表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

七、キミヘのコクハク

 午後からの授業は、昼食時に彼女が言った、可愛いという言葉が胸に引っかかったまま、そのことばかりを考えて過ごしていた。

 今まで必死に努力を重ね、誰からも好まれるように作ってきた私を、可愛いと言う

言葉で表現したのだ。

 どんな意図でそのような表現になったのだろうか?

 私の何をみて。

 しかし、少なくとも瑛は私の男装女子に惹かれたわけではない、という事なのは

わかった。

 暫く考えてみたが答えは出ず、それなら本人に聞いた方が早いのではと至った。

 

 放課後、駅までの道を並んで歩いていく。


「昼間に言ってたことだけど」


 相手の様子を伺いながら、言葉を絞りだした。


「昼間?」

「その、私のことが可愛いって…」


 ああ と瑛はそれがどうしたのとでもいうように不思議な顔をする。


「その、自分でいうのもなんだけど、私はいわゆる男装女子で」


 なんだか、自分で言っていて恥ずかしいぞ。


「ええ そうね」

「かっこよく繕っていても、可愛いと言われるような事は出来る限り見せずにいたと思うけど」

 

私の言葉をきいて瑛は軽く目を見開いた後、表情を少し曇らせた。


「私はあなたの顔が好きだと言ったわ。覚えてる?」


 水族館で言ったことだろう。


「ああ。うん。覚えてるよ」


 その言葉に少なからず、何故か気持ちが沈んだことも。

 彼女は妙に気まずそうに、目を逸らしながらぽつぽつと呟くように話しだす。


「あれは別に表面上の事を言ったわけではなくて。笠倉さんやほかの女子たちが思っているカッコいい美鈴ではなく、あなたがあなたらしくいる時の顔の美鈴が好きなの。でも最近、あなたが努力して作り上げてきた美鈴も、あなたの一部なんだわって考えていたら、私がやっていることはただの傲慢だと気づいて。もしかしたら、笠倉さんの言っていた『並ぶとお似合い』という言葉が正しくて、あなたが大切にしてきたものを私が邪魔しているのかもしれない」

「それは…!」

 

違うと言いかけたところで、彼女が言葉を続ける。


「でも、花火大会のお誘いをはっきりと断ってくれた。更に、公の前で誘ってくれたことがとても嬉しくて、やっぱり私は、美鈴という人間が好きなのよ。例えどんな容姿をしていたとしても」

 思ってもみなかった言葉に、また顔から火でも出そうな程の告白を聞き、私は全身に熱が灯ったように熱くなる。

 直ぐには言葉が出てこなかった。彼女の告白に、今、私が感じた気持ちをそのまま表現するには、陳腐な言葉しか出ない気がした。

 しかしこの時、私はある決意を胸に秘め『また、明日の放課後に話しがしたい』とだけ伝えて別れた。



 翌日は朝から何事も無く一日が過ぎた。

 ただ、私自身は朝から、昨日決意をしたことを実行するために、一日中そのことばかり考えていた。

 彼女は、私が私らしくいる時の顔に惹かれたといった。

 姿形はどうだとしても。決してそれは、男装をしている私でなくてもということだ。

 彼女はどう思うだろうか。

 今、私がやろうとしていることは、相手を試すようなことだ。

 今までの自分をまるで否定するかのような姿に、戸惑いと、緊張と、不安と、焦りと、期待と、高揚感と、開放感とほかにも様々な感情が混ざり合っている。

 あまりに色々な感情が襲ってくるため、何かが込み上げてきそうだ。

 唇がまるで磁石にでもなったかのようにきゅっと噛みしめていた。

 

 放課後、彼女を誰もいない教室へ呼んだ。

 先ほどから自分の中で沸いている沢山の感情を抑え込み、彼女の前に立つ。

 彼女は私の姿を捉え、特に変わった様子もなくただ静かに佇んでいる。


「初めてみるわね。どうしたのソレは?」


 ソレというのは、私が今穿いている女子の制服スカートの事だ。


「運動部の子に借りた」

「そう」

「それはあなたがあなたらしくいられる事?」


 瑛が何かを決意したような表情で問いかけてくる。


「わからない。でも…瑛にはこの先、可能性としてあり得る私の姿を見せるべきだと思った」


 そう。別にこれからの学校生活でスカートを穿こうとか思っているわけではない。

 ただ、男装していても私は女子であるということ。

 この先、日常でもスカートを穿く日がくるかわからないけれど、どんな姿でも瑛に

見せていきたいという覚悟だと思う。


「私も見くびられたものね」


 ひとつため息をつくと、私の方へゆっくりと近づいてくる。

 そして、次の瞬間には彼女の両手でがっしりと頭を捕まれ、唇に柔らかいものが触

れた。

 湿った僅かに暖かい温度を感じた瞬間、一気に体温が上昇し体中が熱くなる。


「忘れないで。どんな格好をしていてもあなたが好きって。でもあなたが心から笑っ


 ていなければ意味がないわ。だから、私に笑顔を頂戴」

 その言葉に、今までの感情が一気に解放された気持ちになった。

 ああ 参った。

 私は、一度唇をきゅっと引き締め一息吸ったたあと頬を緩め、意を決して一言告げた。


「あきら、私はあなたが好きだ」


 私の告白に、瑛は瞳を細め口元を綻ばせる。


 この時私は、今まで生きてきた中で一番の笑顔を彼女に捧げた。




                                  ー完ー 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ