第十七話「異世界クラフトワークス2」
ヘヴゲをプレイしたことがあり、ノクターン・ザ・ライトニングを知っている点。
そしてレッドジャスティスという名前。
さっき気がついたが、俺はこの名前を現実で見たことがある。
深夜に必ず俺のサイレントゲーム実況を視聴しに来ては、熱過ぎるコメントを残す熱血バカ。
ユーザーネーム"@red_justice"を。
コイツがそうだったのか。
これら情報をまとめると、恐らく、いや間違いなく赤井正義は――
勇者支援部隊である。
すっかり日も暮れ、俺たちは砂漠地帯のど真ん中で野営をすることにした。
砂漠の夜はとても寒い。それは融合異世界も例外ではなかった。
幸い、アースクエイクワームの死骸がまだ冷え切っておらず、身を寄せると程良いぬくぬく加減だった。
死後あまり時間が経っていないせいか、時折動き出すのが気色悪いが。
「コイツ、めっちゃ美味ぇぞ!」
「見た目はアレですが、歯ごたえがあって美味ですね」
二人は相当腹が減っていたようで、アースクエイクワームの肉をステーキにしたり、串焼きにしたりして食べていた。
「ノックスも食えよ。食える時に食っとかないと、身がもたないっすよ」
俺は苦笑いを浮かべながら、一口肉を頬張った。
うえぇ……食感が気持ち悪い。
こう見えて俺はとても繊細なんだ。
基本的に加熱処理&密封されたレトルト食品、またはカップヌードルしか口にしない。
それと赤井よ、敬語なのかタメ語なのかハッキリしてくれ。
そんなことよりも、赤井は俺たちが知らない、この世界のことを知っている。
どうにかして情報を聞き出さねば。
しかし、今一番気がかりなのが……。
ムクッ。
俺の下事情だ。
はぁ、一体どうなっちまったんだ俺の体。
二人は腹を満たすと、すぐに眠りに就いた。
赤井と俺は同じ場所で、アイズとラパンは死骸の反対側で眠ることにした。
二〜三十分ほど目を瞑っていたが、体のあちこちがバッキバキだったせいで、中々眠れずにいた。
そろそろ二人とも寝静まった頃だろう。
周りを確認してそーっと下半身に手を伸ばす。
ここいらで一発ぬい……。
「キャーーーー!」
死骸の反対側から悲鳴が聞こえてくる。
赤井もそれに気づき、声のする方へ急ぐ。
叫び声の主はアイズだったのだが、その姿に俺たちは驚愕した。
死骸から伸びた触手が、彼女の身体の至る所に巻き付いていたのだ。
それはもう、あんな所やこんな所に。
何というか……。
「これはこれで……」
エロい!
「エロい!」
顔を赤らめる彼女。
「見ていないで助けて下さい!」
アイズの救出に時間を要することはなかった。
死骸がまた襲いかからないように、今夜は三人と一匹が同じ場所で寝ることにした。
それはそれで、とても厄介なのだが。
全く収まる様子のないミニノックス。
よし、こうなったら手を動かすしかない。
断じて、そういう意味ではない。
アイズのホーンスピアを拝借し、アースクエイクワームの外表の肉を切り出す。
ある程度切り進めると、中には一際大きな内臓が詰まっていた。
何か使えそうな部位は無いかと選別していると、その中で蠢くモノが目に入る。
他の部位とは色が異なり、綺麗な朱色をしている。
これは!
激レアな寄生魔物“パラサイト・スライム”だ。
アースクエイクワームの中にいたのは、心臓に擬態した寄生魔物パラサイト・スライムだった。
寄生魔物は宿主から魔力を吸収し、蓄える習性がある。その中でもパラサイト・スライムは、魔力の吸収率、放出率がとても優れている。
アースクエイクワームが進化したのも、このパラサイト・スライムの仕業だろう。
宿主が危機に陥ると、蓄えた魔力を放出し、依代を強化蘇生する。
また、パラサイト・スライムは超レアな寄生種で、様々な魔導具の素材となる。
ポーションの容器なんかは、この“魔力を蓄え留める習性”を利用して作られると、王立図書館の本に書いてあった。
これは良い収穫物だ。
コイツを使って、新たな便利アイテムを作ろう!
パラサイト・スライムを死骸から丁寧に取り出す。
刺激を与えるとピクピク動き出すところがめっちゃキモい。
さらに両手で持ち上げると、腕の傷口から侵入しようとしてくる。
試しに放置していると、神経接続してきた。
寄生魔物は、寄生されていることに気づかなければ宿主と共存関係を構築する。
だが、一度でもその存在に気づいてしまうと、宿主の魔力が枯れ尽きるまで超吸収し続ける。
そして次の宿主を探す旅に出る。
しかしコイツは逃げ出す様子がない。
むしろビクビクしながら、その場に留まっている。
俺はパラサイト・スライムの観察を続けた。
しばらく見続けていると、コイツの心の声のようなものが聴こえてくる。
(やめてくれぇ……。オイラは静かに暮らしたいだけなんだ。言うことなら聞くから、どうか痛めつけないでくれぇぇえええ)
何だコイツ。
寄生生物にも感情ってもんがあるんだな。
痛めつけるも何も、まだ何もしてないだろ。
まぁ生憎だが、俺はお前をアイテムにすると決めているがな。
まず始めに、アースクエイクワームの牙を五〜六本削り、骨格を作る。
その骨格に、パラサイト・スライムを纏わせる。
これでパラサイト義手の完成だ。
そして、このパラサイト義手を左腕にくっ付け、神経接続させる。
(怖いよぉ……助けてくれよぉ……)
黙って俺に寄生しろ!
傷口から内部に侵入してくるのがわかる。
うぐぃ……。
神経との同化が始まる。
とてつもない激痛が走った。
よし……第二段階も成功。
最後に、パラサイト義手に魔力を注ぐ。
動け、動け、動けぇぇえええ!
左手の小指がピクリと動く。
続いて薬指、中指が動き出し、やがて手の感覚を取り戻していく。
よし、成功だ!
俺は新たなる相棒――パラサイト・ハンドを手に入れた。
気づくと朝陽が差し込んでおり、結局一睡もせずに朝を迎えていた。
コイツの扱いを練習していると、赤井が寝ぼけ眼で寄って来た。
「朝早いっすねぇ……何すかそれ?」
俺は赤井にパラサイト・ハンドを見せた。
「うわっ、キモっ!! 何なんすかそのグロい手は」
一通り完成はしたが、如何せん肌質に似た皮が見つからなかったため、朱色の肉が剥き出し状態になっている。
自分でも思うが、何度見ても慣れないグロテスクさだ。
デザイン性よりも利便性を優先した結果だから仕方がない。
俺たちの話し声に気づき、アイズとラパンが目を覚ます。
「おは……なんかちょっと吐きそう。お手洗い行ってくる」
アイズは顔色を変え、死骸の裏に走った。
なぁ、そんなに俺の左手が見るに耐えないっていうのか。
熱心に作っていたから気づかなかった。
今では愛着すら感じているんだ。
それともう一つ、パラサイト・ハンドには隠された機能がある。
顔を青くしながらアイズが戻ってくる。
「ごめん、ちょっと昨日食べ過ぎて……」
「体調管理くらいしっかりしてもらわないと困るぞ。そうだ、昨日パラサイト・ハンドを作るのに、お前のホーンスピアを拝借した。多少汚れているが、まぁ気にするな」
アイズは俺の真っ赤な左手の真ん中についた“口”を見て、顔を真っ青にして死骸の奥へと戻っていった。




