第13話 聞いてないよ、そんな古典的なヒロイックファンタジー
はい、12話まで準備してきた
対13話以降の柔軟性確保は終わったので
いっきに話は終わりまでスパート開始です
『この話』はね
さて、休暇から街に戻ってきて、
酒場で、ダンジョンに仕事に行くか
それとも購入する土地はどこら辺がいいか見聞し
城塞都市の外にでもしようか、
それとも城塞内を目指すか
とかとか、
いよいよ家購入の実務に入ろうかなとか
何をしようか、考えていた時だった。
俺は、完全に、圧倒的に、最高に、油断していた。
運命に対して。
突然だった。
「た、助けて下さい!!」
そう綺麗な声と共に
酒場のドアを開けて中に駆け込んで来た
何かがあった。
俺達、酒場で飲んだくれていた冒険者が
一斉にそちらを向く。
そこには、
水色髪のお下げで神官の法衣を纏っている
一見は神官の美少女が居たのであった。
は?
俺はその光景を見て、頭が真っ白になる。
その娘は、駆け足で奥に入ってきて
俺が座ってるカウンターに向かってきて
おそらくはマスターに
助けを懇願しようとしていた。
「ちょっと待って何それ!!」
開口一番の俺の台詞がそれだった。
「え??」
助けを求めてきた神官の美少女は
俺の突飛な反応に驚いて、一瞬、止まる。
「いや、そんなイベント聞いてないよ!!
っていうか、そんなベタな展開、聞いてないってば!
やめてよ!!今時に、そんな三文シナリオ!!」
俺は、あまりにも余りな事が起きて
思わずそう絶叫した。
「え!?イベント!?
えっ!?ええっ!?」
深刻な表情だった、その美少女さんは
俺の意味不明な絶叫を受けて表情を崩し
困惑した顔になった。
「ダメだって、今時、そんなシナリオ!!
これがゲームだったら、クソゲーだし
現実だったら、もっとクソゲーだよ!?」
俺は何かの第6感の様なモノが働いたのか…
完全に意味不明な事を口走っていた。
だが、確実な予感だった。
これは酷すぎる事が起きるぞ、と。
「この酒場に入ったぞ!!」
「乗り込めっ!!」
そんな風にして救援を求めてきた美少女を
意味不明な事を言って驚かせて固まらせた時に、
更に次の災厄が訪れた。
酒場の扉を乱暴に開けて、
2人のチェイン・メイルの上に
刺繍の入っている鉄板装甲を付けた
あっちの世界の洗練されたプレートメイルではないが
この時代の技術で出来る範囲での
プレートメイルモドキを着ている
戦士とも騎士とも言えない者達が
彼女に続いて酒場に入って来たのだった。
「辞めろよ! だからそんなベタな展開!!
ふざけんなよっ!!」
俺は、あまりにあまりの非日常が起きて
そのクソゲーっぷりに、ただ絶叫するしかない。
「貴方、いったい何言ってるんですかっ!?」
流石に俺の頓狂な発言に焦れたのか
その助けを求めた神官の美少女が
俺に強く抗議した。
「美少女が助けを求めて、
戦士風の男が2人で乗り込んでくるとか
古典的すぎるんだよ!!
そんなの、今日日にやられたら、困るんだよ!!」
俺は支離滅裂な事を言って、彼女に応じる。
「いや、そんな事を言われましても!!
……………
……………
今、言われて、確かに、
英雄王の御伽話みたいだって
自分でも思ってしまいましたが!!」
俺の慌てふためきに、何とか応じようと
俺の様な頭の可笑しい人間の発言を
なんとか整理して彼女が理解できる状態で、
そう受け答えてくれたが…
「な、なんだ?
メイヴェル様と、ここが揉めてるのか?」
「え?どうすれば?
ええ???
……………
いや、どうもこうも、ないっ!
そこの娘を大人しく引き渡せ!
…だな!」
俺と神官美少女との謎の剣幕に、
乗り込んできた男達も
一瞬面食らっていたが、すぐさま状況を整理し
それでも彼らの職務に立ち戻ったようだった。
ちっ混乱すればいいモノを…
「はぁ? 酒場に助けを求めてきた美少女に
それを引き渡せと迫る、鎧を着てる神聖騎士様…
こんな構図で、
冒険者ギルドが判断できる事なんか
1つしかねぇよなぁ?」
カウンターに立っていたボブが男達を睨んで呟き
その後に力強く切り出す。
「はは~~ん?
さてはお前達、悪漢だな!?」
ボブはそう楽しそうに叫んだ。
俺はその台詞に青ざめる。
「待ってマスター! 決めつけは良くない!!
見た目だけで人を判断しては良くない!!
事情をちゃんと聞きましょう!!
大どんでん返しで、助けを求めて来た子が
黒幕でしたって事も、あるかもしれないじゃない!!」
「なっ!?」
俺は助けを求めて来た彼女を前に
すっごい失礼な事を口にしてみては
しかし、事がエスカレートするのを
なんとか阻止しようとした。
「馬鹿野郎、リョウ!
こういうシチュエーションだったら
話はこういう風に決まってるだろうが!!
悪漢に酷い目に合わされる美少女が
助けを求めに冒険者ギルドに飛び込んで来た!
これしかない!」
ボブはそう断言してカウンターの机を叩く。
「待て!それは決めつけだ!
相手の主張も聞こうじゃ無いか!!
対話も無しに悪漢の決めつけなど!」
俺は嫌な予感がフル回転してたので
とにかく、こんな古典的な三文シナリオが
更に拡大していくのを阻止しようとした。
「ええい、五月蠅い、ガタガタ言うな!
大人しくメイヴェル様…うっゲフンゲフン…
大人しく、そこの娘を引き渡せ
お前達に悪いようにはしないから!」
と、その男達2人は、人が状況を丸く収めようと
なんとか必死の工作をしているときに
その努力を綺麗にちゃぶ台返ししてくれた。
やめろよ! そんな如何にも悪漢ですって
自己主張してるような台詞を言うのはっ!!
「ああ? もうそんな事言われたら
俺達はキレるしかねーな!!
おめぇ、この国の建国の王
『ギルバルト王の英雄譚』を知らねぇのか?
序章、王都から逃げ出したセシリア姫、
悪漢に追われて
冒険者ギルバルトに助けを求むる…を…だ!!
その姫が逃げ込んだ酒場が、
過去のここってのを知らねえだろ!?」
は!?ナニソレ!?
この酒場って、そんな由緒ある場所だったの!?
「俺達、冒険者ってのはなぁ…
あの英雄譚の御伽話聞いて冒険者に憧れた
バカばっかりの集団よ。
御伽話の様に、美少女が酒場に助けを求めて来た!
そこに追っ手の悪漢2人!
そんな美味しいシュチエーション
燃え上がって立ち上がらねぇわけが、
ね~~だろうが!!
なぁみんな!」
ボブは何か滅茶苦茶嬉しそうな顔になって
両腕を上げて酒場全体を鼓舞した。
ちょっと待って、俺は知らない、そんな御伽話!
知らんよ!
おい、酒場のみんな、何、良い顔して立ち上がってるの
何、自分の武器に手をやってんの!?
話も聞かずに戦う気満々って何なの!?
「へっへっへ
冒険者に憧れて、もう10年
まさか、御伽話と同じ様な
最高にベタな展開に出会えるなんてよぉ!!」
とか嬉しそうに言って武器を取り出す戦士のデビット。
アホ――――!!!
何、勝手に盛り上がってるんだよ!
っていうか、この国を作った200年前の王様って
追われた姫様を助けた冒険者だったんかい
何だそのベタな英雄譚は!!
で似た様な事が起きたんで、
悪漢認定で戦うとか、アホか!!
勝手に決めつけずに話を聞けよ!!
「おい、お前等、こんな燃える展開だ!
参加したら、今日はおれのおごりで
いっぱい酒を飲ませてやる!!
だからよぉ、こんなお祭り
参加しねぇ奴はいねぇよなぁ!?」
勝手に盛り上がって冒険者達を煽るマスター。
いや、アンタが一番冷静になれ!!
アンタはギルドマスターなんだぞ!!!
事情が分からんのに、
美少女は善、追ってきた者は悪漢とか
そんな決めつけ、中二病過ぎるだろうが!!
話し合いをしよう!
物理では何も解決しない!
ラブアンドピース!!
「おい、リョウ!
女の子の相手なら、
フィアちゃんがいる
お前のパーティーが適任だろう
いや、フィアちゃんが適任なわけだが
つまりお前んも管轄だ
お前がその子を誘導しろ」
そう俺の首根っこを掴んでは引き寄せ
ボブはヒソヒソ話で、おれにそう告げた。。
「ちょっと待って、何で俺なんだよぉぉ!!」
俺はボブのその提案に絶叫する。
「…リョウ、相手は神聖騎士だ
もっと増援が来るかも知れねぇ。
お前はフィアちゃんと、この嬢ちゃんを連れて
裏口から逃げろ。万が一がある…」
マスターは俺の前に出てそう言った。
「ちょっと待て、何だよそれは?
アンタはアイツらが何者か知ってるのか?」
滅茶苦茶な扇動とは裏腹に、
ボブは相手の事を知ってるかのような口ぶりで
俺に話すので、それを問うた。
「お前みたいに
世間に無関心でもいられねぇからな…
おおよその事は分かったが、だからって
アイツらの言いなりにもなれねぇ」
ボブは憮然とした表情でそう言う。
「相手が分かってるんなら、
もっと話し合いでっ!」
俺はそう言ってボブに食い下がるが…
「話し合いで何とかなる事案とは
微妙に違うんだよ。
奴等の越権行為だ。
なら、戦わないとならん由縁はある」
言ってマスターは深いため息をついた。
その後、懐をに手を入れて
俺の前にトパーズの宝石を2つ出した。
「おおよそ200金貨くらいの価値だ。
お前に依頼を出す。
その子を護りながら、街を出ろ。
その子の行きたい所に行ってやれ。
それが俺からの依頼だ
ちょっと護衛の報酬としては安すぎるが、
手持ちがこれしかねぇ、これで前払いだ」
マスターはそう切り出して
俺に彼女の護衛依頼をする。
「なっマスター
そんないきなり!!」
俺はそんな無茶ぶりに抗議をしたが…
「もっと多くのお客さんが来るかもしれねぇ
急げ!
こういう時の冒険者は、迷わねぇんだ!!」
そう言って床をガンと強く踏む、マスター。
その勢いに、どうにも迷ってる時間さえ無いと
分からされ、俺は渋々決断するしかなった。
「くそっ!何て厄日だ!!
後で覚えてろよ! マスター!!」
俺は彼の剣幕に負けて、
理不尽な依頼を受けるしなかった。
ギルドマスターからの直接依頼だ。
断るのも難しい。
だが、俺の第6感は嫌な程当たって
これは三文芝居でも深刻な事態の様だった。
いやそうだろうよ
美少女が助けてとか
冒険者ギルドに駆け込んでくる時ってのは
たいてい、ロクでもない大きな事が
起きた時って相場が決まってる。
古典RPGの常套シナリオではないか…
いや、それを現実でやられても
マジで困るのだが…
「フィア、お嬢さん、仕方無い、行くぞ」
そう言って俺はフィアを促し、
そして護衛対象に手をやって誘った。
「貴方が私を??」
初見で意味不明な事を言って
彼女を混乱させた俺である。
それが護衛を引き受けるとか
彼女が驚くのも無理は無い。
俺だって驚いている。
だが、マスターの緊急依頼なんだから
仕方無いじゃないか!!
「仕方が無いですね…ご主人様…
あのえっと、ここは悪漢の人と
戦いが起きるみたいなんで、
私達と行きましょう…」
フィアはこの流れをやむなく理解し、
彼女の手を取って、裏口へと向かおうとした。
「えっと…え!?
”服従の証”…あなた…えっと…」
そうやって声をかけてきたフィアを見て
彼女の勢いが、うっと一瞬止まる。
フィアの首に巻いてある黒いベルトと
青い宝石をじっと見てしまったからだ。
「俺の連れだ…
この子がアンタの世話をする感じになるらしい
ともかく、今は急ぐぞ!!」
フィアの奴隷の証に驚いたのだろうが
そんな些細な事で止まられても困る。
行くぞ行くぞとポーズで促し
彼女の混乱を拭い去って、歩を歩ませた。
そうやって俺達は3人で、
厨房の奥にある店の裏口から
入り組んだ城塞都市の、迷路の様な細い路地を
逃げ出す事になったのであった。
――――――――――――
「どうして、あんなのに追われてる?」
俺は狭い路地を小走りしながら彼女に問う。
「そ、それは…、い、言えません…」
彼女は狼狽えながら答える。
おっと、言えませんと来たか…
ハァ…これは大変だ…
「それを言って貰わないと
残って戦ってるみんなも、俺も納得できねぇ
アイツらは何者なんだ!?
マスターは知ってたみたいだが…」
「えっと、その…
神聖…騎士団で…」
彼女は苦しそうにそう告げる。
「……誰? どういう組織?」
俺はそれを素で尋ねた。
フィアの方にも視線を送って
知ってるかどうか目で尋ねる。
フィアも知らないと首を振った。
「え?神聖騎士団を御存知でない?」
その返事に、彼女は眉をひそめて俺を見返した。
「あー、え? 有名な騎士団?
あ、ゴメン、俺、半年前に
東方からここにやってきたばっかりで
ここら辺の事、よく知らないんだ…」
俺はこの半年で身につけた、俺の大嘘混じりの
テンプレ説明を彼女に伝えた。
「あ、見た目通り、東方の方ですか…
それなら、同盟国の騎士団を知らないのも
仕方無いですか…」
俺の返事に、妙に納得して頷く彼女。
「は?同盟国?」
彼女の不穏な言葉を聞いた。
瞬時に険しい顔になる俺。
「ええ、この国、ザルツバート王国の隣にある
同盟国、宗教国家エルザートに仕える神官戦士達は
神聖騎士団と呼ばれています」
彼女は苦そうな顔になって、
そう説明してくれる。
「え?アイツら隣の国の騎士団??
宗教国家って何…、同盟国??」
俺は不穏なワードが次から次へと出てくる事に
冷や汗を浮かべた。
「えっと、宗教国家エルザートというのは…」
と彼女が次の説明をしようとしていた時だった。
「見つけたぞ!メイヴェル様!!
無駄な抵抗は辞めて、大人しく投降して下さい!」
彼女が説明してくれた神聖騎士団の1人に
ばったり出くわして、彼女の説明を聞くよりも前に
この火急の場の処理を要求される様になった。
マスター読み通り、
もっと追っ手が来ていたか…
しかし…『様』?
神聖騎士団って、隣の国の騎士団に
『様』呼ばわりされるって、ちょっと待って。
もう既にヤヴァイだろ…この子…
「そこの冒険者、悪い事は言わん。
お前達の国には関わり合いの無い事だ。
大人しくその子を、こちらに渡せ。
これ以上、騒動を大きくしたくない」
そう、その騎士団の男は詰め寄ってくる。
「うわぁ…話がすげぇ大きそうなのを
当たり前の様に広げやがって…
でも、マスターの護衛依頼出てるんだよ…
って事は、そういうレベルの依頼なんだよ。
前金貰ってる以上、バックレたら
この街に居られなくなるだろーが…」
俺は、なんという事に
巻き込まれたのかと目眩を覚え、
相手の要求を拒絶するポーズとして
新調した大盾を構え、戦闘態勢に入った。
「貴様、その娘を庇う気か?」
そいつは俺に詰め寄って来る。
「大の大人が、それも神聖騎士団だっけか?
そんな隣の国の騎士団様が
いたいけな美少女を、
暴力的に浚らおうとしてりゃよぉ
傍目から見ても、
おめーらが悪い奴にしか見えねーじゃねーか」
そう言って俺は頭を抱えて
腰にぶら下げているモノを手にした。
「え?? 鉄の槌???」
俺が右手に握った武器を見て
その『メイヴェル様』と呼ばれた子は目を丸くする。
「…あ、貴方も神官戦士なのですか?」
俺の武装に、ふっとそう尋ねる彼女。
「いや?宗教は信じてない…
っていうか、この地方の神様の事なんか知らん」
「でも、だったらどうして、メイスなんて…」
俺の手にした武器が不思議だったのか
彼女は妙に食いついた。
「いや、今までの経験則だ。
剣は直ぐに折れて使い物にならん。
武器はこういうシンプルなモノが良い」
そう言って俺は盾を構え、メイスをその後ろに隠す。
「あ、純粋に武器として使ってるんですか…
冒険者といったら、みんな剣を持って戦うモノだと
思ってました…」
そう、不思議な所にツッコミを入れる彼女。
そして目の前の者も、腰から武器を取り出し…
右手にメイスを構える。
「ふふふ、御伽話に魅入られた冒険者が
我々と同じ武器を使うとは驚きだぞ…
普通は神官戦士しか武器にしないモノと思ってたが
お前には、妙に親近感がわく」
言って目の前の男はメイスを前にし、
にやりと笑った。
「そっちの僧侶理論の
不殺を目指すって理由じゃねーよ。
マジで剣は脆くて折れるから、こうなったんだ…
だが、不思議なモンだな…
こういう風にメイス同士で構え合うとか、
確かにあんまり見た事ねーな…」
俺は互いにメイスを構え合って、
ジリジリと間合いを詰めている二人の
妙な光景に苦笑するしかなかった。
これが剣なら、普通の光景にも思えるが
互いに鉄の暴力の塊を手にしてるとは…
いや、やってるこっちは真剣なんだが…
「おい、お嬢ちゃん、いちおう聞いておくが…」
「あ、はい…」
俺は戦闘に入る前に、
どうしても聞いておかないといけない重要な点を
『メイヴェル様』に尋ねるしかなかった。
「あっちが悪い奴で、こっちは正義の味方って事で
いいんだよな!?」
そう、俺は尋ねる。
しかし、それは最も大事な事。
俺達に正当性があるかどうかで
振るえる暴力の質が決まるのだ。
だから救助を求めてきた子に
それをどうしても尋ねるしかなかった。
「せ、正義…と言われると…
もう私には、何が正しくて、何が間違ってるのか
それすら分からない状況で…」
その問いに彼女は震えて
なんとか声を絞り出して俺に応え
僅かに涙ぐんだ。
その返事に
俺は精神の何かを吐きそうになった。
正当防衛かどうかが重要な点だったのに
救助依頼主がそれすら分からんとは…
「正義はむしろ我らにあり!
メイヴェル様を悪と言うのは心苦しいが
旧教皇は完全なる悪!!
何も知らん冒険者風情が、出しゃばるな!!」
その言葉にむしろ目の前の男が切れて
重要な確認をするまえに襲いかかってきた。
うわーーー
何も分からんのに突っ込んできやがって!!
だったらこれって、
俺達への正当防衛でいいんだよね!?
だって、何も分からんのに
殴りかかってくるんだよ!?
俺は『万象強化』を発動した。
神官戦士の男のメイスが俺の大盾を襲う。
鉄の盾に撃ち込んで、後ろの俺に
衝撃だけを与えるつもりだったのだろう。
だが甘い。
こんな挙動、考えもしかかったんじゃないか!?
「大盾パリィ!!」
火事場の馬鹿力×万象強化×魔力乗せ
の三倍満で、人の膂力では考えられない
瞬間的な弾きを大盾で繰り出し
メイスの衝撃威力をその場で吹き飛ばした。
「はぁぁ!?」
あまりの事に面食らう神官戦士。
吹き飛ばされたメイスに体重を持って行かれ
体勢を崩して腹をガラ空きにさせたのだった。
「もっと人と話し合いましょうって
先生に教わらなかったかぁ!?
暴力は何も生みません!!」
そう叫んで、俺はそいつの土手っ腹に
全力のメイスを叩き込んだ。
「グガァァァァ!!!!」
俺のメイスの一撃で陥没する奴の腹。
「あ、やべ…やりすぎた?…」
あまりにいきなり襲いかかってきたので
思わず全力で返してしまったが
俺は即死しかねん威力の
反撃をしてしまったのだった。
路地に吹き飛ぶ神官戦士。
「ウチの騎士団を一撃で!?
つ、強いっ!!」
その『メイヴェル様』が俺の一撃を見て
驚愕の表情を浮かべていた。
そして、俺はちょっと遅れて
彼女の言葉を理解して、驚愕の表情を浮かべる。
『ウチの』って言ったよ
『ウチの』って…
つまり、彼女もこいつらも、隣の国の人?
で『様』?
この時点で、頭の悪い俺でも、
隣国の内輪揉め系の事件だ、くらいは理解し
挙げ句の果てに、この子がそっちの国で
かなり偉い身分の子なのだと
推察するしかなかった。
なんちゅー事が起きているのか…
ともかく俺は死にかねない威力で
吹き飛ばした神官戦士を見て
そしてその由縁と成った
己のメイスを見つめた。
「ええい、このメイス、まだ実戦で使って無いんで
加減が分からん。人間相手なんか、もっと分からん」
俺は想定を越えた威力であった
メイスに閉口する。
ただの鉄の塊なのだから、
まぁ、当たればこうなるよな…
という結果であった。
斬撃は構造上出来ないが、
攻撃がとてもシンプルで簡単だ。
ただ全力で殴ればいい。
それだけなのだから。
俺の様に戦闘技巧の無いヤツには
うってつけの武器なのかもしれない。
しかし、そんな感想は今はいいか。
「で、お嬢さん、
コイツに俺はトドメをさしていいのか?
追ってくる以上、
息の根を止めるのがスジなんだが…」
俺は護衛任務の、ある一種のセオリーを口にする。
「息の根を止める!?とんでもない!!
そんな事をしたら国家間問題になります!」
彼女はそう言って俺の言葉に慌てた。
「国家間問題ってよ…
つまり隣の国の騎士団に、
俺達の国が攻められてるわけか?」
「あっ、えっとその…そういうわけでは…」
僅かな言葉のミスで、
俺達が欲しい情報が次々と漏れてくる
迂闊な彼女。
「どういうわけか真剣に聞きたいが
ともかく、こいつを行動不能にしなければ
逃げるのもままならん」
と俺が、今の問題を指で指摘すると
「【我らを守護する水の女神よ、この者の傷を癒やしたまえ】
【我らを守護する水の女神よ、この者に深き眠りの癒やしを】」
彼女は杖を握って、祈りのポーズをし
俺に分かる言葉と、その上に何らかの別の音節が乗っている
不思議な声を発して神官独特の祈祷魔法を行使した。
倒れている神官戦士の陥没していた腹が元に戻っていき
同時にその者は、安らかな寝息を立て始める。
「なりほど、見た目通り、神官ちゃんか…」
彼女の祈祷魔法の行使を見て、
彼女の職業的なモノを理解する。
だが、見たままだ。
そう…見たまではあるが、前に初心者の同期で
神官だった奴がしていた祈祷魔法
アイツが使ってた時は、
1つしか祈祷魔法を行使してなかったが
気のせいだろうか?
この子、同時に2つの詠唱をして、
2つの祈祷を行使しなかったか?
うん???
「この者を治癒して、深い眠りに落としました。
これでこの者が追ってくる事は無いでしょう。
逃げる道案内の続き、どうかお願いします…」
彼女はそう言って、うつむいた。
「神官の魔法に、眠りに誘う魔法もあるのか…
それは便利だな…」
俺は彼女の鮮やかな魔法の行使に舌を巻く。
「いえ、魔法使いが使う戦闘的な眠りではなく
中級治癒祈祷の応用で、
深い眠りを与えて治癒力を上げる
回復祈祷の一種です。
眠ったと言っても、一応、癒やしの祈祷ですよ…」
と彼女は自分の祈祷の解説を添えた。
うわ、そういう応用の仕方があるんか…
神官が使う魔法ってのも、奥が深いんだな…
と、彼女の所作にビックリもするが…
「で、小走りしながらでもいいんだけど
いい加減、どういう事か、教えてくれない?
こっちも何も分からんで護衛とか言われても
本当に困るし…」
俺は、裏表のない本音を彼女にぶつける。
「御免なさい…でも…話してしまうと
どうなってしまうのか、私にも分からなくて…」
彼女はうつむいて、言葉に窮していた。
「ご主人様、この方を追い詰めるように
言われるのは、ちょっと…」
そこでフィアが俺をたしなめてくれる。
「まぁ、そりゃ、フィアの言うとおりなんだが…
しかし、相手が何か分からん、
殺すのも駄目とか、そんな厳しい縛りの中で
護衛とか言われると、普通に困るしなぁ…
殺しがダメなら、フィアの弓なんか使えんし…
俺の近接戦闘オンリーってか??」
そこで俺は、そういう大問題に直面して
頭をかきむしる。
なまじ化物と戦闘する事だけに搾って
装備を固めていたから、
この装備で対人戦がおきるなんて
想定していなかった。
捕縛を前提とした装備なんて、全く無いのだ。
「えっと…え?
貴方…奴隷…の方ですよね?」
そこで、俺達二人のやり取りを聞いていた彼女が
不思議そうな顔をフィアに向けた。
「…え? …あ、はい…
私は…このご主人様の…奴隷…でした…」
現在形と過去形がごっちゃになりながら
フィアが彼女の言葉に応える。
「奴隷なのに、随分、主従関係が雑でも
ご主人様に許して貰えるんですね…」
彼女は俺とフィアのやり取りが、
あまりに不思議だったので、
その点を指摘したのだった。
しまった!!
そうか! 一般的な奴隷を知ってる人からすると
俺達のこんなやり取りは、
主人と奴隷の関係に見えないのか!!
そりゃ今のやり取りなんか対等に近い関係の
会話のやり取りだもんな!!
「あ~~~えっと
俺、東方から来た人間だからサァ…
その、こっちの奴隷の扱い方って、知らんし…」
俺はそこで上手い言い訳を思い付いて、
とっさに口にする。
「え?奴隷の扱いが厳しいのは、むしろ東方の国では?
今、西方まで攻めて来ている
東方のタジャルモリ帝国なんか、
破壊略奪強姦し放題で
征服した西方国の民を隷属化して
酷い苦役を与えているとか…聞きますが…」
そんな口からでまかせに対して、
俺の知らん知識を持ってきて
俺の矛盾を追い詰めてくる彼女。
え?ナニソレ!?
タジャルモリ帝国って何!?
え?西方の国って、東方の国に攻められてるの!?
そんなの初めて聞いたんですけど!!
俺は自分の嘘設定の矛盾を突かれて、
大慌てになった。
「あ~~それは知らないなぁ…
俺が生まれた東方の国って
それとは別の国だし~~」
そんな風に苦しい言い訳をして、
彼女の疑惑の目を交わそうとしてみた。
「そ、そうなんですか…
いえ、私も東方の国に詳しいわけでは無いですし…
西方と東方は断崖の山脈に隔てられて、
我々には詳細な情報はよく分かりませんので…」
言って彼女は、俺の作り話しに納得する。
それで彼女の知識的な追求は収まった。
危ない所だった。
いやー、今日は、今まで知らなかった事が
洪水の様に流れてきて、勉強になるなぁ!!
っていうか、このやり取りで分かったが
この子、知識人だ!!
俺やフィアは世界の知識ロクに無い系の人間だが
この子は、凄く世界の事を知ってる知識人系の子だ!
つまり、貴族とか偉い人系の部類の子なんだ!
敵に『様』付けされてたもんな!
俺はそれを思って、
その線から探りを入れてみる。
「えっと貴方…名前、『メイヴェル様』でしたっけ?」
「えっ!?どうして!?」
「いや、どうしてって、アイツらが貴方の事を
名前で呼んでいたじゃないですか…
だから、名前は『メイヴェル様』で
いいのでしょうか?」
俺は、ちょっと地雷かなー?と思いつつも
お嬢さんと呼び続けるのもアレなので
呼称問題も含め、再度、
『どういう事なんですか?』問題に切り込んでみる。
「そ、それは確かに私の名前ですが…
長いので、メイとでもお呼び下さい…」
彼女は引きつった笑顔を浮かべて、
そう返してくる。
上手く交わそうとしてるな、とは思ったが
しかし、そこを交わそうとされても困る。
そもそも何なのか分からないのだ。
「まぁともかく、メイさんは
隣の…宗教の国の人で…
同じ国の神聖騎士団に追われている…と
そこまでは、いいでしょうか?」
俺は今までの会話の中で、
少なくとも分かった情報をくみ上げて、
その認識で正しいかを尋ねる。
「えっと、はい…その通りです…
私はエルザートの神官です…」
彼女は俺の言葉に頷き、恐縮していた。
その時に不意にフィアが眉をひそめる。
「え?メイヴェル…様…
メイヴェル…メイヴェル…
あれ、どこかで聞いた名前の様な…」
突然にフィアがそんな事を言い出した。
ええ!?
フィアが知ってるような名前なの!?
その反応にメイの方が真っ青になる。
「水の女神オーシャリス様の祈祷…
隣国は、水の女神オーシャリス様を信仰する
大きな宗教の国って聞いた事が…
隣国のメイヴェル…様??
え? え? え?」
そこで彼女はウンウンと唸りながら
彼女の薄い記憶の中で、引っかかる何かを
掴んだようだった。
「メイヴェル様?
……メイヴェル様???
水の女神オーシャリス様の……
え!?ええっ!?
水の女神の聖女、
メイヴェル・アルクシオーネ様!?
奇跡の聖女様の名前!?」
そこで彼女は、その名前を思い出したのであった。
「はぁ!?聖女ぉっ!?」
「その名前で呼ばないで下さいっ!!」
俺とメイの絶叫が同時に木霊した。
あい、メイヴェルちゃん、ようやく登場。
長かったな…
『最初から』この子は出すつもりだったので
13話目にして、ようやくですよ…
まぁ、12話ぐらいフィアを盛ってやらんと
この子の設定でフィアが埋没しかねなかったので
今までは、対メイヴェル工作というかね…
さて、大変な子の大変な処理が始まるヨー




