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三、ユウワクヘのケンセイ

「みすず先輩♪お昼ごはん、ご一緒しても良いですか♪」


 友人である「二葉 麻友香」と学食で日替わり定食を食べようと、箸へ手を伸ばしたところで声をかけられた。

 授業の合間の短い休憩時間などに、ファンの子達から声をかけられることも日常では当たり前のことで、雑談などしては少しばかりナンパをしたりしている。

 ただ、昼食だけは友人と一緒にと決めているため、他者からの誘いは断り大抵は学食で済ませることが多い。本日も友人と仲睦まじく、日替わり定食の生姜焼きを堪能しようとしていたところだ。

 一体どこから出ているのか、まるで耳元に蚊でも飛んできたのかと思うような高い声に、生姜焼きを挟むはずだった箸が宙を彷徨っている。下級生だろうか。一学年の方でも少しばかり自分の名が周知されているために、声をかけられることは珍しいことではない。

 はて?目の前にいる彼女は今までに面識があったかな?

 くるっと目は少し大きめで、髪はロブくらいだろか。少しきつめのパーマのため正確な長さはわからないが、そこからハーフアップにまとめている。

 いわゆる、ゆるふわ可愛い系を意識している女子なのであろう。

 そこでふとフィリアの事を思い出して、直ぐに全然違うじゃないかと首を振り軽く自己嫌悪に至った。


「えぇ、と。君は?」


 頭でも冷やすような汗を流して、返事をしながら改めて相手を凝視する。

 確かに私は可愛い系の子がタイプだ。

 だが、しかし。彼女のは何かが違う。私が求めているそれとは別ものであるのが、それとなく直感でわかる。


「笠倉 希です。のんのんと呼んでください」


 え、嫌だ。

 全力で拒絶したい。

 今、この場から魂が軽く百メートルは確実に離れた。

 自分の直感は間違っていないと確信した!

 自ら自分の愛称を呼ぶ人に、極力関わりをもちたくない。

 引いてる私の横で、特に動揺した様子も見せない麻友香が口を開く。


「のんのんは、どうして私たちと一緒に食べたいのかしら?」


 のんのんて…

 相手の愛称をそのまま引用して言葉を発した麻友香の顔は、凍るような微笑みを浮かべていた。

 ひいいいい!

 こちらが氷漬けにされそうだ。

 笠倉さんは、きょとんといかにも無垢な感じの雰囲気を漂わせて、チワワの瞳のように眼をまるくする。


「先輩たちとぉ食べれば楽しいかな、と思いましてぇ」


 うふふふとマーガレットでも咲きそうな笑顔を向けてくる。いや、まて。マーガレットに失礼な気がしてきた。


「そうなの?でも私は、友人との昼食を邪魔されて楽しくないわね」


 眉間をこれでもかというほど寄せて、相手を睨みながら返す。

 麻友香。落ち着け。

 麻友香だけに任せている事が気がかりになり間に入った。


「あー ごめんね。昼食は友人と摂る事に決めているんだ。話があるなら後でもいいかな?」


 えぇ~そんなぁ と相手はあからさまに不満げな声をもらす。

 なぜ自分が二人の仲裁をするような立場になっているんだ、という疑問を持ちながらもうまい具合に断れないかと必死に言葉を探した。

 それでもお構いなしに、彼女は自身の昼食の乗ったトレイを私たちのテーブルへと置いてくる。

 えぇー!

 あまりにもの強引な行動に更に身を引いていると、私以上に気分を強張らせている麻友香の眉間の皺が、箸でも挟めそうなくらい凝縮された。

 わぁぁー

 そのまま私の隣の席へ座ると体をこちらへ傾け、視線は常に私の瞳へと向けられていた。

 そのため笠倉さんは、そんな麻友香の様子に全く気付いていない。


「みすず先輩はぁ、夏休みの予定はどうしますぅ?」


「へ?」


 思いもよらない質問に、間の抜けた声を出してしまった。

 麻友香からは、おどろおどろとしたオーラを感じて振り向くことができない。


「さ、さぁ?」


 咄嗟のことで夏休みの予定など思いつかなかった。


「じゃぁ花火大会、一緒にいきましょ♪」

「はっ?何で?」


 私より先に口を開いたのは麻友香。麻友香のあまりの気迫におののいた。

 

 麻友香!おちつけー!


「私とみすず先輩って、並ぶとお似合いだと思いません?」


 彼女の自意識過剰とも思える言葉に、更に麻友香の目尻が上へ上へと上がっていく。

 ひいいいい!


「浴衣姿で並ぶとぉ更に絵になると思うんですよねぇ」


 つやつやとしたリップを厚めに塗った唇を可愛いアヒル口にして、体をしならせながらの甘ったるいとどめの言葉に、麻友香の箸が遂に彼女の眼を狙い始めた。

 麻友香‼やめろ‼それは犯罪だ‼


「失礼するわ」

 

あと一歩遅ければ目の前で起こったであろう傷害事件が、気持ちを鎮める様な凛とした良く響く声のおかげで未遂に終わった。

 振り向くとそこには、オムライスをのせたトレーを両手に抱えた岩中さんが、空いている麻友香の隣の席へ座ろうとしていた。


「残念だけれど、私と美鈴は夏休み中ずっと一緒なの。諦めてくれるかしら」


 着席した場所から対峙している笠倉さんへ向けて、ぴしゃりと牽制の言葉を放つ。

 意外な人物からの申し出にその場の皆が停止した。

 え? そんな約束してったけ?

 何よりも一番動揺しているのは私自身だ。記憶にない夏休みの予定の上、更に急な名前呼びに対して動揺が隠せない。向かい側で麻友香がどおいうこと?と怪訝な表情でこっちを睨んでくる。

 いやいやいや。私も初耳ですけど。


「そうなんですかぁ?」


 と、笠倉さんが頬をぷく〜と膨らませて拗ねたように私の方へむけてくる。

 そんな顔をされましても。あざといだけですが。

 しかし、これは持ってこいの話だ。岩中さんの意図はわからないが、彼女に便乗することにした。


「あ、え、うん。そうなんだよね!」


 のりきれたか?と相手の様子を伺うおうとすると、そう返事をした私を麻友香がじと~と睨んでいるのに気づいた。

 ひぃぃぃぃ!

 笠倉さんといえば、ふ~んと妙に冷めた目で岩中さんを見るとふいっと顔をそむけた。


「そうなんですねぇ」


 彼女はわかりやすく、しょぼんと項垂れる。

 いい加減ゆっくりご飯をたべさせてくれ~と心の中で叫ぶ。


「じゃあ、花火大会だけでもお二人とご一緒していいですか?」


彼女もしぶとい。


「あ、いや。行くかどうかは、まだ、はっきりと決めていないんだ」

「そっかあ。じゃあ、一応予約ということで」


 にこっと微笑むと、用事を思い出した!と言いながら、食べかけの昼食を持って友人たちらしきのところへ去っていく。

 予約って何⁉

 勝手に話が纏って?しまったかのようになり、どっと疲れが襲ってきた。しかし、いや。まだだ。

 じとーー と二つの視線が私をさす。

 その内の一つが、冷ややかな眼差しでため息をついてきた。


「彼女は?」


 麻友香が岩中さんの方へと視線を向けながら、私の顔をみる。


「かのじょは…」


 なんと答えようか。下手に答えると後が怖い。


「期間限定の彼女の、岩中 瑛です」


 私がどう答えようか悩んでいる間に、岩中さんが代わりに答えた。


「はっ?」


 どうおいうこと?と、先ほどまで険悪なオーラを出していた友人は、目を見開きびっくりしていた。が、直ぐに面白いものでも見つけたかのように、その目は異様に曲線を描きにやにやと含み笑いをしだした。


「期間限定の彼女です」


 私は観念して認めた。ごまかしたところで後で事実が明らかになり、麻友香に問い詰めら方が面倒だ。

 私の言葉を聞いた時にはもう、彼女の中では楽しくて仕方がない、という感情があふれているのが目に見てわかる。

 へ~ と相槌をうつように返事をした後、笠倉さんと対峙していたときとは打って変わって、笑顔をみせ


「私は二葉 麻友香。よろしく」


 と岩中さんに向けて自己紹介をする。


「はい。よろしくおねがいします」


 岩中さんもにっこり微笑みかえす。

 このふたり、意外と相性が良い?


「にしても、きみ。よく食べるね」


 会話をしている間も岩中さんの食は進んでいたらしく、きれいに平らげられていたオムライスに私たちは感嘆の声をあげた。




 ー数分前ー 

 本日の定食と書かれたプレートを前に頭を悩ます。雑なトリックよりも難解だ。

 今日は特製デミグラスソースのオムライスに決めていたのだが、日替わり定食のネギたっぷり生姜焼き定食も捨てがたい。それぞれメニューに食欲が惹きつけられて、普段はそこまで動かない感情がこの時ばかりは機敏に動く。

 今にもヨダレを垂らしてしまいそうになっていると、少し離れたところで、数人の下級生と思われる女子たちが話している内容が聞こえてきた。


 ーのんのん。カレシと別れたってまじ?ー

 ーまじ。だって、見掛け倒しだったんだもん。思ってたよりダサくて全然だめー

 ーじゃぁ、夏休みどうすんの?ー

 ーそれなんだけどぉ。もう仕掛けてあるょー

 ーまじで?さすがのんのんー

 ーでもその前にほけんをかけとかないとー


 聞こえてきた内容に思わず「くだらない」という感情が湧き出た。

 保険なんて。呆れて何も言えないわね。犠牲になるのはどこの誰なのか、一瞬考えたが直ぐに興味を失った。

 保険なんて言っている相手が誰かなど興味を持つこともなかったため、確認をすることもなく改めてメニュー票へと視線を戻す。そのため、その彼女がそのあと向かって行った先の、テーブルに座っている女子2人が誰なのかも気に留めていなかった。しかし、その後聞こえてきた声たちにそれは覆され無意識に振り向いた。そこにいた女子2人のうち、1人は美鈴だったからである。

 その刹那、直ぐに注文窓口へと並び、急いで大盛オムライスを受け取るとその席へと急ぐのだった。



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