表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みどりの世界  作者: あさぎ
【第二のゲーム】ディストピアの世界 〜再生のミドリ〜
49/54

25.幸せだった

 


 ソシキ達は沸き立ち、手を叩いたり抱き合ったりと喜び合う。

 また造竜が一体減ったぞ、と。

「よくやった!よくやったぞアテナ!」

 アテナは黙って下を向いている。

 普段から無表情ではあるが、いつも以上にその目には力が無かった。

「なんだ?どうした、ぼーっとして」

 《仲間、か……》

「……?何か言ったか?」

 《いえ、なんでも……》

「そうか、ならいいが……」

 《……》

「なかなかいい調子だ!残るは後一人!そいつで最後だ、アテナ!やってしまえ!」


 アテナは翼を広げ旋回するとミドリの元に降り立った。




 ミドリがアテナと対峙するのはあの時以来だ。


 純白の竜と漆黒の竜。

 改めてまじまじと見るとその顔つきや翼、体の至る所までほとんど同じだった。

 本当にただ色を変えただけのような、瓜二つの存在。


 純白の羽に澄んだ青い瞳、まるで神聖な生き物のような美しい色合いに思わず見惚れてしまう。

 鱗の一つ一つまで真っ白で、自分の鱗と同じ材質のはずだがふわふわと柔らかそうに見えた。




 《アテナ……》

 《申し訳ないが、君にも死んでもらう》

 《……》

 《なるべく痛みは感じないよう手早くすませるつもりだ、だから安心して逝ってくれ……では、いくぞ!》

 アテナはミドリに向かってそう言い放つと、羽を広げ高く飛び上がり口から光線を放つ。


 ミドリは飛び回り必死に避けるので精一杯で、炎で反撃するほどの暇など全く無かった。

 間髪入れず次々と攻撃が飛んでくる中、避ける事だけで能力も体力も限界だった。


 とにかく素早く、そしてその狙いも正確なアテナ。

 新旧で格の違いを見せつけられているようだった。




 そして、それから何時間経っただろう。


 ふいに部屋の明かりが戻り、眩しくなる。消火を終えたソシキ達が電源を復旧させたようだ。

 明かりに照らされ、焦げたケーブルや画面の破片がはっきり見える。

 パソコンなど機器の起動音やエラー音が騒がしく響き始めた。


 白と黒はまだその部屋を飛び回っていた。

 変わらず攻撃の手を緩めないアテナと疲労が溜まりフラフラのミドリ。


 そんなミドリにアテナは声をかける。

 《私と君では能力が違いすぎる、もう分かっただろう。これ以上無駄な抵抗を続ける気か?》


 ここで抵抗をやめる。

 つまりここで死ぬ、ここで終わり。


 必死にここまで駆け抜けて、ここで終わる。


 私はソシキを止めたかった。

 でも叶わなかった。

 色々あったが、駄目だった。失敗に終わってしまった。


 ハルも、アイも、チームのみんなも亡くし……失敗。

 今ここでの説得も失敗。

 おそらくアテナには勝てない。いつか負けるだけ。だからこの戦いも失敗。


 失敗、失敗、また失敗……失敗ばっかり。

 ほら見ろ、私。またおんなじ、前回と何も変わってないじゃない。


 なら、私の今回の人生……失敗?


 …………


 ミドリは力なくうなだれ、ゆっくりと瞼を伏せた。

 脳裏にスライドショーのように次々と映し出される、今までの記憶。 

 過去の記憶の中にはたくさんの失敗があった。


 でもそれ以上にたくさんの楽しさ、うれしさ、幸せが詰まっていた。




 ……だから、違う。違うんだ。

 私の今回の人生は……失敗なんかじゃない。


 かっと目を見開く。


 人間関係から逃げるのをやめ、人の温もりを知り、人のために生きる事を知った。

 もちろん、まだ世界のほんの一部しか見ていないけど。見れなかったけど。


 アイが死んだあの日から……ハルと出会って、チームのみんなの事少し分かってきて、そして今。

 怒涛の日々。今思えば本当にわずかな期間だった。


 造竜ではなくて本来の人間としてそうやって生きていたなら。

 これを長年続けていけたなら。


 時空の狭間の向こう、現実世界。私が前回生きていた世界。

 そこで、こうやって前向きに生きていけたなら。


 こんな狭い箱庭の中じゃなくて……もっと、もっと広い世界を見ることができたんだろう。


 それが分かったんだ。やっと理解できたんだ。

 だから、これはきっと失敗なんかじゃない。




 アテナはしばらくミドリの様子を窺っていたが、ミドリの目に力が戻ったのを見ると攻撃を再開した。

 口に渾身の力を溜め、眩い光の束を放つ。


 太い柱のようなそれはミドリの体に当たり、皮膚を焼き払っていった。チリチリと焼ける音がして焦げ臭い匂いと煙が周りに溢れていく。


 焦げた羽は縮み上がり、広げる事すらできなくなっていた。

 何の抵抗もできないまま重力に引かれていくミドリ。

 落ちていきながら、ただただ『終わり』を感じていた。




 アテナの活躍に沸き立つソシキ達。拍手の音が部屋中に鳴り響く。


「さすがアテナタイプだ!我々が見込んだ以上の能力だ!」

「我々の代替ボディとして期待が高まりますなあ!」

「いやぁ、素晴らしい!素晴らしいぞ!」


 そんな彼らを尻目にミドリは最後の力でアテナに話しかけた。

 《ねぇ、アテナ……》

 《なんだ、命乞いか?》

 ミドリは穏やかな声で続ける。

 《ううん、違うの。あのね。私、もういいんだ》

 《『もういい』?》

 《うん。なんていうか、満足しちゃったの。だからこのまま殺して欲しくて》

 《言われなくてもどのみちそうするつもりだ》

 《そっか、そうね……それもそうね》




 《さあ、希望通り今すぐとどめを刺してやろう。じっとしていれば一瞬だ》

 《ま、待って……!やっぱり最後に聞いてほしいの、私の話……どうしても誰かに聞いておいてほしくて……》

 《今さら何を……》

 《お願い……!どうしても、お願い……!》

 《まだ何かあるというのか。仕方ない奴だ、聞いてやろう……ただし手短にな》

 《ありがとう。あのね、元々向こうに……現実世界にいたの私。でも生きるのに疲れてた。もう限界だった……それで自殺して、そしたらここに連れてこられて……》

 《……》

 《でもね。でも、ここに来て、アイとかハルとかチームの皆に会えた。私の事を必要としてくれてる人がいて。みんながいて。私、この世界にいて幸せだった……ほんとに幸せだったよ》

 涙ぐむミドリ。

 《これは……そう、きっと現実世界にいた頃のあの環境から抜け出せたからなんだよね……あのままいたら、こんな幸せ感じられなかった》


 ミドリの意識は段々と遠のいていき、視界が暗くなっていく。


「そうだ、我々が救ってやったのだ」

 ソシキの声がぼんやり聞こえてくる。

「それなのにお前ときたら……!無駄な抵抗などせずにさっさと処分されればいいものを!アテナ、さっさとやってしまえ!」

 《はい、マスター》


 アテナにのし掛かられ、それはぐしゃりと潰れた。黄緑色の液体が吹き出し、ぬちゃぬちゃと音を立てて横に流れていく。


(ぐうぅっ……!!)


 衝撃や痛みにおもわず反射的に声が出る。


 しかし本当はとても苦しいはずなのに、今のミドリには痛みなんてどうでもよくなっていた。

 それ以上に今まで感じたことのない充足感に包まれていた。


 ここまで頑張ってきてやっと、あの時のキミコさんの言葉の真意がなんとなく分かった気がする。


 人間は必ず他の誰かが必要なんだ。

 誰かの助けがないと駄目なんだ。それは物理的にも、精神的にも。


 一人じゃできない事はある。それはもうたくさん。

 できない事が次から次へと現れて。ぶつかって、傷ついて、苦しんで……


 でもそんな一人じゃできない事も……誰かと一緒なら、二人なら、できるかもしれない。

 完全にはできなくてもまた違った方向へ、良い方向へ、向かうかもしれない。


 だから誰かと共に生きるんだ。共に生きる誰かのために、生きるんだ。

 誰かを助け、助けられ、認め合って一緒に生きていく。


 それでいつの間にか仲間が、親友が、愛する人ができて。

 一緒に笑ったり、悲しみを半分こしたり。


 そうしていく中で、いつかふっと幸せを感じられるんだろう。

 ようやく分かった。ようやく自分なりに解釈できた。


 人のために生きる。


 もし、また次も人間に生まれ変われたら。

 また、次の人生があるのなら……今度はそんな生き方をしてみたい。




(それが分かってよかった。ほんとに、よかった……)


 瞼を閉じ、ミドリは動かなくなった。


「やったか……?」

 ソシキの一人が体に近づき、持っていた手のひらサイズのタブレットをかざすと画面には【生体反応なし】と大きく表示された。




「流石だアテナ!よくやったぞ!」

 歓声がどっと湧き上がる。

 《……》

 アテナは造竜化を解除するなり、俯いて黙り込んでしまった。

「おい、アテナ……どうした、具合悪いのか?」




 彼女の心は暗く沈んでいた。

 旧型造竜の殲滅完了に沸き立つソシキの人間達とは反対に。


(結局あれから何も変わらなかった……)


 無意識のうちにそこから歩き出していた。


(私は変われなかった。過去も今も同じ、誰にも私は見てもらえない。結局また独り……)


「おいアテナ、どこへ行く?おい!聞いているのか!」


 アテナは黙々とある場所へと向かっていった。

 まるで何者かに吸い込まれるかのように。


 ある場所……そう、アテナや他の造竜達が生まれるあの場所だ。


 アテナはエレベーターのボタンを押し乗りこむ。何も書かれていない方のボタンだ。


 静かに上昇するエレベーターの箱。

 首のインカムからは『マスター』達の騒々しい声が聞こえてくる。

『アテナ?!誰も指示は出していないぞ?!』

『おい、勝手に動くな!まさか脳機能の不具合か?!』


 今のアテナにはただの邪魔なノイズだった。

 うるさい雑音。


(もし生きていた頃に、死とは違う方法で別の環境に移れたなら。私の事を必要としてくれる人に出会えたのだろうか……)


『一体どうなってるんだ?!不具合か?!おい、返事をしろ!おい!』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ