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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第一章 死者になった教師】  『第3話 橋の上の記憶』


 頭の中で雷が落ちたような衝撃だった。


 神谷はその場に膝をつく。


 視界が歪む。


 世界が白く染まる。


「先生!」


 結衣の声が遠い。


 耳鳴りがひどかった。


 そして。


 知らないはずの光景が見えた。


 雨だった。


 冷たい雨。


 夜の橋。


 街灯の光が濡れた路面に反射している。


 神谷は誰かと向かい合っていた。


 男だった。


 四十代くらい。


 痩せている。


 だが目だけが異様だった。


 怒り。


 憎しみ。


 悲しみ。


 全部が混ざっている。


 そんな目。


「お前が全部壊したんだ」


 男が言う。


 雨音の中でもはっきり聞こえた。


「お前が」


 神谷は答えようとする。


 だが声が出ない。


 まるで映像を見ているだけだった。


「違う」


 ようやく出た言葉は弱々しかった。


「俺は……」


「黙れ!」


 男が叫ぶ。


 橋に響く。


「助ける?」


 男が笑った。


 壊れたような笑いだった。


「救う?」


 雨が激しくなる。


「ふざけるな」


 男の目から涙が流れていた。


「お前が関わらなければ」


 声が震える。


「息子は生きてたんだ」


 そこで映像が途切れた。


 神谷は現実へ引き戻される。


 荒い呼吸。


 冷たい風。


 夕暮れの駐車場。


 結衣が心配そうに覗き込んでいた。


「大丈夫ですか」


 神谷は答えられない。


 今見たもの。


 あれは。


「記憶です」


 結衣が静かに言った。


 神谷は顔を上げる。


「記憶?」


「死ぬ前の」


 結衣は頷いた。


「少し戻ったんです」


 神谷は立ち上がる。


 足元がふらついた。


「息子……」


 結衣は反応しなかった。


「誰かの父親か」


「たぶん」


「俺は何をした」


 結衣は少し黙った。


「先生」


「なんだ」


「本当に覚えてないんですか」


 神谷は苦笑した。


「覚えてたら苦労しない」


 結衣は神谷を見つめる。


 その視線には迷いがあった。


 何かを知っている。


 そんな顔だった。


「知ってるのか」


 結衣は目を逸らす。


「少しだけ」


「話してくれ」


 だが結衣は首を振った。


「まだです」


「なぜ」


「先生自身が思い出さなきゃ意味がないから」


 神谷はため息をついた。


 面倒な性格だと思った。


 しかし同時に。


 どこか正しい気もした。


 他人から聞く真実と。


 自分で辿り着く真実は違う。


 二人は歩き始めた。


 夕暮れの街。


 車が行き交う。


 だが誰も二人を見ない。


 世界から切り離された存在。


 そんな気分だった。


「どこへ行く」


 神谷が聞く。


「学校です」


 結衣が答える。


「学校?」


「先生が働いてた高校」


 神谷は顔をしかめた。


「行けるのか」


「死者ですから」


 結衣はあっさり言う。


「壁も鍵も関係ありません」


「便利だな」


「便利じゃないですよ」


 結衣は少し笑った。


「死んでますし」


 神谷も思わず笑った。


 初めてだった。


 死んでから笑ったのは。


 やがて学校が見えてきた。


 青葉高校。


 神谷が十五年間勤めた場所。


 夕日に照らされた校舎。


 グラウンド。


 体育館。


 全部見慣れた風景だった。


 だが。


 胸の奥に妙な違和感があった。


「どうしたんですか」


 結衣が聞く。


 神谷は校舎を見つめる。


「変なんだ」


「何が」


「懐かしいのに」


 言葉を探す。


「帰りたくない気がする」


 結衣の表情が変わった。


 ほんの少しだけ。


「……そうですか」


 神谷は気付かなかった。


 結衣が何かを知っていることに。


 その時だった。


 校舎の窓が夕日に光る。


 その瞬間。


 神谷の脳裏に別の記憶が走った。


 職員室。


 机。


 大量の書類。


 そして。


 一枚のファイル。


 赤いスタンプが押されている。


 そこには大きく書かれていた。


 ――処分済み


 神谷の身体が震えた。


 そのファイルを。


 自分は見てはいけないと思った。


 いや。


 違う。


 見てしまったのだ。


 だから。


 死んだ。


 心臓が大きく鳴る。


 死者なのに。


 確かに聞こえた気がした。


「先生」


 結衣が校舎を見上げる。


「ここから始まります」


 神谷も視線を上げる。


 夕闇に沈む高校。


 十五年間愛した場所。


 そして。


 自分を殺した秘密が眠る場所。


「行くか」


「はい」


 二人は正門をすり抜けた。


 夜の学校へ。


 真実を探すために。


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