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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第一章 死者になった教師】  『第4話 消された報告書』


 夜の学校は不気味なほど静かだった。


 青葉高校。


 神谷が十五年間勤めた場所。


 昼間なら生徒たちの声で溢れているはずなのに、今は誰もいない。


 風だけが校舎の隙間を抜けていく。


 神谷と結衣は正門をすり抜けた。


 死者に鍵は関係ない。


 ガラスも壁も関係ない。


 便利なのか不便なのか。


 神谷にはまだよく分からなかった。


「職員室です」


 結衣が言う。


 二人は校舎へ入った。


 懐かしい廊下。


 見慣れた掲示板。


 文化祭のポスター。


 進路指導の張り紙。


 全部そのままだった。


 神谷は足を止める。


 二年B組。


 自分の担任クラスだった教室。


 窓越しに中を見る。


 誰もいない。


 机だけが並んでいる。


 だが。


 不思議と生徒たちの声が聞こえる気がした。


「先生!」


「神谷先生!」


「また小テストですか!」


 くだらない文句。


 他愛ない笑い声。


 そんな日常が急に懐かしくなった。


「好きだったんですね」


 結衣が言う。


「何が」


「教師」


 神谷は少し考えた。


 そして答える。


「ああ」


 素直に頷く。


「好きだった」


 給料は高くない。


 残業も多い。


 保護者対応も面倒だった。


 それでも。


 教師でいる時間が好きだった。


 誰かが少しだけ前を向く瞬間を見るのが好きだった。


 結衣は何も言わなかった。


 ただ静かに聞いていた。


 職員室へ着く。


 夜間照明だけが点いている。


 薄暗い。


 神谷の机もそのままだった。


 花が供えられている。


 卒業生が置いたのだろう。


 小さなメッセージカードもあった。


 神谷は思わず苦笑する。


「俺には読めないな」


 死者だから触れない。


 紙も持てない。


 少しだけ残念だった。


 その時。


 結衣が机の方を見た。


「先生」


「ん?」


「あれ」


 神谷も視線を向ける。


 机の引き出し。


 その瞬間だった。


 頭の奥が熱くなる。


 ――七日前。


 深夜。


 職員室。


 神谷は一人で残っている。


 机の上には大量の書類。


 疲れた顔。


 コーヒー。


 そして。


 一冊の分厚いファイル。


 表紙には赤い文字。


 機密資料。


 神谷はページをめくる。


 その顔色が変わる。


「なんだよ……これ」


 呟く。


 怒り。


 驚き。


 信じられないという表情。


 そして。


 背後で扉が開く音。


 誰かが入ってくる。


「神谷先生」


 聞き覚えのある声。


 教頭だった。


 記憶が途切れる。


 神谷は現実へ戻る。


 職員室。


 夜。


 結衣がこちらを見ている。


「またですか」


「ああ」


 神谷は額を押さえた。


 記憶の断片。


 少しずつ戻っている。


「教頭だ」


「教頭?」


「死ぬ前に会ってる」


 結衣は黙る。


 神谷は続けた。


「俺は何かを見つけた」


 胸の奥がざわつく。


「それを教頭に知られた」


 そこまでは分かる。


 だが。


 何を見たのかが思い出せない。


 その時だった。


 職員室の奥から声が聞こえた。


 二人は振り返る。


 誰もいないはずなのに。


 声だけが響いている。


『もう終わった話です』


 男の声。


『証拠は残っていません』


 別の声。


 神谷の顔が強張る。


 教頭の声だった。


 間違いない。


 結衣も気付いたらしい。


「残留思念です」


「何だそれ」


「強い感情が残った場所に、過去の一部が残ることがあります」


 神谷は思わず笑った。


「死んでから覚える知識じゃないな」


「私、二年目ですから」


 結衣は真顔で言う。


 少しだけ可笑しかった。


 二人は声のする方へ向かった。


 職員室の奥。


 資料保管室。


 普段はほとんど使われない部屋だ。


 古い書類。


 廃棄予定の段ボール。


 埃の匂い。


 そして。


 棚の一番奥。


 神谷は足を止めた。


 なぜか分からない。


 だが。


 そこに何かがある気がした。


 手を伸ばす。


 もちろん触れられない。


 しかし。


 その瞬間。


 棚の向こう側が透けて見えた。


「……」


 神谷は息を呑む。


 壁の内側。


 隠しスペース。


 そこに。


 一冊のファイルがあった。


 赤い表紙。


 機密資料。


 七日前に見たものと同じだった。


「先生?」


 結衣が聞く。


 神谷は壁を見つめたまま答える。


「あそこにある」


「何が」


「俺が見たファイルだ」


 結衣の顔色が変わった。


 神谷の胸が激しく高鳴る。


 死者なのに。


 確かに感じる。


 あの中にある。


 自分が死んだ理由。


 学校が隠した秘密。


 そして。


 誰かが必死に消そうとした真実が。


 その時。


 資料室の奥から冷たい声が響いた。


『見つけてしまったんですね』


 二人は振り返る。


 誰もいない。


 だが。


 その声だけははっきり聞こえた。


 教頭の声だった。


 そして次の瞬間。


 資料室の電灯が一斉に消えた。


 闇が落ちる。


 神谷は直感した。


 この学校には。


 まだ自分たちの知らない何かがいる。


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