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小説 王国一の美女と結婚してみせろと幼馴染に言われたので、 真面目に自分磨きをしていたら女性を沼らせてしまった件  作者: イコ


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行動の結果と……

 元帥に進言して、第二騎士団に声をかけた。


 自分なりに団長室の現状に怒りを感じて、やり過ぎたかもしれないと思ってしまう。だけど、団長本人に知られなければ問題ない。


 団長室の扉の前に立って、ゆっくりと息を吐く。


 胸がざわつく。


 俺の行いが、どんな結果になったのか……ノックして扉を開けた。


「失礼します」


 そこにあったのは、綺麗な団長室だった。


 机が、机として存在していた。床も見える。椅子も普通に引ける。窓際の棚も、倒れそうな紙の山もない。


 積み上がっていた書類は、きちんとまとめられた数束だけ。


 それも、第二騎士団長が見るべき内容のものだけだ。


 報告書。決裁。部隊の運用。訓練計画。装備の更新。出動要請。


 本来の仕事だけが残っている。アデルハイト団長は、いつものように腕を組んでいたが、瞳がわずかに揺れていた。


「……ホート」

「はい」

「……書類が、少ないんだ」

「団長が頑張った結果が出ましたね」


 俺は何でもないように、いつも通り紅茶を淹れて机に置いた。


「そうなのか? あれだけ毎日やってもダメだったのに?」

「ええ、数日前に積み上がっていた書類を片付けたじゃないですか」

「あれは、多い方をホートがどこかに持って行ったからだろ?」


 団長が机の端を指で叩いた。紙束が、崩れない。


 いつもなら積み上がった書類が崩れて、床に散らばっていた。


「ここに書類の山があったんだぞ! ずっと私の地獄だった!」

「地獄は……地獄に戻ったんだと思いますよ」

「意味が分からん!」


 分かられては困る。だから俺は、淡々と書類を引き寄せた。


「今日の分を片付けましょう。午前中で終わりそうです」

「午前中でだと!? いつも一ヶ月分は積み上がっていたんだぞ!?」

「今日は二択です。やりますか、叫びますか?」

「叫ぶ!」

「じゃあ叫びながら、そのあとは仕事をしてください」

「ううう! やっぱりホートは鬼だ!」


 いつものやり取りだけど、今日は違った。


 団長が、ちゃんと仕事を進めている。


 書類を読み、判断し、印を押し、指示を出す。


 押し付けられた雑用ではなく、本来やるべき団長としての仕事量に集中できている。団長の眉間の皺が、少しずつ浅くなっていた。


 俺はそれを見て、心の中で息を吐いた。


 どうやら団長に押し付けられていた仕事は、止めることができたようだ。



 午前で書類が終わった。


 団長が、机から顔を上げる。


「……終わったぞ」

「終わりましたね。もう一杯、紅茶を淹れますね」

「……飲む!」


 団長は信じられないものを見るように、書類棚を見て、それから俺を見た。


「……時間が余ったな」

「余りましたね。お昼にも早い時間です」

「どうする?」

「団長が団長の仕事をしてください。本来であれば、騎士の訓練や、団としての指揮の連携なども仕事の一つです」

「……そうか」


 団長の目が鋭くなる。


「訓練だな」

「はい」


 団長は立ち上がった。鎧を纏うときの動作が、いつもより軽い。書類に沈められていた分の体力が、剣を振る喜びに満ちていた。


 団長室を出て、訓練場に入っていく。


 訓練場の空気が違った。声が出ている。


「いくぞ!」

「もう一回!」

「隊列、乱すな!」


 今までの第二騎士団は、どこか沈んでいた。もしくはだらけていた。だが、今日の騎士たちは、一人一人の顔に気合が入り、そこに団長が剣を地面に突き立てて凛々しく指導する。


 けれど、まだ団員との距離は近寄りがたい。


 これは団長と第二騎士たちの問題だ。


 俺が話しかければ邪魔になる。


 だが、それを打ち壊したのは、騎士たちの方だった。


「団長! ここの踏み込み、確認していただけますか!」

「団長、槍列の距離、少し詰めます!」

「団長、交代の合図、これでいいですか!」


 騎士たちが、当たり前に声をかけている。


 アデルハイト団長は驚きながらも、真剣な瞳で一つ一つに対応していた。


「よし、やれ」

「それでいい。だが、もっと低く」

「次、私が見本を見せる」


 アデルハイト団長が動くたび、視線が集まる。


 威圧で黙らせる視線じゃない。


 頼られる視線だ。アデルハイト団長の顔つきが、少しだけ柔らかい。本人は気づいていないだろうけど。口元が緩んでいる。


 俺は、訓練場の端で剣を握り直しながら、胸の奥がじわっと熱くなるのを感じた。


 ……これが、団長の居場所だ。書類の山の中じゃない。



 昼前には団長が見習いたちの列の前に立っていた。


「よし、二本目。お前だ。前に出ろ!」


 指名されて前に出た見習いが、嬉しそうに背筋を伸ばす。


 団長が稽古をつける。剣がぶつかる音が響く。見習いが弾き飛ばされる。だが、笑っている。悔しがっている。もう一度、立ち上がる。


 今までは俺だけが特別な時間だったが、それが見習い全員に向けられている。


「いい。伸びるぞ」


 その一言で、見習いの顔が輝いた。


 ……団長は自然に褒めるのが得意だった。


 俺は団長を見守る秘書的な位置で見守る。


 だが、そんな訓練場に別の騎士団の外套を纏った騎士が現れる。


 第二騎士団とは隊列の歩き方が違う。


 第三騎士団の外套。三名が、こちらへ真っ直ぐ歩いてくる。


 先頭の男が、わざとらしく視線を巡らせて、口元を歪めた。


 その顔は、俺の中で最悪の予感と結びつく。


 団長の隣で、俺は剣を握る手に力を込めた。


 来たか。空気が変わり始めた第二騎士団に、わざわざ踏み込んでくる理由は一つしかない。


 団長が気づく。


「……第三騎士団の者か?」


 赤い瞳が細くなる。


 第三の男が、にやりと笑った。


「失礼。第二騎士団長殿。少し確認したいことがありましてね」


 嫌らしい笑みを浮かべ、無遠慮に団長の胸に視線を落とす。


 丁寧で、礼儀正しい口調で、完全に団長を見下している。


 俺は一歩だけ、団長の前に出そうになって止めた。


 ……今は、守るべきは団長の威厳だ。


 俺が勝手に盾になれば、アデルハイト団長が舐められる。


 だから、半歩。団長の横で構える。少しだけ後ろで、いつでも動ける位置に立つ。


 それは俺だけじゃない。団長の指導を受けた見習い騎士たち。そして、第三騎士団が現れたと聞いて、第二騎士団の騎士たちが現れ始める。


 団長の声が低くなる。


「用件を言え」


 第三騎士団の空気が、訓練場に流れ込んだ。


 さっきまで出ていた声が、少しだけ止まる。


 第二騎士団の騎士たちが、ゆっくりこちらを見た。


 盾が揃う。俺は心の中で、小さく笑った。

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