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みどりの世界  作者: あさぎ
【第二のゲーム】ディストピアの世界 〜再生のミドリ〜
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23.命の価値

 


 その影はしばらくの間ミドリ達を威嚇するかのように風を床に打ち付け強く羽ばたいていたが、やがて落ち着いていった。

 土煙がさあーっと引いていく。


 あれは……あの姿は……


 やっぱり。

 彼女だ……アテナだ。


 それもコピーでも失敗作でもない、オリジナルの方だ。

 雰囲気で分かる。コピー達とは違う意志のしっかりした瞳。

 ミドリを襲った純白の造竜。


 それぞれ椅子に座り、観戦を決め込むソシキの人々。

 さっきの男もいつの間にか自分の席に戻ったようで、顎の下で手を組みにやにやとこちらを見ていた。リーダーの顔のままで。


 またざわざわとそれぞれ口々に喋り始める。

「我々の知の結晶、造竜アテナタイプ……運動神経はもちろん、知能も優秀で従順!お前達みたいに変に徒党を組むことも、反抗心を持つこともないのだ!どうだ素晴らしいだろう?!」

「旧型などもはや不要!いけ、アテナ!そんな不良品、ちゃちゃっとやってしまえ!」

「楽しいショーの始まりだ!新と旧、白と黒、どっちが勝つか!まあ勝敗はすでに決まっているがな、はははは!」




 重苦しい沈黙が続くミドリ達。


 その静寂を破ったのはトウジロウだった。

「……とりあえずアテナは俺が一人で相手をしてやろう。だから、」

「そんな!一人で行かせる訳には……私も行きます!」

「駄目だ。ミドリはハルとここに残ってくれ。俺はいわば囮なんだ、相手の弱点を見つけるための」

 そう言い終わると同時にミドリの目の前に黒い竜が現れた。

「で、でも……それなら私が!」

 《お前はまだ死ぬ訳にはいかねえよ。だって、話がしたいんだろ?》

 トウジロウは飛び上がりながら続ける。

 《だから、二人は注意が俺に向いている間に何か対策を!弱点を探すんだ!》

「……と、トウジロウさん……!」

 《頼んだぞ!……うおぉぉぉぉぉ!!》

 雄叫びをあげてアテナに突っ込んでいき、勢いよく炎を浴びせる。

 不意をつかれたアテナは避けきれず羽の先が焦げ、体勢を崩していた。


 そこから激しい攻防が始まった。

 様子見をやめて本気を出したアテナの素早い攻撃と、それを必死に避けるトウジロウ。


(この間に何とか隙を見つけないと……)


「お前……確かミドリと言ったか」

 戦いを食い入るように見ていたミドリにソシキの一人が近づき話しかけてきた。先程とはまた別の男だ。

「なっ何よ!冷やかしにでも来たの?!」

「話がしたいのだろう?だからこうやって私の方から来てやったわけだ、感謝するがいい」

「……」

「喜び過ぎて言葉も出ないか、そうかそうか。そうだな……なかなか楽しかったぞ、現実世界と君達の小競り合いは」

「……っ!あんなのを見て楽しんでたっていうの?!」

「そうだ。あらゆる娯楽をやりつくし暇を持て余した我々にとって、唯一の楽しみ。夢中になって画面にかじりついてしまったよ」

「そんな……そんなくだらない理由で!命をなんだと思ってるの?!」

「ふふっ。そんなものなのだよ……命なんて」

「冗談じゃない……!ふざけないで!」

 ミドリは思わず男に掴みかかろうとしたが、寸前で避けられその手は空を切った。

「命は大切なものよ!遊びになんて使っていいものじゃない!」

「ふむ。ならば、例え話をしようか。極端な話、例えば有名人が死んだら……何千人も何万人も、あるいは国中が悲しみにくれるだろうし、テレビも新聞もしばらくその話題で持ちきりだろう。それが原因で社会問題が起こるなんてこともある」

「そうね」

「では今度は逆に、誰も知らないような一般人が死んだらどうだ。せいぜい家族が悲しむくらいで社会には何の影響も変化もない。いてもいなくても何一つ変わらない」

「それは、そう……だけど……」

「前者は価値のある命だといえよう。社会に影響があるのだから。しかし、後者は?」

「でも……」

「まだ認めぬか……そうだな、さらに言うなら動物。人間の食べ物であり、薬品やら商品やらの実験台でもある。しかしその一方、ペットとして可愛がられ貴重な存在として丁寧に保護される」


 言わんとしている事はなんとなく分かる。

 が、ある意味正論でもあるそれに何も言い返せなかった。


 まごつくミドリに男は畳みかけるように口撃する。

「命にはそういった優劣がある……社会に必要な命とそれ以外。我々はそれらもきちんと判別した上で魂を選出し、お前達造竜を造った」

「……」

「それにもし、すべての命が大事だというのなら……今ここにいる我々も、その尊い命のはずだがね」




「おい!てめえ!」

 男を牽制するように鋭い声が飛んできた。

 トウジロウの声だ。頭の上から聞こえてくる。


 目を離していた間に、すぐ頭の上を飛んでいたはずの二体は高いところまで移動していた。

 声は近づいたり離れたりを繰り返している、今も戦闘中なのだ。


「黙って聞いてれば!散々好き勝手べらべら喋りやがって!何を言おうと、命の冒涜には変わりねえんだよ!お前らの『お遊び』は!」

「命……か。もとよりそれほど大切に扱われていなかったはずだが」

「なっ!……だ、黙れ!」

「むしろ自ら捨てたようなものだろう?なあ、トウジロウよ」

「っ……!」

 動揺して減速するトウジロウに、今が好機とアテナの尻尾の一振りが襲い掛かる。


 大きな地響きと共に勢いよく床にたたきつけられる造竜の黒い巨体。

 仰向けに落ちて体勢を戻そうと体をひねっているところ、その柔らかい腹部にアテナの牙が突き刺さった。


 《ぐ、ぐあぁぁぁぁ……!!》


 大きな顎で何度も噛み砕かれ、黄緑色の滴が辺りに飛び散る。


 アテナは仕上げと言わんばかりに最後に大きく顔を振ると、腹の皮膚が千切れ内臓や体液が勢いよく噴き出す。

「トウジロウさん……!」

 少しづつその体は質量を失いつぶれていき、最後には空気が無くなったゴム風船のように平たくなってしまった。




 《完了しました、マスター。次のターゲットのご命令を》


 ミドリと男の目の前に降りてきたアテナ。

 真っ白な口の周りにべっとりついた黄緑色。時折滴り落ちては床に水玉模様を描く。

 当の本人は気にも留めていないようだが。


「こうして見るとなかなかの完成度だな、旧型も。これで全員終わりにしてしまうのが本当に惜しいくらいだ。しかし、最強の造竜が完成してしまったからには……」

「最強の造竜……アテナの事?」

「そうだ。だから、君達はもはや不要になってしまった」

「そんな!」

「資源やエネルギーには限りがある。他所から取ってくるしかないうえに、まだその供給も少ないのだ。そんな貴重な資源を君達旧型まで回せるほど余裕がない……だから棄てる事にした」

「そんな理由で……!」

「一応これでも申し訳ないとは思っている」

「……」

「……怒っているのか。怒りならアテナにぶつけるといい、廃棄場に捨てられて衰弱死するよりはこうしてさっさと逝った方が楽だろう?」


 声に反応し、側に佇んでいたアテナはミドリの方に体を向けた。

 その瞳孔がキッと細くなる。獲物を狙う蛇のような目。




 今にも戦いが始まろうとしていたその時。


「隙あり!」

 そこに割って入るかのように、何かが飛んできた。


 勢いよく飛んできたそれは、弾かれキィンと音を立てた。小型の果物ナイフだ。

 男を狙って投擲されたそれは空を舞い、カランカランと床で跳ねる。


(ハル……!)


 やけにずっと静かだと思ったら。

 部屋から持ってきていたナイフを背中に隠し、虎視眈々とタイミングを見計らっていたのだ。


 とっさに男を覆うように広げたアテナの翼であっさり防がれてしまったが、ソシキの人々を怯えさせるには充分だった。

「ひいぃぃ!」

「怖いよお!」

「こ、こっちに向かってくるな!」

 先程の偉そうな態度とは打って変わって、全員怯えた様子で部屋の端に集まり背中を丸め縮こまっている。

 慌てて駆け出したせいで倒れたままの椅子が散らばっている。


 今までの綿密に練られた計画からして、その頭脳は相当のものだろう。


 今までの残虐な行動、そしてそれをなんとも思わないその神経……さぞかし肝が据わっているのかと思いきや、その実態はかなりの小心者のようだ。

 あの綿密に計算され尽くした策謀は臆病者ゆえだった。




 《反抗の意思を確認。対象に攻撃開始します……よろしいですね、マスター》

「ああ、とっととやってくれ!おっかなくて仕方ないんだよお……ああ怖い!ショーは中止だ!」

「アテナ、もう殺り方は指定しない!どんな手でもいい!もう魅せなくていいから、なんでもいいから、早くさっさと片づけてくれよお〜!」

 《了解》

 アテナは再び飛び上がり口に光を溜め始める。




 この隙にミドリ達は造竜化し体勢を整えていた。


 アテナの攻撃を迎え撃ち、撃破する……

 まだなんの手がかりもない。分からない。

 しかし、悩んでいる時間はない。やるしかない。


 《俺が相手だ!》

 やる気満々で、大きく咆哮するハル。

 それに対して浮かない表情のミドリ。

 《心配してんの?へ〜き、へ〜き。大丈夫だって》

 おそらく大丈夫とは言い切れないこの状況でも彼はいつも通りだった。

 まるでこの後またあの取り留めもないおしゃべりが始まりそうな勢い。

 そんな明るい彼の雰囲気に、異常事態に晒されて硬くなった体が緩やかにほぐれていく。

 自由気ままでマイペース。いつも振り回されてたその態度に今は助けられた。

 《それよりも、ミドリは俺より賢いんだからさ、急いでなんとか対策を考えてくれよ。バシッと一発で決められようなすっげえ作戦をさ。そしたら一緒にわ〜って一気に畳みかけるんだから》

 《うん、分かった》

 《早くしてよ?いくら俺だってそう長くは持たねぇぞ!》

 そう言い、ハルは翼に力を込めると大きく羽ばたいてアテナの方に向かった。


(一緒に。そう、一緒に戦うんだ……!これが最後なんだから!ハルと一緒に、全力で!)




 アテナの光線をかわし続けるハル。

 前に襲われたときと同じ光景。あの時もこうやって……


(駄目駄目、今は感傷に浸ってる場合じゃない。一刻も早く、何でもいいから、何か方法を考えないと……!)


 とはいえ圧倒的に能力はアテナの方が上だ。


 特に持久力。

 休憩なしの連戦で二回戦目だというのにその息は全く乱れていない。

 まるで化け物のような体力。


 そんなアテナをどうにかしようというのは、ミドリ達の力ではとうてい無理。


 それならば、残る選択肢は……



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