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みどりの世界  作者: あさぎ
【第二のゲーム】ディストピアの世界 〜再生のミドリ〜
42/54

20.棄てられる命

 


 読み終わった三人は手帳を見つめたまま呆然と立ち尽くしていた。




 リーダーの手帳から分かった事は三つある。


 まず一つ目、ソシキは造竜達を遠くから観察し楽しんでいるという事。


 ここから離れた安全な場所……管理区の中で造竜達の様子をモニターに映し、彼らは『観戦』している。

 造竜達を戦わせ楽しむ、そういう『遊び』なのだ。闘牛や闘犬などと同じ。


 大規模な破壊や激しい戦闘も彼らにとってはただの娯楽、その規模が大きければ大きいほど見ごたえを感じて彼らは喜ぶ。

 始まりは小さな掘立小屋や倉庫の破壊など簡単なものだったらしいが、彼らの要求は徐々にエスカレートし新築の高層ビルの破壊までするようになったというのだ。

 対象が新しいほど見た目が美しく、大きいほど壊れていくさまがダイナミックで面白い、と。まるで映画の総評のようだ。


 現実世界側があまり不利になりすぎるとつまらないため、時々なにやら陰で梃入れをしていたらしい。かなりの徹底ぶり。


 ミドリ達造竜が毎日毎日必死にこなしていた仕事……それらは全て彼らの娯楽のためだった。

 ただの『遊び』だったのだ。




 二つ目、建物の破壊は現実世界側からの依頼だという事。


 ソシキと現実世界の政府は協力関係にあった。


 現実世界では長引く不景気や政治関係者の不祥事などで国民の不満が溜まっていた。

 そこで、造竜達に建物を破壊させてわざと民間人に恐怖を与え、そこを政府により派遣された自衛隊(対造竜部隊)が食い止めたように見せかける事で支持率上昇を狙っている。


 造竜という共通の敵を作り国をまとめようとしているのだ。


 もちろん国民達には絶対に危害は加えないようにとの約束つきで。だから毎回建物相手だった。


 ソシキ側はというと、現実世界に造竜を派遣する代わりに大量の物資支援を受けていた。

 造竜製造関係の機材や薬品などから、自分達の日用品まで。


 現実世界と違い、こちらの世界は荒れ果てて資源が枯渇している。文字通り草木一本も生えないような世界。

 そのためどこか他から取ってくるしかないのだ。




 そして三つ目、ソシキはミドリ達『旧型造竜』を造った。

 しかし『新型造竜』が現れた今、不要になったというただそれだけの理由で今度は全て滅ぼそうとしている。


 あの時の襲撃は現存の旧型造竜をまとめて一気に処分するつもりだったのだ。そのためにあらかじめ現実世界の人間に造竜の構造や弱点を教えたり特効の兵器を作らせたり念入りに準備をし、満を持して突撃させた。

 ミドリ達は運良く生き残ったが、ソシキの思惑通り造竜はほぼ全滅した。


 試験体とはいえ命を自分達で造っておいて、いらなくなったからとあっさり捨てる。

 まるで意志を持たない物であるかのようなぞんざいな扱い。




 手帳の最後のページに、小さめの文字でリーダーの苦しい気持ちが綴られていた。


 リーダー自身は早い段階でソシキの陰謀に気付いていた。しかし確信が持てずなかなか言い出せないまま時が進み……昔は戦闘員として戦っていたがリーダーとなった今、現場に出られなくなってしまった。

 企みに気付いていながら、チームメンバーを無意味な『戦闘ごっこ』に向かわせるのが苦しかった。


 だが、完成してしまった対造竜用兵器の話をソシキから聞かされもう我慢の限界だった。

 これ以上ソシキに好き勝手させる訳にはいかない。

 なんとしても命の冒涜を止めさせなければならない。


 だからソシキに一人立ち向かう事にした。おそらく生きては帰れないだろう。

 だから、もしこの手帳を見ている人がいたらその事をチームのみんなに伝えて欲しい……と。

 文章はそこで終わっていた。




「ソシキ……人をなんだと思ってるんだろう……」

ミドリはやるせない気持ちでいっぱいになった。心が苦しくてきゅっとなる。

「でもリーダーのお陰ではっきりしたじゃん!あとはソシキの奴らぶっ飛ばすだけ!単純明快!ならとっとと行こうぜ!」

「ハル……」

「わたしも、がんばる」

「シノちゃんも……」


(そっか、そうだよね。ソシキの実態がはっきりした今、私達がやるべき事は……そう、彼らの行いを止めさせなきゃいけない)


 ハルもシノも張り切っているようだ。ミドリも気合いを入れ直す。

「よ〜し、頑張ろう!……って、あれ?」




 気合が入り沸き立つ三人とは反対にトウジロウだけは浮かない顔をしていた。

「あの、トウジロウさん?」

「……盛り上がっているところ悪いが……ミドリ、実はもう一つ分かった事があるんだ」

「えっ?」

「書いてない、という事が四つ目の情報なんだ」

「……?」

「これほど細かくソシキについて調べていたダイキが、一言も何もその対抗手段については書いていない。ソシキの弱点だとかそういう話が一切無い。これは、どういう意味だと思う?」


 しばらくの無言。


(えっ?えっ?どういう事……?!)


 分からない。ミドリは次の言葉を待つ。


「調べたところでな、対策もなにもありゃしなかったんだ」

「なっ……?!」

「こちらの行動は全てソシキは計算済み。攻撃手段全て先に手を打たれていたって訳さ。もうどうしようもねえんだ、笑うしかねえな。ははっ……」

 トウジロウは力なく笑いながら続ける。

「ははは……ダイキも結局調べたところで何の対策も得られなかった。どうせ死ぬと分かってしまった。だから一人で特攻したんだ……」

「うそ、そんな……!」


(そんな!私達がどう行動したって無駄だっていうの……?!)


床に崩れ落ちるミドリを横目にトウジロウはさらに続けた。


「やっぱり、俺も管理区に行こうと思う……ダイキと同じように。最期の足掻きだ」


 結局調べても良い策は無かった。手詰まりだ。

 どう足掻いても死ぬ。これも彼らの手の内なのだろうか。

 特効して自滅するか、このまま殺されるのを待つか。

 それならば……


「無駄だって分かった。それでも……それでも!ともかくどんな形でもいいから反抗してやりたい!ただ大人しくやられるんじゃなくて、俺らの意志を表明して『ふざけんじゃねえぞ!』って暴れてやりたいんだ!」


 そう言うトウジロウの瞳には強い意志が映っていた。


「……なら、私も行きます」

「ミドリ……」

「みんなのために、せめて彼らに会いたい」

「会ってどうする?」

「会って直接話がしたいの」


(私を『旧型』と呼ぶアテナもいずれ私達のように棄てられるかもしれない。さらに新型に取って代わられて。でもその新型もまたいつか棄てられて……)


 次々新しく造られては棄てられる。罪のない者たちが勝手な都合で再度生を受け、また勝手な都合でその生を剥奪される。

 それは、ソシキの人間達がやめようとしない限り永遠に終わらないだろう。


 だから、彼らと話がしたい。もちろん駄目かもしれない。駄目な可能性の方が高い。


 でも。


 でも、もし少しでも止められる可能性があるなら。

 ほんの僅かだとしても、私はそれに賭けたい。


「俺も行く」

 ハルが会話に加わる。

「そんな、私だけでいいのに」

「ハル、お前……聞く前にやられて死ぬかもしれんぞ?それこそ痛い思いして」

「……でも、俺も行くんだ。最後の最後までミドリと一緒にいるって決めたんだから。もう、一人で突っ走ったりなんてしない」

「それは、どうして?」

「えっ……」

 ミドリの問いにハルは一瞬言葉を詰まらせる。

「え、どうしてって、そりゃ……今まで短い間だったけどさ、色々あったじゃん。ミドリの事よく分かった」

「私の事?」

「うん。なんていうか、その……俺がいないと駄目なんだ。側にいないと駄目なんだよ」

「なによ、それ。私が頼りないって事?」

「いや、そうじゃなくて。なんていうか守ってあげないとって思ったんだ」

「どういう意味……?」

 ハルは無言でそっぽを向いた。短髪の隙間から覗く耳がほんのり桃色に染まっている。


「だらだら話してる時間は無い、もう行くぞ。シノはここに隠れて待っていてくれ。俺たちが時間稼ぎをするからその間だけでも生きて……」

「いや。わたしも行く」

「シノ、お前は……」

「わたしも行くの。行って、わたしもみんなを助けるの。火を吐いたりお空飛んだり、得意じゃないけどできるもん」

 シノは真っ直ぐトウジロウの目を見てはっきりと言った。

 幼いとはいえ、その心は固く決まっているようだった。


(シノちゃん……歳が離れてたってトウジロウさんは大事な相棒。大切な人だもんね)


 人は誰か大切な人のために生きるもの。

 みんなそうだ。

 リーダーも、アオイさんも、カナも、アカネさんも、そしてここにいる私達も。


 ほとんど無意識なんだろうけど、でもみんなそうなんだ。

 みんな誰かのために生きていて、支え合って生きている。


 散々勝手に怖がって逃げ続けて、彼らに向き合ったのはごく最近で。本当に短い間だった。

 だけど、教えてもらった。大事な事。


 シノはずっと持っていたらしいルカちゃん人形をイスの上に座らせると、それに向かってバイバイと手を振っていた。最後のお別れをしているようだ。

 作り物の人形。その表情は変わらないはずなのに、なんとなく悲しげに見えた。


(私は懸命に生きて散っていった彼らを、ハルを、ここのみんなを……救いたいから行く。無謀な行いだとしても。そして、ハルもそんな私を助けてくれようとしてる。トウジロウさんはやけくそ半分とはいえチームの仇を少しでも取ろうとしてる。シノちゃんはトウジロウさんを助けようと…… みんなそうやって支え合って生きている。助けて助けられてが循環し永遠と続いて、そうして世界ができている……)




「よし!そうと決まったらとっとと行くぞ、管理区へ!」


 トウジロウの声と共に四人は前を向いた。

 最期の戦い(わるあがき)の始まりだ。この世界を解放するための。



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