ーこぼれ話ー
ーある日のランチでー
食欲の秋とはよく言ったもので、目の前で繰り広げられている光景に、唐揚げを掴むために持っている自分の箸が、空を掴んだまま止まっている。
私の横では麻友香が、その様子を眺めながら感心しながらも面白そうな様子で微笑み、食後のコーヒーを口に含んでいた。
「恐ろしいほどの食欲ね。エンゲル係数がエグそうだわ」
学食で私『花杜 美鈴』と『岩中 瑛』、『二葉 麻友香』と三人で昼食を摂っていたのだが、瑛の食欲の凄さに私たち二人は圧倒されていたのである。
彼女の本日のメニューは唐揚げ定食ごはん大盛にサラダ増し増し、更にうどんも追加である。なかなかの量の多さにもかかわらず、特に食べるのが遅いというわけでもなく私と同じ速度で見事に平らげていくのだ。麻友香は、ランチパスタ少な目をチョイスしていたためか、一足先に完食していた。
「それにしても…食欲は性欲に通づるものが、なんてよく言われることがあるけれど…そうなると瑛さんの性欲は…」
と予想だしない言葉が出てきた為、私は口に含んでいたお茶を噴だした。
「麻友香!何を言っているんだ!」
私は慌てて止めに入ろうとするが、麻友香は気にせず言葉を続ける。
「食事量に制限が発生した場合は、どうしてのりきっているの?」
思っていた言葉とは違い、普通に質問を投げていた。
食事量に制限?宿泊を必要とする学校行事の事だろうか?
確かに行事等ではスケジュールに合わせて、一部の食事は学校が決めた施設での
摂取となるため、おかわりなどは難しいはず。ということは、必然的に食事量が足りなくなる?
食事が足りないということは、欲求不満になってしまうということ?
思考がそこに着地した瞬間、先程の「性欲」というワードが、自分の中で即座に反応した。
つまり修学旅行中は彼女は常に欲求不満で…その刹那、瑛のあられもない姿の想像をしてしまう。
ぼっっっ!!
私の顔が、炎でも出そうなぐらいに深紅に染まった。
わーーーーー!
思わずガタッと勢いよく立ち上がり「氷水をとってくる!」と、急いでその場を離れるように駆け出した。
その様子を横で見ていた麻友香は「やれやれ」と呆れた気持ちで美鈴を見送ると、改めて瑛の方へと向き直った。先程までの賑やかな空気はない。
「で。話は少し変わるけど、あくまでも私の見立てでは瑛さんて、欲求に対して意欲的に行動できるタイプの人間よね。それは恋愛事情でも?」
瑛は口に含んでいた食べ物をいっきに水で喉の奥へと流し込むと、口元を拭い払った。麻友香は彼女の表情を一寸たりとも見逃すまいと、深く観察するように眼を向けた。
「そうね。ほしい。と思ったモノを手に入れるための努力は、惜しまないだけの気持ちは持っているつもりよ」
すっと姿勢を正すと、しっかりとした眼差しで相手を見据えた。
彼女の心打ちにある確かなものが、麻友香の望むものなのか確認をしたくてした質問に、期待通りの答えを貰えて麻友香はどことなく満足する。気持ちがすこし軽くなったように感じ「へぇ。そっか」と僅かに安堵のひと息を漏らした。
「あの子はさ。さっぱりしているような性格に見えて実は臆病で、しかも無駄に色々溜め込んじゃう生き物だからさ。時々みているこっちがしんどい気持ちになることがあるんだけど…いいね。瑛さんのこと気に入ったわ」
麻友香は嬉しそうにふふと笑うと、残りのコーヒーを口に含んだ。
「ところで私、麻友香さんのご趣味について、少し、小耳に挟んだのだけれど」
急に話が変わり麻友香はなんだ?と首を傾げて不思議な顔をする。
「あなたの趣味事態に物申す事は何もないのだけれど、その趣味の一部として美鈴や私を使って、何か企んだりはしてないかしら?」
その言葉に麻友香はギクッと肩を跳ねさせる。
「え?…いや、そんなことは…」
そして、そろ~と瑛からの視線をはずしていった。
するとそらした目線の先に、丁度よく氷水を持った美鈴が、此方に向かってきているのを捉えた。麻友香は助かったと胸を撫でおろす。上ずった声色で、何事もなかったように振る舞い話しかける。
「お、おかえり。遅かったけど混んでた?」
「うん。コップが丁度、きれてて補充をして貰ってた」
元の椅子に着席し二人をみる。麻友香は瑛から目をそらし、瑛はそんな麻友香をじっと見つめている。
何かあった?
席を離れる前とでは変わっていた妙な空気に疑問を抱きながらも、先程の話題の続きを尋ねる。氷水を飲んで頭を冷やした事で、少し冷静さを取り戻せたようだ。
「結局、学校行事とかでの食事はどうしているわけ?」
私の質問に、瑛はこちらをキランとした輝く瞳でみつめ揚揚と話す。
「それはもちろん。持ち込み、買い込みに決まっているわ」
いや、そんないかにも当然のように言われても。違反では?と思わなくもなかったが、皆が寝静まっている中、深夜にこそこそ夜食?をして姿を想像してしまい…
ふふふと思わず笑いがこぼれた。
瑛が「?」と不思議な顔を返してきた。以前は冷徹そうに見えたその表情も、よくみれば割と感情が表に出ている。それを近頃、読み取れるようになってきた事が、私の密かな喜びだ。
ある日のランチにて、少し涼しくなってきたテラスに、太陽の差し込む僅かな暖かみ感じながら、修学旅行に想いを馳せるのだった。
―完ー
「こぼれ」は文学フリマにて無配していたものです。本編を改めて製本するさいは収録予定です。まだまだ、加筆修正の予定です。更に続編も執筆していけたらいいなと思っています。




