サイドストーリー⑤ トウジロウ 〜誰のせい〜
藤次郎は妻と高校生の息子が二人いた。
上の息子が高校入学する時に会社が倒産し、学費を賄うためバスの運転手や新聞配達、スーパーのレジ打ちまで色んなアルバイトを朝から晩まで掛け持ちでなんとか凌いでいた。
転職活動もしていたが、年齢や元の職種が技術職でつぶしがきかなかったりとなかなか決まらない。
それでも毎日必死で生きていた。
しかし。
去年、ある日突然妻が息子を連れて家を出て行ってしまった。
それはあまりに突然だった。
夜遅く仕事を終え、気絶するように眠った翌朝の出来事だった。
朝起きたらリビングのテーブルに小さな手紙が置いてあり、慌てて妻や息子の部屋を見にいくと綺麗に何も残っていなかった。
しばらく何が起きたのか理解できなかった。
その後散々話し合いをしたが結局離婚する事になった。できる限りの努力はしたが、もう体力的にも精神的にも限界だった。
風の噂で聞いたところ、最近再婚したらしい。
相手はベンチャー企業の若手社長で妻より一回りも年下。息子達と一緒に豪邸で悠々自適に暮らしているそうだ。
藤次郎は残された家で一人細々と暮らしている。
昔のように必死で稼ぐ必要が無くなり、だいぶ余裕ができた。自分の時間を自由に使えて、むしろ以前より毎日が充実している。
しかし、それでもたまにひどく孤独を感じる時があった。
一人暮らしには大きすぎる家。
子供が小さかった頃に付けた傷や落書きが今もそこらじゅうにまだ残っている。
庭には小学校の頃ミニトマトを育てるのに使ったプラスチックの植木鉢が二個、無造作に置かれたまま。
リビングの棚の上には少し埃を被った写真立てがある。
自分と妻の結婚式の写真だ。二人とも幸せいっぱいの眩しい笑顔。
昔は愛する妻のため、大切な息子のため、必死で生きてきた。
しかし、今はもはや何のために生きているのか……
なぜこうなってしまったのか。
運が悪かった、と言ってしまえばそれまでなのだが。
誰のせいなのか。
会社が悪いのか。社会が悪いのか。
あるいは俺か……
おもむろに車に乗り込みエンジンをかける。
しばらくあてもなく車を走らせ最期の景色を楽しんだ藤次郎は、人気のない農道に駐車した。
しっかり中から施錠したのを確認すると、足元に置いた煉炭に火をつけゆっくりと目を閉じた。




