清井 薫 Ⅵ 滝田 裕二 Ⅲ
むさ苦しいとはこの事だった4人掛けテーブルに大の男が5人、ガスロースターを囲みそれを箸で突いていた、パシフィックドラゴンの事務所を後にしたが反社でありながらめっぽう酒に弱くさっきから『やめたやめた』と連呼する自称元ヤクザこと合家 卓もなぜか同席し宴は混沌としていた、実際周りの客は如何にも気になるのか携帯で隠し撮りをしている者もいた、私も第三者なら同じ事をするだろう身長が2mに届こうかという巨躯の男が3人、片やその巨躯に挟まれる細身が2人、多分格闘家とそのマネージャーとでも思われているのだろう素人集団とも知らず電池を無駄に消費している。
「あの合家さん、大丈夫なんですかこんな事してて?」
「合家さんとかやめてくれよ卓でいいから」
「ヤー公、テメェ卓ってのか?しょーもない名前やのぉ」
何が引っ掛ったのかガンさんが合家に噛みついた、合家もすかさず立ち上がると言い返す。
「卓の何が悪いんだ言ってみろ!」
しかし当の本人は知らぬ顔で焼肉を突いている合家はガンさんの胸ぐらを掴むとガンさんは眼光鋭く合家を睨んだ、これはまずい私は止めてくれと土門に頼んだが知らぬ存ぜぬと焼肉を焼いているすると裕二が私に小声で説明した。
「兄貴は大の阪神ファンだから卓はマズいの“空白の1日”覚えてる?」
私の中の“説明”と言う言葉が間違っているのか“阪神”以外の言葉は説明を成していなかった、忘れぬ内に携帯でそのワードを打ち込むと成程、これは阪神ファンであれば誰でも頭にくる名前に間違いなかったがそれは冤罪、合家にとってはとんだ濡れ衣だった、しかしその事件が起こったのは40年以上前の事でよく子供の頃を覚えていると感心すると同時に2人の年齢を知りたくなり質問した。
「ガンさんと裕二さんってお幾つなんですか?」
ガンさんは一瞬裕二の方を見ると裕二がその質問に答えた。
「えっと僕が1946年生まれで兄貴は五つ上だから1941年生まれ、だから⋯どちらも80歳くらいと思うよ」
場が凍りつくと皆の箸が止まった、そして次の瞬間どっと笑いが起こった土門は馴れ馴れしく裕二に肩を回すと『普通は若く言うもんだ』と言ってみせ合家は美魔女だと笑っていたが裕二のキョトンとした表情はそれが嘘でない事を物語っていた、ガンさんの表情は“だろうな”と諦めた苦笑い、確かにガンさんは50代、60代は流石にと言った見た目ではあるが裕二に関してゆえば本当ならバケモノとしか言い様がなかった、だが私はそれを事実として敢えて質問を重ねた。
「ではお二人とも戦中戦後産まれと言う事ですね親御さんも大英断でしたでしょうね、富国強兵⋯そんな時代ですよね」
ガンさんは箸を持ったままガスロースターを見つめたまま手を振った、そして又、裕二が答えた。
「うーん、信じられないと思うけど僕らに親はいないんだ」
「戦災孤児というやつですか?」
「ううん違うよ、最初から父も母もいないの」
はぁ?である普通なら、現に合家は手を叩いて卑猥な腰つきで笑っていたこれが正常な反応だろう、しかし土門と私は目を合わせ頷くとお互いに心当たりがある事を確認した、土門の喉元には質問事項が込み上げているのがわかったので私は土門にそれを譲った。
「それは731部隊の“鉄人兵”計画に関係ありますか?」
土門と言う男やはり脳筋男であった、普通外堀を埋め本丸を叩くが定石であるが土門は本丸を急襲した、しかし裕二は隠すでもなくそれに答えた。
「違うよ僕らは軍とは関係ない、鉄人兵は結局成功に至らなかったんじゃなかったかなぁ」
「ではあなた方は⋯?」
「民間と言うか個人、あっ民間か、霧島博士の手で産まれたのが僕と兄貴、それに嘉代ねぇと諸々数名、生き残りもだいぶ少なくなってるらしいけどね」
それを聞くと土門はロースターで裾が焼けるかと思う程に身を乗り出し裕二に矢継ぎ早に質問を続けた。
「その博士の研究はいつまで続いたんだ?
…女性は何人いたんだ?
…どんな能力をもっている?
…そもそも目的は何なんだ?」
明らかにあの上司に繋がる答えを得ようとしていた個人的にはあの女史は自分の生い立ちなど気にしそうもない、あまつさえそれを知り教えたとして『余計な事を』と叱咤を受けそうであるがこれが土門の憎めないとこでもあった、しかし裕二の答えは想像の範疇を超えていた。




