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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第一章 死者になった教師】  『第1話 俺の葬式で犯人に出会った』

 

 死んだ人間にも、寒いという感覚は残るらしい。


 神谷悠真は祭壇の前に立ちながら、そんなことを考えていた。


 冷房が効きすぎているのか。


 それとも、自分が死んだからなのか。


 答えは分からない。


 ただ、妙に寒かった。


 祭壇の中央には遺影が飾られている。


 白い花に囲まれた写真。


 見慣れた顔。


 神谷悠真(かみや ゆうま)、三十八歳。


 職業、高校教師。


 一週間前に死亡。


 死亡原因、転落事故。


「事故ねえ……」


 神谷は腕を組んだ。


 事故と言われても実感がない。


 なにしろ本人なのだ。


 死んだ瞬間の記憶がない。


 覚えているのは雨。


 橋。


 誰かの声。


 そこまでだった。


 それ以降の記憶がぽっかり抜け落ちている。


 自分がどうやって死んだのか。


 なぜ死んだのか。


 何も分からない。


 分かるのは一つだけ。


 自分はもう生きていない。


 神谷は視線を移した。


 最前列。


 黒い喪服を着た女性が座っている。


 妻の美咲だった。


 俯いたまま動かない。


 一週間でずいぶん痩せた気がする。


 隣には娘の陽菜。


 高校一年生。


 母親と同じように俯いている。


 泣いてはいない。


 だがその顔色は青白かった。


 神谷は近付く。


「美咲」


 返事はない。


「陽菜」


 やはり聞こえない。


 分かっている。


 もう何度も試した。


 それでも呼んでしまう。


 家族だから。


 会いたいから。


 謝りたいから。


 陽菜の指先が震えていた。


 制服のスカートを強く握っている。


 神谷は知っている。


 娘は昔からそうだった。


 泣くのを我慢する時だけ。


 ああやって手を握る。


 小学生の頃。


 転んで膝を擦りむいた時も。


 中学受験に落ちた友達を慰めた帰りも。


 いつもそうだった。


 神谷は胸の奥が痛んだ。


 死んでいるのに。


 まだ痛みは残るらしい。


 その時だった。


 陽菜が小さく呟く。


「ずるいよ……」


 神谷は顔を上げる。


 娘は俯いたままだった。


「約束したじゃん」


 声が震えている。


「今度の日曜日は空けるって」


 神谷は動けなくなった。


 思い出した。


 春休みだった。


 二人で映画を見に行く約束。


 陽菜が楽しみにしていた。


 だが神谷は行けなかった。


 死んだからだ。


 陽菜は続ける。


「嘘つき」


 その一言が胸に刺さった。


 神谷は目を閉じる。


 否定できなかった。


 仕事を理由に約束を破ったことは何度もある。


 今回だけではない。


 運動会。


 授業参観。


 誕生日。


 家族旅行。


 教師だから仕方ない。


 そう思っていた。


 そう言い訳していた。


 だが娘にとっては違う。


 約束は約束だった。


 守ってほしかっただけなのだ。


 神谷は俯いた。


 死んでから初めて。


 本気で後悔した。


 その時。


「先生」


 背後から声がした。


 若い女の声。


 聞き覚えがない。


 神谷は振り返る。


 そこに一人の女子高生が立っていた。


 黒い制服。


 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 だが不思議なことに、誰も彼女を気にしていない。


 参列者の間を歩いてきたのに。


 誰一人として視線を向けない。


 まるで。


 存在していないみたいに。


「先生」


 少女はもう一度言った。


「探しませんか」


 神谷は眉をひそめる。


「何を?」


 少女は祭壇の遺影を見た。


 そして静かに答えた。


「先生を殺した人を」


 会場の空気が変わった気がした。


 神谷は言葉を失う。


 殺した。


 今、そう言ったのか。


「事故じゃないのか」


 少女はゆっくり首を振った。


 その瞳は驚くほど真っ直ぐだった。


「違います」


 一拍置いて。


 はっきり言う。


「先生は殺されたんです」


 神谷の背筋に冷たいものが走った。


 そして少女は続ける。


「私は知っています」


「犯人が誰なのか」


 その言葉と同時に。


 祭壇の線香の煙がゆらりと揺れた。


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