妙だが

 我らの聖女を護って貰い

 礼を言う。

 神聖騎士団団長

 マルアス・グレゴリアスと申す」


そう恭しく礼をして俺達に挨拶する金髪中年ボス。


あかん!

なんかこの人、オーラが違う!!


前に相手にした2人とは

全然違う世界にいる人間にしか思えん!


「グレゴリアス卿!!

 貴方は私の事を、それなりに理解して

 くれていたのでは無かったのですか!?」


メイはそう彼に詰問した。


「どういう質問なのか、よく分かりませんが

 ……理解?

 ふむ…まぁ、貴方のお父上と貴方に

 修復不能の亀裂があった事も

 貴方が、やってきた事が

 我らイフェピネ派と、ほぼ同じであった事も

 それが理解だというなら、そうなのでしょうね」


その男は涼しい顔をして、そう呟く。

メイの言葉に、さも興味がなさげの仕草をして

じっとこちらを凝視していた。


「私を捕らえて

 どうするおつもりなのですか?」


メイは冷や汗を滲ませながら、それを聞いた。


「困った事をいきなり聞かれる方だ…

 私が一番、考えあぐねている事を…」


彼はそう返して、深いため息を付いた。

それはフリではなく、

本当に悩んでいるかの様だった。


「見逃しては貰えないのですか?」


メイはそう尋ねる。


「ご冗談を…貴方に王都に行かれて

 この国が混乱するのが一番困るのです。

 この国の王都に行かせるのだけは許容できない。

 だから、私自身が来たという話です」


彼はそう言って僅かに肩を落とした。


ちょっと待て。

何で王都に向かってると知っているんだ?


俺は僅かに訝しむ。


「この国に助けを求めるのを許さないのですね…

 いえ、私が貴方の立場でも、そうするでしょう。

 分かりました…貴方に来られては

 私も手も足も出ません…

 私は大人しく捕まります。

 ですので、この二人は無関係という事で…

 以後は自由にしてあげて下さい…」


そう彼女は突然言って

手を上げて無抵抗のポーズをした。


「ちょっと待てメイ!

 何を簡単に諦めてるんだ!!」


俺は、あまりにもあっさりと

彼女が降参のポーズをした事に

総毛立って声を荒げるしかなかった。


そんなに簡単に、降参とか、どうして!?


「ふむ…潔い…流石は我らが女神に

 聖女として選ばれた方だ…

 だが、少しだけ違うのです」


「え?」


その時、その男は不思議な圧を放った。


そして同時にその場に猫が歩いてきて

タタッと小走りをしたかと思えば

その男の腕に飛び込んで、

そこに居座ったのであった。


「実は、貴方達は私の使い魔のコレで

 ずっと監視をしていてね…

 どうするのか、観察をしていたんだよ」


そう言ってニッコリ笑うその男。


使い魔だと!?

猫の!?


「魔導の方の力で、ずっと監視を!?」


そこでメイは、ハッとなって震える。


「魔導!? こいつ神官じゃないのか!?」


俺は突然、魔法使いみたいな事を言い出す

目の前の男にメイにそれを尋ねた。


猫を使い魔で使役するなんて

神官のすることじゃねぇ。

魔法使いの領分だ。


「この方は神官戦士として

 世界最高クラスの力を持っており

 過去は有数の冒険者として

 世界で修行を重ね…

 その頃に魔導師としての力も鍛錬された

 世界でも指折りの万能戦士…

 神聖騎士団が世界に恐れられる由縁の

 戦力の中枢そのものなのです!!」


メイはそう言って、

己の杖を強く握りしめる。


「まさかっ世界最強って事!?」


俺はそう口にして青ざめた。


神官戦士として最強で、魔法も使えるだと!?

そんなチート許していいのか!?


「言い過ぎだよ…世界は広い…

 私などよりも更に強い方は居られるさ。

 ただ…そこら辺の冒険者に

 遅れを取る程だとも思っていないがね」


そう言って猫を撫でながら

ニッコリと笑うその男。


この余裕ある姿が、強者の由縁にしか思えん。

たたずまいからして圧ある。


「……で、そんな強い方が

 こんな美少女神官いたぶって

 喜ぼうってか?」


俺はそう強がって自分の大盾を構えた。


どうする? どうすればいい?

メイがいきなり降参する様な相手らしいぞ?

実力は分からんが、

既にもう強そうとしか感じれない。


俺みたいなのに、何が出来るんだ?

こんな本物の強者相手に…


「いや、実の所、君達を観察しているウチに

 興味がウチの聖女から、

 君に変わってしまったんだ…

 えっと、リョウ君でいいのだっけ?」


彼は少し楽しそうに俺を見つめて

俺の名前を呼んだ。


「は!?俺っ!?」


その思いがけない言葉に俺はポカンと口を開ける。


「ウチの聖女を捕らえる事なんて

 私が出張れば、何時でもできるんだが

 聖女を護衛している君を見てると

 どうにも妙に思えてね…

 百聞は一見にしかずで、

 君を直接試してみたくって、

 ついつい、出て来てしまったって所かね…」


「この方を!?」


その、あまりに意外な言葉にメイの方が強く驚く。


「どういう事だ!?」


俺はワケが分からなくなって

ただ問い返すしかなかった。


「言葉のままさ、少し立ち会って貰おう。

 気乗りのしない聖女の処分の仕方に

 悩んでいたのだが…

 意外な所に、掘り出し物が

 居るかもしれないというのだ…

 だから、君を試させて貰う」


そう言って彼も中盾とメイスを手にして

俺と対峙するように臨戦態勢に入った。


俺はそれに、ただ混乱する。


「意味が分からんが、

 とにかく、戦わないといけないって事か!?」


俺は訳が分からなくなってそう問う。


「そうだな…

 実際に戦ってこそ、一番重要な事が

 分かるという事だよ…

 ”ビタミン”君!!」


挿絵(By みてみん)


そう緩く笑った後で、

彼は俺に向かって飛び込んで来た。


はぇぇ!!!!


前に見たボブの動きと同じだ。

目で捕らえるのが精一杯の高速移動。


俺はその一撃を交わす事など出来ないと感じ

ただ目の前に大盾を出す。


彼のメイスが俺の大盾に猛烈な衝撃を与え、

俺は後ろに飛ばされる状態になった。

大盾が大きく凹む。


「ふむ…違和感はあったが…

 直接やってみると、

 違和感どころではないな…

 使い魔での観察では、ここまでは分からん…」


彼はそう言って、そこから追撃せず、

驚いた顔をして、

自分の豪華な装飾のメイスと俺の盾を

交互に見比べていた。


「グレゴリアス卿!!貴方ほどの人が

 しがない冒険者をいたぶって

 どうするのですかっ!?

 いえ、リョウ様は強い方だと思います!

 しかし、貴方と比べれば

 誰だって劣るのは必定!!

 こんな無益な戦いをするなんて!!」


メイはそう叫んで戦いを静止しようとした。


「無益ではありませんよ…

 今の私にとっては、貴方より

 彼を見る事の方が重要だ…」


言ってそれはその場からまた俺に飛び込んでくる。


辛うじて見える動きに、俺はその場で転がって

大盾をメイスに当たるように引っ張って

一撃を受けた。


またしてもメイスの重い一撃に

俺は後方に吹き飛ばされた。


「御主人様!!」


俺が転がされているのを見てフィアが慌て

己の弓を取り出して矢を構えて撃った。


だが最小の動作でそいつは

フィアの矢を交わす。


何だその射線が見えてますと

言わんばかりの余裕の避けは!


「ダメですフィアさん!!

 グレゴリアス卿は強すぎるんです!!

 戦ってはいけないっ!!」


フィアの攻撃姿勢に、それを止めようとするメイ。


「フィア、メイの言うとおりだ!

 前に出るな!! コイツは見た目通り強い!

 俺しか攻撃が受けれない!!」


俺はフィアの参戦を見て青くなり

転がりながら二人の前に移動して

大盾を前にして立ち上がった。


守勢に回るのは不利に思え

ともかく、こっちもメイスを振って

攻撃を繰り出してみる。


その男は軽く後ろにステップで後退して

俺のメイスを空振りにした。


美しいまでのフットワークだった。


「ふむ…鋭いな…

 これではウチの団員が

 一撃でやられるのも仕方無いか…

 しかし…」


と後退したそこで、じっと俺を見つめて

やや怪訝な表情を浮かべるソイツ。


その場から、またフッと消えるように

俺の前に移動してきて、軽いシールドバッシュを

俺の盾にしかけてくる。


その中盾のプッシュに体勢を崩されかけ

後ろにドタバタと足を這わせては

死に体にならないように

必死に体勢を立て直す。


相手の攻撃が滑らかなのに、

攻撃される度に

こっちは致命的な状況になりかねない

体勢にされるとか。


重くても軽くても、

その攻撃の1つ1つが猛悪だった。


俺はそれにただ冷や汗をかいた。


強い。


その一言しか無かった。


「攻撃を受けられてるのが

 私としては、少し不本意だが…

 強さの感触としては、そうだね…

 中級冒険者…と見てもいいだろうか?」


そう言って男はクックックと笑って

追撃もせずに俺を観察していた。


「3人がかりでも構わんよ?

 これはテストだ…

 むしろ3人でかかって来られて

 どれだけのモノかも知りたいしね…」


言って彼は不敵な笑みを浮かべる。


3人がかりで来いだと!?

それもテスト!?


何言ってるんだ!?


そして、3人がかりでもいなせる自信と

そうであろう実力を感じるのがまた!


何だこの、アホみたいに強いのは!!


テスト!?

何をテストするってんだ!?

俺の実力か!?


畜生! そんなモンねぇよ!!


「捕まえるのが聖女じゃなくて

 俺をテストとか、わけわからん!

 だが、俺が御指名らしいな!!」


言って、大盾を構えて、

とにかく俺に注意を引こうとした。


メイスを二撃食らった感触で分かる。


あんなのフィアやメイが食らったら

ひとたまりもない。


俺のこの盾でしか

コイツの攻撃は受けれない!


「1つ思想的なモノを聞こうか…

 どうして大盾を構えるんだ?」


彼は涼しい顔をして、そう聞いてきた。


俺は眉をひそめてその質問の意図に困惑する。


「そんなん、大事なモノを護る為に

 決まってるだろうが!!

 だから盾なんて、

 人は作ったんじゃねーのか!!」


俺は質問の意図が分からず、

思い付いたままにそう言い返した。


「ハハハハ!!!」


そんな俺の答えに、その男は瞬時にウケて

大笑いの声を上げた。


「ウチの神聖騎士団にスカウトしたくなる、

 我が騎士団では満点の解答だな!」


そう言葉を添えて

彼は思わずニッコリと俺に微笑んだ。


「貴方、リョウ様を

 騎士団にスカウトする為にこんな事を!?」


メイは、意味不明の展開に

唯一ありそうな事を口にしてみたようだった。


何だって、俺を騎士団にスカウト!?


「ふむ…出来るならそうしたいが…

 いや、こんな規格外…

 ウチの騎士団でも扱えないでしょうな…

 騎士団へのスカウト目的ではありませんよ…

 いえ、タジャルモリと戦うなら

 是非とも欲しい戦力ですが…」


そう彼は、コロコロと笑いながら

メイスを構え直した。


「メイヴェル様。

 【祝福】でもかけられますかな?

 貴方たちの組織力も見たい所ですが…」


言って手を招くように動かして

挑発をしてくる彼。


何だ、コイツ…


いや、不穏な言葉も一瞬飛び交ったが

ともかくテストだと?

しかし、何をテストしてるんだ?


俺の実力か?


いや、そうとしか思えんが…

でもどうして、彼女じゃなくて

『俺』なんだ?


「貴方の意図が読めませんが…

 仕方有りません…

 【我らを守護する水の女神よ、

   我が愛する朋友にその祝福の吐息を】」


そう言った後に、杖を握るや

圧倒的な速度で彼女は祈りの言葉を神に捧げ

彼女の祈祷を行使した。


その後、俺の体が軽くなった気がして

これならこの化物の速度に

ある程度、ついていける様な気になる。


なるほど、これが【祝福】の祈祷か?


と思った次の瞬間に

後ろから白い光を纏った矢が放たれた。


それはフィアの矢だった。


矢が白い軌跡を宙に描いて

その男に向かって行った。


「魔力矢か…ふむ…

 かなりの威力…」


その男は、しかし何気なく

飛んできたフィアの矢を掴んでは

手でその矢を握りしめたのだった。


「えっ!?」


フィアの動揺する声が響いた。


俺も同じ様に動揺した。


は?


何だって!?


矢を手で掴んだ!?


放たれた高速の矢を、

何でも無い様に手で掴んだだと!?


「そんなっ!!」


必殺の一撃を放ったと思っていたフィアから

絶望の吐息が零れる。


「不思議だな…」


その掴んだ矢を見つめて、首を捻るその男。


「不思議なのは、こっちの台詞だ!!

 飛んできた矢を掴むだと!?

 そんなの人間業じゃねぇだろう!?」


俺は、目の前のインチキ動作の塊に

ただ絶叫するしか無かった。


「君も後、5年は修行したら

 出来る様になるんじゃないか?

 私はこう見えても40歳でね…

 30数年の修行の末に

 こんな事が出来るようになったんだ。

 驚くよりは、修練の積み重ねを

 感じて欲しい所だが…」


相変わらず落ち着いた調子で、

そう言ってはニッコリと笑うその男。


その言葉に俺は背筋を

ゾクリとさせるしかなかった。


ダメだ…

実力が違い過ぎる…

何か、根本的なモノが違ってる。


俺達が人間業と思っている領域を

この男は遙かに超越しているのだ…


これが、この世界で己を何年も鍛えたら

到達できる強さの世界なのか…


俺もメイも、恐らく背中にいるフィアも

みんなその実力を目の当たりにして

冷や汗をかくしかなかった。


これは絶体絶命のピンチだ。


そうとしか思えなかった。


「今ので士気が一気に落ちたようだね…

 しかし、こっちは

 まだテストを終えたくないんだが…

 こんな冒険者みたいな事をするのも

 久しぶりだしね…

 今度は私の盾に、打ち付けてくれないか?」


そう言って彼は自分の盾を前に出して

クイックイッと俺を挑発する。


「畜生、舐めやがって!!」


まるでチンピラの台詞を口にして

俺はその盾に、俺のメイスを

叩き込もうとするしかなかった。


まだ制御がへたくそな魔力乗せまでして、

その豪華な盾にメイスの白い一撃を叩き付ける。


ガァンという鈍い音がした。


衝撃を与えたはずだが、

全くビクともしない。


前に戦ったサラマンダーが

可愛く思える手応えの無さだった。


俺はその結果に思わず両腕を落とした。


「…どうしたんだ?

 もう終わりかい?」


俺の戦意を喪失した姿に

やや寂しそうな顔になって

俺をのぞき込むそいつ。


俺は戦闘態勢を解いた。


「おいおい…構えを解くなんて

 戦いの世界じゃ、流石にタブーだぞ…」


そんな俺の仕草に、腐ってくる。


俺はそいつを負け犬の目で見つめた。


「だって、アンタには殺意がねぇ。

 アンタはただ俺達を試してるだけだ。

 なんなんだ、コレは…」


俺はそう言って、この実力差の前に

ただ弄ばれている状況に

肩を落とすしかなかった。


テストだというなら、もう結果は出ている。


まったく敵わない。


それだけだった。


これをずっと続けたって

勝機の1つも見えてこない。


こっちは全力でやっているっていうのに

まるで手応えが無く、

相手は今までの事で

疲れた様子も見えないのだから…。


戦うだけ無駄としか言いようが無かった。


そして、逃げの一手に出ても同じだろう。


例え逃げても、彼の早さに捕まるか…

運良くその場を逃げれても

使い魔の追跡をかわせないだろう…。


つけられていた事さえ、

俺達は気付かなかったのだから。


「まぁ別に殺したくて

 してるわけじゃないからね…

 しかし、戦意喪失か…

 もう少し、見せて欲しかったんだが…

 根性みたいな奴を…」


言って、彼は肩を上げた。


「どうしたいんだ…アンタは…」


俺は焦れてそう問うた。


「そうだな…

 まずそれより、

 私の感想を言っていいかな?」


そこでその男はニッコリと笑う。


その何か恐ろしく冷たく

そして全てを見通そうとする目に

俺は恐怖を覚えた。


「君はいったい『何』なんだ?」


彼はそう俺に問うてきた。


「どういう意味だ?」


俺は恐ろしい寒気を感じながら

質問の意図を問い返す。


「ふむ…『こんなおかしい事』が起きてるのに

 本人には自覚なしか…」


「おかしい事!?」


俺はその男の言葉に、また妙な凄みを感じた。


「1つ聞こう

 君の大盾は、何故壊れない?」


「何だと!?」


突然、そいつは意味不明の言葉を口にした。

俺は質問の意図が分からず、

ただただ、混乱するしかなかった。


「見たところ、ただの木の大盾に

 鉄板を重ねているだけの通常盾だ…

 私は魔導師の力もあるからね…

 マナ感知の魔法で、それにマナが籠もってない

 何の魔法補正もない

 普通の盾である事は分かるんだ…」


「はい??」


俺は言ってることの意味が分からず

ただ眉をひそめる。


魔法の盾が、何だって???


その時、メイだけは、

ハッと何かに気付いたようだった。


「卿!!貴方の持っているそのメイス…

 まさか、

 【聖者を護る白銀の槌】なのですか!?」


彼女はそう問いかけて

それを確認をしようとする。


「え?何!?」


俺は二人だけの会話に

置いてけぼりを食らって、ただ狼狽える。


「ええ、そうですよ…

 ちなみにこの盾も【金剛鉄壁の聖白銀】です。

 鎧も似た様なモノですよ…」


言って彼はやっぱりニッコリと笑った。


「え!?えっ!?えっ!?」


二人だけの世界で話が進んで

俺はただ取り残されて狼狽えるしか無かった。


「だったら!

 どうしてリョウさんの盾は

 破壊されてないんですか!?

 ただの鉄板!?

 魔力ミスリルの最高武具で

 破壊出来なかった!?

 そんな馬鹿な!!」


メイはそう叫んで、俺の大盾を凝視する。


え?何ぞ?

っていうか、アイツの武器…

もしかして、大変な代物なの!?


「いやいや、流石に面目躍如ですよ。

 その盾を陥没はさせてます…

 何度も殴れば、流石に壊せるでしょう」


言って苦そうに笑う男。


「でもそんな事が出来る盾なんて

 魔力盾しかあり得ないんですけどね…

 【聖者を護る白銀の槌】などと

 我が騎士団の持つ【発掘武具】を

 数度でも受けきる為にはね…

 この武装で、ただの鉄板が壊せない…

 この異常…

 これに恐ろしさを感じなければ

 私の精神は、おかしくなってますよ…」


言って冷たい目で俺を見る彼。


「だから私は、君に問う…

 君は『何』なんだ? と…」


そこでこの今の

”おぞましさ”を俺は理解した。


俺はこの少ない打ち合いで

彼に正に【テスト】されていたのだ!


俺の【異能】を!


「魔力乗せを使わないで実現される異常な膂力。

 私の目にはマナ感知がかかっている。

 通常の動きに、マナが流れて無く

 魔力乗せで白い光を漏らしている時だけ

 マナの流れが見える。

 体の動き、足裁きは、まだまだ素人の領域。

 鍛えれば伸びしろはありそうだが

 フォームが悪い。

 にも関わらず、圧倒的なフィジカルで

 姿勢の悪さも全てフォローされる。

 まるで、普通の人間の能力が

 二倍にも三倍にもなっているかの如く…

 もう君の動きは、気持ち悪さの塊だ…」


言って彼は彼の目から見える

俺の異質を列挙した。


その分析に、俺の背中はゾクリとする。


「あえて、この感じを表現するなら

 君の周囲を纏う空気が、

 君のために強化されてるかのような…

 君の周囲だけが異世界の様な…

 君の周囲の【万象】が強化されている

 そうとしか、言いようがない…」


「万象の強化??」


彼がそう言い、

メイがその言葉に首をひねる。


俺は目の前が、真っ暗になる思いがした。


俺は自分で言ってない…


【万象強化】という異能を持ってるなど

俺はこの男の前で言っていない…


なのに、俺の動きと打ち合いだけで

こいつには見破られたのだ!!


【万象強化】という現象を!!


それに俺は真っ青になった。


「そうだな…私の簡単な感想だ…

 君は…この世界の理の外にいる存在…

 【異世界人】に…見えるのだ…」


そう言って、彼は笑った。


うーん、タイトル的に面白いんで

ついラスボスって書いちゃったけど


どうなんかなぁ…


ボスではあるんだけど…


ともかく、さぁさぁ

来たで…


「ここ、絶対に書いたら難しいだろうなぁ…

 上手く書き切るの難しいだろうなぁ…

 でも、書いてみてえなぁ…

 この脳内で展開される、ここのシーン…」


に、辿り着いた…


「次」だよ

この話の最難関パート…


だた、初期の構想に対して

ちょっと潤滑油的滑って滑らかにしようと

工作が入ったんで、初期イメージ通りに

書けるかは、怪しくなったけどなぁ…


この段階では、異世界人って気付かれないのが

初期構想だったんだが…

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