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第二十八話「暴漢ウーズ・ウォーズ」


 その大男は、俺たちの前に立ちはだかった。


「そのギルティは俺が喰らう! さぁ、存分に泣き喚け!!」


 そう言うと蒸気を上半身から沸かした。同時にお腹についた脂肪がみるみる内に分厚い筋肉へと変換されていく。

 魔力の感覚とは違う。バフが施されたり、増強剤を飲んでいたようには見えない。


 これがウーズの力なのか?


 てかこんなゴリラみたいな化け物と戦えってのかよ!?


 すると二階席から声が聞こえて来る。


「その者たちは、神聖なる大地の神によって選ばれた本戦出場者だ。お前如きが手を出していい相手ではない」


 割って入ったのは意外にもグレガリオンだった。


 彼の言葉を受け、ウーズは露骨に苛立ちを見せている。


「なら、お前とやり合っても構わんのだぞ、グレガリオン!」


「我は、エクストラ・ライフ・フラワーカーテン様に仕える身。貴様の相手をしている暇はない。――暴喰の君臨者、ウーズ・ウォーズ」



 こいつも君臨者だと!?



 そんなことってありえんのかよ! 一つのエリアに二人も君臨者がいるなんて。

 コイツらが争ったら、ここら一帯の文明が一瞬で崩壊するぞ。


「釣れねぇ奴だ。命拾いしたな小賢しい人種共」


 ウーズは興味を失ったように背を向けると、近くにいた参加者をまるで虫でも払うように吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた獣人族は壁へ激突し、その近くにいた二人も巻き添えになる。

 壁には血飛沫が散り、凄惨な光景が広がっていた。



 司会役の獣人が、恐る恐る口を開く。


「そ、その……ウーズ様……」


「何だ? 今の俺は腹が減って気分が悪いんだ」


「申し上げにくいのですが……ウーズ様が吹き飛ばした獣人族、そして巻き添えになった魔族二名が、本戦出場者でして……」


「知らん。そんな場所にいた奴が悪い」


 まるで自分が世界の中心的な物言いだな。


 すると、一部始終を見ていたダボンが口を開く。


「これはこれは、ウチの者が失礼したな。俺様から詫びよう」


 あの野郎、全く懲りてねぇ。

 そんなこと微塵も思ってないくせに。


「そこで提案がある。名は確か……ゾラ・ワグナーと、バーモンド・ミシェルだったか。その者らに代わり、本戦出場者を追加する。宜しいでしょうか? 大地の神様?」


 わざとらしく頭を下げるダボン。


 大地の神は無言のまま頷いた。


「大地の神の慈悲に感謝致します。亡き二名の代わりに――」


 ダボンは不敵な笑みを浮かべる。


「ウーズ・ウォーズ。そして、グレガリオン・ウルファングの出場を認める」


 なんだと!?


 よりにもよって、君臨者が二人も参戦するのかよ。いかにもな悪党と、むっつり悪党が参加するなんて、最悪中の最悪だ。


 ウーズは満足げに笑う。


「親分からのご指名とあらば仕方あるまい。快く受け入れよう。なぁ、グレガリオン?」


 一方でグレガリオンは黙ったまま目を閉じていた。



「これは……厄介なことになったね」


 仮面を付けた人物ララ・フーディーが静かに呟いた。


「あ、あの……もう一名、べシェル・トーチの代わりは……?」


 司会がダボンへ問いかける。


「あ? そんな奴、俺の知ったことか。適当に順位を繰り上げればいいだろ。いちいち俺様に話しかけるな。殺すぞ」


「し、失礼致しました! それではダボン様の命により、十一位の者に出場権を与えます――」


 焦った様子の司会が大きく息を吸い込む。





「レッドジャスティス、前へ!」





 ――それはまさしく、奇跡だった。



 不測の事態とはいえ、赤井の本戦出場が決まったのだから。


「良かったですね、赤井さん!」


 自分のことのように喜ぶアイズとは対照的に、身体を震えさせる赤井。


「お、おい……嘘だろ……」


「やったな赤井――って、大丈夫か?」


「お、俺……あんな化け物どもと戦うのかよ……」


 無理もない。


 君臨者が二人も加わったことで、本戦はさらに危険な舞台へ変わってしまったのだから。




 ◇


 俺たちは祝勝会も兼ねて、中央通りの屋台へ昼食を食べに来ていた。


 相変わらずヘンテコな料理ばかりで、食欲が削がれる。いっそここで異世界食堂でも開いたら、案外繁盛するんじゃないか?


 そんなことを考えていると、赤井が勢いよくスープを流し込んだ。


「はぁ〜、うめぇ! 久々にまともな飯食ったわ!」


 お前の味覚が羨ましいよ。


 赤井は爪楊枝を咥えながら尋ねてくる。


「そんなことより、本戦って何すんだ?」


 確かに気になっていた。


 今さらスポーツってことはないだろうけど、ダボンのことだ。きっと残虐な催しを考えてるに違いない。


 すると、隣の席に居合わせた奴が独り言のようなことを、デカデカと口にしてるのに気がつく。


「何故、“イ”が“ム”なのだ!」


 三人と一匹が一斉に振り向く。


 そこにいたのは――暴漢ウーズ・ウォーズだった。


「なんでお前がいるんだよ!?」


 思わず声を荒げてしまう。


 テーブルには、人間一人では到底食べ切れない量の料理が所狭しと並んでいた。

 ラーメン、カレー、ステーキ、寿司、ドロドロのスープ、見たこともない異世界料理まで。


 軽く五十人前はある。


「おい! 次のメシを持ってこい!」


 店員へ怒鳴った後、ウーズは俺たちへ視線を向けた。


「よう」


「“よう”じゃねぇよ! なんでここにいるんだって聞いてんだ!」


「お前、面白いことを言うな。飯屋に来てすることは一つだろう。腹ごしらえだ」


 いや、そうなんだけど……。

 何故さっきまで、散々殺気を撒き散らしていた暴喰の君臨者が、俺らの隣で普通に飯食ってんだ? って聞いたつもりだったんだけど。


 ウーズは俺の空皿を見て、ぼそりと呟く。


「あげないからな?」


「いらねぇよ!」


 不思議なことに、今のウーズからは覇気、というか敵意が感じられない。


 むしろ、どこか気の抜けた空気すら漂っている。


「それより、“イがム”って何なんだ?」


 奴が最初に独り言のように言っていたセリフが気になって仕方がない。


「そのままの意味だ」


 わからねぇから聞いてんだろうが!

 こいつと話していると、妙に調子が狂う。

 しかも、アイズと赤井は平然と飯を食ってるし。

 お前ら、もう少し警戒しろよ。


「良かったら、お一つどうぞ」


 アイズが、餃子のような料理をウーズへ差し出す。


「おお! すまんな!(ゴクリッ)」


 ウーズはそれを丸呑みする。


 アイズ、お前な……。

 こいつはダボン側の人間なんだぞ。

 そんな簡単に気を許すでない。


 餃子を飲み込んだウーズが、先ほどの問いに答えた。


「本戦の話だ。五日後に行われるのは――“殺し合い”だからな」


 一同が息を呑む。


 やはり、そう来たか。

 いかにもダボンが考えそうな内容だ。出場者同士を殺し合わせ、自分は高みの見物。本当に性根が腐ってやがる。


「俺とグレガリオンを含めた十人が、トーナメント形式で戦い、優勝者を決める」


 トーナメント戦か……。

 恐れていたことが現実になってしまった。

 こっちは仲間が三人。そして君臨者が二人もいる。

 トーナメントだと明らかに不利だ。


「つまり、“コロシアム”じゃなく“コロシアイ”ってわけだ!」


 コイツの脳みそは血に飢えた筋肉で出来ているのか?

 いや、たぶん本当にそうなんだろう。

 


 俺は前から気になっていたことを口にした。


「なぁ、ウーズ。何故グレガリオンは君臨者なんだ? あいつは悪党だったはずだろ?」


 その瞬間、ウーズの手が止まる。


「やっぱりお前は面白い奴だな。お前は、俺たちが何故“君臨者”と呼ばれているか分かるか?」


 君臨者と呼ばれる理由。

 ヘヴゲでは元から存在する設定だったから、深く考えたこともなかった。


 各職業の頂点に立つ者たち。

 彼らは、何故その座に君臨し続けられるのか。


「……強さ、か?」


「そうだ。君臨者は各分野における頂点、つまり最強でなければならん。そしてそれを維持するだけの力を有している必要がある」


 ウーズはさらに続ける。


「では何故その地位を確固たるモノに出来るのか。答えは、信念だ。君臨者は皆、気高き信念を持っている。そこに善悪が介在する余地はない。お前の言うところの悪党などという陳腐な概念は存在しないのだ」


 信念、か。


 確かに、ただ強いだけの奴なんていくらでもいる。

 だが、その座に居座り続けるには、強靭な精神と覚悟が必要というわけだ。


「正直、グレガリオンは気に食わん。だが、奴は君臨者としての力も信念も持っている。それだけは認めざるを得ん事実だ」


 一体、グレガリオンの信念とは何なんだ。


 そして、それはコイツの中にもあるということか。


「頭を使ったら腹が減った。シメの甘味でも食いに行くか。お前らも来るか?」


「行かねーよ」


 アイズは少し名残惜しそうにしていたが、誘いは断った。

 間違っても奴は俺らにとっての敵だからな。

 少なくともこの試合期間中は。


「よし! 特訓するぞ、お前ら!」


 そうして俺たちは、五日後の本戦に向けて鍛錬を始めるのだった。


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