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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第五章 名前のない被害者たち】  『第22話 名前のない被害者』


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 地下保管庫へ近付く足音。


 全員が息を潜める。


 しかし。


 三浦は動かなかった。


「まだ間に合う」


 そう呟く。


「何がですか」


 美咲が尋ねる。


 三浦は答えず、


 保管庫の奥へ歩いていく。


 古い棚。


 埃を被った段ボール。


 その一つを取り出した。


 段ボールには何も書かれていない。


 だが。


 中身を見た瞬間、


 美咲の顔色が変わった。


 大量のファイル。


 一冊ではない。


 十冊。


 二十冊。


 三十冊以上。


「全部……」


「生徒の記録です」


 三浦が言った。


 美咲は震える手で一冊を開く。


 そこには。


 名前。


 学年。


 家庭環境。


 相談内容。


 そして。


『対応終了』


 その文字。


 朝倉結衣と同じだった。


「この子は?」


「卒業後行方不明」


「この子は」


「保護施設退所後、自殺」


「この子は」


「所在確認不能」


 一冊。


 また一冊。


 めくるたびに、


 消えていった人生が現れる。


 神谷は立ち尽くしていた。


 思い出したからだ。


 死ぬ前夜。


 自分はこれを見た。


 そして絶望した。


 朝倉結衣だけじゃない。


 白石千尋だけじゃない。


 高坂遼だけでもない。


 何十人もいた。


 助けを求めた子どもたち。


 誰にも届かなかった声。


 記録だけが残っている。


「神谷先生は」


 三浦が静かに言う。


「これを見て泣きました」


 美咲が顔を上げる。


「泣いた……?」


「はい」


 三浦は目を伏せる。


「私は初めて見ました」


「教師が声を上げて泣くのを」


 神谷は目を閉じた。


 思い出す。


 あの夜。


 地下保管庫で。


 自分はファイルを抱えていた。


 そして。


『何やってるんですか』


『何十年も』


『何十年も見て見ぬふりをして』


『これが教育なんですか』


 誰かに向かって叫んでいた。


 怒りではない。


 悲しみだった。


 救えなかった子どもたちへの。


 自分自身への。


 その時だった。


 美咲が一冊のファイルから、


 一枚の紙を取り出した。


 コピー用紙。


 タイトルは。


『要注意生徒管理一覧』


 全員が凍り付く。


 そこには名前が並んでいた。


 朝倉結衣。


 高坂遼。


 白石千尋。


 そして。


 まだ生きている生徒たち。


「これは何ですか」


 三浦の顔が歪む。


「知りません」


「嘘です」


 美咲が睨む。


 三浦は苦しそうに言った。


「私が作ったものじゃない」


「誰が?」


 答えはなかった。


 しかし。


 神谷は気付く。


 その紙の下に。


 一つだけ見覚えのある文字。


 赤いインク。


 丸で囲まれた名前。


『神谷悠真』


 対象区分。


『要監視』


 神谷の背筋が凍る。


 自分も。


 リストに入っていた。


 生徒ではない。


 教師なのに。


 その瞬間。


 地下保管庫の入口で、


 誰かが拍手した。


 パン。


 パン。


 パン。


 全員が振り向く。


 そこには一人の男が立っていた。


 スーツ姿。


 五十代後半。


 誰も知らない顔。


 しかし。


 教頭だけが崩れ落ちるように呟いた。


「理事長……」


 地下保管庫の空気が凍り付く。


 男は静かに微笑んだ。


「困りますね」


「それは外へ出してはいけない資料です」


 神谷は思い出す。


 雨の橋。


 三浦の後ろにいた人物。


 顔の見えなかった男。


 その正体は――。


 この男だった。


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