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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第一章 死者になった教師】  『第5話 朝倉結衣という死者』


 資料室は真っ暗だった。


 窓もない。


 月明かりも入らない。


 普通なら何も見えないはずだった。


 だが神谷には見えていた。


 死んだからなのか。


 幽霊になったからなのか。


 理由は分からない。


 ただ。


 闇の中でも結衣の姿だけははっきり見えた。


「先生」


 結衣が小さく言う。


「今の声」


「ああ」


 神谷は頷いた。


 聞き間違いではない。


 確かに教頭の声だった。


 しかも。


 まるで誰かに向かって話しているような。


 そんな声だった。


『見つけてしまったんですね』


 その言葉が頭から離れない。


 誰に向けた言葉だったのか。


 七日前の自分か。


 それとも。


 今ここにいる自分たちか。


 その時。


 壁の奥にある赤いファイルが淡く光った。


 神谷は息を呑む。


「見えるか」


 結衣も頷く。


「はい」


 二人は近づく。


 もちろん触れない。


 だが。


 不思議なことに。


 ファイルの中身だけが浮かび上がって見えた。


 まるで。


 誰かが読ませようとしているみたいに。


 ページがめくられる。


 一枚目。


 生徒指導記録。


 二枚目。


 家庭環境調査票。


 三枚目。


 児童相談所への連絡記録。


 神谷の顔色が変わる。


「これは……」


 虐待案件だった。


 しかも一件ではない。


 何件もある。


 何年分も。


 報告。


 相談。


 経過観察。


 終了。


 終了。


 終了。


 終了。


 同じ言葉ばかり並んでいた。


「終わってない」


 神谷が呟く。


 怒りが込み上げる。


「こんなはずない」


 現場を知っている。


 教師だったのだ。


 家庭問題がそんな簡単に終わるはずがない。


 なのに。


 記録だけが綺麗に終わっている。


 まるで。


 誰かが片付けたように。


 その時だった。


 一枚の書類が目に入る。


 神谷は凍りついた。


 名前。


 朝倉結衣。


 年齢。


 十七歳。


 家庭内暴力。


 保護対象。


 緊急性あり。


 神谷は結衣を見る。


 結衣は俯いていた。


「お前……」


 声が出ない。


 結衣は静かに言った。


「私です」


 資料に書かれている少女。


 それが朝倉結衣だった。


 神谷は再び書類を見る。


 通報歴三回。


 相談記録六回。


 近隣住民からの苦情。


 警察出動。


 それでも。


 最後の欄にはこう書かれていた。


 ――問題解決済み


 神谷は怒りで震えた。


「ふざけるな」


 思わず声が漏れる。


 結衣は笑った。


 悲しい笑顔だった。


「解決なんかしてません」


 神谷は何も言えない。


「父は最後まで変わりませんでした」


 結衣は続ける。


「母も壊れました」


「私は死にました」


 淡々とした口調だった。


 だが。


 その方が苦しかった。


 どれだけ絶望したら。


 こんな話し方になるのだろう。


 神谷は書類へ視線を戻した。


 そして。


 最後のページで手が止まる。


 そこには手書きのメモがあった。


 他の書類と違う。


 正式な記録ではない。


 走り書き。


 だが。


 見覚えのある字だった。


 神谷自身の字だ。


『朝倉結衣案件、再調査必要』


『報告内容に不自然な点あり』


『記録改竄の可能性』


『教頭へ確認』


 その下に。


 さらに一行。


『証拠を確保した』


 神谷は息を呑んだ。


 結衣も固まっている。


 つまり。


 七日前の神谷は。


 学校による記録改竄を見つけていた。


 しかも。


 証拠まで持っていた。


 次の瞬間。


 激しい頭痛が走る。


 記憶だ。


 また記憶だった。


 深夜の職員室。


 神谷はUSBメモリを握っている。


 顔色が悪い。


 震えている。


 その時。


 スマートフォンが鳴る。


 知らない番号。


 神谷は出る。


『余計なことはやめてください』


 男の声。


 低い声。


 聞き覚えがない。


『先生のためです』


 神谷は黙る。


『家族が大切でしょう』


 そこで通話は切れる。


 神谷の背筋を冷たい汗が流れる。



 記憶が終わる。


 神谷は壁にもたれた。


「脅迫された」


 結衣が顔を上げる。


「え?」


「死ぬ前だ」


 神谷の声は低かった。


「俺は脅されてる」


 資料室に沈黙が落ちる。


 結衣も理解したらしい。


 これは偶然ではない。


 事故でもない。


 神谷は誰かの秘密に近づきすぎたのだ。


 その時。


 資料室の奥から足音が聞こえた。


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 二人は振り返る。


 誰もいない。


 だが足音だけが近づいてくる。


 そして。


 闇の中から声がした。


『先生』


 聞き覚えのない声。


 若い男の声だった。


『どうして』


 一歩。


 また一歩。


 近づいてくる。


『どうして僕を助けたんですか』


 神谷の心臓が凍りつく。


 その声には。


 深い悲しみが滲んでいた。


 そして同時に。


 消えることのない憎しみも。


 神谷は直感する。


 この声の主こそ。


 橋の上の男へ繋がる。


 五年前の事件の中心人物だと。


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