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第三十六話「地龍季、到来」


「お前はもう負けている」


「いいや、まだ決着は着いちゃいないゼェ……」


 ウーズはすっかり痩せ細り、全身傷だらけで血を流していた。もはや戦える状態ではないことは明白だった。


 事実、今目の前で対峙しているグレガリオンでさえ、彼の悲惨な姿を目の当たりにし、トドメを刺すことを躊躇っているのだから。


 ふらふらと歩くのが精一杯といった様子で、一歩ずつ近づいてくるその姿は、何かの執念に取り憑かれているようだった。


 ウーズは骨の剥き出しになった腕で、ゆらゆらとグレガリオンに殴りかかる。


 もちろん先程までの攻撃力も速度もない。


 グレガリオンが避けるまでもなく、自らバランスを崩して転倒した。


「貴様ほどの実力者が、何故あの小悪党に手を貸した?」


 ウーズは血を吐きながら嘲笑う。


「ガハハ……お前には想像もつかねぇだろうよ。自らを蝕むほどの飢えが、どれほど悲惨か」


 グレガリオンは沈黙した。


「決して満たされることはない。食い続けなければ、自らの身体や魂までもが蝕まれていく。まさに呪いだ。貴様ならどうしていたと言うのだ」


「さぁな。だが、これだけは言える。過ちは決して肯定されないとな」


「偽善者が……」


 そう言うとウーズは、自らの心臓を抉り出して口へ運んだ。


 その姿は人と呼ぶにはあまりにも異常で、同時に暴喰の君臨者として相応しい最期だった。


 せめてもの情けか。

 グレガリオンがトドメを刺そうとした、その時だった。


 ウーズの身体から小さな衝撃波が放たれる。


 先程までの戦闘に比べれば威力こそないものの、広範囲に渡って強大なエネルギーが発せられた。


 衝撃波は波のように広がり、砂漠に佇む電波塔へ到達する。ビリビリという音を立て、送電線へ電流が走った。



 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――



 突如、地面が大きく揺れる。


「今度は何だよ!」

「じ、地震ですか!?」


 アイズと赤井が揺れる地面を見て、辛うじて体勢を保っている。


 揺れはどんどん大きくなっていった。


 震度六ほどの揺れが五分近く続いている。


 あまりにも長い揺れに危機感を覚える。


 幸い海沿いではないし、建物も既に倒壊しているため身の危険は少ないと思うが、それでも不安になる。


「そんな馬鹿な……」


 エクストラが顔を青ざめさせながら口を開いた。


「次の龍季は火龍季のはずだよ。まさか“地龍季”が到来するだなんて」


 龍季に規則性はなく、人々がそれを予見することはできない。


 できるとすれば預言者くらいなもの。


 彼女は以前、今は火龍季と氷龍季の狭間だと言っていた。神の場合は、その力の一端によって次の龍季を予知することができるらしい。


 しかし、それが外れたのだ。

 だからこそ彼女は驚いているのだろう。


 その様子から、この現状が異常事態であることが伝わってくる。


 第一に、俺は地龍季というものを知らない。

 原作にも無いことが今起こっているというのか。


 揺れに耐えながら、アイズがエクストラに尋ねた。


「ララちゃん、地龍季って何ですか?」


「地龍季は地震龍グラムヘルが目覚めることで発生する特別な龍季なんだ。他の古龍と違って、地震龍は千年に一度しか目覚めない。前回が三百年前だから、あまりにも早すぎるんだよ」


「おい! てことは今の衝撃が原因で、その地震龍って野郎が目覚めたってことか!?」


「僕にもわからない。でも、その可能性は十分にある」


「マジかよ! んで、その地震龍はどこにいるんだよ!?」


 赤井の言う通り、辺りを見回しても龍種はおろか魔物すら見当たらない。


「この揺れからして恐らく……この真下だ」


 すると、更なる揺れと共に地面が急浮上し始める。


 俺たちのいるオアシス跡地が、みるみる高度を上げていった。

 体感では数十メートルは上昇していただろう。


「オイオイオイオイ! マジかよ!!」


 気が付くと、俺たちは天空都市が目視できるほどの高さまで上昇していた。


 砂漠の砂が真下へ落ち切ると、その下から硬い岩盤が姿を現す。


 しかし今なお、周囲を見渡しても龍らしき特徴は見当たらない。


「地震龍の全長は数キロにも及ぶ。僕たちは今、その背中に乗っているんだよ。そして一番厄介なのが、直線上に存在する都市や街など、あらゆる障害物を薙ぎ倒しながら移動することなんだ」


「ララ様、この方角の先には……」


「ああ。剣皇国シンソルヴァやカフェナの街がある。このまま進めば、恐らく十日ほどで辿り着いてしまうだろうね」


 一同が驚愕した。


「おい、大地の神っつったか!? 止める方法はねぇのかよ!」


 赤井が焦るのも無理はない。

 彼はカフェナ出身だ。

 多少なりとも思い入れがあるはずなのだから。


「ないよ。地震龍が再び眠りに就くまでは、誰にも止められない。たとえ君臨者であろうと、神であろうとね……」


 クソ……。


 何か止める方法はないのか。


 原作にも存在しなかった古龍だ。


 いや――。


 遥か昔にこんなDLCがあったような気がする。


 確か『地底を這う迷宮ダンジョン』。

 十日間限定で配信された特殊コンテンツだ。


 明確に地震龍とは明記されていなかったが、移動し続けるダンジョンへ潜り込み、その謎を解き明かして食い止める内容だった。


 あまりにも尖った内容だったため、十日を待たずに配信が停止された。そしてその後、再配信されることはなかった。


 クリア条件は――“眠れる臓器”を癒すこと。


 もしこれが地震龍を指しているのなら、止められるかもしれない。

 

 どうにかして地震龍の内部へ潜り込まなくては。


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