一、キミカラのコクハク
文学フリマにて「夏からはじまるキミとの恋」というタイトルで出品していた作品を、再編集してタイトル変更をしたものです。
自分にとっての青天の霹靂とはまさに今、目の前で起きていることをいうのだろうか?
「私と付き合ってほしい」
曼珠沙華のように姿勢正しく、凛と立っている人物と真っ直ぐに対峙しながら、相手から伝えられた言葉にピリッとした空気が走った。
6月も半ば、空の色が変わるにはまだ早い放課後に、自分たち以外は誰もいない教室で、半開きになった窓からそっと忍び寄ってくる風に包まれていた。
相手が放った言葉の意味を正確に捉えようと思考を駆け巡らす。
ー付き合うって、どの付き合うだろう?どこかに一緒に行ってほしいとか?それとも…ー
妙な緊張を纏いながらチラっと相手の様子を伺うと、彼女は肩甲骨まであるサラッとした黒髪を風に遊ばせながら、きりっと整った切れ長の目をこちらに向けて瞳の奥を捉えていた。
風と一緒にほのかに甘い香りが漂ってくる。
彼女の名前は『岩中 瑛ーイワナカ アキラー』。自分と同じ高2。
クラスは別だが同じ棟に教室があるため、すれ違うこともあったりする。しかし、特別に接点があるわけでもなく、偶然に姿を見かける程度だ。
そんな彼女が部活が終わり誰もいない教室で、帰宅の支度をしていたところに突然やって来て、予想外の言葉を発してきたのである。
じっと射貫くように鋭くみつめてくる瞳にたじろいだ。
ー付き合うって、やっぱりそっちの意味であってるのだろうか?ー
「あ、えぇ、と。それは、どこかに付き添う、とかの意味じゃないよね?」
言葉の再確認をする。勘違いで恥をかくのは勘弁である。
しかし、こちらの問いに思い違いではなかったと確信がもてる言葉が返ってきた。
「あなたと恋人同士として、お付き合いしたいと言う意味よ」
静かに、けれど言葉にしっかりと重さをのせて伝えてくる。
普段、接点のない相手からの告白にその感情がどの程度のものだろうかと相手の表情を伺う。
返す言葉を間違えれば、明日からの自分の高校生活は終焉を迎える。
「失礼を承知で確認なんだけど、私は女子です」
僅かに引きつる口元を右の手の平で覆い隠しながら、事実を告げる。せっかく告白をしていただいて申し訳ないのだが、私はれっきとした女子である。女子が女子に告白を受けているのである。
しかし、告白をされても多少は致し方無いのかもしれない。
学校での私はスラックスタイプの制服を着用し、ショートヘアーで涼しめのキリっとした印象を与えるようなメイクを施している。身長も百六十五センチほどで、更に上げ底の靴を履いているために身長をやや高めに錯覚するようにしていた。男装女子をスタイルとしている自分には、普段から憧れや興味とかで近づいてくる人たちもいる。そういった人たちと同じ分類なのかを、しっかりと見極めなければならない。
「? 見ればわかるわ」
怪訝に眉を寄せた彼女が、なぜ当たり前のことを聞いてくるのかと不思議そうな顔でみつめてくる。
「私は『花杜 美鈴』という女子に告白をしているのだけれど」
真剣な告白で間違いないと、彼女の気迫から読み取れた。しかし、何がきっかけで私のことを好きになったのだろうかと、さらに相手の感情を探ろうとするが端正なその表情からはやはり何も読み取れない。
今わかっていることは彼女も自分と同じ、恋愛対象が同性ということだろうか。
「あ、うん。そうだね。だけど、それは私の恋愛対象が同性だって思っているって事だよね?どうして?」
確かに男装女子をスタイルにしてはいるが、同性が好きだと公言はしていない。ただ、男女問わず王子様キャラの如く接しているためか、女子からも色めき立つ淡い声が聞こえてくることは多々ある。
けれど、それでも不可解だ。それなのに、岩中さんは私の瞳をしっかり捉えるとはっきりと答えた。
「見ていればわかるわ。あなたは、女子と対峙しているときには感情の機微が変化するもの」
!!バレてる!他の人には!?いや、大丈夫だ。今のところ私に変な事を言って来る人はいない。
ほっと胸をなでおろし、改めて彼女の姿を確認する。そこまで自信を持って私に告白してくるということは、彼女の感情も嘘ではないのだろう。それならば、と私は真剣に答えることにした。
「そっか。それでもごめん。私、ふわっとした可愛い子がタイプなんだ」
はっきりとお断りの理由を伝えた。
相手も真剣ならこちらも誠実に答えなければならない。しかし、言ってしまった後の罪悪感が物凄い。
こればかりはごまかしても仕方がないからね。私は、キレイ系よりもゆるふわ可愛い系が好みなのである。
「あら、気が合うわね。私も可愛いものが大好きよ」
ふわっと柔らかく微笑みながら告げられた言葉に、ドキッとした得体の知れない感情が動く。
何だ?
そっと胸に手をあてた。感じたそれは何故か不思議なもので、私の胸の中に自然としみ込んでくるような感じがした。
いやしかし、気が合うとか今はそういう話ではなかったような気がする。彼女も可愛いモノ好きなら、私のことはタイプとは違うのでは?
よくわからない思考に戸惑いを隠せず相手の様子を伺っていると、相手はいい案を閃いたとでもいうようにコチラを軽く指さしてきた。
「そうね。じゃあ、期間限定のお試し恋愛をしましょう」
⁉
‼‼
何を言われたのか理解が追いつかず、感情を彷徨わせていた。
期間限定の恋愛?今、告白を断ったはずなのに。
「え!と。それってつまり」
「2学期始業日までの期間限定の恋人。それまでに好きにさせられなかったら、諦めるわ」
続けてそう告げられた刹那、今まで僅かにしか感じることがなかった張りつめた空気が、いっ気に強度なものへと変化し充満した。
彼女の瞳に力が宿る。
それまで読みとる事ができずにいた彼女の感情が、この時だけははっきりと頑なに譲ることの出来ない気持ちなのだと伝えてくる。
その緊迫した空気に、この告白をなかったことにするには自分の中で納得のいかない「何か」を感じ、それと同時に頭のどこかでこの先に起こるかもしれない「何か」を期待している自分がいることを認めていた。
そう感じた瞬間、無意識に
「うん。わかった」
と、自然とその言葉は私の中から出ていたのである。
私の返事の言葉が彼女に届いた瞬間、ふわっと綿菓子のような柔らかい笑顔を向けてきた。
あ 可愛い
先程まで、お嬢様系のイメージを持っていた彼女のそのあどけなさを含んだ笑みをみた時、胸の中に薄っすらとだがじわっと温かい何かが広がった。
とくん とくん とくん
リズムの良い音が、胸のうちから聞こえてくるようだ。
風が静かになり、グランドから部活の終礼の声が聞こえてきた。
帰ろっか…とぼそっと呟くと帰り支度を済ませて、駅まで一緒に歩く事になった。
それまでまともに会話をすることが無かったので、きっかけとなる話題をどうにかひねり出そうと考えていると、彼女からデートをしたいという提案を受けた。
デート。デート。デート。て、どこに行けば良い?
相手の趣味がわからずどこが適しているのかを、今まで行ったことのある場所を手当たり次第に思い浮かべる。私が、うーんと唸るように考えていると、今、水族館でイベントが行われているとかで彼女の希望により翌々週の土曜日に水族館デートで決定となった。
人生初のデートである。
まだまだ、加筆修正する可能性があります(汗




