表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

第二十七話「仲間のために」


 コロシアムには、延べ五十人ほどの参加者が集まっていた。


 予選三回戦目では百人近く残っていたはずだが、望み薄と判断した者たちが諦めて来なかったのだろう。


 逆に言えば、ここに残っている連中は全員実力者だ。あるいは、自らをそう評価している者たち。


 いずれにせよ強者であることに変わりはない。


 司会役が、なにやらメモ書きのような紙を持って現れる。


 二階のVIP席には、大地の神はもちろん、ダボンやウーズ、そしてグレガリオンの姿もあった。



 ――ついに結果発表だ。


 受験なんてしたことはないが、きっとこんな気分なんだろう。


 この結果が、この先の人生を左右するかもしれないと思うと、気が気ではなかった。


「えーっと、それでは結果を発表いたします。呼ばれた者は前へ来るように」


 そう言って、司会は参加者たちの名前を読み上げていく。


 一位 プア・ファイネ

 二位 ララ・フーディー

 三位 アイズ

 四位 ノックス・ファルシュ

 五位 ゾラ・ワグナー

 六位 バーモンド・ミシェル

 七位 クワイラス・ヘルショップ

 八位 ジジ・ロロ

 九位 ベシェル・トーチ

 十位 アセロラ・アークライト


「以上、十名が本戦出場資格を得る」




 ――そこに、赤井の名前はなかった。




 あまりにも想定外の結果に、思わず頭が真っ白になる。


 赤井は俺の隣で、何も言わず膝から崩れ落ちていた。


 アイズも俯いたまま、口を開かない。


 そんなことって……。


 こんな時、何て言葉をかければいいんだ。

 どんな顔をしてやればいいんだ。


 残酷すぎるだろ。


 赤井は、この大会に出るために銃を拵え、遥々カフェナからオアシスまで来たっていうのに。


 あんまりだ。


 動揺する俺の隣で、赤井は静かに立ち上がった。


「……お前ら、良かったな。これで本戦に出場できるじゃねぇか」


 俺もアイズも、何も答えられなかった。


 赤井のその表情は、とても他人を祝福できるような顔じゃなかったのだから。


「俺のことは気にすんな。自分のことだけ考えろよな……」


 赤井は全力で作り笑いをしていたが、今にも泣き出しそうなぐらいの涙をグッと堪えていた。


「赤井……」


 俺たちは肩を寄せ合い、何も言葉を交わさないまま、互いを称え合った。



 そんな中――二階席にいたダボンが口を開く。


「まず、予選通過者には祝辞を送ってやろう。こんな糞ゴミみたいな集団の中でも、お前らは多少マシなゴミだってことが証明された」


 その発言を聞いた瞬間、俺の理性は音を立てて軋み始めた。


 ここにいる奴らは、今日という日のために必死に鍛錬を積んできたんだ。それぞれが自分の夢のために努力し全力で頑張ってきたのに、コイツはそれをゴミなどと言った。


 許せない。


 血が出るほど強く拳を握りしめ、真っ黒で邪悪な魔力が全身から溢れ出る。


「そこのお前。何か言いたそうだな」


 顔を見なくてもわかる。

 奴は、俺を見ている。


「……ざっけんじゃねぇ」


「何だ? 聞こえないぞゴミ虫ィィ! 立場がわかっていないようだから教えてやるよ。お前らは所詮、ゴミの中のゴミだ。底辺中の底辺。お前らみたいな下等生物はな、俺たち王族に媚びへつらって、そのくだらん人生を捧げればいいんだよ!!」



「ダボンてめぇぇぇぇえええええええ!!!」



 怒りという感情は、抑え込もうとするほど暴走する。これまでの人生で、俺はそういった激情とは無縁だった。


 アイツが屋上から飛び降りた時でさえ、怒りなんて感情は湧かなかった。


 ――だが、今は違う。


 憤怒という名の刃が心の奥底に沈殿していた闇を掻き回していく。


 黒い感情が俺の心を侵し蝕んでいくのがわかる。


 俺はそれを止めようとは思わなかった。


 気づけば右手が前を向いていた。

 心の底から溢れ出した闇が右腕へと絡みついていく。


 左義手の口が俺の意思とは無関係に呪文を唱え始めた。


 その言葉は自分でも聞き取れない。


 だが――最後の一節だけは、はっきりと耳に届いた。


「――漆紅の業火に焼かれろ(ヘル・ディアブロ)


 瞬間、右腕が灼熱の黒炎に包まれる。


 それは龍の姿へ変貌しそのままダボンの元へ向かって飛翔した。


 危険を察知した仮面の人物が、アイズと赤井を抱えてその場から飛び退くのがわかった。


 ほぼ同時に、グレガリオンが大地の神の前へ立ちはだかった。その鋭い視線は、アイズたちを捉えている。


「お、おい! 何をしているッ! ウ、ウーズ! 俺を守れぇッ!!」


 情けない悲鳴を上げるダボンに対して、ウーズは不気味な笑みを浮かべたまま、その場から動こうとしなかった。


 黒き炎龍は二階席へ迫る。


 その場にいた誰もが、惨劇は避けられないと悟った。




「ノックスーー!! 戻ってきて!!!」




 憤怒に飲み込まれた暗闇の中に、アイズの声が一筋の光のように差し込む。


 ふと前を見ると目の前にはアイズの姿がある。

 それが幻影だということをすぐに理解した。


 どうして止めるんだ。


「ノックスは、人を傷つけるような人じゃない。もっと優しさに溢れた人だって、私は知ってるから」


 でも、あんなこと言われて……。

 俺、黙っていられなくて……。


「わかるよ。誰かを想う気持ちが溢れて、感情が抑えられなくなること、あるもんね」


 あぁ。だから俺は、ダボンが許せなくて……。


「それでも、力は誰かを傷つけるためじゃなくて、仲間を守るために使うべきだと思うの」



 アイズの幻影が消え、フュンディーニが現れる。


「強くなったな、ノックス」


 フュンディーニ! 今までどこに行ってたんだ!?


「アタシはずっとそばにいたさ。いつだってな」


 なら、どうして……。


「お前もわかってるのだろ? これが幻だってことくらい」


 ……そうだ。これは、幻だ。


「はぁ、まったく。こんな弱虫に鍛え上げたつもりじゃなかったんだけどな」


 ……。


「いいかノックス。最後の教えだ――」


 フュンディーニはいつものように腕を組み、真っ直ぐな眼差しで告げる。


「この世の全ては、愛によって育まれる。それを放棄した先に待つのは、果てしない闇だ。だが、お前は愛の尊さを知っている。その素晴らしさもな」


 静かで、それでいて力強い言葉だった。


「今は憤りを抱いていても構わない。だが忘れるな。世界を受け入れ、万物を愛することを。そうすれば、お前は今よりさらなる高みへと到達できる」


 そして、最後にこう続けた。


「進化とは、変化を受け入れることだ。そして、大切な仲間を想い、負の感情を手放すことでもある」


 そう言い残し、フュンディーニは光の中へ消えていった。



 気づけば、黒き龍は霧散しており、暗闇は消えていた。




 目の前には、仲間たちがいる。


「ごめん。俺、自分を見失ってた。闇に飲まれて、自分の弱さを抑えられなくなって……。でも、アイズや赤井のことを想い出して、なんとか戻って来れた」


「ノックス……」


 アイズは涙を浮かべながら、優しく微笑んでいた。


「お前なぁ。いくら親友のためとはいえ、アレはやりすぎだろ。危うく巻き添えであの世行きだったぞ」


 赤井は、いつもの調子で軽口を叩いてくる。


「誰が親友だ」


 これが仲間ーー。

 何もかもが初めての経験で、その素晴らしさを実感するだけで今の俺は精一杯だった。



 そんな俺たちを少し離れた場所から、仮面の人物が見つめている。


「あんな膨大な魔力、久しぶりに見たよ。師匠の本気以来かなっ。危うくアレを使うところだったよ」



 そんな和やかな空気を壊すように――巨大な影が空から落ちてくる。


「ギルティーーお前ら自分たちが何をしたのか、わかってるよな?」


 空から現れたのは、暴漢ウーズ・ウォーズだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ