1.魔道士エミィ
『彼女』がまず最初の題材として選んだのはゲームの中のような中世ファンタジーの世界だった。
「はあぁぁっ!」
意識を集中させ、空中に燃え盛る火の塊を作る。杖の先を標的に向け、体の周りを回すように大きく振るとたちまち辺りは炎の海になった。
黒い煙が立ち登りパチパチと爆ぜる音がそこかしこでする。
しばらくすると、炎の向こうから怒声が飛んできた。
「あぶねぇな!どこ見てんだよテメー!こっちまで燃やすつもりかよ!」
「あ、いたの?気づかなかった」
「目ん玉腐ってんのか!エミィさんよぉ!」
「私は魔物を倒しただけよ。そこにいるのが悪い」
「ほんっとサイテーだなオメーはよ!気がしれねぇぜ!」
「なんとでもどうぞ」
声の主は一緒に討伐に派遣された魔道士のようだ。辺り構わず魔法を放つ彼女、エミィに激しい剣幕で怒りをぶつけている。
他にも罵詈雑言の嵐は続いていたが……言われた当の本人はどこ吹く風。おもむろに杖に跨り、ふわふわと空へ上昇するとゆっくりとどこかへ向かって飛んでいった。
ここはテウルギア王国。
高い山々の隙間の盆地にできた自然豊かな国だ。国土のほとんどが麦畑でまさに収穫時期の今、辺り一面黄金色に輝いている。
空には色とりどりの鳥達の他に、獅子の体にワシの頭と翼のある幻獣、グリフォンや……背中に大きな翼の生えた白い馬、ペガサスなどが悠々と飛び回っている。
ここは魔法の発祥の地でもあり、強さに程度の差こそあれど老若男女国民全員が魔法を使って暮らしている。
例えば、火の魔法。さっきエミィが戦いで使ったのがそれだが、弱いものは鍋の火を起こすのに使われている。
彼女はもともとさえない魔道士だった。
みんなと一緒に魔法学校に通っていたが魔法の才能が全く無く、卒業したら農家を継ぐ予定だった。
しかし卒業を前にしたある日、空から銀色に光る杖が降ってきたのだ。
それはその輝き以外は何の変哲も無く、装飾もないただ真っ直ぐなだけの杖だった。
綺麗なその杖がすっかり気に入ったエミィはいつもの杖では無くそれを持って卒業試験に向かい、なんと余裕で合格。さらに最優秀賞までもらってしまった。
その杖を持っている間は魔法が自由自在に使える。まるで一心同体かのように自分の意識に合わせてくれるのだ。
他の人も何回かその杖を使った事がある……というより目を離した隙に盗まれてしまっただけなのだが、エミィ以外は誰も使いこなせないようだった。持とうとすると地面に張り付いたかのように重くなり、魔法を念じても何も起きなくなるのだ。
強力な杖を手に入れたエミィは、若くして老練の上級魔道士達と肩を並べられる程までになった。
順風満帆に見えるそんな彼女だが、一つ大きな問題があった……その性格だ。
無愛想で冷たく、まだ社会に出て間もないというのに誰に対しても高飛車で傲慢。もちろんそんな性格ゆえに友達もいなければ、仲間なんて誰もいない。
家族すら彼女を腫れもの扱いしていた。
だから今は親元を離れ小さな家で一人暮らしだ。
そんな状況でも本人は気にも留めていなかった。
魔物討伐などの戦いで成果を出すこと、みんなを守る事、それが生きがいだった。
杖で向かった先は城だ。
国の真ん中に建つ立派な建物。国章の入った旗がいくつも立ち、風に靡いている。
そこに出入りできるのはエミィのような魔道士か王の周りの者だけ。一般の国民は門番に止められ入れない。
魔物討伐などの仕事はそこで管理されていて、必要に応じて魔道士や兵士を派遣している。
討伐の報告を済ませたエミィは今日も袋いっぱいに報酬をもらった。
お金はもちろん、金塊や宝石なども入っている。全部で何キロだろうか。袋が重みで伸びきって今にもはち切れそうだ。
いつもこの大量の報酬のおかげでお金に困った事は無い。
むしろあまりお金を使わないので余っているくらいだ。一応両親には定期的にお金を送っているし、たまに孤児院などに寄付したりもするが、それでも余る。
家路に着くエミィ。
日が暮れた町には夕飯の香りが充満していた。カレーやビーフシチュー、焼き魚……どれも空腹を誘ういい匂いだ。
今日はなんとなく気分が良いし、帰ったら久しぶりに贅沢な夕食にしようか。分厚いステーキに美味しいワインとか。
袋はどっしりと重いが、魔法で浮かせれば楽々だ。杖に乗り家に向かう彼女の後を袋が追いかけていった。




