突撃行進曲
「灰花!おい起きてるか灰花!」
「げほっ、…っ、ああ、なんと、か」
「話は聞いてたか」
「途中から、だけどな…」
「ヨシノの野郎とんでもない事に巻き込んでくれたぜ」
「くるさん一人が同窓会に参加するなんて事になってなくて良かった…」
「ここで人の心配かよ」
「当然だろ。寧ろ巻き込まれて良かったくらいだ。ここにいるから俺はくるさんを助ける事が出来る。くるさんは必ずくずはさんの元に帰す!」
「そうだな、帰らねえとな。…灰花、お前身体は動くのか」
「なんのこれしき…!」
「そうか、悪ぃが俺の方はまだ本調子とはいかねえ。頼るぞ」
「ああ、任せろ」
「ヨシノはここを燃やす気だ。着火するモン持ってねえのか出て行っちまったが、この瞬間にでも外から火炎瓶投げ込まれたら仕舞だ」
「ガス爆発って言ってたから距離を取ってんのかも」
「何にせよここにいたら全員御陀仏だ、時間がねえ」
「隆弘、俺はどうすればいい」
「お前はそこの窓からなんとか下に降りろ。階段降りて外に出て、なんて暇はねえからな。俺はここにいる全員を一人ずつ外に放り投げるからお前は下でキャッチしろ」
「ちょ!待て待て!そんな無茶苦茶な」
「時間がねえっつってんだろ!俺よりお前の方が動けるんだ、さっさとしろ!それとも何だ、キャッチしそこなうかもしれねえのが怖いのか!」
「しそこなうもんか。何度くずはさんの無茶なアクロバットを受け止めたと思ってる!」
「こんな時にホモ自慢なんてするんじゃねえ!」
◇
ヨシノは来客用玄関から外へ出てそのままくるが落下した場所に向かった。
暗くてよく見えないが、音楽室から降り注いだガラス片の他に、恐らくくるの血が芝生に飛び散っているのが見えた。
芝生の隣はコンクリートになっていて、裏の職員用駐車場からここまで車が入って来られるようになっている。コンクリート部分には血が見えなかったので芝生の上に落ちたのだろう。そう思いたい。
ヨシノがどうしてこんな事をしているのかなんて分かりたくもない事にしたけど、奴なりの理由があったとしても、ヨシノがくるを殺してしまう現場なんてのは見たくはない。
辺りにくるの姿は見えない。音楽室から出て行った斉賀さんの姿も、それを探しに出たユウの姿も見渡す限り見当たらない。
ヨシノが肩を竦める。
ここから2階を見上げると音楽室がある。何やら人の話し声のようなものが聞こえる。声から察するに隆弘さんと灰花さんだろう。意識が戻ったのか。良かった。
ヨシノは話し声が聞こえているだろうに気に留めず、元来た道をきょろきょろしながら歩きだす。
校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を超えると目の前には運動場が広がる。右にまがり、校舎に沿うように、室内にも視線をやりながら進む。暗くてよく見えないので私は覗きこむのをやめてヨシノの後ろをついて歩く。
放送室。事務室。まだ灯りがついている職員室の前を通り過ぎようとした時目の前からユウが小走りでやってきた。
「ごめん、斉賀さん足、早くって、追い付けなくって、俺が芝生のとこ行った時にはもう、くるもいなくなっちゃっててっ」
「息整えてからでいいよー」
「隆弘さん達の方はどうしたの」
「ああ、そうそう。ユウに頼みたい事があるんだー」
そう言ってヨシノは右手に持っていたものをユウに渡した。
「これに火つけて音楽室に放り込んでほしいんだ」
「何これ。ライターと…」
「即席火炎瓶!今回スピリタス大活躍だね!音楽室に撒いてきたからよく燃えるよ」
わざわざ被服室に立ち寄って布を物色していると思ったら火炎瓶なんてものを作ってたのか。
スピリタスの蓋を開けて注ぎ口に布が液体に浸るようにつっこまれ固定されている。子供の発想って恐ろしい。
「何かにユウの特技が生かされるかなーと思ってコンパウンドボウ体育館の床下に隠して置いてあるからそれ使って。弓の先端に括り付けてさ!映画みたいに一発ヨロシク!」
「人の私物勝手に持ち出さないでよ」
ユウがヨシノから火炎瓶とライターを受け取る。
「ねえ、綾は」
「小学校が全焼したって安全な所にちゃんと置いてきたから安心して」
「そう、ならいいよ」
「さて、俺はくるちゃんと斉賀さんの捜索をせねば!警察に駆け込まれて証言されちゃったら大変だ!」
「言う程大変だとは思ってないだろ、楽しんでるようにしか見えない」
「うん!最高のスリルだよ、こんなの滅多に味わえないよ!」
ヨシノがからからと笑う。
「ねえ、さっきから気になったんだけどそれ、何?」
ユウがヨシノの左手を訝しげに指差す。そういえばヨシノはさっき、来客用玄関にあるスリッパの保管棚から何か棒状の物を取り出していたな。
「これ?斧だよ」
あっけらかんと答えてヨシノが斧を掲げた。
「何でそんな物騒な物持ってるの」
私が口にしたかった事をユウが代弁してくれた。
「ホームセンターで買ってきたんだよー、最近のは軽いのもあるんだね!何が起こるか分からないからコンパウンドボウ持ってくるついでに隠しておいたのだ!ねえ見て見てかっこいいでしょ!」
「はいはい、振り回さないで」
じゃあもう行くよ、と火炎瓶を投げ入れるためにユウが移動しようとした時、ヨシノがぽつりと呟いた。
「職員室の電気、ずっとついてるね」
横に視線を向けると職員室がある。確かに来た時から灯りがついたままだ。
「そうだね。さっき車の音がしたから先生帰ったと思ったんだけど。消し忘れて帰ったんじゃない?」
「でも職員用玄関玄関から裏の駐車場に出るにはあの芝生のとこ通らなくちゃいけないじゃん。音楽室灯りつけっぱなしだし芝生にはガラス片落ちてたし、普通気付かず通り過ぎちゃう?」
ユウも気になったのだろう、ヨシノに急かされるまでもなく自ら職員室を覗き込む。
ゆっくりと職員室の端から端に視線を送っていると、ユウの動きが止まった。
「…倒れてる」
「ぬぬ?」
「先生、かな。足しか見えないけど…人が倒れてる」
「つまり、どゆこと?」
運動場の方から車のエンジン音が聞こえる。
音のする方に目を凝らすと、ここに到着した時正門近くに止まっていた黒のカムリが夜の運動場に溶け込んでいるのが見えた。
どうしてあんな所に。
「?」
ヨシノが首を傾げる。
ライトを付けていないが音が近づくので走行しているようだ。こちら、ヨシノとユウがいる地点に向かって加速しながら一直線に。
「わはっ」
ヨシノが嬉しそうな声をあげた。
車はノーブレーキでヨシノ達目掛けて突っ込み、そのまま職員室に衝突した。




