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二、ソレゾレのハツコイ

 

 花杜 美鈴ーはなもり みすずー

 それが私の名前。正直、あまり気に入っていない。

 名前だけを聞くと可愛らしい女子をイメージしそうだが、実際はその対極に存在しているのが私だ。

 普段の服装といえばパーカーにズボン、スニーカーやブーツ類をメインで着用している。

 中学生のときはスカート着用義務のため穿いていたが、私用でのスカートは一枚もない。

 高校は女子のズボン着用可のところを探して入学を決めた。別にスカートが嫌いというわけではない。ただ小学生の頃から抱いている目標を果たすためには、私の中でズボンは必須装備なのだ!

 そうそれは、可愛い女子と恋愛をすること!

 邪な考えと思われるかもしれないが、それには理由がある。私には忘れられない過去があるためだ。


 幼少期の頃から可愛いものが好きで、外出をする度にファンシーな雑貨をねだっては、日々部屋を可愛いで埋め尽くしている。

 だからといって自身を可愛く仕立てようなどとは微塵も考えておらず、可愛い物を愛いでる時が至福の時間なのだ。


 そして初恋というその感情を自覚したのは小学五年生の時。

 周りの女子たちが気になる男子の話題で盛り上がっている中、どうしても異性に興味を持つ事が出来ずにいた自分は、誰かを特別と感じる経験をするのはまだ先の事なのだと思っていた。

 しかしそこに、心の中をキュッと掴むような人物が現れる。

 それは塾でのこと。別のクラスに物凄く可愛い女子が入塾してきたという事で、塾内がその話題でざわついていた。

 言い過ぎでは?と懐疑的な友人が、ひとめ拝むためにその教室へ行くと言うので私も付き合わされることになったのだ。

 やれやれと、呆れながらも同行するとそこにはまさかの存在がいた。

 ミックスだろうか?

 アクアマリンに輝くその瞳の色は、日本人のそれとは明らかに違う。

 コロンとしたビー玉のような瞳。ふわっとした綿のような自然な波をうったヘアで、ボブ程の長さのハニーブラウン色の髪。少し小さめの口元は日本人の血筋が入っているのだろうか?

 彼女の姿を射止めた瞬間、花びらが舞ったように目の前の世界が変化した。

 胸がキュッと締め付けられたようになり、ああこれが恋か、とはっきりわかるほどの高鳴りが音を刻む。

 とにかく彼女と関わり合いたい!そのためには何と声をかければいいのか。頭の中で色々な言葉が巡り巡っている。

 日本語の塾に来ているんだから日本語は話せるよね。

 よし!


「は、はじめまして。私は、はなもり みすず」


 少し声を震わせながらも、勇気を振り絞って声をかける。

 その様子に、最初は息巻いていた友人は戸惑って私の様子をみていた。


 相手は私の挨拶に、ニコッと人懐っこい笑顔を向けるとソプラノ調の声色で返事をした。


「はぁい。みすず。こんにちは。私はフィリア・コランダム」


 思っていたよりも日本語はしゃべれるようだ。


「あ、あの、私と友達になって欲しいです!」


 教室に響く程の声音で相手に伝える。ひとまずは友達から始めよう。

 相手はきょとんと無防備な表情をみせぱちぱちと瞬いたがすぐに、花でも咲くような明るい笑顔で


「オケィ。あなたと友人になれるなんて素敵ね」


 と返してくれた。


 友人になってからは塾がある日は彼女のクラスに必ず向かい、彼女と沢山の会話をした。アメリカにいた頃のことや、日本での生活についてなど、そして彼女自身のことも話してくれた。両親共にアメリカ人だが、父親の仕事の都合により昨年、日本へ。

 母方の祖母が日本人らしく、祖母と会話をするためにずっと日本語と併用して生活していたそうで、日本にきても困らない程度には会話ができるそうだ。日本に深く興味をもち、その知識量はそのへんの日本人に負けてはいない。


 彼女との会話は楽しい。何を話しても楽しい。

 いや、会話などせずとも彼女がそこに居るだけで楽しい。

 彼女といると、私の心は常にトクントクンとリズムを刻んでいた。

 暫くしてずいぶん仲良くなってきたころに、そろそろ告白をしても受け入れてもらえるのではと意識し始めた。

 告白する覚悟を決めた日の休み時間に彼女を呼び出し『フィリアが好き』と告白をした。しかしその言葉を聞いた瞬間、彼女は瞳を瞬いた。

 そして申し訳なさそうに眉尻を下げて微笑み、ゆっくりと言葉を紡いだ。 


「ゴメンナサイ。スズの気持ちには応えられないわ」


 あぁ 予想していなかったわけでは無いがやはり断られると、ぐっと息苦しさのような胸の圧迫が襲う。普段の彼女の様子から僅かながらの期待を持ってはいた。少しでも希望があるのならばという想いで意を決し告白をした。

 しかしこのまま疎遠になるのは、自分の中で後悔がうまれる気がした。せっかくできた縁だ。切れたくはない。まだ、友人ではいてくれるだろうか?

 そんな淡い期待を望んで、声を出そうとしたとき、


「それに私の理想のタイプは山吹 昴なのよね」


 ごめんなさい、といいながらも申し訳なさそうに困った表情をしたのは一瞬で、直ぐに少しだけお茶目な軽いウインクで返される。

 え?

 山吹 昴といえば女性のみで構成された劇団の男役で有名な花形劇団員である。

 その容姿、仕草は、まるでの王子様ように美しく、ひとたび微笑めば全ての女性を

 魅了し夢へいざなうのだとか。

 予想もしていなかった名前を出され、思考が止まった。

 理想のタイプ…

 まさかという感覚。

 そして、そんな高嶺の理想を聞かされて、今の私にはその役者が持っているようなものなど、何一つ持ち合わせていない現実を思い知らされる。

 この時、玉砕ともいえる失恋をしたのである。いや、だがしかし、ここでわかった事があるとすれば、同性からの告白に嫌悪感はない?

 それはこの先の努力次第では僅かでも望みがあるのでは、と期待を持った時だった。運が悪くその始終を他児童に目撃されてしまい、慌ててその児童を追いかけて教室に戻ってみると、花杜は女子が好きという話が拡散されていた。

 それをフィリアが諭すという地獄の様な空間が出来上がれば、顔面が蒼白になるしかない。

 狼狽えてその場をどう動けば良いのか混沌としていると、その空気を打破するように講師が授業の時間だ、席につきなさいと言うようなオーラを纏い教室に入ってきた。


「ここでは有益になる会話以外は慎むように。授業を始めます」


 ぴしゃりっと放たれた言葉に、一気に身が引き締まるような空気が張りめぐらされ、児童たちは慌てて各自の席に着いた。

 その講師のおかけでそれ以上にそれ以降は、外野から何か直接言われることはなかったが、やはり妙な空気というのは清浄することはないもので、塾にいるのがいたたまれず暫くして転塾することになった。

 こうして、私の苦い初恋は幕を閉じたのである。


 その経緯もあり、私は女子が好む異性とはを模索し、結果、多くの女性は性別にこだわらずカッコいい人に好意を抱く傾向があると推測した。

 彼らを見本にすれば、可愛い女子たちにちやほやされるに違いない!

 (おっと、よだれが)

 故に専門雑誌を購入しファッションを参考にしたり、dvdを借りてはどの様な容姿なら好まれるのか、どの様な仕草に関心があるのかを研究に研究を重ね磨きあげて今に至る。

 おかげで、学校では女子からそれなりに好感触で、まるで、王子様系アイドルに対するのと同じような視線を向けられ、お昼を誘われたり、遊びに誘われたりするのが日常となっていた。

 ほんとに自分、頑張った!

 おもわずグッと拳を握る。

 その中で、あわよくばお付きあい出来るような相手をと探しているのだが(もいろん可愛い子が好きです!)ファンクラブのようなものは出来れど、本気で恋愛感情を持って接してきてくれていそうな子は見当がつかないでいる。

 いつになれば、可愛い恋人が出来るのだろう…

 しょぼんと肩を落とし俯いた。が、直ぐにふっと岩中さんのことが頭の隅によぎった。


 かわいいかのじょ…なのか?



 岩中 瑛ーいわなか あきらーそれが私の名前。

 物心つく頃から、食欲旺盛でその食べっぷりは両親を驚かせ呆れられるほど。

 今では、私の分の食事量は他者よりも多めに作ってくれる良き理解者となってくれている。(はずよね?)

 可愛いもの全般が大好きな私は、友人たちと行く雑貨屋探索は食べ物のと同じくらい楽しみにしてお出かけするのだけれど、おやつタイムに寄ったカフェなどでの休憩中に咲くコイバナが、自身にはどうも馴染まずにいた。

 いつも曖昧に返事をしていたら、いつの間にか恋愛はしない人と認定されたらしい。

 確かにこの時までは恋愛などに興味を持てず、いついかなる時も未知なる食べ物との遭遇ばかり考えていたかもしれない。いわゆるアイドルと言われる芸能人にも殆ど興味がなく、小学校高学年にもなると話についていけないことが増えてきた。

 そんな対応をしているとそのうち、私の前では異性のあれこれを話す事がなくなり友人たちとの関係が徐々に希薄になっていた。

 そうしているうちに、転入生がやってくるという話で教室がざわめきだす。

 聞けば海外育ちの、ブラウンヘアで瞳が碧いビー玉のような可愛い女子だという。

 いつもなら他人に特に興味はないけれど、可愛いというワードに少しだけ興味が湧いた。

 目の保養にでもなれば良いと思いながらその転入生が教室に来るのをまつ。そして、その子が入ってきた瞬間、目の前に星が集まったかのように、今見えている世界が一変した。

 フィリア・コランダム。それが彼女の名前。

 自己紹介をしてにっこり微笑んだ顔が、天使のようだといっても過言ではない。

 ホームルームの後の僅かな休憩時間になった瞬間、普段は自分から他人に接触することは稀なのだが、この時ばかりは進んで彼女の元へと歩みを向けた。


「はじめまして。私はいわなか あきら」

「ハイ。あきら。私はフィリア・コランダム」

「わたし、フィリアを好きになると思う」


 ダイレクト過ぎただろうか?

 相手はきょとん目を丸くした後、眉をハの字に寄せうーんと数秒ほど思案した後、

 少し気まずそうにしながら囁くように問いかけてきた。


「それは恋愛として?」


 と、相手も直球だった。


「ええ」


 変な誤魔化し方はしたくない気がした。

 彼女はたぶんこちらが思う以上に思慮深い子じゃないかと、この僅かな会話と表情で悟った。

 彼女の様子からすると偏見などは無さそうね。

 しかし、期待は少し違う方向で崩れることになる。


「あなたは私の好きなタイプに近いと思う。でも、ごめんなさい。家族がね、少しうるさいの」


 そこまで言って、急にもの淋しげで虚ろな表情へと変化する。

 家族?身内に反対するような人がいるということなのかしら。

 断られる理由にいまいち腑に落ちない部分があったけれど、それでもその壁を壊そうと思える程には、私に惹きつけられるほどのものがない、ということなのかもしれない。

 この先も無理なのかしら?

 もう一押しをしようと口を開きかけたところで、フィリアがぼそりとつぶやく。


「不変の愛とは…なにを言うのかしらね」


 その言葉を聞いた瞬間、この子にも何かしらのしがらみがあるのだろうと感じた。

 私にそのしがらみから解放してあげられるだけの力があるのか、この時の自分には約束して挙げられるような力がほんの一握りもなかった。


 それから暫くして、彼女の家は恋愛に対して少し複雑な環境にあるのだと知った。


 そして、私の初恋と呼べるのかわからない淡い感情は幕を閉じる。

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