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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第一章 死者になった教師】  『第2話 少女は「あなたは殺された」と言った』


 私は知っています。


 犯人が誰なのか。


 少女の言葉が耳に残った。


 神谷はしばらく動けなかった。


 葬儀会場のざわめきだけが聞こえる。


 読経の声。


 線香の香り。


 すすり泣く声。


 だがその中で。


 目の前の少女だけが異質だった。


「誰なんだ」


 神谷は尋ねた。


「犯人は」


 少女は答えない。


 代わりに祭壇へ視線を向けた。


「先生は短気ですか」


「は?」


「質問です」


 神谷は眉をひそめた。


「普通だと思う」


「じゃあ少し我慢してください」


 少女はそう言って歩き出した。


 神谷は慌てて追いかける。


「待て」


 少女は振り返らない。


 参列者の間を抜ける。


 不思議だった。


 誰ともぶつからない。


 誰も彼女に気付かない。


 まるで空気だった。


 会場の外へ出る。


 夕方だった。


 空は薄い灰色に染まっている。


 少女は駐車場の隅で立ち止まった。


「先生」


「なんだ」


「まず確認します」


 少女は神谷を見つめる。


「そこにある車を押してください」


 神谷は呆れた。


「何のために」


「いいから」


 神谷は近くのワゴン車へ向かう。


 手を伸ばした。


 触れようとする。


 しかし。


 手が車体をすり抜けた。


 神谷は固まった。


「……」


 もう一度試す。


 同じだった。


 まるで煙を掴もうとしているみたいに。


 何も触れられない。


「そういうことです」


 少女が言った。


 神谷は車を見つめたまま立ち尽くす。


 頭では理解していた。


 死んだことは。


 だが。


 今ようやく実感した。


 自分は本当に。


 この世界に存在していない。


「先生は死者です」


 少女の声は静かだった。


「物には触れません」


「人にも触れません」


「声も届きません」


 神谷は拳を握ろうとした。


 だが妙な感覚だった。


 握れているのかさえ分からない。


「じゃあ君は何なんだ」


 少女は少しだけ考えた。


「私も死者です」


 神谷は目を見開く。


 少女は笑わない。


 本気だった。


「死んでるのか」


「はい」


「いつから」


「二年前です」


 神谷は息を呑む。


 二年前。


 まだ十七歳にも見えない少女が。


「事故か」


「自殺です」


 神谷は言葉を失った。


 少女はあまりにも平然としていた。


 まるで他人事みたいに。


 それが逆に痛々しかった。


「名前は」


「朝倉結衣」


「何年生だ」


「死んだ時は二年生でした」


 神谷は考える。


 記憶を探る。


 だが思い出せない。


 教え子だっただろうか。


 いや。


 名前に聞き覚えがない。


「俺の学校か」


「違います」


 結衣は首を振る。


「先生とは会ったことありません」


 神谷はさらに混乱した。


 会ったこともない女子高生の幽霊が。


 なぜ自分の葬式にいるのか。


 なぜ犯人を知っているのか。


「説明してくれ」


 結衣は少し黙った。


 そして。


「先生」


 空を見上げる。


「死者には二種類います」


「二種類?」


「未練がない人」


 神谷は聞く。


「もう一つは」


「未練が強すぎる人です」


 風が吹いた。


 結衣の黒髪が揺れる。


「先生は後者です」


 神谷は苦笑した。


 心当たりがありすぎた。


 家族。


 仕事。


 生徒。


 やり残したことだらけだ。


「だから成仏できないのか」


「はい」


 結衣は頷く。


「そして先生は」


 一度言葉を切る。


「自分が殺された理由を思い出さない限り、前へ進めません」


 神谷の胸がざわつく。


 やはり事故ではないのか。


「なぜ分かる」


「私もそうだったから」


 結衣の表情が初めて曇った。


「私は死んでから二年、自分が死んだ理由を探していました」


 神谷は少女を見る。


 その横顔は年齢よりずっと大人に見えた。


「見つかったのか」


「はい」


「なら成仏したんじゃないのか」


 結衣は少し笑う。


 寂しい笑みだった。


「本当ならそうでした」


「じゃあなぜ」


 結衣は答えない。


 代わりに神谷を見つめる。


 まるで値踏みするように。


 そして。


 ぽつりと言った。


「先生は優しい人なんですね」


「急になんだ」


「葬式で」


 結衣は会場を振り返る。


「ずっと家族を見ていました」


 神谷は黙った。


「普通は自分の死の方が気になります」


「そうかもな」


「でも先生は違った」


 結衣の目が少しだけ柔らかくなる。


「だから」


 一歩近づく。


「たぶん私も先生を放っておけないんです」


 神谷は苦笑した。


 変な少女だった。


 いや。


 変な幽霊だった。


 その時。


 遠くで雷が鳴った。


 結衣の表情が消える。


「来ます」


「何が」


 神谷が尋ねた瞬間だった。


 頭の奥で激しい痛みが走る。


 雨。


 橋。


 誰かの怒鳴り声。


 そして。


 血のように赤い記憶の断片。


『お前が全部壊したんだ!』


 男の叫びが響いた。


 神谷は思わず膝をつく。


「先生!」


 結衣が叫ぶ。


 だが。


 その記憶の中で。


 神谷は初めて見た。


 自分を憎む誰かの顔を――。


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