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五、キッカケのナツマツリ

 みんみんみんみんみんみんみん

 セミが元気よく鳴いている。

 天気予報では最高気温を更新している毎日。

 六月でこの暑さだと今年の夏は猛暑にでもなりそうな予感がして、今からうんざりだ。

 こんな日は樽に水を張って足をつけ、かき氷を掬いながら納涼でもやりたいものだ。そこで、ふと浴衣姿の自分と瑛を思い浮かべ、にやけている自分がいた。

 実際は冷房の効いた図書館で、夏休み前の定期考査に向けて勉強をしていた。

 ふと筆を止めて、昨日の事を思い返す。水族館デートは意外と楽しかった。

 瑛の見たことのないの表情に、自分の中の何かが動いたことは間違いない。

 もっと彼女の様々な感情をみてみたい。

 妙な欲が自分の中でうまれていた。

 また、デートをすればあの時の彼女に会えるだろうか。

 そう考えただけで、何故か高揚感が湧き出てくる。もうすぐ、夏休みだ。今度はこちらから誘ってみようか。

 その時、ふと昨年の花火大会を思い出す。

 昨年は、入学から夏休みまでは自分の存在を周知させるのに必死になっていたこともあり、友人たちに誘われた花火大会によく考えもせずに了承したため、なんとなくのノリで決まったメンバーで行くことになった。結果、打ち上げ花火が開始される時間に近づく頃には、メンバーはそれぞれの約束をしている友人や恋人、家族の元へと去り、私は一人で花火を見るという結果になった。

 結局のところ大事な瞬間を一緒に過ごすには、まだまだ私では役不足だったということだろう。

 花火の打ち上げがそろそろ終盤に差し掛かったところで、なんとも言えない哀愁気分を少しでも晴らそうと、適当に露店のアトラクションをいくつか楽しんでひとり帰路についたのだった。


 今年は、瑛を誘っても良いだろうか?と思ったところで、既にランチタイムの時に瑛の方から誘われていたこと思い出す。

 あの時の言葉は有効なのだろうか?

 それと同時に、そういえば笠倉さんに誘われていた事も思いだした。

 さて、どう断ろうか と考えだすと頭が痛くなってきたような気分になってきて、その日は思ったほど試験勉強がはかどらなかった。



 あれは昨年の8月末。

 バイト先のスタッフの間で今年の花火大会の話題で盛り上がっている中、その会話に参加することもなく、私は与えられた仕事をひたすら滞りなく進めていた。

 花火大会ね。

 開催場所が帰路の途中だったかなと思いだし、帰りに寄ってみるのもいいなと考えたところで、はて、祭りは何時までだろうか?とそれだけが気になったところで、


「すみませーん」


 とお客から声をかけられ、トレイを片手に駆け付ける。

 賄いを急いで食べても8時半か。

 個室の客間の隅にある置時計をちらっとみて、花火は終わっているかもしれない。が、露店はまだやっている可能性を考えて期待を持ったまま、トレイに空のジョッキをのせていく。

 4個ほど載せたそこそこ重みの増したトレイを軽々と持ち上げて、客間を速やかに退室する。

 花火より露店が本命の自身に、花より団子とは私のためにあるような言葉だと思いながら、ジョッキに波々に入った新しいビールをトレイにのせ、露店で何を食べようかと退勤時間になるまでそればかりが頭を支配していた。


 本日のバイト先での賄いは、あんかけ焼きそばと中華ちまき。

 しっかりと満たしてくれたお腹で駅までの帰路につく。

 ただし、満足したのはあくまでも賄いのために開けていた部分であって、お祭りの露店で埋める予定の空間はしっかりと確保してある。

 最悪、露店がなくても深夜まで開店しているスーパーでスウィーツを購入するのも有りね。

 やはりクリームたっぷりのクレープかしら。いや、パイ焼きも良いわね。

 考えるだけで別腹という部分が待ちきれない、と今にも音をたててしまいそうだわ。

 そんなことを想像している間に、祭りの提灯が一つ二つと見えてきた。

 橙色の灯りが祭りへと招くように、足が自然とそちらへ進む。そろそろ露店が見えてきた。

 始めに目に飛び込んできたのは綿菓子。お腹が膨れるものではないが、可愛い袋にぎゅっと詰められている様は、まるで今にも飛んでいきそうなくらいの勢いで、わくわくさせる。

 次にみえて来るのはリンゴ飴ね。真っ赤なリンゴにつやつやの飴が包み込み、口に入れれば飴色と同じくらい唇が赤く染まることだろう。

 その横には、お面屋。可愛いキャラクターが並ぶなか、狐のお面に目が留まる。黒と白があり、お揃いでつければきっと…。

 金魚すくいでは、子供たちが真剣な顔つきで獲物を狙っている。

 手前の子が狙っているのは、黒のひらひらした目の大きい金魚かしら?

 すくいの淵でうまく掬おうとするが、金魚も動きが速い。

 子供の無邪気な真剣な姿は微笑ましいものがあり、自然と心の中で応援をしてしまう。


 と、そこまで歩いてふいに足が止まった。

 あれは、確か同じ学年の花杜 美鈴。噂程度には、認識している。

 女子に人気でファンクラブもあるとか。いつも、どこかの女子と喋っている姿を見かける。

 学校での容姿はダークブラウンのショートヘアに、女子用ズボン。

 少しきつめのキリっとしたメイクをしているのだろうか。いわゆる男装女子。

 そのことに自体に特に関心がないため、私とは無関係の人物。

 常に周りとは笑顔で接し、時折みせる王子様?スマイルが女子たちを色めき立てている。

 ただ、その笑顔が私には妙な違和感を感じさせていて理解が出来ずに、通りすがりに眺めるに過ぎないだけの存在だった。この時も、特に興味もなく通り過ぎようとしていた。


 次の瞬間、彼女の姿に視界を奪われた。


 何かを射止めたのだろうか、満面の笑顔でガッツポーズをしている。

 学校では見たことない表情だ。

 お店の人に掌を差し出し、何かを受け取っている。

 ウサギのキーホルダーだろうか?立体型の全体的に丸くゆるっとした感じの可愛いキャラだ。

 受け取った彼女は、顔が崩れそうなくらいの笑顔でキーホルダーを握りしめている。

 思わずふふと笑ってしまった。そこで、ふと気になった。

 取り巻きはいないのかしら?

 いつもなら、きゃあきゃあ言う女子の一人や二人いてもおかしくない。

 ひとり?

 あれこれ考えている内に、パンと乾いた銃声の音がする。

 また、何かを狙って撃った様子だが今度はどうやら的を外したようで、今度は眉間にしわを寄せ難しい顔をした一人の少女がそこにいた。

 ふふふ と今度は思わず声が漏れた。

 そんな自分に気づいた瞬間、改めて彼女の姿を捉える。

 ああ もっと自然な彼女が見てみたい、という感情がこの時に芽生えた。



 それからは、学校でも彼女のことを観察してみたが、あの時の表情に出会うことはなかった。

 いつも、同じ王子様スマイルで、誰にでもやさしく紳士的?で。

 そう、まるでロボットの様に作られた表情。

 つまらないわ。


 あの時の顔をもう一度、見たいのだけれど。

 少し考えて、それなら私が引き出すのもおもしれないかもしれないと閃いた。


 あまりにも毎日、彼女の姿を見過ぎたせいなのか、自然と目で追いかけるようになってしまい、みかけない日があるとどこにいったのかと気になり探すこともあった。

 今思ばこのときには既に、淡い恋愛感情が生まれていたのかもしれない。



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