第二十五話「予選開始」
「オラァァァァァーーーーーッ!!」
静まり返った会場へ、熱血男の叫び声が響き渡る。
「ゼェ……ゼェ……なんとか間に合った……! この大会、俺も参加させてもらうぞ……って、うわぁ何コレ!? 内臓ばら撒かれてんじゃん! 気持ち悪りぃ! これも開会の儀式的なやつなのか!?」
あのバカ、空気を読めっつうんだ。
騒がしく現れたのは、レッドジャスティスこと赤井正義だった。
「お前、こんな大事な日に何してたんだ? てか、なんか雰囲気変わってないか?」
「えっとだな……昨日、気合いを入れるために床屋へ行ったんだが、“イカす髪型にしてくれ”って頼んだら、まさかの丸刈りにされてな。その足でカツラを作りに――」
「もういい」
状況を理解できていない赤井に、アイズがこれまでの経緯を説明した。
「なんじゃそりゃぁ!! 神ってそんな無慈悲だったのかよ!」
……まぁ、ある意味では無慈悲なんだろうな。
「何だ、あのヅラ野郎は」
ダボンが露骨に眉をひそめる。
それを聞いた赤井が声を荒げた。
「誰がヅラだって!? テメェ、ガキ! 今すぐ降りてこい! 目上の者に対する口の利き方を教えてやる!」
赤井よ。ダボンの方が目上なんだぞ。
「なぁダボン。あいつ、屠るか?」
ウーズが一歩前へ出る。
「放っておけ。あんなゴミ、放置していても勝手にくたばる」
荒ぶる赤井を、俺たちは必死に押さえ込んだ。
そんな騒動の中、司会役が大声を張り上げる。
「それでは、これより本大会のルール説明を始めます!
本大会は、“予選”および“本戦”の二部構成となっております。予選を勝ち抜いた者のみ、本戦への出場資格を得ることができます。
予選では三種類の競技を実施。総合成績上位十名のみが、本戦へ進出可能となります!」
なるほど。優勝するには、まず予選を突破しなければならないのか。
予選通過者は十名。
対して参加者は、およそ五百人。
つまり予選突破率は――二%。
随分と狭き門だな。
全員、本戦に進めるといいんだが。
かくして、“ヘヴリンピック”予選が幕を開けた。
◇
予選最初の競技は、徒競走だった。
砂漠へ雑に引かれた一本線。
距離は、おおよそ二百メートルほどか。
ランダムに選ばれた五十人が一組となり、砂漠を駆け抜けてタイムを競う形式らしい。
幸い、俺とアイズ、赤井はそれぞれ別グループだった。
俺とアイズは足には多少自信がある。
よほどのことがない限り、酷い結果にはならないだろう。
問題は赤井だ。
あいつの運動神経は未知数。
しかも、やたら重そうな銃を背負っている。
さっき全力疾走してきた姿を見ても、足が速いタイプには到底見えなかった。
……まぁ、一応ライバルだ。そこまで気にする必要もないか。
そんな中、最初のグループがスタート地点へ並ぶ。
その大半は、いかにも屈強な戦士といった風貌だ。
そして、その中にはプア・ファイネの姿もあった。
大丈夫かよ。
案の定、周囲の連中は彼女を見て鼻で笑っている。
それでもファイネは気にした様子もなく、真面目に準備運動を続けていた。
怪我でもしなきゃいいんだけどな。
――パンッ!
開始の合図が鳴り響く。
一斉に駆け出す参加者たち。
だが、ファイネだけは微動だにしない。
……ファイネの奴、諦めたのか?
すると次の瞬間、ファイネの身体から禍々しい魔力が溢れ出した。
「ミミズさんこちらに出ておいで〜♪」
直後、地面の砂が脈打ち始める。
大量のアースクエイクワームが地中から飛び出し、参加者たちを次々と丸呑みにしていった。
「おい、反則だろ……」
開始直後まで五十人いた参加者たちは、ものの見事に全員捕食された。
――ファイネを除いて。
彼女はゴール地点で、お決まりの決めポーズを取っている。
最近の若い冒険者は末恐ろしいな。
続いて、アイズのグループがスタート位置へ並ぶ。
彼女もファイネ同様、周囲から絡まれていたが、全て無視して精神を研ぎ澄ませていた。
開始音と同時に、アイズが風のように駆け出す。
まぁ、彼女に関しては心配していない。
並外れた反射神経と身体能力を持つアイズが、そこらの冒険者に負ける姿は想像できなかった。
案の定、彼女は余裕で一位を勝ち取っていた。
その後、二組ほどのレースを眺め――ようやく俺の番が回ってくる。
俺のグループには、オークスと一緒にいたトカゲ男や狼男の姿があった。
最悪だ。
因縁をつけられてもおかしくない。
だが、奴らは俺を見るなり、なるべく距離を取るように離れていった。
……どういう風の吹き回しだ?
グレガリオンの語っていた“獣人の誇り”とやらを再認識したのか。
まぁ、理由は分からん。
とりあえず放っておこう。
俺は脚へ風の魔力を集中させ、小声で呪文を紡ぐ。
そして――開始の合図と同時に、足裏から暴風を解き放った。
「烈風脚」
魔術が発動した瞬間、周囲の参加者たちが遥か後方へ吹き飛ばされる。
そして俺は、一秒とかからずゴール地点へ到達していた。
……あちゃ〜。ちょっとやり過ぎたか。
あの技は加減が難しい。
やはり多用するべきではないな。
「ふふん。やるねっ、義手の少年」
アイズの後方にいたお面の人物が、静かに呟いた。
そして赤井だが――最後のグループに配置されていた。
律儀に全力疾走した結果、順位は後ろから三番目。
実に情けない成績だった。
それでも闘志を失わないあたり、流石は熱血バカである。
……少しは俺も見習うべきかもしれない。
こうして全員の第一競技が終了し、続けて第二競技の案内が始まった。




