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小説 王国一の美女と結婚してみせろと幼馴染に言われたので、 真面目に自分磨きをしていたら女性を沼らせてしまった件  作者: イコ


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団長の仕事を減らそう

 元帥閣下の「騒がしくなる」だけじゃ、足りない。


 これで第一騎士団からの書類は止められた。第三騎士団からの書類にも突き返すだけの承認も得られた。


 だが、書類の流れを止めるには、現場の空気も変えなきゃいけない。


 俺が向かったのは、第二騎士団の詰所だった。


 午前の訓練前。


 皆、鎧の留め具を締めながら雑談している。


 そこへ俺が顔を出すと、何人かが「団長の雑用係」と揶揄するように、馬鹿にするように笑う。


「おいおい、団長様の腰巾着が何の用だ?」

「とうとう、団長にセクハラでもして追い出されたか?」


 俺のことを馬鹿にしているだけじゃない。


 団長のことも馬鹿にしている。


 なら、ちょうどいい。


「アデルハイト団長の雑用係をしております。ホート・ルベルです」


 あえて、相手が揶揄する肩書きで、俺は声を張り上げて名乗りを上げた。


「皆さんは、馬鹿にされていることに気づいていますか?」


 そして、第二騎士団の正騎士たちを前にして、俺は馬鹿にしている奴らを罵ってやる。


「見習い如きが何を言う!」

「なんだと!?」

「貴様!?」


 騎士たちの殺気が俺へ向けられる。


 自分よりも格下と思っている相手に馬鹿にされるのだ。腹も立つだろう。


 だが、それでいい。


 人は感情を動かされることで、気持ちを変えることができる。


「他の騎士団から、女性よりも弱い騎士たち! 団長に仕事を押し付ける情けない騎士たち。そんな団長の下で働かない騎士たち! そんな風に馬鹿にされていることをご存知ですか?」


 一人一人に視線を合わせて、先ほどまで憤っていた者たちを馬鹿にするように声を張り上げる。


「貴様! 先ほどから何を言っている!」


 スキンヘッドに大柄な騎士が前に出る。


 副団長をしている強い眼差しの騎士だ。


「副騎士団長のバインド様ではありませんか?」

「そうだ! 見習いの分際で、貴様は先ほどから何を言っている?」

「ご存じでしたか? 第二騎士団の部屋には、他の騎士団から押し付けられた書類が山積みになっているのを」

「なんだと!!」


 俺の発言に第二騎士団の騎士たちが、我が耳を疑うように顔を見合わせる。


「バインド殿、第二騎士団で、一番仕事をしていないのはあなたです」

「!!!」


 何も発することなく胸倉を掴まれる。だが、俺は言葉を止めるつもりはない。


「団長が馬鹿にされているということは、第二騎士団全体が馬鹿にされているということだと、なぜ気づかないんですか?!」


 空気が、少しだけ止まる。


 俺は続けた。


「あなたたちの指揮を取る団長が、他の騎士団から舐められています。ですが、それでも彼女は一人で戦っている。指揮する時間が削られて、訓練を見る時間も減り、本来できる仕事ができていません。だから、第二騎士団は弱いんだ!」


 俺はバインド副団長の手を振り払う。


 隊長格の騎士たちに視線を向ける。


「……他部署の仕事とはなんだ?」


 額に青筋が立っていた騎士が、俺に対して怒りを感じているのも伝わってくる。


 だが、そんなことはどうでもいい。


「第三騎士団の備品紛失の顛末書。王城の配膳人の欠員補充。馬の飼料の発注。訓練場の修繕申請。すべて第二騎士団の決裁じゃありません。皆さんは第一騎士団、第三騎士団の小間使いですか? それとも俺と同じ雑用係ですか?」


 騎士の顔が、じわっと歪む。


 怒りだ。誇りを踏みにじられた。


「ふざけるな!」

「ふざけていません。あなたたちは他の騎士たちと同じで、団長を、女だと馬鹿にした。だが、同時にあなたたちが馬鹿にされていると、なぜ気づかないんですか?」


 俺はあえて団長を、女として口にした。


 反発を引き出すためだ。


 数人が顔をしかめる。だが、そのしかめ方は団長に向いていない。


「本来、騎士は弱き者を守るために存在するはずです。女や子供を守る存在です。それを忘れましたか? それでもあなた方は騎士ですか? 若い女性に守られて恥ずかしくないんですか?」


 先ほどまで反発していた騎士たちの顔が、思い詰めるようになっていく。


「団長室に回ってくる書類を見たことがある人はいますか?」


 騎士たちは顔を背ける。だが、この中に俺が帰った後に書類を持ってきた馬鹿がいるはずだ。


「黙って何も言えませんか? なら、あなたがクズです」


 誰と特定する必要はない。犯人は自分だと知っているのだから。


「団長に負担をかけて、守るべき女性に頼り。情けないクズ野郎だ! 今後は団長に届く前に、第二騎士団の受付で対応してください。宛先と担当部署の確認をお願いします。これは二択です。やりますか、見て見ぬふりをしますか? クズの仲間になって、自分たちを馬鹿にする者たちに媚びへつらいますか?」


 選ばせる。


 自分で選んだ方が、責任を持つ。


 隊長たちが鼻を鳴らした。


「……やるに決まってる」

「俺もだ」

「団長に負担をかけねぇ」

「他の騎士団の奴らに舐められてたまるかよ!」


 声が増える。団長は常に一人で真面目に向き合ってきた。


 誰にも助けを求めず。書類に埋もれて、それを変えてあげたい。


「ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げた。その上で、まだ言わなければいけないことがある。


「ですが、この話は団長には、内緒でお願いします」


 やる気に満ちている騎士たちに告げる。


「なぜだ? 貴様が教えてくれたからこそ、我々は動こうとしているんだぞ」


 怪訝な顔をしたバインドさんが問いかけてきた。


「団長は、黙って背負う人です。知ったら、皆さんを止めます。一人で背負い込もうとします。今までもそうやってあなたたちを守ってきましたから。ですから、男なら黙って女性を守りましょう」


 誰かが舌打ちした。


「……クソッ! もっと頼ってくれれば」

「そうさせなかったのはあなたたちです!」

「見習いが調子に乗るなよ!」

「事実を告げているだけです。情けない第二騎士団に俺は怒っているんです。だから、団長を守るのは、皆さんの仕事にしませんか? もしも、俺に腹を立てるなら殴ってくれても構いません! ですが、仕事をしてください」


 騎士たちの目の色が変わった。


 守る、という言葉は騎士の誇りを刺激する。


 騎士団の男は守るで動く。


 俺はそこに、少しだけスパイスを足しただけだ。


「団長を蔑んだ奴がいたら教えてください。俺は見習いなので、空気が読めません。皆さんのように大人ではないので、何をするのかわかりません」

「ははっ」

「お前、悪い顔するな」

「だが、ここからは見習いの出番じゃねぇよ」


 笑いが起きる。その笑いは、団長の背中に向く盾になる。



 翌日、団長室に向かうと書類は増えていなかった。


 適正量だけが置かれている。


 早めに終わった騎士食堂で、団長は怪訝な顔で座っていた。


「ホート。今日は書類が少なくなかったか?」

「気のせいです」

「気のせいか……?」


 団長は首を傾げながら、肉の皿を平らげた。


 俺は、何も言わずに水を注ぐ。


 午後は訓練。夜は特別訓練。


 団長の剣は相変わらず理不尽で、俺の視界に赤い髪と、どうしても揺れるものが入ってきて、集中力が一瞬だけ死ぬ。


「ホート! どこを見ている!」

「見てません!」

「嘘だ!」

「……風です! 風が悪い!」

「言い訳が雑だ!!」


 剣が飛んできて、俺は転がって避けた。


 特別訓練を騎士見習いたちが遠巻きに見ている。


 羨ましそうに笑っているのが腹立つ。


 羨ましいなら、代われ。


 あの揺れは、罰ゲームだ。


 訓練の終わり、団長が汗を拭いながら言った。


「お前は、なかなかに見どころがある」

「ありがとうございます」

「だが、目線の鍛錬も必要だな」

「……努力します」


 団長は満足そうに頷いた。


 その背中が、少しだけ軽く見える。


 机の上の地獄は、明日からもっと減る。団長は知らない。


 元帥の机の上に、地獄が引っ越したことを。


 そして今、第二騎士団の中で静かに団長を守る空気が育っていることを。


 俺は剣の柄を握り直し、夜の風を吸い込んだ。


 正しさは、刃より危険だ。


 元帥の言葉が、背中に残っている。

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