15.平穏の終わり
目覚めて携帯の時計表示を見るとお昼過ぎだった。結構がっつり寝てしまった。
携帯に新着ニュースの通知が表示されていた。
いつもは後回しにしているが速報らしいので開いて見る。
(『対造竜用新兵器、運用開始』……?!新兵器ってまさか、あの時のロケット砲?)
現実世界にあまり滞在できなくなったせいで全く見えていなかったが、着々とプロジェクトは進んでいたようだ。
あの試験中だった新兵器はもう本格的に使われるレベルまで来ていた。
アイを殺した、あの忌々しい武器。忘れもしないあの光景……
暑くもないのに急に全身に汗が噴き出し、心臓が早鐘を打ち始める。
(まずい、あれは駄目!あの俊敏なアイですら駄目だったんだから……みんな殺されちゃう!まずはリーダーに連絡してチームのみんなを止めさせなきゃ!)
慌ててドアを開けて廊下に飛び出すと下の階が何やら騒がしい。一刻も早く報告を、と思い無視してリーダーの部屋に向かおうとしたが、なんとなく嫌な予感がしてどうにも気になって足が止まる。
(何が起きたんだろ?なんか嫌な感じ……まさかさっきのニュース関係かな?)
すぐに戻ると決め、来た道を戻り階段を降りる。騒ぎは一階のエントランスからだった。
造竜が竜の状態のまま次々と巨大な担架で運ばれてくる。治療のため大浴場で薬浴させるつもりだろう。あの湯には殺菌や治癒促進効果がある。
皆担架からはみ出した頭や尻尾をだらんと下ろしぐったりしていて、相当疲弊しているらしかった。
担架が通るたびに黄緑色の雫が垂れ、細くうねった一本道ができている。
その怪我人の行列を避けるように脇で人だかりができていた。運び込まれた仲間を心配する者や野次馬で来た者など様々。
「俺の相棒が……!やられたんだ!俺もボロボロで!これ以上戦えってのか?!」
「ゲンさんがやられたって?!そんな!あんなベテランがやられるなんて!無理だろこんなの!」
「私の友達が帰ってこないの!まさか……いや、違うわよね?!そんな事ないわよね?!」
造竜達は突然の事態に大パニックだ。泣きだす者もいれば怒り出す者もいて混乱を極めていた。
この様子からするともうすでに新兵器の餌食になってしまった造竜達がいる。皆なすすべもなく次々とやられて。
こうしている今この瞬間も、いつも通りソシキから指示を受けた造竜達が何も知らないまま次々と出撃して……そして……
(こうしちゃいられない!早く止めないと!)
急いで階段を駆け上がり、リーダーの部屋へ。
入ると、なぜか電気が付いておらず暗がりにぽつんとアカネが一人机に向かっていた。
「失礼します……あれ、アカネさん?暗くないですか?」
言いながら電気のスイッチを押す。
「あ、ミドリ!ごめんごめん。ちょっと他に集中しちゃって忘れてたわ」
(アカネさん……?)
なんだか様子が変だが、この状況のせいだろうか。
彼女曰くリーダーはまだ戻ってきていないようだ。新兵器の事はリーダーに代わってソシキに連絡済みとの事。
しばらく何か対策方法が出てくるまでミドリ達は待機となった。新兵器という脅威はあるものの、自分達が向こうに行かなければ大丈夫らしい。
「ソシキの方で分析が進められているらしいから、とりあえずは安心ね」
アカネはそう言う。
ソシキ。何も知らなければ、ここでホッとするんだろうけど……なんか裏がある気がする。
しかし、ここで中途半端にソシキについて話したところでアカネを不安にさせるだけだ。まだ確信は持てないのでやめておく。
「ふぅ……」
ため息をつくアカネ。
いつも明るい彼女が今日はどんよりとしたオーラを纏っている。今まで見た事がなかったくらい異様な光景。
どうしたのかと聞いて見ると、突然リーダーの代わりになってしまい重荷に感じているようだった。さらにどこに行ったか分からないリーダーの安否も不安で沈む気持ちに追い討ちをかける。
(新兵器の話は一旦ストップ。私達だけじゃ対策できないし。気になって仕方ないけど……ソシキに任せよう)
それより目の前のアカネだ。今までの自分と逆のパターン。落ち込むミドリを相手が励ますのがいつもだったが、今日はその反対。
ならば。せめて話を聞くだけでも、何か力になれないか。
(今まで凹んだとき……そうやってアイとか、キミコさんとか、ハルとか、助けてもらってばかりだった。だから今度は私が助けるんだ!)
勇気を振り絞り声をかける。
「アカネさん、その……良かったら悩み聞かせてくれませんか?」
アカネはまさかの出来事に驚いてポカンとしながらミドリの顔を見つめた。まさかあのミドリがそんな事言うなんて、と。
それから少し間を置いて、少しずつ自分の胸の内を話してくれた。
キミコさんのときと全く反対の状況だ。そんな自分に驚きつつも彼女の話を聞く。
うまくいったと思いきや、アカネは徐々に言葉少なめになっていきとうとう最後には無言になってしまった。
(あれ?どうしたんだろう?)
不思議に思うミドリにアカネはぽつりと言った。
「なんかミドリさ、変わっちゃったね」
「えっ?それは……どういう……?」
「元々あんまり話さなかったっていうのもあるかもしれないけど、それでも前は一生懸命私の気持ちにしっかり向き合ってくれていた。口数少なかったし言葉が変な時もあったけど、ちゃんと気持ちが伝わってきた。でも、今は上っ面しか見えていないような気がして……」
(……!)
「なんか、なんだろ。なんていうか機械かなんかと話してるみたいで……」
あの失言以降、ミドリは無意識のうちに当たり障りのない言葉を選ぶようになってしまっていた。なるべく変な事は言わないようにと、無意識に。
相手の気持ち。相手がどう思うか。言葉そのものの意味合いだけでなく、それに含まれる相手の感情。
忘れてはいけない一番肝心な事。
「ごめんなさい、私……」
「ううん、いいの。私の気のせいかもだし。ほんとはミドリ、とっても優しいって私知ってるから」
(アカネさん……)
気遣いはほどほどでいい、相手の反応を見るのが大事。会話は相手とのキャッチボールなのだから。強く投げても弱過ぎても良くない。
変な事言わないようにと気遣いが逆効果になってしまった。絶対に関係を上手にやらなくてはいけないとまた気持ちを張りすぎた。
それからさらにしばらく喋っていると、次第にまた元のよく笑うおしゃべりなアカネに戻った。モヤモヤした気持ちをスッキリ吐き出せたようだ。
人の話を聞くこと。それは強力な心の薬だ。
もちろん、相手とキチンと向き合って。
ミドリは話を続けながら少し内心反省した。
アカネに別れを告げ、部屋を出るとエントランスの方はまだ騒いでいた。担架を運ぶ係が野次馬を退かす「どいたどいた!」というかけ声がひっきりなしに聞こえる。
またあの兵器の事を思い出してもやもやしてきた。ソシキに任せるとしても……
自分の部屋に戻るなりすぐにテレビをつける。
テレビの内容はほとんど頭に入ってこない。なんでもいいから今は気持ちを誤魔化せるような雑音が欲しかった。
なんとなく落ち着かなくて足を何度も組み直す。
(ソシキに任せて、本当に大丈夫かな……)
まさかいつか調べたみたいにソシキと現実世界側が連絡を取り合って……いやまさか。そんなまさか。
結局もやもやとした気持ちのまま、眠れず朝を迎えることになった。




