3.まるで悪魔のような
私はジェイク。新聞記者だ。
かの悪名高く有名な『人殺しのエミィ』の取材をするよう上司に言われ、今こうして草の陰に隠れて彼女の登場を待っているわけだ。
今日はこの草原で魔物と戦うらしいと情報を得て先回りしてきた。
なんと言っても相手は人殺しだ。残虐非道で気性の荒い女、そう聞いている。自分も殺されるんじゃないかと思うと震えが止まらない。ああ、神よ……
でももし無事生きて帰りこの取材が記事になれば、誰も成し得なかった勇気ある行動としてたちまち私の評判は上り報酬も……それはそれは素晴らしい事になるだろう。
おっと……足音がする。ついに来たか?
カメラを構える。気づかれないようにしなければ。
来た来た。あれ、思っていたより若いな。それに小柄だ……一瞬子供かと思ったくらいだ。
あれが……いや失礼、あの人が『人殺しのエミィ』?とりあえずここで全身の写真一枚、と。あとついでに顔アップも撮っておこうか。
エミィの他にも今回の任務に派遣された魔道士達がぞろぞろと集まってきた。彼らには取材の件は話をしてある。それぞれに軽くアイコンタクトをした。よろしくな!ちゃちゃっと頼むぜ!
集まってきてしばらくざわついていた魔道士達だが、何かを感じたのか急に静かになった。
周りからグルルルルと獣の唸り声が聞こえる。
狼か?いや違う、あの二本足で立つ狼のようなシルエットは……お!ワーウルフ!ワーウルフじゃないか!本当にいたんだ!すごい!
初めて見たぞ……ずいぶん大きいんだなあ。毛むくじゃらで、後ろから見たらまるで熊だ。
うわ、こっち向いた!
頼む、頼むから、こっちに来ないでくれよ……お前達の相手はあっちの人間だぞ!シッシッ!あっち行った!
ふぅ……行ったか。
ああ、よかった。生きた心地がしなかった。ああ怖かった。
集まってきたワーウルフの群れは鼻に皺を寄せ牙を剥き出して唸っている。魔道士達を取り囲んで今にも飛びかかってきそうだ。エミィや他の魔道士は杖を構えタイミングを見計らっているようだ。
緊迫した雰囲気に思わずつばを飲み込む。沈黙がやけに長く感じられた。
先に動いたのはエミィではなく他の魔道士達だった。それぞれ杖から色とりどりの魔法を放っている。
う〜んと、あれは氷魔法だな。こっちは雷。向こうのは風魔法か……必死で戦ってる本人達には悪いが、こうして見るとまるで線香花火のようだ。
いやあ、綺麗だなぁ。なかなか絵になるぞ。
よし、いいのが撮れた。家で額に入れて飾りたいくらいだ。
おや?肝心のエミィはまだ微動だにしないな。どうしたんだ?どこか調子でも悪いのかな?
ここまで見ているけど、小さいし、大人しいし、全然怖くないな……ほんとに『人殺しのエミィ』?まさか人違い?
まぁ、もう少し見ていようか……魔法綺麗だし。
せっかくだからもう何枚か撮っておこう。
後で家族にも見せてあげようっと。
しかし、魔法は効いているようだがなかなか時間が掛かるな。それも二人がかりで一匹やっとといったところか……強いんだなワーウルフって。
エミィの方を見るとまださっきのところで杖を構えて突っ立ってる。
怖気着いちゃったのかな?お~い、お嬢さん?もしも~し?そろそろ動いている写真が欲しいんだけど……。
カメラに飛んできた砂粒を取ろうと目を離した次の瞬間、辺りが突然光に包まれた。
いや、ただの光じゃない。これは……炎?
空気が熱く呼吸する度に肺がちりちりする。気管が焦げてしまいそうだ。喉が痛んで苦しい。
体もなんだか熱いぞ、尋常じゃなく熱い……まるで体が燃えているようだ!
いや……『ようだ』じゃなくて燃えてる!燃えてる!
おいおいおい!背中に火がついちゃってるじゃないか!後ろがやけに明るいと思ったら!
カチカチ山か、私は!……ってふざけてる場合じゃない、誰か助けてくれ!
ちょっと、誰か!誰か~!助けてくれよ〜!
「あちちちちちちっ……!!!」
思わず叫び声をあげてしまい、私に気付いたエミィがこちらを向いた。
いたのかと言いたげな嫌そうな顔。軽蔑するような冷たい視線。横をワーウルフが駆けていくのを見るとすぐに追いかけていった。
他の魔道士達が悲鳴をあげる中、彼女だけ涼しい顔をしていた。
まさか、この炎はエミィの魔法?
彼女が生み出した炎なのか?
まさかと思いたいが……彼女だけ不自然に無傷だ。
つまり……なんてこった!その強力な魔力で、魔物だけでなく他の魔道士までまとめて炎に閉じ込めやがったんだ!
死人でも出たらどうするつもりなんだ!乱暴にもほどがあるぞ!とんでもないことをするもんだ!
しかも心配するどころかあの怪訝な顔!
噂は本当だった!
まるで悪魔のような、鬼畜の所業!人の命をなんだと思っているんだ……!
魔道士達は火傷で傷ついた体を引きずりながら次々と引き上げていく。あのワーウルフ達はいつの間にかみんな消し炭になったようだ。
一緒に帰るかと聞かれたが、私はまだ撮らねばならない事があった。
さっきは撮り損ねたが、今度こそ決定的瞬間を捉えねばならない……この残忍な行為の決定的な証拠を。
やはり『人殺しのエミィ』だった、と!
ずっとうつぶせでカメラを構えていたので体が軋む。背中の火はなんとか地面にこすりつけて無理やり消した。今もじくじくと熱を持ち痛いが……が、今はそんな事どうでもいい。それより証拠だ。
燃え盛る炎の隙間を縫って歩く。彼女はいったいどこ行ったんだ……?
む……少し離れたところに人影を発見。
エミィだ!
見つけた!もう私のカメラから逃れられないぞ!
人の心を持たない悪魔め!覚悟しろ!
早速写真を……いや待てよ、誰かいる。
近くに低木がまだ焼かれず残っていたので、
慌ててその影に身を隠す。
「久しぶりだな……エミィよ」
低く威圧感のある声があたりに響く。マフィアのボスかなんかだろうか。
体は黒いローブに覆われ、顔には目の穴が二つ空いただけのシンプルな白い仮面をつけている。いかにも怪しい奴だ。
……うん?『久しぶり』?
エミィはあんなのと知り合いなのか!グルなのか!
こっそりシャッターを切る。
ニュースだ!これは……大ニュースだぞ!
さあ、悪魔の所業をこの手でバラしてやろう。国中みんなで吊し上げだ!
ネタはうも充分集まった。今すぐ戻って記事を書くんだ。
号外だ!号外で配らねば……!




