【最終章 約束の墓標】 『第25話 死者の証言』
動画は停止した。
誰も言葉を発せない。
駅前の小さな事務室。
時計の秒針だけが響いている。
「ありえない……」
教頭が呟いた。
顔面は蒼白だった。
「そんなはずがない」
美咲が画面を見る。
そこに映っていた人物。
二十五年前に死んだはずの少女。
白石千尋。
雨の中。
黒いレインコートのフードが外れた一瞬。
確かに映っていた。
写真で見た顔。
遺品の手紙に添えられていた顔。
間違いない。
「合成じゃないのか」
相沢が言う。
三浦は首を振った。
「神谷先生はそういう人じゃない」
「証拠を捏造するくらいなら」
「黙って死ぬ方を選ぶ」
神谷は苦笑した。
褒められている気がしない。
しかし。
それは事実だった。
「じゃあ何なんですか」
美咲の声が震える。
「幽霊だとでも?」
誰も答えない。
その時だった。
三浦が突然立ち上がった。
「違う」
低い声。
「私は知っています」
全員が振り向く。
「知っている?」
三浦は深く息を吐いた。
二十五年間。
誰にも話さなかった秘密。
「白石千尋は」
「死んでいません」
沈黙。
誰も理解できなかった。
「……は?」
美咲の声が掠れる。
「でも死亡記録が」
「あります」
三浦は頷く。
「私も見ました」
「遺体も確認した」
「葬儀もあった」
「それでも」
「私は知っています」
「彼女は生きている」
神谷の背筋が震える。
何を言っている。
どういう意味だ。
「二十五年前」
三浦が語り始める。
「白石千尋は助けを求めました」
「学校へ」
「教師へ」
「大人へ」
「でも誰も救えなかった」
結衣の姿が神谷の脳裏に浮かぶ。
同じだ。
あまりにも。
「そしてある夜」
「彼女は姿を消した」
「翌朝」
「崖下で遺体が発見された」
「全て終わったと思われた」
三浦の目が暗く沈む。
「しかし違った」
「遺体は本人ではなかった」
美咲が息を呑む。
「そんなこと……」
「警察は事故として処理した」
「学校も受け入れた」
「だが私は知っていた」
「彼女が生きていることを」
理事長の顔が引きつる。
初めてだった。
絶対的な余裕を持っていた男が、
恐怖を見せたのは。
「なぜ黙っていたんです」
美咲が叫ぶ。
三浦は答えない。
代わりに。
ポケットから古い封筒を取り出した。
黄ばんだ封筒。
宛名はない。
ただ裏面に。
『約束』
その一文字だけ。
「二十五年前」
「私は彼女と約束しました」
「誰にも言わないと」
神谷は気付く。
写真の裏。
『約束を忘れるな』
あの言葉だ。
「なぜそんな約束を」
三浦の目に涙が浮かぶ。
初めてだった。
この男が感情を見せたのは。
「彼女が言ったからです」
『私を探さないで』
『もう誰も信じられない』
『だから私は消える』
三浦の声が震える。
『でも』
『いつか』
『同じ目に遭う子が現れたら』
『その時だけ』
『真実を伝えて』
部屋は静まり返った。
神谷は理解する。
だから三浦は動いたのだ。
結衣が死んだ時。
神谷が真実に近付いた時。
ずっと。
この約束に縛られていた。
その時だった。
封筒の中から一枚の写真が落ちる。
全員が見る。
そして凍り付いた。
写真は最近撮られたものだった。
日付は三か月前。
そこに映っていたのは。
五十代になった一人の女性。
しかし。
誰が見ても分かった。
白石千尋だった。
写真の裏には短い言葉。
『次は私が終わらせる』
神谷の胸が大きく脈打つ。
白石千尋は生きている。
そして。
こちらへ向かっている。




