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第二十四話「強者たち」


 その姿は、まさしく神と呼ぶに相応しかった。


 頭には無数の装飾品が取り付けられた豪奢な被り物。その奥にある顔は影に隠れ、一切窺うことができない。


 指には宝石の嵌められた指輪。

 首元には黄金のネックレス。

 さらには腕輪に至るまで、身につけている装飾品の全てが、一目で国宝級と分かる代物だった。


 そして、その手には金細工の施された扇。

 まるで退屈そうに、時折ゆるりと扇いでいる。


 大地の神の登場により、会場は一気に熱気に包まれた。


「お顔は見えないけど、すごく綺麗な人だね。でもノックスの言ってた“はれんち”とは程遠い感じがするな」


 うむ。アイズの言う通りだ。

 目の前にいる大地の神は気品に溢れている。

 顔こそ見えないものの、俺がゲームで見た彼女とはまるで別人。

 まあ、融合異世界だ。今さら多少の違いで驚きはしないがな。


 それよりも大地の神の傍らには、ひと際異彩を放つ者たちが控えていた。


 そして、その中には――奴もいる。


 半獣の君臨者グレガリオン・ウルファング。


 何故、あんな場所にいる。

 あの立ち振る舞いを見る限り、オークスの言っていた君臨者という言葉に間違いはないだろう。



 さらに、その反対側には見慣れない連中の姿もあった。


 グレガリオンの倍近い巨体を持つ大男。

 膨れ上がった腹はかなりの肥満体型だ。

 まるで暴漢そのもののような威圧感。


「ガハハハッ! ダボンよ! 参加者が米粒みたいだなぁ! この米粒どもの中に、俺を満足させる奴がいると思うとワクワクするぜぇ! ガハハハッ!」


 ここからでも聞こえてくる、物騒な笑い声。


「黙れ。耳障りだ」


 その隣には身分の高そうな少年が豪華な椅子に座っている。


 そして、司会らしき獣人が口を開こうとした――その瞬間。


 少年は立ち上がり、手を振り翳してそれを制した。

 ゆっくりと一歩前へ出ると、不遜な態度のまま口を開く。


「この大会は、偉大なる一族の血を引くこの俺

 ――ダボン・アレクシスが取り仕切る」


 ダボン・アレクシス?


 聞いたことがない名だ。

 アレクシス家は、代々剣皇国を統べる家系。

 だが、俺の知る歴史に“ダボン”なんて奴はいなかった。


 ……あのガキ、ただのモブか?

 それとも俺が見落としていたイベント限定キャラか。


「有象無象のゴミ共。せいぜい我を楽しませるために、血と汗を流して足掻くがいい」


 その傲慢な言葉に、会場がざわめき始める。


 だが次の瞬間――隣に立つ大男が怒声を轟かせた。


「静マレェェェェェ!!!!」


 腹の底まで震わせるような一喝。

 それだけで、喧騒に包まれていた会場は、水を打ったように静まり返った。


 少年は苛立ったように眉をひそめる。


「ウーズ・ウォーズ。俺は黙れと言ったんだ」


「悪い悪い、聞き取れんかったわ! ガハハハッ!」


 どうやら、あの大男の名はウーズ・ウォーズというらしい。


 ダボンはニヒルな笑みを浮かべながら続けた。


「もちろん、貴様らにも褒美は用意してある。優勝者には――大地の神から加護が授けられる。そうだよな?」


 そう言って、ダボンは大地の神へ視線を向けた。


「ええ。私の加護で、望むものを与えましょう。金貨でも、名誉でも……不死の命でも」


 ――耳を疑った。


 優勝すれば、大地の神の加護が貰えるだと?

 願ったり叶ったりじゃないか。

 加護が貰えれば、この左腕だって治してもらえる。

 もしかすると、この喉の異常すら。


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。


「アイズ。出るぞ」


「え、何に出るの?」


「決まってんだろ。ヘヴリンピックだ!」


 額から汗を流す俺を見て、彼女は満面の笑みで頷いた。



「んぁ〜、どうでもいいけどよぉ。早く戦わせろっての」


 後方から、馬の頭をした獣人族の男が鼻息荒く声を上げる。

 両脇には仲間らしき女が二人。


 ……いるよな、こういうタイプ。

 大体すぐ脱落するんだよな。


 女たちが男へ囁く。


「ねぇブラッシュ、あそこにいるキラキラした女、なんかムカつかない?」

「わかる〜。大地の神だかなんだか知らないけど、マジお高くとまってない?」


 ブラッシュと呼ばれた男は鼻息を荒くし、背負っていた槍を構えた。


「んじゃ、ちょっくら痛い目見せてやるか」


 そう言うと、男は呪文のような言葉を口ずさみ、壇上目掛けて槍を投げ放つ。


 放たれた槍は発火しながら勢いを増し、炎の渦を纏って一直線に突き進んだ。


 ダボンがそれに気付き、慌てて頭を抱える。

 ウーズ・ウォーズが前へ出て、壁となった。


 そんな中、グレガリオンが静かに口を開く。


「ここは私が」


 だが、大地の神は笑みを浮かべたまま言った。


「いいえ。結構」


 着物のような衣服から、白い手が静かに伸びる。


 そして、ゆるやかに口を開いた。


「――絶空」


 その瞬間。


 五十メートルはあろうかという、紫色の魔力障壁が出現した。


 ――冗談だろ!?


 デカすぎる!!


 魔力障壁――絶空

 高等魔術に分類される防御魔術。

 魔術による攻撃を防ぎ、無効化する壁を生み出す。

 通常の詠唱発動でも、せいぜい一〜二メートル四方が限界。

 だが、彼女が無詠唱で展開したそれは、その数十倍の規模を誇っていた。


 これが――フュンディーニすら認める、神の力。


 しかし、絶空は魔術こそ防げても、物理攻撃までは防げない。

 槍に纏った炎は防げても、槍そのものは止められないはずだ。


 大地の神は余裕の笑みを崩さなかった。


 人差し指と親指。

 その二本を顔の前で軽く構え――。


 一直線に飛来する槍を、指先だけで掴み取った。


 会場中が息を呑む。


 後方にいたブラッシュ本人ですら、眼球を震わせていた。


 ようやくダボンが頭を上げ、声を荒げる。


「だ、誰だ!? 槍を放った無礼者は!!」


 ブラッシュは顔を青ざめさせ、背を向けて逃げ出そうとしていた。


 だが、神はそれを見逃さない。


 彼女は人差し指をくるりと回し、自らの方へ引き寄せる。


 すると、ブラッシュの身体がひとりでに浮き上がり、壇上へ吸い寄せられていった。


「は、離せ!! おいグレガリオン!! なんとかしろ!!」


 グレガリオンは表情一つ変えず、男を見下ろしていた。


 ブラッシュの身体が壇上まで引き寄せられたところで、大地の神が静かに口を開く。


「私に牙を向ける愚かな獣人よ。貴様の血は何色だ?」


 そう告げた直後。


 男は絶叫を上げた。


 次の瞬間――四肢と頭部がそれぞれ別方向へ引き裂かれ、臓物が辺りへ撒き散らされる。


「そうか。獣人族の血は、ドブのような色をしていたな。なぁ、グレガリオン?」



 大地の神エクストラ・ライフ・フラワーカーテンは、口元についた血を音を立てて舐めた。


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