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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第五章 名前のない被害者たち】  『第23話 雨の夜の真実』


 理事長の笑顔は穏やかだった。


 だが。


 その場にいる誰よりも恐ろしかった。


「神谷先生は優秀でした」


 理事長は静かに言った。


「だから困ったんです」


 美咲の顔が強張る。


「何を言っているんですか」


「そのままの意味ですよ」


 理事長は地下保管庫を見渡した。


 積み上げられた記録。


 忘れられた生徒たち。


 封印された資料。


「学校という場所は」


「理想だけでは守れない」


「時には隠さなければならないこともある」


 三浦が険しい表情になる。


「まだそんなことを」


「現実ですよ、三浦先生」


 理事長は微笑む。


「あなたも理解していたはずです」


 神谷はその言葉に違和感を覚えた。


 三浦は黙っている。


 しかし否定しない。


 その瞬間だった。


 雨の音が響く。


 神谷の意識が引き込まれる。


 橋。


 夜。


 激しい雨。


 死の直前の記憶。


「神谷先生」


 理事長が言った。


『USBを渡してください』


 あの日。


 理事長は橋の上にいた。


 三浦の隣に。


 神谷はUSBを握りしめる。


『断ります』


 即答だった。


『このまま公表します』


『全部です』


『白石千尋も』


『朝倉結衣も』


『名前の残らなかった子たちも』


『全部』


 理事長の笑顔が消えた。


『学校は終わりますよ』


『だから何ですか』


 神谷は震えていた。


 怒りで。


 悲しみで。


 悔しさで。


『子どもが死んでいるんです』


『何人も』


『何十年も』


『それなのに守るのは学校ですか』


 沈黙。


 雨だけが降り続く。


 その時だった。


 三浦が一歩前へ出た。


『神谷先生』


『帰りましょう』


 神谷は首を振る。


『もう遅いです』


『見てしまった』


『知ってしまった』


『だから引けない』


 すると。


 三浦が苦しそうな顔をした。


 その表情を。


 神谷は今になって理解する。


 あれは脅しではなかった。


 警告だった。


『お願いです』


『今夜だけは』


『帰ってください』


 だが神谷は聞かなかった。


 そして。


 第三の人物が現れた。


 橋の反対側。


 黒いレインコート。


 顔は見えない。


 しかし。


 その人物を見た瞬間。


 理事長の顔色が変わった。


 三浦も凍り付いた。


『お前は……』


 理事長が呟く。


 神谷は振り返る。


 そこで記憶は途切れていた。


 だが。


 今。


 ようやく思い出した。


 レインコートの人物が、


 理事長へ向かって言った言葉を。


『あなたは約束を破った』


 地下保管庫の神谷は息を呑む。


 約束。


 二十五年前の写真の裏。


『約束を忘れるな』


 同じ言葉だ。


 現在。


 理事長の顔から笑みが消えていた。


「その話は終わったことです」


 三浦が静かに言う。


「終わっていない」


 珍しく強い口調だった。


「だから神谷先生が死んだ」


 地下保管庫が静まり返る。


「死んだ……?」


 美咲が震える。


 三浦は理事長を見た。


「あなたは知らない」


「橋の上で何が起きたのか」


 理事長の表情がわずかに変わる。


 その反応を見て。


 神谷は初めて気付いた。


 理事長ですら、


 自分の死の真相を知らない。


 つまり。


 橋の上には、


 まだ知られていない第四の真実がある。


 その時。


 三浦がポケットから鍵を取り出した。


 古いロッカーの鍵。


「神谷先生は」


「最後にこれを私へ預けました」


 全員が息を呑む。


「そして言った」


『もし私に何かあったら』


『中を開けてください』


 神谷の記憶にはない。


 だが確かに自分の声だった。


「そのロッカーは」


 三浦が静かに言う。


「駅前の古いコインロッカーです」


「USBはそこにある」


 地下保管庫の空気が変わる。


 ついに。


 失われた証拠へ辿り着く。


 そして。


 神谷自身も知らない、


 最後の真実へ――。

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次の第24話は、【明日の朝7:30】に公開予定です!お楽しみに!

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