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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【第三章 消された記録】  『第15話 消えたUSBメモリ』


 地下保管庫の空気が凍りついた。


 入口に立つ教頭は静かに拍手を止めた。


「ここまで辿り着いたんですね」


 その声には怒りも焦りもなかった。


 むしろ。


 諦めに近い響きがあった。


 美咲は思わず後退る。


「主人を殺したのはあなたですか」


 教頭は答えない。


 しばらく沈黙した後。


 ゆっくり首を振った。


「違います」


 その答えは意外だった。


「嘘よ」


「嘘ではありません」


 教頭は静かに言った。


「私は隠しました」


「報告書も消しました」


「記録も改竄(かいざん)しました」


 美咲の顔が強張(こわば)る。


「ですが」


「神谷先生を殺してはいません」


 その言葉に神谷も息を呑んだ。


 教頭の目には怯えがあった。


 犯人の目ではない。


 何かを恐れている人間の目だった。


「じゃあ誰なの」


 美咲が叫ぶ。


 教頭は答えない。


 代わりにファイルへ視線を向けた。


「それを見るべきではなかった」


 その瞬間だった。


 相沢が動いた。


 ファイルを掴み。


 最後のページをめくる。


 すると。


 紙が一枚落ちた。


 写真だった。


 十数年前。


 校庭で撮られた集合写真。


 教師たちが並んでいる。


 中央には校長。


 若い頃の教頭。


 そして。


 知らない男。


 美咲は眉をひそめる。


「誰ですか」


 教頭の顔色が変わった。


「その写真を見せろ」


 初めて声が荒くなる。


「誰なんですか!」


 美咲も引かない。


 すると。


 教頭は苦しそうに目を閉じた。


「もう辞めた人間です」


「名前は」


「三浦修司」


 その名前を聞いた瞬間。


 神谷の頭に雷が落ちたような衝撃が走る。


 思い出した。


 橋の上。


 黒い傘。


 スーツ姿。


 あの男。


 三浦修司。


「そうだ……」


 神谷は震えた。


「三浦先生だ」


 結衣も青ざめる。


「知ってるんですか」


「元生徒指導主任だ」


 厳しい教師だった。


 保護者対応も担当していた。


 そして。


 十二年前に突然退職している。


 なぜ今まで忘れていたのか。


 その時。


 教頭が呟いた。


「神谷先生も同じところまで辿り着いた」


「そして死んだ」


 地下室が静まり返る。


「三浦が?」


 美咲が聞く。


 教頭は首を振った。


「分からない」


「だが神谷先生は」


『証拠を見つけた』


 そう言っていた。


「証拠?」


 相沢が身を乗り出す。


 教頭は苦しそうな顔をした。


「USBメモリです」


 その言葉に全員が息を呑む。


「神谷先生は資料室から持ち出した」


「十二件全ての原本データ」


「録音」


「報告書」


「改竄前の記録」


「全部入っていた」


 美咲の心臓が高鳴る。


 それこそ決定的証拠だった。


「どこにあるの」


 教頭は静かに答えた。


「ありません」


「え?」


「神谷先生が亡くなった夜」


「消えました」


 沈黙。


「警察も見つけられなかった」


「ご家族にも無かった」


「学校にも無い」


「つまり」


「誰かが持っている」


 その瞬間。


 神谷の記憶が再び揺れる。


 雨。


 橋。


 争う声。


 そして。


 自分の右手。


 何かを握っている。


 小さな黒い物体。


 USBメモリ。


「思い出せ……」


 神谷は頭を抱える。


「どこに隠した」


 だが。


 その瞬間。


 地下保管庫の照明が全て消えた。


 真っ暗闇。


 誰かが悲鳴を上げる。


 次の瞬間。


 重い衝撃音。


 何かが倒れる音。


 そして。


 男の声が響いた。


「見つけた」


 暗闇の中。


 聞き覚えのない低い声。


「ようやく見つけた」


 誰かが笑う。


 神谷はその声を聞いて凍り付いた。


 橋の上で。


 最後に聞いた声だった。


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