サイドストーリー❸ 私では無いわたし
私は思い出した。思い出してしまった、過去全てを。
あの時自ら命を絶ったことも。
下に落ちていった、あの感覚は今も容易に思い出せる。
死んだはずの私。
なら、ここにいる『わたし』は誰なんだろう。
アテナ達のうちの一人である『わたし』。
今のこの意識は私のものだ、おそらくそう。でもこの体は私ではない。
もちろん自分の意思でスムーズに動けるし、不具合は今のところ発生していない。健康で強靭な体だ。竜になって空を飛んだり火を吐いたりすることもできる。
私が過去に望んでいた自由で強い者。それが『わたし』。
しかし、外から見れば大勢いる造竜Aタイプ(アテナタイプ)達の一人にしか見えないのだろう。研究員達が話しかけるのも、アテナである『わたし』に対してであって私ではないのだ。
この世界には私は認識されない。
つまり、ここには『わたし』はいても私はいない。
だがそうならば、そうであるならば。
『わたし』はいったい何だ。
私の意思で動く『わたし』は何なのだ。
私でありながら私ではない、この『わたし』は……
私はいない。でも確かにいるのだ、ここに。
ここで思考し悩み苦しんでいるのは私であって『わたし』ではないのだ。これは、この思考は私のもの。
私は確かにいるのだ、ここに。
私はいるのだ。
ふと目からぽろりと一筋雫が溢れる。
涙か。そんな機能も付いていたのだな、この体。これはどっちのものだろう。
泣いているのは、『わたし』?それとも私?




