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みどりの世界  作者: あさぎ
【第二のゲーム】ディストピアの世界 〜再生のミドリ〜
28/54

11.秘密

 


 翌日、朝日が登るとすぐに仕事が始まった。


 ミドリとハルは造竜化し、時空の狭間の周囲の見回りをしている。日差しはポカポカとしていて心地良く眠気を誘う。見張りは他にもう一組いるようで、同じように周りをうろうろ飛び回っていた。


 《あ〜暇。眠いんだけど》

 《ちょっと!一応仕事中なんだから集中して!》

 《え〜。さっきからなんも起きね〜じゃ〜ん》

 《もう!ハル、大人しくしなさい!》

 《じゃあなんか面白い話してよ》

 《だからおしゃべりしてる場合じゃ……》

 《頭固いなぁミドリは。たまには手抜かね〜と。うまくやらなきゃ》

 《そりゃ、そうだけど……》

 《ってかさ〜俺、何でここにいんの?》

 《なんでって?》

 《俺、死んだはずなんだよな。多分》

 《えっ……》

 《引いた?》

 《ううん。私もその……なんていうか色々あって死んじゃって……》

 《同じじゃん!って事はみんなそうなの?やば、ゾンビじゃん!こえ〜!》

 今までそんなの私だけだと思ってた。私だけ特別だったんだと思ってた。


 まさか、みんな本当に一度亡くなっている?


 じゃあカナも、アオイさんも?あのリーダーも……


 まさか、アイも一度何かで死んでいたの……?

 嘘だ。そんなの嘘だ。いつも明るくて全然そんな感じしなかった。

 でも、本当だとしたら。


 アイの事、色々彼女が喋ってくれて知っているつもりになっていた。

 全然生い立ちとかそういった彼女自身の話を知らなかった。いや、知ろうとしなかったからだろうな。

 いつも私、受け身でアイに話しかけてもらってばかりだったから。

 もっとたくさん話しかけて色々聞いていたら……




 いや、これ以上悩むのは止めよう。私は前を向いて歩く事にしたんだから。

 ハルと同じ状況だったのも、偶然だった可能性もある。

 《でも、みんながみんなそうじゃないかもしれないし》

 《そうなの?》

 《いや、あんまり知らないからなんとも……》

 《ふ〜ん、知らないのかぁ》

 《ソシキなら全部知ってるんだろうけどね》

 ソシキ、という言葉を聞いて露骨に顔を顰めるハル。


 《また出た、ソシキ。皆ソシキが〜ソシキが〜って言うけど何なんだよ。うさんくさ。宗教かよ》

 《あれ、リーダーから説明受けなかった?》

 《仕事くれるお偉いさんとは聞いてるけど。姿も全然見えねぇし、なんなんだか。ほんとにいんの?》

 《いるよ。いつだったかリーダーが電話してて、声が漏れて聞こえた事があったから》

 《電話とかそんなんで俺らの事分かるのかよ》

 《それがね。実は、ソシキの方には私達の様子が筒抜けみたいなの。私達が気づいていないような事でも向こうは全て把握してる。どこかから監視しているのかも……》

 《げっ!やだよそれ!どっかに監視カメラとか付いてるとか?なにそれ、気持ちわりぃな!》

 言葉が言い終わるより前に素早く、シッとミドリは口の前に人差し指を立てた。突然の緊迫した雰囲気にハルは驚いて最後の発音の口の形のまま固まっている。

 もしかしたらこの会話もどこかで聞かれているかもしれない。人間には聞こえない念波とは言え、彼らは造竜の全てを知る者。なんらかの形で録音・管理されていてもおかしくない。


 ハルの側に体を寄せ小声で話しかける。

 《声が大きい。そういうのは言わないのが暗黙の了解なの》

 《……!えっ、まさか……こ、こ、こ、殺され……》

 《何もされないはずだけど……確証は無い。何かあったとしても死人に口無しだしね》

 ハルがごくりと生唾を飲み込んだ音が聞こえた。造竜化しているせいか音が大きい。


 《……まぁカメラはあるかもだけど、悪い事してなけりゃ問題ないからね、大丈夫よ》

 怯えて尻尾が足の間に入ってしまった彼を見て可哀想になったので、無理矢理話を変えた。

 普段の声のトーンに戻ると彼の尻尾はまた元気にピンとなった。

 《問題あるよ、大ありだよ!昨日部屋で踊ってたの撮られてるかもじゃん!やば、恥ずかし!》

 《大丈夫。そんなどうでもいい映像誰も見ないから》

 少し彼の扱いに慣れてきた。


 《そういや、仕事って何すんの?今日みたいになんかうろうろ見回りやってればいい感じ?》

 《そういうのは最初の頃リーダーが教えてくれたでしょ?》

 《そうだっけ?忘れた》

 《いやいや、メモぐらいしときなさいって……まぁ色々あるけど、それこそ今日みたいな簡単な見張り、建物の破壊から戦闘まで……》

 《破壊?!戦闘?!えっなんで?!》

 《なんでって仕事だからしょうがないじゃない》

 《え〜おかしいだろそれ!それじゃあ、》

 また大声でなにか言い出しそうだったので視線でストップをかける。危ない危ない。


 内容を察して先に答える。

 《ソシキは悪者じゃないわ。私達の生活に必要な物与えてくれるし、健康状態だって見てくれてる……それに……》


『お〜い!ミドリ!ハル!聞こえるか?任務完了だ!撤収するぞ』

 《了解しました、リーダー!》

 《ええ?!もう終わりかあ、はえ〜な》


(ソシキは全てを把握している存在。私達の事ももちろんそうだし、現実世界の事もなんでも知ってる。だからどう行動するのが正解かも全部分かってる。今までそうだったから)

 帰り道を飛びながらミドリは心の中で独り言ちる。

(だから、私達はその言う通りにしていればいい)




 《お〜わり〜。全然楽勝じゃん。なぁなぁ、俺もっとトーキョー見てたいんだけど》

 《駄目。撤収するってリーダー言ったでしょ?》

 《え〜っ!せっかく初めてここ来たのに!》

 《だから!駄目だって言って……》

 気づいたらすでに彼はこちらに背を向けて、トーキョーに向かって飛び立っていた。その無駄にありすぎる行動力、私にも分けて欲しいくらいだ。


 《もう!待ってってば!》


 久しぶりのトーキョーだ。

 あのビルのあった場所は、もう瓦礫は端に避けられていた。これから土地を整備してまた新しい建物を建てるつもりのようだ。工事用の囲いがしてあり、綺麗なビルの完成イメージ図が貼られていた。以前の面影はもうほとんど残っていない。

 ミドリにはそれがありがたかった。少しだけ忘れられるような気がして。


 一方、ハルは初めての光景に興奮してあちこちせわしなく飛び回っている。


 あの時以来、造竜達に二つのルールが課された。

 一つ、トーキョーに来た際仕事以外では雲より下に降りてはいけない。二つ、仕事以外では姿を見られてはいけない。

 どちらも不意の事故を防ぐためだ。


 《ハル!あんまり下にいかないでね!突然攻撃されるかもしれないんだから!》

 《はいは〜い》


 今日もトーキョーはいい天気だ。

 沢山の車や交差点の人だかり。人々の話し声や物音で賑やかだ。上空からでも聞こえるほど。

 街を縦横に電車が通り過ぎていく。


 《……ドリ!ミドリ!》

 ハルが速度を落としながら滑空してきた。


 《あれ!あれ見て!なんだろ?》

 彼の爪、もとい指が指す方向には瓦礫の山がある。

 《えっ何が?》

 《あれだよ、あれあれ!》

 瓦礫の間にわずかに隙間があった。子供なら屈んでギリギリ通れるかもしれないくらいの大きさだ。中は暗くてよく見えない。


 《なんか隙間あんじゃんあそこ!あれ、なんかさっき動いたんだよ、ゴソゴソって!まさか人が埋まってるんじゃ……》

 《ここからじゃよく見えないけど……あれからだいぶ経ったし人ならもうとっくに救助されてるはずよ?》

 《でも人でも人じゃなくてもそりゃ、助けるだろ?》

 《仮にもし人や動物が埋まってたとしても私達のやる事じゃないわ。それはここの世界の人がやる事》

 《でもあんなとこにずっといたら、死んじゃうかもしれないじゃん!助けないと!》

 《駄目よ!》

 《……?!なんでだよ?!》

 ハルの目の光が揺れる。


 《あなたにはアイみたいな目に会ってほしく無いの!だから!やめて!》

 《はぁ?!アイとか誰の事だか知らねぇけど!よそ者だからって放って置くのか?!仲間じゃ無ければ死んでいいのか?!見殺しにするつもりか?!》

 《そこまで言ってないでしょう?!早く!戻るよ!》

 《嫌だ!俺は助けに行く!》

 《ハル!何言って……》

 途中まで言いかけたが、彼はもう瓦礫の元に降り立っていた。


 《もう!こっちが殺されちゃうかもしれないのに!》ミドリは急いで彼の後を追った。




 駆けつけると、動いていたのは黒猫。

 長い尻尾がコンクリートの大きな破片に挟まれてしまい、うまく出られないようだ。


 《可哀想に……今助けるからな!待ってろよ!》

 《ちょっと!はやく戻らないと人間に見つかるよ!》

 《すぐ終わるって、へ〜きへ〜き》


 瓦礫を手でどけるとふさふさの尻尾が出てきた。挟まれていたところの毛がぺしゃんこに潰れているが、血は出ていなかった。怪我はないようだ。

 そこにいる間何も飲み食いできなかったようで、肋骨や体の筋がうっすら見える。


 瓦礫をどかすも、目を閉じたまま動かない。

 《えっ、うそ……し、死んじゃった……?》

 泣きそうな声で力なく呟くハル。

 ミドリもつられそうになるが、すんでのところで思い直す。


(そんな!猫ちゃんが……!おっと危ない危ない、今はそんな事より急いで帰らないと!)


 《ハル、帰るよ。その子は駄目だったけど、最善は尽くしたでしょうから》

 《そんな、でも……》

 急いで帰るよ、と言おうとミドリが口を開くと、ちょうど同じタイミングで猫がかすかに動いた。しばらくもぞもぞしたかと思うと、突然はっと目を見開き慌てて立ち上がり、あたふたとどこかへ逃げていった。

 ハルは走り去るのを見届けると、さっきとは打って変わって満面の笑顔で嬉しそうにこちらを向いた。

 《な?助けに来てよかったろ?》

 《な?じゃないでしょ?!たまたま運良く攻撃されなかっただけじゃない!》

 《分かった分かった!そう怒るなって!》

 《ほら、さっさと帰るよ!》

 《はいはい、帰るってば…………うわっ!!》


 何かが勢いよくハルの頭上を掠めて飛んでいった。


(棒状の弾丸……あれは、あの時の!)


 忘れもしないあの色、あの形状……アイの命を奪ったあの弾だ。

 記憶がフラッシュバックしまた胃液が込み上げてくるが、今はそれどころではない。あの時の二の舞にしないようにしなければいけない。ここから今すぐ逃げなければ。

 ハルは間一髪避けたが、すれすれを通るということはやはり当てるつもりだった……つまり殺す気だったのだ。


(まさか今度はハルが狙われるなんて……!)


 長居しようとする彼を止めきれなかった。また同じことを繰り返している。駄目だ、こんなんじゃ駄目だ。彼まで失うなんて……そんなの絶対に嫌だ。

 《ハル!逃げるよ!早く!!》

 ミドリの鬼気迫る形相に怯み、ハルも大人しくついてくる。



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