第五話「異世界クラフトワークス」
俺は新たなる自己紹介石を作ることにした。
先ほどの戦闘の疲労から、すやすやと眠っているアイズの寝顔は、とても可愛らしい。
あんな激しい戦闘を繰り広げていたのに、ちゃんと女の子なんだな。
さてと、俺は作業に入ろう。
まずは自己紹介石と同様に、ホーンスピアに堅角を打ち付け、持ちやすい形状に削り出していく。
この作業がまた、石とは違ってかなりの重労働だ。
一時間ほどかけて削り進められたのは、ほんの数センチほど。
一体どんなものを食べて育ったら、こんな堅い角になるのやら。
不平不満を漏らしていても仕方がない。黙ってシコシコと堅角を削り続ける。
こう見えて俺は何度か職についたことがある。
十年前の俺は、この生活のままではまずい、手に職を付けよう! と、血迷った思考に陥っていた。
そして何社か面接をして、ようやく受かったのが地元にある小さな町工場だった。給料は安かったが、何より黙って部品を作る作業が俺の性分に合っていた。
よくやく仕事が板についてきた頃、初めて同僚というものが出来た。歳は俺より下だったが、気を遣える奴で俺が話さないのを何も言わずに受け入れてくれた。そいつとは昼飯を共に食べるだけの関係だ。
程なくして社長からお呼びがかかり、俺に班長になってほしいという打診を受けた。一度は断ったのだが、同僚の推薦もあり引き受けることにした。
俺の生産計画は順調で、納期に遅れることもなく取引先からも有り難がられていた。
そして、事件は起こる。
俺の仕事ぶりが評価され、取引先から大型発注の依頼が舞い込んできたのだ。俺はとても嬉しかった。自分が生み出したもので、こんなにも多くの人が喜んでくれるなんて。
そして発注の説明をするために、取引先のエリアマネージャーがウチの町工場まで来たのだ。
いつものように部品を作っていた俺の手が止まる。
そこにいたのは、あの日廃校舎の屋上にいた不良グループの一人だった。
茶髪でギラギラしたスーツを着ており、腕には高そうな時計をしている。今も尚その面影が残っていた。
あっちも俺に気づき、馴れ馴れしく肩を叩いてきては、社長や同僚がいる前で、あの忌まわしき屋上での出来事を語り出した。
悪びれることもなく、平然と。
二十五年も前の記憶は捻じ曲がるもの。ましてや学生の記憶だから尚更だ。
男は、俺が友人を突き落として、その場から立ち去ったと話しやがった。
正直、ぶん殴りたかったが、社長の顔からして、こいつの勤める会社は、ウチみたいな小さな町工場には重要な取引先なのだろう。逆らえる立場に無いことをすぐに理解した。
それからすぐに悪い噂は広まった。町工場内で俺は、殺人鬼、サイレントモンスターと呼ばれるようになり、ついに社長からクビを宣告されたのだ。
俺は反論することも出来ずにその日のうちに仕事を辞めた。
なんとも不条理な話だ。
だが、そのおかげでこんなにも器用になれたのだ。
不器用にしか生きられない人生だが、この手には未だに誇りを持っている。
黙々と作業を続けること八時間。
朝陽が昇り始める。
早朝の渓谷の涼しさを感じないほど熱中して、削っては研ぐを繰り返していた。
そして、ついに完成した!
十センチほどの長さで、太さも初代より大分細めに仕上げた。
これにより俺の手にジャストフィットする。素材がベヒーモスの堅角だけあって、ちょっとやそっとじゃ擦り減らないだろう。
自己紹介石ver.2.0の完成だ。
そういや石ではないから、自己紹介石と呼ぶにはやや違和感がある。
新たな名をつけることにしよう。
何がいいか。
しばし悩んだ末に思いついた名――
ガルファラ渓谷の頭文字を頂戴して、“Gペン”と名付けよう。
さらに余っていた素材から、もう一つアイテムを作ることにした。
Gペンの製作でコツを掴んだこともあり、先ほどの半分以下の時間で作り終えた。
じゃじゃーん!
その名も“グアルケラス”。
ベヒーモスの堅角からなる漆黒のダガーだ。
刃先は鋭く、ギリアス鋼には到底及ばないが、それでも切れ味は十二分にある。
柄の部分には、角と一緒に落ちていた右翼を巻きつけた。素人が作ったため見た目こそ悪いが、程よい握り加減がこれまた手にフィットする。
ついでに鞘と腰紐も翼で製作済みだ。
そして一番のこだわりポイントが、柄の後方先端に空けた収納ポケット。
ここにはGペンがピッタリ収まる仕様になっている。
これでもう無くす心配はない。
こういうギアは少年心をくすぐるんだよなぁ。
いやぁ〜嬉しい。早く使ってみたい。
興奮を抑えきれない俺に気がついたアイズが、ゆっくりと目を覚ます。
「おはようノックス。起きるの早いね」
早起きだって? 何をご冗談を。冒険者に寝る暇があるもんか。
俺は両手を腰に当てて立ち上がった。
「なによ」
何ってほら。腰についた我が愛しのグアルケラスを見るがよい。
「だから何よ」
女って奴はこれだから相容れないんだよ。
渋々、鞘からグアルケラスを抜く。
この漆黒の輝きが目に入らぬか!
「あと一時間したらまた起こして。昨日の戦闘で身体ボロボロなのよ。んじゃおやすみ〜」
んじゃおやすみじゃねぇよ!
俺の新たなる相棒グアルケラスに、全く興味を示さないアイズに一握りの怒りを覚えた。
しかし、大分疲労が溜まっているのは確かだ。何より腰がガチゴチで、立っているのもやっとだった。
俺も小一時間、横になろう。
そう思って身体を傾けようとした時だった。
ベヒーモスとの戦闘中に感じた、あの視線をまた感じる。
誰だ!!
グアルケラスを構え、辺りを警戒する。
しかし、それらしき人影も魔物も見当たらない。
気のせい……にしては鮮明過ぎる。まるで俺たちを挑発しているようだ。
一体、何だったのだろうか。




