第三十二話「乱戦〜バトルロワイヤル〜」
俺が偵察をしている間に第三試合と第四試合が行われたらしい。
赤井曰く、試合内容は相当あっけなかったとのこと。もはや試合と呼んでいいものか、とも。
第三試合の出場者はジジ・ロロ対アセロラ・アークライト。
しかし試合開始直前、アセロラは何者かに毒を盛られ死亡したという。皆が口を揃えて対戦相手のジジ・ロロの仕業だと言っていた。
本来ならジジ・ロロは不戦勝になるはずだった。
だがダボンは「"お前ら"で殺し合え」と言い放ったらしい。そもそもジジ・ロロは双子であり、二人で一人の参加者だ。
おいおい、そんなのありかよと思うかもしれないが、それがヘヴリンピック。もはや何でもありである。
そして試合はダボンの思惑通りに進んだ。
無惨にも双子は壮絶な殺し合いをし結果は両者死亡。第三試合は勝者なしの引き分けとなった。
続いて第四試合はアイズ対プア・ファイネ。
アイズにとってはかなり厳しい相手だと思われたが、会場にファイネは現れなかった。
観客席からは、
「殺し合いをしろ!」
「また不正か!」
「この女の仕業だ!」
などという怒声や罵声が飛び交った。
しかしファイネは予選結果発表の時点から姿を見せていなかったことが判明。
また、ウーズを始めとする参加者たちからの目撃情報もなく、これにはダボンも不服そうに苛立ちを募らせていたという。
結局、ファイネの失踪はどうにもならずアイズの不戦勝となった。
とりあえずは一安心だ。
控室へ戻る際に見せたダボンの薄ら笑いだけは妙に気になったという。
◇
そして翌日。
残された出場者はグレガリオンとウーズ・ウォーズの二人。君臨者同士の殺し合いに、観客たちはこれまで以上の熱狂を見せていた。
そこへ二階席からダボンが姿を現す。
「ゴミ共、昨日はよく戦い抜いた。異例の事態はあったものの、俺は優秀なゴミは嫌いじゃないぞ」
あの小便たれ、口だけは一人前以上だな。
「今日は素晴らしき日だ。思う存分殺し合ってくれ」
そう言うと、一瞬だけグレガリオンへ視線を向ける。
「やっぱりあのガキ、イケ好かねぇぜ!」
赤井も苛立ちを露わにしている。
彼にとってはダボンもウーズも憎むべき相手。その気持ちはよくわかる。
そんな中、ダボンはニヤつきながら口を開く。
「第五試合はグレガリオン・ウルファング対ウーズ・ウォーズ――」
『うぉぉぉぉおおおおおおお!!』
盛り上がるのも無理はない。
君臨者同士の戦いなど滅多に見られるものではない。危険という点を除けば、俺だって興味はある。
「ゴミ共、まだ盛り上がるのは早いぞ。この試合の参加者は他にもいる」
嫌な予感しかしない。
「ノックス・ファルシュ、レッドジャスティス、そしてアイズを加えた計五名で第五試合を行う。その名も――」
鬼畜のような笑みを浮かべ、高らかに宣言する。
「バトルロワイヤルだ」
『ウォォォォォオオオオォオオオオオ!!』
「三十分間死に物狂いで逃げ回ることだ、ノックス・ファルシュ」
「マジかよ!!」
「前代未聞だぜ!」
「やっちまえグレガリオン!」
観客たちの熱狂は異常なほど。
チクショウ、イカれ外道め。
どうしたらそんな卑劣な発想が出てくるんだ。
俺たちは三人で一組。
つまり実質三対一対一の構図だ。
一見有利にも見えるが、奴らは君臨者。俺たちが束になっても敵わない化け物たちである。
「それでは出場者の皆様はバトルフィールドまでお越しください」
俺たちはウーズとグレガリオンの二人と対峙した。
グレガリオンは恐らく戦う気がない。
奴は終始、大地の神の様子を気にしている。彼女に万が一が起きる可能性がある以上、無茶はしないはずだ。
しかしウーズは違う。
今もなお、グレガリオンへ強烈な敵意を向けている。それでいて、まるで楽しみにしているかのようでもある。
今、一番警戒すべき相手はウーズ。
奴の敵意がこちらへ向いた瞬間、俺たちの死は確定する。
しかし何故ダボンは三十分という制限時間を設けたのか。
俺たちをいたぶりたいだけなら無制限でもいいはずだ。
それとも長引けば何か不都合でも起きるのか――。
「皆様お揃いですね。制限時間は三十分。それでは第五試合バトルロワイヤル――開始ッッ!!」
防戦に徹底する。
何としても三十分生き延びるんだ。
試合開始直後。
グレガリオンがこちらへ駆け出した。
その瞳は赤く染まっており、まるで野生の本能を宿しているよう。
何っ!?
クソッ、予想外すぎる!
アイズへ視線を送ると、俺の意図を瞬時に察し、剣を握り締める。
赤井も慌ててリボルバーを構えている。
俺は右手を伸ばし魔力を練り出した。
だがグレガリオンは一瞬で間合いを詰め、鋭い爪を振り抜いた。
ガキィンッ!!
衝撃音が響く。
目を開くと、そこにはグレガリオンの大きな背中が聳えていた。
「無事のようだな、魔術師」
一体どういうことだ。
「ウーズが先制して、お前たちを殺そうとしてきた」
なんだと!?
よく見るとウーズは巨大な瓦礫を握っていた。
開始直後に足元を砕き、そのまま投げつけたのか。
「流石はグレガリオン。半獣とはいえ、獣人の動体視力は健在のようだな」
俺の考えが甘かった。
ウーズはグレガリオンと殺りたがっていたんだ。だからこそ邪魔者は先に潰す。
戦闘狂いなら当然の発想だ。
グレガリオンは小声で告げた。
「いいか魔術師。俺はお前たちの味方ではない。だが今は敵でもない」
そして続ける。
「あの方は、ダボンが動き出したと言っていた。恐らくあそこにいる偽の大地の神も関係している。詳しくはわからんが、間もなく大きな何かが動き出すとのことだ」
何だと。
ダボンの野郎、この期に及んでまだ何か企んでいるのか。
「今は生き延びることだけを考えろ。死ぬなよ、ノックス・ファルシュ」
お前に言われなくてもそうするさ。
「何コソコソ話してんだぁ?」
ウーズが全速力で迫る。
同時にグレガリオンも駆け出した。
拳と爪が激突し、激しい爆風が巻き起こる。
ウーズは巨体からは想像もできない速度で攻撃を繰り出し、グレガリオンの爪をかわしていく。
対するグレガリオンも俺たちを庇いながら応戦していた。
彼らの一撃一撃が即死級であることは一目瞭然。
「良いのかグレガリオン? ガキの子守りはよ」
「貴様程度の君臨者、それくらいのハンデがあった方が丁度いい」
二人は一進一退の攻防を繰り広げていた。
まるで俺たちなんかいつでも殺せると言わんばかりに。
「そんな……あんなの人じゃないよ……」
全身を震わせるアイズ。
無理もない。
彼らの身体から滲み出る殺気。
目で捉えられない程の圧倒的な攻撃速度。
次の攻撃を読んでいるかのような戦闘センス。
全てが俺たちを遥かに上回っている。
俺はアイズの肩に手を置き、静かに頷いた。
大丈夫だ。俺たちが互いを信じ、守り合えば必ず耐え凌げる。
「私、頑張る。今日まで沢山特訓してきたんだから」
その時だった。
「ウーズ・ウォーズ! てめぇをぶっ飛ばす!」
赤井が怒声を上げる。
待て赤井!!
肩を掴むが、既に赤井は怒りで我を忘れていた。
「離せノックス! 俺の魂はもう完全に燃えちまってんだ!」
赤井は火縄銃を構えた。
奴を刺激するのはまずい!!
「喰らえ、奴らの想いを――紅蓮式魔導火縄銃『紅』――聖想炎弾!!」
ヒュゥゥン――ドガァァァァンッ!!
赤井の放った弾丸がウーズへ直撃する。
爆煙が会場を覆った。
しかし――。
「なにっ!?」
煙の中から現れたウーズは無傷だった。
肌についた煤を払うように肩を叩く。
「もう終わったか? せっかくわざわざ受けてやったのに、お粗末なもんだな」
まるで格下を見るような目。
「お前ら如き、十秒で足ると思っていたが訂正しよう」
ウーズは笑っていた。
「三人まとめて五秒だ」
そして赤井へ拳を振り下ろした。
「ぐはぁぁぁっ!!」
赤井は吹き飛ばされ、壁へ激突する。
「赤井さん!!」
「仲間を気にしてる場合か!!」
今度はアイズへ狙いを定めた。
両脚に烈風を纏い、アイズの元へ駆ける。
彼女を抱きかかえ、そのまま赤井の元まで離脱した。
さっきまで居た場所の地面が粉々に抉られる。
「チッ、外したか」
「ウーズ。お前の相手は私だろう?」
すぐさまグレガリオンがウーズの前に立つ。
赤井の意識は完全に途切れていた。
俺が指示する前に赤井の治癒を始めるアイズ。
「ここは任せて!」
俺は彼女の目を見つめ、頷いた。
「チッあの男、武器で身を守ったか。まぁいい。これで残るはチビ魔術師とお前だけだ」
俺はグレガリオンと並び、ウーズと対峙した。
絶対にお前の好きにはさせない。
俺の覚悟を感じ取ったのか、グレガリオンは何も言わずにウーズを見据えた。
〈試合時間残り二十五分〉




