第三十七話「作戦開始」
グラムヘルの背中である地表に触れると、確かに岩や土といった無機質な感覚とは違った印象を受けた。
ザラザラとしていて、若干の水分があるようにも思える。
何よりも耳を当てると鼓動のような振動が響いているのが分かる。
これならいけるかもしれない。
俺は直感を頼りに、とある行動に出た。
まず、グレガリオン地面を砕くようジェスチャーで指示をした。
「我の攻撃では地震龍を止めることなど出来ないぞ」
確かにこんな馬鹿デカい生物が、怯むくらいの攻撃をぶつけるのなんて難しいだろう。
だが、俺の考えは地震龍を止めることではない。
俺は首を縦に振り、攻撃を促した。
バギッ……
轟音と共に地表が砕ける。
やはりグレガリオンでも、この硬い背中に穴を開けるのは難しいか。
なら――
赤井の火縄銃を指差し、同じく砕けた地面を指差す。
「今度は俺かよ。一体何がしたいんだ?」
いいからやれ! と言わんばかりに爆撃を催促する。
「わかったよ。やりゃあいいんだろ!」
皆が離れると、赤井はグラムヘルの背中に火縄銃を向けた。
「紅蓮式魔導火縄銃『紅』――滅龍炎弾!!」
光と炎を纏い、大爆発が起こる。
先ほどよりも亀裂は広がったが、やはり貫通させるには至らなかった。
つか、滅龍炎弾ってそれっぽい必殺技名を口にしていたが、要するに聖炎弾と同じだろ。
調子のいいヤツめ。新技かと思って少し期待しちまったじゃねぇか。
とはいえ、これで十分だ。
俺は赤井の肩を、お疲れっといった感じにポンと叩いた。
あとは俺が神域魔術で風穴を開けてやる!
俺は魔力を高め、印を結んだ。
滅龍旋風!!
ブゥゥウウウウウン――ドガァァァァン!!
暴嵐が一点目掛けて炸裂し、地表に大穴を開けた。
よし!
これでグラムヘルの体内に入れる。
なんとか第一段階は成功した。
あとは本当に内部がゲームと同じか確かめるだけだ。
つか、俺も赤井に釣られてやっちまったじゃねえか。こういうのはなんかやりたくなるんだよな。
「ノックス、君は本当にグラムヘルを止めるつもりかい?」
えっそうだけど? って感じに首を縦に振る。
すると、エクストラは続けた。
「どうやって、というのは野暮な質問だね。君には何か考えがあるのだろう」
俺は強く頷いた。
「僕は君のことを止めはしない。でもいいかい。猶予は十日だ。グラムヘルがシンソルヴァに辿り着くまでに侵攻を阻止できなければ、剣皇国もその近くの街も壊滅する」
エクストラの言う通り、俺の作戦が失敗すれば間違いなくこの融合異世界はメチャクチャになる。
つまり原作とシナリオが変わってくるということだ。
絶対にそれだけはさせない!
「君がやるなら僕たちも協力するよ。僕とグレガリオンは周辺の国々に避難を呼びかける」
非常に助かる申し出だ。
彼女の呼びかけなら、多くの種族が耳を貸すだろう。
万が一、地震龍の侵攻を阻止出来なかった場合でも、少しは被害を抑えることができる。
「俺もグラムヘルを阻止するぞ!!」
赤井もやる気になってくれているようだ。
でも、俺の不確かな作戦に付き合わせるわけにはいかない。
俺は赤井の肩に手を置いた。
「何だよ、そんな辛気臭ぇ顔して」
お前らを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ。わかってくれ。
俺の気持ちを察したのか、エクストラが赤井に話しかける。
「僕とグレガリオンだけでは避難誘導できる場所に限りがある。よければレッドジャスティス君も手伝ってくれるかな?」
赤井は俺の顔を見て、少し考えていた。
「あーもう、わかったよ! 地震龍はお前に任せた! 絶対に食い止めろよ!」
あぁ、任せておけ! 絶対に止めてみせる。
俺と赤井は拳を突き合わせ、男の約束をした。
「それで、アイズちゃんはどうする?」
「私は……」
肩を落とし、下を向いているアイズ。
彼女は病み上がりだ。流石にこの作戦に参加させるわけにはいかない。
オアシスに置いていくのがベストだろう。
それに、ここならグラムヘルの進行方向には重ならない、唯一安全と言える場所だからな。
「私、ノックスについて行く」
ダメだアイズ。
今度ばかりはお前を連れていけない。
お前がついて来たら、また危険な目に遭わせてしまう。
今回みたいな奇跡はそう起こることじゃないんだ。
俺には、君を救う力はないんだ!
「ノックスってね、社会性は皆無だし、何も相談してくれないし、いつも一人で抱え込んで突っ走っていくし、それにものすごく泣き虫で我儘なの」
アイズが並べた言葉はとても鋭利だった。
それは紛れもない事実だったからこそ、俺の心に深く突き刺さった。
「でもね、本当は仲間のこと、この世界のことを誰よりも真剣に考えているの、私知ってるの。私は全然ノックスには及ばないけど、それでもあなたのためになりたい。あなたのことを救いたい。だから……」
彼女は誰よりも素直だ。
素直だからこそ、真っ直ぐに自分の想いを伝えられる。
それは俺には出来ないこと。
「だから、あなたと一緒に冒険がしたいです」
俺は、きっと彼女には叶わない。
例え、天と地がひっくり返ろうとも。
気がつくと、俺は彼女に手を差し伸べていた。
「ノックス……」
アイズ……
彼女は俺の方を向いて目を瞑っていた。
えっと、これはそういうタイミングなのでは?
そうですよね? 今ですよね?
みんなが俺を見て頷いている(気がした)。
試しに目を瞑り、唇を尖らせ、顔を近づけてみる。
みんなの前でするのは恥ずかしいが、こればっかりは仕方がない。
俺も漢を見せよう。
ペチンッ!
気がつくと、俺の頬は赤く腫れ上がっていた。
アイズは涙目でエクストラに助けを求めている。
このほっぺたのジンジン加減は誰が叩いたのですか??
物凄くジンジンヒリヒリするのですが……。
「ということで、それぞれの役割が決まったようだね。みんな、お手を拝借してもいいかな?」
俺のことを軽くスルーしてエクストラが声をかける。
俺たちは円を描き、互いの手を重ねた。
「いいかい、みんな。チャンスは一度きりだ。僕らが失敗すれば、多くの人が命を落とすことになるだろう。このヘヴリア大陸も大変なことになるだろう。でも、今日じゃない。明日を守る為に、世界を救うために、絶対に地震龍の侵攻を止めるんだ!」
「「おう!!」」
エクストラの掛け声と共に、俺たちの、
"地震龍侵攻阻止作戦"が幕を開けた。




