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みどりの世界  作者: あさぎ
【第二のゲーム】ディストピアの世界 〜再生のミドリ〜
30/54

13.不気味な存在

 


 今日は長かった自宅謹慎の最終日。

 明日からやっと仕事に戻れる。たった一週間とはいえ長かった……

 目覚めたばかりのミドリは布団の上で伸びをしていると、突然乱暴にドアがノックされた。


「ミドリ〜!起きてる?ってか生きてる?」


(失礼な、生きてるから私!)


 彼なりの朝の挨拶だろうか。相変わらずな感じである意味安心した。


 ドアを開けて彼を引きいれて椅子に座らせ……ようとしたが、勝手にベッドに飛び乗り寝っ転がってしまった。まったく、どっちが部屋の主なんだか。

 ミドリは顔を顰めたがハルは暇そうに髪を弄っている。仕方なく彼に向けて引いていた椅子を直し、腰掛ける。


「仕事まで暇だよな〜」

「ちゃんと反省した?」

「ん〜?うん」

「また同じ事しないように。また規則破ったら今度は待機どころじゃ済まされないよ」

「は〜い」

「ちょっと、聞いてる?」

「うん、聞いてる聞いてる。そういやさ〜」

 こいつ、全く聞いていない。


「そうそう、あのさあ!チームメンバー全員に挨拶してきた!なんかみんないい人そうでよかった〜」

 あまりに暇すぎてチームメンバーの部屋を訪問して回っていたらしい。奇襲もいいところだ。

「えええ……そもそも、メンバーの部屋ってどうやって知ったの?そもそも名前だってまだ知らなかったじゃない」

「え?リーダーが全部教えてくれたよ?」

「えっ、それ個人情報……」


(リーダー、それプライバシー的にアウトですよ!今更どうもならないけど!)


「え?何?なんかやばいの?」

「君はもういいわ」


(教えてどうにかなる相手じゃないからね)


 本来はもっと慣れてから挨拶回りをするはずだが色々順番すっ飛ばしてしまったみたいだ。チームのみんな、ほんとごめんなさい。


(それでもすごい行動力ね、ハルは。見習わなくちゃ……大人しくできないだけかもしれないけど)


 チームは全部で八人いて、ミドリとハル除いて三組ペアがある。ハルが言うにはこうだ。


 まず、アオイとカナのアオイの冷静沈着コンビ。

 口数の少なく不思議な雰囲気の二人だが、同じ静かな性格どうし気が合ってそう。笑いのツボも独特で突然笑い出したりするタイプ。

 もともと二人とも頭の回転が早く、どんな状況下でも冷静に行動し確実に仕留める。


 次に、トウジロウとシノの異色コンビ。

 シノはまだ幼く力のコントロールができない。トウジロウはそれを見つつ、敵の行動も観察しながら戦う広い視野の持ち主。年の近い仲間が周りにいないシノだが、お父さんのようなトウジロウにとても懐いているようだ。


 最後、リーダーのダイキとアカネのベテランコンビ。

 二人ともかなりの古株で、このチーム内では一番長い付き合いだ。普段はチームの司令塔として滅多に戦闘に出てこないが、実は二人とも体育会系でとにかく押せ押せな戦闘スタイル。

 運動神経抜群の二人だからこそできるやり方だ。


 全員主力級の戦闘員。その和やかな雰囲気からは検討もつかないが、その腕はかなりのもの。

 せいぜい建物の破壊ぐらいしか任されないミドリ達と違って純粋な戦闘員として第一線で活躍している。


(そうなんだ……よく知らなかった)


 彼の話に感心してしまった。

 というのも、ミドリも詳しくは知らなかったからだ。

 一度それぞれ挨拶したので面識はあったが、一切関わりを持とうとしていなかったのだ。

 怖がってばかりで関わるのを避けてしまっていた。だから、詳しくは知らなかった。


(新入りに先越されちゃったな……よし、もっと頑張るぞ!)




「だからさ、みんな『戦闘員』なんだよ。現実世界の人と戦ってるって。やっぱ俺ら悪者じゃんか。嫌な予感当っちゃったじゃん」

「しっ!声でかい!」

「はいはい黙りますよ〜。んでさ、実は俺達もなかなかいいコンビなんじゃね?ミドリがブレーンで、俺が暴れる……なんかいけそうじゃん?」

「私そんな頭良く無いわ」

「俺なんかより全然落ち着いてる」

「君の落ち着きがなさすぎるだけよ」

「あ〜。そうかも」

 自覚してたんかい。


 わいわいしているとまたドアがノックされた。

 トウジロウさんだった。

「お!やっと見つけた。ここにいたのか……おい、にーちゃん。忘れ物してんぞ」

「え?あ、ブレスレット!」

 シンプルなCの形をしたシルバーのブレスレット。お気に入りらしいけど、じゃあ落とすなよ……


「ハル、お前散々探したんだぞ……やれやれ」

「ははっごめんごめん。ありがと〜」

 軽い調子のハルを見ながらトウジロウはふいに目を細めた。

「俺の息子も今頃このくらいか……もう大学生。早いもんだな」


(息子さんがいたんだ、知らなかった。でもトウジロウさんだけこの世界に来て……)


 成長しどんどん変わっていく子供。これから自由な大学生活を楽しんで、卒業したら今度は広い社会に出て、さらに家庭を持ったりして……


 きっとまだまだ見守っていたかっただろうに。

 はっきりとは言わないけど、トウジロウさんも何かがあってこの世界に来たんだろう。


 しんみりとした空気が漂う。




 すると雰囲気を打ち破るようにハルが口を開いた。

「なんかしんみりしてるけど、俺成人してるからな?!」

「「社会人だったの?!」」


 衝撃の事実。ずっと学生だと思ってた。

 私もトウジロウさんも。

「失礼だな、もう!俺はこれでも大人だよ!」

「えええ?!うそ〜」

「そうは見えなかった、すまんな」


 他にも他愛無い話をしていると、トウジロウはこれから一階のエントランスの掃除をしにいくところらしかった。専属の掃除作業員がいて定期的に掃除しているのだが、砂が付いたまま皆出入りするのでいつも汚れていた。

 せっかくなのでミドリ達も着いていく事に。


 エントランスではもうすでにアオイが箒ではいていた。端の方に向かってキチンと埃が纏められている。さすが、綺麗好きだ。


「アオイ、手伝いにきたぞ!今日はミドリも一緒だ」

「お、珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」

「それが……って、あれ?ハルは?」

 彼の姿はそこには無かった。いつの間に。


(あ〜!掃除嫌がって逃げたんだ!もう、勝手なんだから!)


 三人で手分けして掃いていく。人数増えた分進みが早く、あっという間に終わった。

「ふ〜、終わった。手伝いありがとう。それとミドリ……君の部屋もその感じじゃきっと汚いんだろう?」

「うぐっ!」

 バレたか。たしかにガサツだしそもそも掃除自体めんどくさがって滅多にやらない。


「見ててよく分かった。箒の持ち方すらぎこちないし、あんまり掃除しないんだろう?いつか俺が行って掃除してやりたいくらいだ」


(たしかに掃除してもらえば相当綺麗になるだろうけど、それ以前にアオイさんに見せられるような部屋じゃないんだよなあ……あはは)


 掃除用具を片付けて二人と別れたミドリは資料室へ向かった。




(今度こそ何か手がかりを探すんだ……)


 地下に降り、廊下を歩くと学校にあるような灰色で背の高いシンプルなロッカーがあった。


(うわっ懐かしい……こんなところでまた見かけるなんて)


 よく見ると扉がわずかに開いていて、誰かが窮屈そうに立って中に入っている。

 中を覗くと……


「えっハル?!こんなところで何して……」

「し〜!今かくれんぼしてんの!バレるバレる!」

 小声で言うハル。

 見なかったことにして通り過ぎると、シノが向こうからやってきた。

「あのね、ハルとかくれんぼしてるの」


(ほんとにかくれんぼ好きだなあ……この子)


 建物自体が広いから、小さい彼女にとっては隠れがいがあるのだろう。


「あのね、ハルってね。会うといつもミドリの話ばっかりなんだよ」

「えっ?」

「ミドリがどうしたとか、どこにいたとか、何をしゃべったとか、いっぱい」


(え、意外。あんまり私の事聞いてこないし。いや単に面白がられてるだけかも……)


「それにね、ミドリはとっても優しいんだって」

「え?めずらし〜そんな事言うなんて」

「んとね、それと、笑うと可愛いんだって」

「おお?!」


(ど、どういう事?!)


「あとね、えっとね……」

「わ~!わ~!ストップストップ!やめろって!」

 耐えきれなくなって出てきたハル。耳まで真っ赤だ。

「ハル!見っけた!」

「あ!おま、ずるいぞ!」

 策士シノ。恥ずかしくなって出てくるのを待っていたようだ。なかなか賢い子だ。


「くっそ〜!でもまだだ、まだ!ほら、まだ俺タッチされてないから!」

 ハルは捕まるまいと全力疾走でそこから逃げ出した。大人げない。シノもきゃっきゃと笑いながらそれを追いかけていった。タッチするのは鬼ごっこでは?というツッコミはこの際言わないでおく。

 同レベル同士……いやシノの方が大人かもしれない。これでも小学生と大人なんだが。


 ミドリは気を取り直して資料室へ。今日は地下には誰もいないようでしーんとしていた。

 扉を開けると、足を踏み出すより先にくしゃみがでる。すごいホコリ。アオイが見たら速攻お掃除タイム開始だろう。

 電灯のスイッチをつけると光に当てられホコリの塊が舞っていた。長い間誰も入ってこなかったようで、床にも積もってしまっている。


 所狭しと大きな本棚が並んでいてどこに何があるのか分からないので、とりあえず手あたり次第本を手に取っては開く。


 何百種類もの薬草が図解されている『薬草のすべて』、初心者向けに簡単な説明の載った『楽しいDIY』、ファンタジー小説『ヘンリー・ポッター』……

 面白そうな本もたくさんあったが、今は少しでもソシキや造竜についての情報が欲しいのだ。流れ作業で淡々と内容を確認しては横に積み上げていく。


 ミドリの腰ほどの本の山が二つできた頃、作業に疲れたミドリは、ふと顔を上げると本棚の奥に倒れて入っている本を見つけた。


(あ!ついに手がかり発見?!)


 期待したが、ただの誰かの日記のようだった。残念。しかも鍵がかけられていて中身は読めなかった。


(駄目か……)


 なかなかそう簡単には手掛かりは得られないか。


(まいったな。資料室があるって聞いてきたけど、がっかり。ここでがむしゃらに探しても効率が悪いし……)




 そうだ、パソコン。

 ソシキと造竜達が共有しているところがあったはず。主にソシキとの資料送受信用だが、もしかしたら何かあるかもしれない。

 大事な資料はアクセス権が無いかもしれないが、それでも多少は見れるかもしれない。


 何でもいい、何か少しでも情報が得られれば……

 急いでパソコンを立ち上げ、片っ端からデータを探す。


 造竜各チームの構成員リスト……違う。

 売店の商品一覧と売上げ……これも違う。


『ソシキ』という単語で検索をかけ、絞ってみる。


各造竜の経歴書……ソシキが詳細をまとめたものらしい。こんなのも誰でも見れるのか。気にはなったけど今はあんまり関係ないのでパス。それよりあの日の任務の情報だ。


 ソシキの資材管理リスト……なにやらアルファベットと数字の混ざった品番がずらっと並んでいる。全てラボに送っているようだ。


(出荷元、トーキョー三丁目四番。これトーキョーで何か発注してるって事?)


 トーキョーとソシキで何かやり取りしている。それも何か資材を。

 トーキョーとソシキ、つまり『現実世界の人間』と『ソシキ』。異世界の全くの無関係な存在だと思っていた。どうやらだいぶ密接な関係のようだ。


(あの日の事、まさかソシキは知ってたとか?いやいやそんな。まさか、まさかね……)


 なんだか怪しいがそれ以上はパスワードが掛かっていて見れなかった。


 結局しばらく時間をかけて探したが、他にめぼしい情報は得られなかった。

 でももっと色々角度を変えて探せば何か出てきそうな雰囲気だ。叩けば埃がでるだろう。




 なぜソシキは建物を破壊させるのか。


 現実世界の人間に恨みがあるなら対象は人間のはず。しかし依頼されるのはビルの破壊ばかり。

 まさか、それが目的なのだろうか。ならば、なぜ。


 ソシキとは何なのか。どんな組織なのか。

 そもそも彼らはいったいどこの誰なのか。人間なのか。


(いつか絶対に謎を解いてやるんだ……!見ててね、アイ!)



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