19.寒い日にはおでん
【side:マコ】
急に冷え込んだ日の夕方。
コンビニに行くと、いつも売り切れている玉子と大根がぎゅうぎゅうに入っていた。
これ、買いでしょ。買うしかないでしょ。
「すみません。大根と玉子、ロールキャベツとしらたきとじゃがいもを一個ずつお願いします」
お出汁もたっぷり入れてもらった。
今日はおでん。ビールも買っちゃおう。おでんにはビールだ。
おでんって作ると時間も手間もかかるから、一人だけなら買う方がいい。
みんなで食べるなら作ってもいいな。
その時は何を入れよう?
玉子でしょ、こんにゃく、大根、牛すじ、厚揚げにはんぺん、もち巾着、しらたき、じゃがいも。厚揚げの代わりに薄揚げも美味しいとか聞いたなぁ。
大人数で食べたら美味しいけど、生憎の一人暮らし。部屋の大きさからも呼んでも三人が限度。うん、ギリいける。
土曜日の夕方。
3人用の鍋にはぎっしりと具材が敷き詰められている。
牛すじは商店街の精肉店で買った。スーパーのよりも美味しくて安いのが嬉しい。
「うーん。いい匂い」
カナは部屋中に漂うおでんの香りをくんくんと嗅いでいる。
匂いに誘われてふらふらと近づき、私の背中にぺたりと張り付いた。
「うわぁ、玉子しみしみ〜。ウィンナー入ってる〜」
串刺しのウィンナーはカナのリクエスト。
リカちゃんのリクエストのタコは、丸めた足をシンクロみたいに出して吸盤を見せている。
ちなみに私の推し具材はこんにゃくだ。
「お昼前から煮込んでるからね。しみてるよ〜」
弱火でくつくつと煮込んだおでんはどの具材も味が染み込んだ色に変わっている。
さぁ、飲み物はなんにしよう。
食べ始めて少し経った頃、仕事帰りのリカちゃんがスーツのままやってきた。
こうして見るとちゃんと社会人しててかっこいい。
「疲れたぁ。クソジジイが、余計な手間増やしてくれて。××に×××ぶち込んで一晩中××まくってやりたいわ」
訂正。ひとんちに来て、開口一番に自主規制な発言する大人にはなりたくないな。
据わった目が、ローテーブルのおでんを見つけて一気に輝いた。
「いやぁん、おでん!寒い日にはしみるのよねぇ」
「お疲れー。マコちゃんの特製おでんだよぉ。美味しそうでしょう」
なぜかカナがドヤ顔で胸を張る。
お土産の冷えたビールを配ってみんなで乾杯。
薬味は辛子と柚子味噌と柚子胡椒。
おしゃべりしながらだらだらと食べ続けている。ビールもすでにロング3缶目だ。
「タコさんウィンナーの刺し方がエグいぃ」
きゃははと笑いながら頭から頬張るのはカナ。
「××から刺すとか、ヴラドじゃん」
牛すじ美味っ!と豪快に串から食べるのはリカちゃん。
「なによ。フランケンタイプが良かった?」
こんにゃくともち巾着を取る。
もち巾着って餅と揚げだけなのに美味しいよね。カロリーだけが気になるけど。
「もち巾着で思い出した。昔さ、おでんのアニメあったよね。あれ、主人公がもち巾着のやつ」
「あー、あった、あった。おでんか、なにもかも、みな懐かしい」
「艦長の名言キタ」
カナとリカちゃんの話を聞きながらこんにゃくにかぶりつく。私はそのアニメの存在は知っているが、ほぼ見たことがないのでうろ覚えなので、あえて沈黙する。
「もち巾着はぽっちゃり受で、大根は純情大男受だと私は思うんだよね」
「イイっ。イイよ、それ。『期待してんだろ、もち巾着。ほら、お前の中、どろどろじゃないか』」
…モチだしなぁ。
「『あんなに硬かったのに、ぐずぐずに溶けてるな。そんなに気持ちいいのか?いいんだろ?いえよ、大根』」
…煮すぎると崩れるよね。
二人のバカ笑いを聞きながら大根とじゃがいもを取る。
「ジャガイモもホクホクだわ」
「そうよ、ジャガイモ!ねぇ、カナ。ジャガイモは?」
「え?どっち?芋なら見かけだっさい原石男?え?受?攻?」
「変身具合によりますなぁ」
「わかりみ」
箸で指すな。そして食べろ。
アツアツのジャガイモを食べていると、リカちゃんが新しいビール缶を開けた。
「つーかさぁ、攻は誰よぉ。チャラ男こんにゃく?束縛系の結びシラタキ?漢気全開の牛すじは、やっぱ彫りの深い褐色男子で決まりよね。色々デカそう」
「逆にカントボーイでもイケる」
「………イケるね」
「顔も体もゴリゴリに男臭いのにカントボーイっ!萌えるっ!好き!抱いてあげて!」
カナも酔ってるなぁ。
見れば、新しいロング缶を開けていた。
この擬人化談義はまだ続くんだろうか。
「おでん出汁が総攻でよくない?」
話題を終わらせようと口に挟んだら、カナの目がキラっと光り、リカちゃんは目を見開いた後笑い出した。
「ヤッバい。最強攻様キタ」
「相変わらずマコの着眼点素敵だわ。おでん出汁は盲点よ」
さらに加速した擬人化談義を聞きながら、言葉選びを誤ったことに気がついた。
まぁ、いいか。卵と厚揚げ食べよう。
【おでん〜身も心も沁み込ませてやる〜】
鍋という牢獄に閉じ込められた具材たち。
脱鍋を決意したもち巾着と大根は看守のこんにゃくと結びシラタキに捕まりえっちな拷問を受ける。
それを目にして怯える厚揚げを励ます牛すじ。しかし、牛すじはすでに小悪魔玉子に身も心も支配されていた。
愛憎乱れあうおでん鍋。しかし、最強の攻であるおでん出汁が全ての具材たちを我が物にせんと魔の手を伸ばすのだった。
カナ「って話にしようと思って」
マコ「…いや、誰得よ?」
リカ「少なくとも私は読みたいな♪」




