始まり(?)
一人の男が住宅街の十字路の脇で途方に暮れ突っ立っていた。
さっきそこの角を曲がるのを見たんだが、見失ってしまった……
コンビニから出てくるのを見かけて、今日こそ話しかけようと思いこっそり後をつけていたのだが、結局横切る車や人混みに紛れ分からなくなってしまった。
今日も勇気が出なかった。
落胆し大きなため息をつくと、彼はふっと姿を消した。
それは一目惚れだった。
ある日、仕事で街を巡回していたところ、目の前を歩いていた彼女がポケットから鍵を落としたのだ。
すぐ拾って彼女を呼び止め渡そうとしたのだが、うっかりお互いの指先が当たってしまった。
顔を見合わせた瞬間、私の体を熱い何かが駆け巡った。胸の鼓動は狂ったように激しくなり、音が周りに漏れ聞こえてしまうのではないかというくらいだった。
しかしハッと我に帰ると、彼女は困惑した顔でこちらを見つめていた。
それもそうだ。目の前の男が鍵を握りしめたまま固まってしまったのだから。慌てて謝り渡すと、その場に耐えきれず私はすぐに立ち去ってしまった。
私はその時、その瞬間に、儚げで影のある彼女の独特な雰囲気にすっかり魅了されてしまった。
それでこうして暇を見つけては会おうとしているのだが、いざその時になると緊張と気恥ずかしさで体が固まってしまうのだ。
私はとある組織から派遣され、何年も前からずっとこの街の人達を見守る仕事をしている。
最初は人間みな同じ顔に見えていた。
美しいと言われている女性を見てもなんとも思わなかったし、人自体あまり好きではなかった。
しかし長年ここで見続けた結果、うっかり惚れてしまった。
この街の人を愛するという事は仕事上禁止されている。私のこの恋も、もしバレてしまったら組織から追放されてしまうだろう。
プラトニックな状態ならギリギリ大丈夫、その先は駄目という話も聞いた事があるが、そんな危ない事はしたくない。
それにおそらく彼女を前にしたら、精神的な繋がりだけで耐えきれなくなる日がいつか来てしまう気がして……
仕事柄純潔でなければならないというのに、私はいったい何を考えているのだろう。
これも彼女の魅力……いや、魔力か。
恐ろしい力だ。




