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第14話 ちょっと待って待って、話がでかい

うーん、ここのパートは

14話だけで終われると思ったのになぁ…


「ちょっと、ちょっと、聖女様ってなんぞ!?」


俺は素っ頓狂な単語がフィアの口から出たことに

大慌てになった。


「えっと、

 隣の国に転生された水の女神の生まれ変わりで、

 女神の奇跡が起こせる聖女様

 その方の名前が、

 メイヴェル・アルクシオーネ様だとか

 村の神官様が得意げに言っていた記憶が…」


「それは捏造ですっ!!

 よりもによって、女神さまの転生っ!?」


挿絵(By みてみん)


フィアが俺に説明してくれた事に

瞬間的に激高して否定の言葉を差し込む彼女。


「普通の神官では起こせない奇跡祈祷が使えて

 大量の病人の治癒や、

 死んだ人の蘇生なんかも出来る方だとか…

 言われて…ました……が?」


フィアは恐る恐る、隣の彼女に視線を送って

彼女が村の神官から耳で聞いた情報を口にしていた。


「何でそこまで捏造されてるんですかっ!?

 隣国だとそんなに噂に

 尾ひれ背びれが付いてるんですか!?

 死者蘇生なんて出来ませんよ!!

 確かに、国中の目に見える範囲での

 病気の方を治療はしてきましたが!!」


あまりに盛られた話に真っ青になって

彼女は大きな声でフィアの言葉を否定する。


流石に事実は異なる様だ。


ただ、死者蘇生はともかく、

大量の病人の治癒は嘘じゃないと…


へぇ…

病人の治療が出来るレベルの

神官様なのか…


へぇぇぇ…


「えっと、つまり、貴方がフィアのいうところの

 聖女のメイヴェル・アルク…なんだっけ?

 でいいのかい?」


俺は後ろのファミリーネームが覚えれず、

適当にそう尋ねてみた。


「え、ええっとその…」


「いや、言い淀まれても今更って感じもするが…

 敵の神官戦士ですら、貴方の事『様』付けだし…」


狼狽える彼女に、

俺は今までに起こった事実を突きつけた。

敵対してる風なのに、相手が彼女に対して

言葉尻に丁寧さを残していたのが

妙ではあったのだ。


だが、彼女が聖女とかいう偉そうな身分の人なら、

それも納得できる話だった。


「あの…はい…その…

 聖女とか直に言われると恥ずかしいですけれど…

 メイヴェル・アルクシオーネは私の名前です…

 いや、そのですね! 

 どこまで誇張されてるかは分かりませんけど

 聖女とか呼ばれててもですね!

 死者蘇生とかいう、

 古代にあったのかどうかという

 お伽話の様な祈祷は使えませんしっ!

 出来るのは、せいぜい、水の女神の奇跡

 水の大浄化くらいで、

 それ以外は、普通の神官より

 ちょっと祈祷の威力が強いかなー?くらいなので

 そんな、女神の大奇跡が使えるとか、

 誇張されてる話とは違いまして…」


と彼女は、しどろもどろに答える。


その言葉の中で、

俺の耳に確実に残ったフレーズが…


”『水の大浄化』だと?”


非常に気になる言葉だな…


俺の今の水問題と関わるような話だ。


しかし、今はそれにツッコミを入れる

流れではない。


俺は会話に合いの手を入れた。


「あー、まぁ、分からんでもないか…

 俺の国でも、有名人には、

 誇張された背びれ尾びれが付いていって、

 なんか神格化されていたモノだし

 でも有名人になると、

 それはやむ負えない事かもな…」


俺はそう言って、

あっちの世界のアイドルとか芸能人とか

そういう人々のゴシップ記事を思い出した。


嘘か誠か分からん事を

SNSやニュースサイトで

記事を書いてるモノが適当に広げてたモノだ。


いや、あの人達のそれが背びれ尾びれだったのか

それとも真実であったのかは…

今の俺には俺にはわからないが…


「そ、そうですよね!

 誇張は良くないですよね!

 神格化なんてダメですよね!!」


彼女は俺の何気ない言葉に強く反応し

顔をぱぁっと明るくさせた。


その反応に怪訝な表情になる俺。


少なくともそれ系の事で、

苦労してるんだろうなという事は

その反応でよくわかった。


「で、とにかく、その聖女様ってのが

 何で同じ国の騎士団に追われてるんだ?

 聖女って、普通は偉いんじゃないのか?」


俺は相手の正体の輪郭が分かった事で

一般的に言葉から想像される”偉い感”と

今の現状の果てしないギャップを尋ねた。


「えっと、どうなんでしょうか?

 え、偉かったんですかね? 私…

 東奔西走してるばかりの日々だったので

 私が偉かったのかどうかとか、分からなかったので…

 でも、もしかして、偉かったのかもしれません…」


そう言って彼女は顔を引きつらせていた。


え? どういう事?


普通、聖女って偉いんじゃないの?

聖女が東奔西走って何さ…


俺は彼女の違和感だらけの言葉に、

更に眉をひそめる。


そんな時だった。


「見つけた!見つけたぞメイヴェル様!!

 これ以上の抵抗はお辞め下さい!!

 この国まで巻き込んでは、

 我が国はこれから立ち行かなくなります!

 どうぞ、お覚悟を!!」


例の騎士団にまた見つかって、戦闘態勢に入られた。


この前の道を抜けると、城門の裏側出口に出れて

この城塞都市を裏門から脱出する事ができる。

土地勘のある者だけが使える、門の裏道なのだ。

ここからまた迂回するのは面倒な場所で

そこで敵のような何かに遭遇するとは…


「まったく事情が飲みこめなくて困るが…

 おい、お前! この子はお前たちの国の

 聖女様なんじゃねーのか?

 自分の国の聖女に刃…

 っていうかメイス向けていいのかよ!」


俺は状況が分からないなりに

今、分かってるだけの範囲で

至極まっとうな質問を、そいつに投げてみた。


「貴様、その方が聖女メイヴェル様だと

 分かってて連れているのか!?

 ええい! 

 話が露見しないウチに確保したかったが…

 上手い事、この国を巻き込みましたな、

 メイヴェル様!!」


その男は俺の言葉に激高してそう返して来た。


「そんな!私はそんなつもりでは!!」


彼女は彼の言葉に震える。


「なら、どんなつもりで逃げたので!?

 旧法皇の娘の貴方が、この国に逃げ込めば

 この国の水の女神の信者が、

 事情も知らぬのに、

 貴方の御味方になるのは必定!!

 我が国の内戦では飽き足らず、

 この国まで戦火に巻き込むのですか!?」


その男は、憎々し気にそう言い放った。


その言葉を聞いて、

真っ青になる俺とフィアとメイさん。


ちょっと待って、旧法皇の娘って何ーー!?

えええ!?この子、法皇の娘なのぉぉ!?

んでもって、隣の国って内戦してたのーー!?

挙げ句に彼女がこの国に来たら、

この国にまで内戦拡大ーー!?


えええええええええっ!?


辞めてよ、

そんな三文シナリオが爆発的に拡大する奴!!


俺は嫁と家が欲しくて、

嫁とイチャイチャライフを過ごしたいんだよ!

国家レベルの陰謀に巻き込まれるとか、

困るんだってばよ!!


「私は、内戦をどうこうしたいとは思いません

 でも、貴方たちに弾圧されてる

 アリアス派の民たちを守るために!!」


そう彼女が返そうとすると


「だから貴方は何時まで経っても小娘なのだっ!!

 大方、アリアス派の馬鹿どもに、

 また、そそのかされたのでしょうがっ!!

 隣国にアリアス派の難民を受け入れて貰えとか!!

 ええ、貴方ならそう言われると、そうするでしょう!

 貴方は聖女なのだから!!

 でも、貴方も分かってるハズだ!

 その陰に隠れて、

 奴らの小賢しいのがこの国に亡命して、

 再起を謀ろうとしている事くらいっ!!」


その男は激しい剣幕で、彼女を糾弾した。


「くっ…そうかもしれません… 

 でも、貴方たちイフェピネ派が

 これ以上粛清を続けるなら

 罪のない民たちは路頭に迷うのです!

 いったい、彼らに何の罪があるのですか!!」


その糾弾にそれでも抗じる彼女。


「はっ!まったく、貴方は聖女だ!聖女すぎる!!

 崇高だ!美しい! 

 水の女神の寵愛を受けるだけある!!

 だが、そんな理想を語るせいで、

 貴方の父上の様な悪辣が、

 もっと多くの人々を苦しめた!!

 最早、一度、浄化の炎で国を焼かなければ、

 貴方の父上を筆頭にした、

 腐敗の権化共は消せません!

 早急に事を済ませねばっ!!

 我々には、内戦などやっている暇はないんだ!!」


その男は彼女の言葉を、悲しそうにあざ笑い

そしてそれ以上は問答無用とばかりに

こちらに向かってきた。


うわぁぁぁぁぁぁ

良く分からんけど、派閥が2つあって

泥沼内戦系かよぉぉぉぉ!!!


っていうか、この子、

法皇の娘って、ちょっと待てよ!!


法皇って宗教国家で一番偉いんじゃねーの?

それの娘って、おい! 

まさかよう!!


で、聖女様!?


待て待てほのぼのファンタジー

こんにちはハードファンタジー


やめてよこんな展開!!


俺は泣きそうになりながら、

その男の突進を大盾で止める。


「あーーもう難しい事ばっか言うな!

 フィアなんか頭が

 オーバーヒートしてるじゃないか!!」


言って、難しい言葉の応酬に、

訳が分からなくなって

目を回してるフィアを見る。


あっちの世界で、

基礎学力を上げてもらった俺でさえ

聞いただけで世界違いで逃げたくなるような

言葉の応酬だ。

農民の子のフィアには脳内処理すらできまい。


「いろいろ、言いたいことはあるだろうがよ!

 だからって、女の子相手にメイスをぶん回すとか

 おかしいだろうがよ! 大の大人が!」


そう叫んでみたが、それ以上、部外者の俺たちが

何も知らんのに口を出すのは、どうかとも狼狽える。


言葉の応酬を見るに

何か法皇というのが悪くて

問題の原因になってるっぽい。


そこから詳細は事は分からないが

流れ流れて話が拗れて

ただの泥沼が続いてるだけに思えた。


聞いただけの情報からの推測だが。


「馬鹿か!

 その方に全力で向かわずして、

 どうして捕縛ができる!?

 相手は聖女だぞ!!」


そう口にして目の前の男は更に激高した。


「【我らを守護する水の女神よ、

   この者を拘束し熟慮する時を与えたまえ】」


挿絵(By みてみん)


そんな風に俺が神官戦士を抑え込んでいた時

メイが祈祷を始め、

黄金の光がその男を包み込んでいった。


「くそっ!”拘束する捕縛の膜”か!!

 なんという速さと、祈祷の強さか!!

 聖女様っ!!」


男は、彼女の一瞬でおこした祈祷によって

金色の膜に拘束され動けなくなったであった。


それは目の前で見ていた俺ですら、

背筋が凍るような光景だった。


僅か一瞬での拘束。


なるほど、大の大人が

メイス振り回して襲い掛かってくるわけだ…


この子…強いんだ…


俺は聖女様とやらの実力に、呆然となった。


――――――――――――――――


俺達は二人目の神官戦士を

メイヴィルの祈祷魔法で沈黙させた後

裏路地を走破して裏側

(何を持って裏側というべきか難しいが)

の門に辿り着き、外に出ようとした。


門番のチェック時間を短縮するために

前々から覚えて貰っていた

俺の顔をアピールしては

通行証、そしてささやかな

賄賂を渡して直ぐに外に出して貰う。


冒険者に寛容な街だ。


というか冒険者に来て貰わないと

ダンジョンの特別資材経済が回らない街だ。


冒険者ギルドに認めて貰った通行証があれば、

手続きは簡略化するし

入ってくる時も、冒険者としての力量を示せたら

門番が「まず冒険者ギルドに行け」と場所を指示して

冒険者ギルドで滞在許可を貰いやすくしてくれる。


つまるところ、メイヴェルがこの街に来て

直ぐにでも冒険者ギルドに駆け込めた事は

ある一種の予定調和だったという事だ。


ただ、初めての土地で迷子になって

同じ様な流れで入り込んできた

神官戦士にバッタリ出くわして

こんな状況に至っているらしいが…


ともあれ、城塞都市を出て

何処へなりとも潜伏すれば、

奴等が見つけ出すのは困難になるだろう。


そこで都市の近辺にある森の中に入って行っては

ひとまず森の中に身を隠すことにした。


ちょっと森の奥に入り込めば、

木こりが切った木の切り株が丁度あったので、

そこに3人で座り

休憩がてらに、もう少し深い話をする事にした。


いや、本当は何を話して良いモノやら。


これから逃げるに際して、

最低限度の装備しか無い今の俺達では、

状況は非常に厳しい。


遠征用の大きなリュックサックさえ持たずに

酒場を飛び出て来たのだから、

夜に寝るためのテントもないので

寝るときどうするんだ?とか

現実的な問題が山積み。


まぁ金は一般生活用の小銭を常時携帯してるし

貰った前金の宝石2つと

前にフィアと分配したサファイアの宝石5つで

資産価値だけ見れば700金貨分を持っている。


手持ちが無いとは言えない。


だが果たしてこんな街道で

宝石を換金出来るのか?

という大問題がある。


というか、金貨ですら価値が高くて

使用を持て余すのだ。


となると、隣町まで強行軍だろうか?


そこまで行けば換金のメドは付くと思うが…。


街道に点々と存在してる、

農村と茶屋の複合した家はそこそこあるので、

手持ちの小銭で、

街までの食料はどうにかなると思いたい。


そう考えを整理すると

まぁ生きて行くだけなら

隣町まで辿り着ければなんとかなるか?

という気がしてきた。


であるなら、まずは現状の把握からだった。


そうしないと、最終的に何処に行くべきか

方針が立たないのだ。


「あまりの事だったので

 自己紹介すら、まだだったな…

 俺の名前は、南部良平。

 長いんでリョウって呼ばれてる」


俺は久しぶりに、

自分のフルネームを自分で口にした。


いや、この世界では、自分のフルネームを

言う必要がなさ過ぎるので

だんだんと、自分ですら、

あっちの世界の自分の名前を忘れて

”リョウ”という

ただの冒険者に成っている自覚があった。


なので、自分の名を名乗ったのが

随分新鮮に思えた。


「ナンブ・リョウヘイ…様…ですか?

 では、名前がナンブで、

 リョウはファミリーネームの略称を?」


メイが俺の名前に眉をひそめる。


「ああ、そうか、こっちでは逆順だった

 …逆逆

 リョウヘイ・ナンブ が俺の名前だ。

 ナンブはファミリーネームだ」


と、俺は東方と西方の名乗り方の逆転を思い出す。


「なるほど、東方の方式でしたか…

 しかし、ファミリーネームがあるという事は

 東方の国の貴族の方でしょうか?」


彼女は興味津々にそれを聞いてくる。


「あ、そうか…こういう時代は

 貴族にしか家名が無いんだっけ…

 一般人は名前しかないんだった…」


そう、俺はこの世界に来て衝撃を受けた事の1つに

フィアみたいな一般農民の子には、名字が無いという

名前しかみんな持ってないという事であった。


「あ~~~う~~~」


俺はその瞬間に答えに窮したが、

前にこれ系の話題で、

上手く口から出たでまかせを思い出して

俺のこの世界での『設定』を口にした。


「俺の生まれた東方の国は、まぁ滅んでしまってな…

 俺はそこの貴族の出だったらしいんだが

 物心つく頃には、逃亡生活をしてて…

 家族共々、迷いに迷って旅をして

 この西方の地に辿り着いたって事で…

 滅んだ国の貴族なんて、何の意味も無いが

 まぁ、縁は縁なんで、未だに覚えてるって話だ…」


と、前にフィアに異世界転生の説明を一生懸命して

あまりに異世界からの転生が

上手く理解して貰えなかったので

フィアが理解できる範疇でまとめたのが、

この『設定』だった。

厳密には違うと、フィアに言ってはいるが

それ以上は難し過ぎるので、

その設定がイイです、と返されて

今ではこの設定で通してる。


確かに、この世界では、

この設定でそんなに困る事もないしな…。


「まぁ、東方の国で滅んだなんて…

 タジャルモリ帝国は東方周辺国を平定した

 東方の大帝国だと聞いています。

 つまり、貴方の故国もタジャルモリに…」


俺のでまかせの設定に、

彼女の持っている知識が重なって

彼女はなるほどという顔をした。


え!? でまかせの設定だったのに

何か、この世界で起きてる事に重なった!!

何そのタジャルモリ帝国って!!

ええ!?東方に、

あっちの世界の中国みたいな大帝国があるの!?

で、俺の出身国、

その大帝国に滅ぼされた事になるの!?

いや、辻褄はあうけど! あうけど!!


「ま、そんな所だ…今は家名なんか何の意味もない

 しがない冒険者さ…」


と行って、俺はなんとかその場を取り繕う。


ヤヴェ。


知識人を相手にすると、俺の嘘が直ぐに露見しそうで怖い。

いや間接的に、この世界の状況の勉強にもなってるが。


「で、このお連れの奴隷の方は?」


と彼女はフィアの首元に巻かれている

『忠誠の証』の魔導具を、チラチラ、チラチラ、

盗み見しながら尋ねて来た。


「ああ、そっちは俺の嫁のフィアだ…」


俺は何気なく答える。


「え?…嫁? はい!? 嫁ぇっ!?

 奴隷…の方ですよね?」


俺が無意識レベルで答えた言葉に、

目を大きく見開く彼女。

フィアもその説明に真っ赤になりながら慌てていた。


「ご主人様!ご主人様! 嫁って!!」


「あああ! いや、言葉のアヤだ…

 この子は俺の奴隷で、嫁のような仕事を

 頼んでいるって、そういう意味だ…」


俺はそう訂正して、

自分の迂闊に冷や汗をかいた。


いやー、毎日二人でイチャイチャして

フツーに会話してるんだから、

対外的には奴隷って事をすっかり忘れてた。


酒場の方も、今では呆れて、

完全に夫婦扱いしてるからなぁ


そういうの知らない人には、驚きでしかないか…。


「ああ、なるほど…そういう事ですか…

 いえ、お二人がまるで恋人のような夫婦の様な

 自然体でいられるので、私もちょっと感覚がズレて…

 私の国での主人と奴隷の関係とは

 もっと殺伐としたモノでしたので…」


と彼女は視線を下に向ける。


なるほど。

彼女が不思議がっていたのを俺は理解した。


たしかにその言い様は俺にも分かる。


あの街には、珍しいは珍しいにしても、

奴隷を従えている人も居る。


安い奴隷には教養があるわけでもないから

物覚えも悪く、

『おい、そこの奴隷のドク!

 いったい何時まで、そんな仕事にもたついてるんだ!?』

とか、主人が強い言葉で罵って、鞭を打ってる光景とか

珍しいとしても、一種の日常茶飯事だった。


奴隷が主人と一緒に同じテーブルで食事するなんて

有り得るわけもなく、部屋の隅っこで複数の奴隷が

少ない食料を淡々と食べるとか…


主人と奴隷なんて

だいたいそんな感じなわけで…


冒険者の酒場で主人と隣り合って

美味しいモノいっぱい食べさせてるとか

『それ本当に奴隷なの?』と聞かれても仕方無い。


しかしその言葉に、少しだけの違和感を覚えて

俺は率直な疑問を口にした。


「え? 貴方の国って宗教国家でしょ?

 そんな国にも、奴隷、いるの?」


俺はそう尋ねる。


「はい? いますよ? 不思議ですか?

 人身売買の奴隷の方は、

 昔は公然とは扱ってませんでしたが

 罪科奴隷は戒めの一環として

 古来より行われてきたので

 私の国でも、珍しいモノではありませんでした…

 いえ、罪科奴隷ではなく、

 人身売買奴隷が増えたのが

 ちょっとその、アレではあったんですけど…」


そう言って彼女は

気まずそうに視線を横にそらす。


ん??


「罪科奴隷って何だ?」


俺は聞き慣れない言葉にそれを尋ねてみた。


「罪科奴隷を御存知でない? 

 この国でも起用されてるハズですが…

 ああ、とはいっても、一般の方の目に止まるところでは

 働いてないのでしょうか?

 罪科奴隷とは、

 殺人など酷く重い罪を犯した者に対して

 上位神官によって以後の犯罪行為に際して

 苦痛を与える拘束具を付けられ、

 罪科に対する懲罰刑を受けている者達です。

 まぁ刑務として

 奴隷の社会奉仕をさせられる人達ですね」


そう彼女は寂しそうに言った。


「へー、そんな奴隷制度もあるのか…

 知らなかったな…」


俺は素でその情報に驚いた。


要するに俺の世界でいうならば

刑務所に入った受刑者が、

刑務所以外で外で社会奉仕なる

何するのか分からんが、それをさせられるって感じか。


宗教国家なら、そういうのもありえるか…。


「で、本当に元に戻るんだが

 君は誰なんだ? 

 いや、聖女メイヴェル・アルク…云々というのは

 分かってるんだが…

 その…俺達には、それ以上の事が良く分からんので…

 法皇の娘とかなんとか、相手の神官が言ってたよな?

 法皇って宗教国家では、

 一番偉い人だと、俺は思ってたんだが…」


そう俺は、自己紹介というか、名前はともかく

彼女がどういう人なのかを尋ねてみる。


「はぁ…身の上がバレてしまったので

 もう隠し続けても意味がないですか…

 仕方が無いです。事情を説明はしますが…

 少しというか、かなりというか、長くなるかも…」


「構わんよ…

 命懸けの仕事になってんだ。

 事情が分からんままに、相手と戦うのが一番困る」


「…ははは…ですよね…では…」


とポツリポツリと彼女は語り出した。


「私の名前は、メイヴェル・パシュネット・アルクシオーヌ

 前法皇ディグゼル・エヴェン・アルクシオーヌと

 その第四妃ネナイ・パシュネットとの間に生まれた娘です」


挿絵(By みてみん)


彼女は自分の簡単な身の上を口にした。


「え?ちょっと待って、第四妃って何?」


しかし俺は語り出したその初っ端で、話を止めた。


「はい? 第四妃というのは、つまり…

 父の四番目の妃っという事ですが…」


彼女はいきなり出だしで止められたことに驚いて

目をパチクリさせた。


「え? お父さん、法皇じゃないの?

 宗教の一番偉い人だよね!? 

 四番目の妃ってどういう事!?」


俺は、法皇という単語と四番目の妃という単語が、

上手く結び付かずに、それを問うた。


「ま、まぁ…父は、ちょっと…はい…その…ええ…

 妃を10人も娶って、

 腹違いの兄妹も12人ほどいましたので

 それで法皇というのは、と、

 批判される所の1つでしたが…

 そう…先例に習って、

 妃を5人くらいにしとけば

 淫欲の法皇とか言われる事も

 無かったのでしょうが…」


そう彼女は力なく笑う。


「妃、10人!? 兄妹12人!? 

 先例でも5人の妃!?」


俺は彼女の口から出る、

意味分からん数字に絶叫する。

あれ??『法皇』だよな…『法皇』とは??


「そんなに不思議がられる事ですか?」


彼女は俺の反応に首を傾げた。


「いや、だって、

 俺の国っていうか世界っていうか

 そこでは、法皇って生涯独身か、

 それに近い何かだった様な!!!」


あれ?法皇って結婚して良かったんだっけ?

嫁さん貰って良かったんだっけ?

あっちの世界の、そういうのの正確な所

確かに俺も知らねぇな…


「まぁ、東方の滅んだ国は、

 そんな厳しい制度だったのですか!?

 独身の法皇なんて、凄い!!!」


彼女は俺の知って居る『法皇』っぽい

輪郭説明に驚いていた。


「確かに、我が国の法皇制度は、

 王制の様な世襲制ではなく

 本来は神聖力の強さと、

 人々への教えの広め等の影響度で

 大司祭会議によって選出されるモノでしたが…

 まぁ、それは今では有名無実化してましたけれど…

 それでも、水の女神の総本山ですから…

 豊穣と多産を宗旨とする母神信仰としては

 法皇が子だくさんなのは、好まれる傾向でして…」


と、しどろもどろに説明してくる。


「え!?母神信仰だったら、

 法皇が子だくさんなの好まれるの!?」


彼女のトンデモ説明に目が点になる俺。


「大地に水の恵みを以て、豊穣と子宝を、という

 水の女神の母信仰宗旨で、

 法皇が子無しでは、説得力というモノが…」


そう彼女は難しそうに笑った。


「ああ、そういう宗教…

 そういうのが奨励の宗教なんだ…」


俺は彼女の言葉に呆然となる。


「そ、そうですよ…ご主人様…

 水の女神オーシャリス様は

 水によって大地を潤してくれる

 農業の神様でもあるのですから

 私達、農民のほとんどが信仰している神様です。

 農地の豊穣と子宝を、は、水の女神様に捧げる

 お祭りの決まり文句なんですから

 法皇様が子だくさんなのは、当たり前というか…」


そこでフィアが農民目線からの

捕捉説明を入れてくれた。


あ、そうなんだ…


水の女神様と法皇って、そういう立ち位置なんだ…


俺はその説明に、唖然とした。


いやー世界が変わると

価値観とも大幅に変わるモノなんだなぁ…


「まぁいいか…

 そういう事か…

 10人の妃と12人の異母兄弟…

 なら法皇の一人娘とか、そういうのでは無いのね…」


と、俺は”法皇の娘”という単語で

簡単に想像される親子関係では無かった事に

変な安堵を覚えた。


一人娘とかだったら、

後継者問題が云々かんぬんになる。


それでお家争いで内戦とかは

俺の国の戦国時代でも良くあった話ではないか?


だが、兄妹が12人も居るのなら

そういう系列の話では無いのではないのか?


そんな希望的観測を俺は心の中で思ってみた。


「あ、はい…

 一人娘ではないです。

 ただ、兄妹はもう処刑か、

 あるいは幽閉されてしまいましたが…」


俺の言葉に合いの手を入れながら

彼女は補足説明を口にする。


「は? 処刑か幽閉?」


彼女の口から、超物騒な言葉が飛び出して

蒼白な顔になる俺。


「仕方が有りません…

 兄妹も父と同じ様に

 放蕩の限りを尽くしてましたからねぇ…

 天罰と言えば、天罰だったのかもしれません…

 天罰を下したのが、人間であったのは

 少し寂しい気もしますが…」


と彼女は瞳を微睡ませて苦そうに語る。


「ちょ、ちょっと待って

 隣の国って何が起きてたの?

 内戦みたいな事になってるって

 あの神官戦士は言ってたけど…」


俺はともかく慌てて、詳細を聞こうとする。


「内戦…ですか…

 あれを内戦と呼ぶには

 些か一方的な戦いだった様な気もしますが…

 でも確かに、内戦と言えば

 内戦だったんでしょうねぇ…」


そう言って彼女は肩を落とした。


俺はそんな彼女の不思議な物言いに

ただ眉をひそめるしかないのだった。


うーん、ここのパートは

14話だけで終われると思ったのになぁ…

でも、テキストエディタで並べてみたら

もう800行もあって

「あれ?内戦の全容を語るには

 もう文量がありすぎるじゃん…」


って事で、15話に回す事に…


ともかく、こっからずっと

メイちゃんのターン


今までの12話までのフィアとの

キャッハウフフが何だったのか?って

思うくらい、メイちゃんのターン

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