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六、カンケイのヘンカ

 教室が僅かにざわついている。

 先週の定期考査の結果が出たためだろう。

 

「相変わらず、嫌みな点数ね」


 麻友香に横からひょいとのぞき込まれのけぞる。

 数枚のテスト用紙の点数を確認をしていたところで、恨めしそうな顔でこちらを

ジト目でみつめてくる。


 「容姿、仕草だけではモテないのだよ。成績も良くないと。憧れの人にはなれないのさ」


 胸をはってどうだ!と自慢していた。

 麻友香は呆れ顔でそれ以上何も言わず、そそくさと食堂へと足を向けた。

 昼食を摂りに食堂に向かっていると、難しい顔をした瑛を目に止めた。

 どうしたのだろう?

 うんうん 唸っている。

 その姿をみた麻友香が、声をかけたらと促してくる。

 思えば仮の恋人とはいえ昼食を一緒にしないのは不自然なのだろうか。


「どうしたの?」


 そっと近づき、唸っている原因を訊ねる。

 どよ~んとし青白い顔をした彼女は、ぼそりとつぶやく。


「数学が補習になりそうで」


 え?


「何点だったの?」


 私よりも先に、麻友香が問い質す。

 先ほどよりも更に低い声で、ぼそりと私たちに点数を伝える。

 それを聞いた瞬間、私はひえと青ざめ、麻友香はうひっと悪い微笑みを浮かべた。


「補習にならずに済ませるには?」

「課題を提出すれば良いらしいのだけど」


 課題か。

 苦手な科目の課題だとそれなりに時間を取られるだろう。


「放課後はバイトで忙しいし。夏休みは、美鈴と遊びたいし」


 と、そこまでいわれて顔がほのかに熱くなった。

 はぁーー とまるで魂が抜けるかのような大きなため息が聞こえる。

 私は、おほんと咳ばらいをした。


「よかったら、勉強をみようか?」

「いいの?」

「バイトも毎日じゃないよね。無い日を教えて」


 次の瞬間、瑛の眼はきらきらに輝きだし、わたしに抱きついてきた。

 わっ!

 突然の事に、驚きで身動きができなかった。

 思いのほかの他人の温もりに右往左往していると、隣で麻友香がにまにまと何やら

笑っている。

 明らかに茶化すような笑みに、怒りよりも呆れが勝った。


「ありがとう」


 私を抱きしめている腕の力が強くなる。


「あ、あの瑛、ちょっと」


 流石にみんながいる前での抱擁は恥ずかしい。

 周囲の視線が気になり、きょろきょろと辺りを見回し挙動不審者になる。


「あと、夏休みの課題も一緒に良い」


 ん?


「ああ。うん。大丈夫」


 ついでのお願いにためらうこともなく返事をする。

 以前、夏休みはずっと一緒と言っていた瑛の言葉が確実なものとなる。

 夏休みの予定は、バイトと瑛との勉強会で埋まりそうだ。


 そうこうしながら自然と三人で食堂の注文窓口へ並ぶ。

 メニューを決めながら雑談をしていると、どこからともなく聞いたことのある声が

耳に入ってきた。


「結局、お目当ての人はどうなったの?」

「ダメだったあ」

「じゃあ、夏休みはどうすんの?」

「うーん。他にも男子はいるし。あ、でも先輩に花火大会の事もう一度声掛けしておこっと」

「花杜先輩?」

「そっ。花火大会に彼氏がおらずぼっちなんて嫌じゃん。みすず先輩なら女性でもかっこいいし男女ともに人気があるから、一緒に行ったて言えば自慢になるし」

 

ふふふ と怪しい笑みを浮かべた後輩がそこにいる。


 あの~ 本人、ここにいますけど。

 彼女の言葉に、昨年の花火大会の事を思い出した。

 打ち上げ花火を一人で鑑賞し、終わった後は一人で露店を回り、何とも言えない

気持ちで帰路についたあの日を。

 今年は、違う自分でありたい。

 しかし、その相手は笠倉さんではない。

 まぁ でも、自ら墓穴を掘ってくれたおかげで断る理由の準備ができた。

 私は、列から外れそっと笠倉さんに近づいた。


「あの、笠倉さん。盗み聞きして悪いけど、花火大会は無しってことでいい?」


 まあ、そもそも約束はしていないんだが。

 直ぐに断らなかった自分にも非があるので、少しばかり自分も悪者になっておこう。

 急な私からの声掛けに、笠倉さんはびくっと肩を震わせ目に見てわかるほど驚いている。


「みすず先輩!」


 さーと青ざめていく音が聞こえてくるようだ。

 背後で麻友香のざまぁという声が聞こえてきそうだ。


「あ、いえ。これはその。変な意味じゃなくて…」


 変な意味て、当て馬にしようとしてたって意味じゃないのか。


「あと、花火大会は瑛と二人だけでいくから」


 まだ、瑛に言っていないがこの際、ここで明言してもいい気がしたため自然と言葉

がでた。

 私が、相手を懐疑的にみていると、うしろから追撃するような声がした。


「私、あなたにずっと言いたいことがあったのよ」


 気付けば隣に、瑛が肩を並べて笠倉さんの事をじっとみつめていた。

『え?』

 そこにいる、誰もが疑問の表情を浮かべた。

 何を言うつもりだ?

 まさか付き合っているとかじゃないよね。


「美鈴はカッコいいのではなくてとても可愛いの」


 拳を作り、目には力を宿し諭すように訴える。

 はぁぁ? 何を言っているんだ!

 か、可愛いって?


「あ、あきら」


 真っ青どころではない。

 私の周りが氷河期になった気分だ。


 瑛といえば、言ってやったとばかりにふんと両腕を組み胸を張っている。

 麻友香は、堪えきれない笑いを必死に耐えている。

 食堂にいる学生たちや職員といえば何が起こっているんだとざわつくばかりで、

私たちは注目の的になっている。

 いたたまれない!

 私は、この場から早く立ち去りたくて注文していた日替わり定食を受け取ると、

人気の少ないテラスの方へそそくさと速足で移動した。


 この日の定食は、青椒肉絲と卵スープ、杏仁豆腐と中華定食だったがどんな味だっ

たのか記憶が寸分もなかった。

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