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葬送行進曲

「くるちゃんがね、転校しちゃった」

「そっか、残念だね。ヨシノのお気に入りだったのに」

「ホントだよー」

「どうしてそんなにくるがお気に入りなの?」

「んー、ホラ、くるちゃんって何しでかすか分からないじゃない。それが見てて楽しいんだー。あれとか傑作じゃん、くるちゃんが鋏でクラスで飼ってたザリガニを」

「思い出させるんじゃない!」

「てへぺろ!」

「まったく。ところでくるはどこに転校したんだ?」

「花神楽高校だって」

「って事は花神楽かあ。近いんだから遊びに行ったら?今年の花神楽祭には行った事あるんだけどなかなかの見応えだったよ」

「おやおや、ユウと二人で行ったのかな?」

「ご想像にお任せする」

「らぶらぶですなあ」

「夏休みなんだしヨシノも行ってみたらいいじゃない。確かもうすぐ花神楽で花火大会があるよ、くるでも誘ってさ」

「くるちゃんが俺の誘いに首を縦に振る訳ないじゃん。デレたくるちゃんなんて気持ち悪いだけよ」

「ひどい言い様だな。本人が聞いてたらお前は今頃八つ裂きだ。間違いない」

「いないから言ってるんだよ」

「いても言うくせに」

「そんな事ナイヨー。俺の事なんかよりさ、早く退院してユウと花火大会デートでもしてきなよ」

「そうだな。花火大会は置いといて花神楽に遊びに行くというのは良い案だ、三人でくるが新しく通ってる高校とか見に行っちゃおうじゃないか!」

「おお!綾ってば積極的!三人で突撃・花神楽高校かあ、楽しそうだね!絶対行こう!」

「勿論だ!抜け駆けは許さないからな!」



酒瓶で側頭部を殴打されたくるがふらついて窓枠にもたれかかった。体を支えるため割れ残ったガラス片部分に勢いよく手をついてしまって掌にガラス片が食い込んだのだろう、顔をしかめた。


「…ッ、シ、ノォ!!」


くるが呻きながら本日一番の殺意を込めてヨシノを睨みつけるがヨシノは気にする事なく軽く笑い流してくるに近寄る。

そんなヨシノに詰め寄ろうとした斉賀さんを、ユウが立ちはだかり遮った。斉賀さんの動きが止まる。

そんな二人には見向きもせず、ヨシノは酒瓶を持っている手とは別の手をくるに伸ばす。伸ばして、くるの首を掴んで、そのまま力を込めて、突き落とした。

あまりにも自然な動作で突き落とすものだから暫くヨシノが何をしたのか理解出来なかったけれど、アイツはくるを2階から突き落としたのだ。


「くる君!」


斉賀さんが叫ぶのと同時に窓の向こうから重たい衝突音が聞こえた。

ユウまで青ざめている。


「あ、ごめん。綾の事思い出させちゃったかな」


ヨシノは私の自殺方法の事を話しているのだろう。

弱弱しくユウが首をふる。トラウマにしちゃったか。ごめんな。


「2階だしこの下って芝生だから大丈夫だよ。運が悪かったらコンクリに頭くらいははみ出しちゃうかもだけど」


私が小学生の頃、観賞用植物を植えて飾りたかったけれど出来る人が異動になってしまい、あっても困らないからと放置されっぱなしだった芝生がそのまま残ってるのか。

でも頭から落ちたぞ。頭に怪我をして出血していたし危険な状態に変わりはないだろう。


「何で突き落としたの」

「くるちゃん怖いんだもん。殺られる前に殺れ!ってよく言うじゃない」

「自殺に見せかけたいんじゃなかったの」

「窓割られた時点で自殺に見せかけるのはもう無理でしょ。プランBだよ!」


ヨシノが目をキラッと輝かせた。


「聞いてないよ」

「一度言ってみたかっただけだから、そんなものはないよ」

「は?!」


ヨシノの返答にユウの視線が完全に斉賀さんから逸れた。その瞬間を見逃さず斉賀さんが音楽室の出入り口に向かって走り出した。


「およ、隆弘クンと灰花クンを見捨てるのかな?」

「人聞きの悪い事言ってんじゃねえよ」


隆弘さんの声がした。

声がした方を見るとヨシノの片足を掴む手がある。その手の人物、倒れたままの隆弘さんがヨシノを睨め上げていた。


「隆弘様は自分の身くらい自分で守ってこのピンチを切り抜けられるって、アイツは判断したんだよ」


なるほど、斉賀さんは隆弘さんの意識がある事に気付いていたのか。

でも隆弘さんの身体は小刻みに震え声も苦しそうだ。

ヨシノは斉賀さんが出て行った扉にちらりと視線をやってからユウを見る。


「俺捕まっちゃって動けないから、行ってきて」

「…大丈夫なの?」


自信満々にピースサインをユウに送った。ユウは抱えていた酒瓶を近くの机の上に置き斉賀さんの後を追って音楽室を出て行く。

遠ざかっていく足音に隆弘さんの咳込む声が重なって、ヨシノが隆弘さんに視線を戻した。


「さすが隆弘クン、お酒もお薬の量も足りなかったのかな」


隆弘さんが苦しそうに咳込むがヨシノの足は力強く掴まれている。


「この部屋に一酸化炭素送り込む仕掛け作るのに夜の学校忍び込んでは色々頑張ったんだよ。あの冷風機なんて自信作で」


ヨシノが言い終らない内に隆弘さんが倒れたままの状態から傍に置いてあった冷風機を蹴り飛ばした。勢いよく転がり壁にぶつかり冷風機が横たわる。蹴り入れられた部分は見事凹んでいた。

隆弘さんが不敵に笑う。


「ざまあ」


しかしヨシノは自信作を蹴り壊された事は意に介さず上機嫌のようだ。


「くるちゃん達連れてきただけでこんな展開だよ。ほんと驚きの連続!ほんと面白い人達!来てくれて嬉しい!」


「斉賀さんが警察呼んじゃってたらどうしよー」などとぬかしながらとてもとても楽しそうだ。

どうしてくるがお気に入りなのか尋ねた時、何をしでかすか分からないからとヨシノは答えた。

引っ掻き回してくれる事を期待して、それだけのために彼らを呼んだのか。昔からスリルを好む奴だったがなんて自分勝手な話なんだ。

そんな奴だって事は昔から知っていたけど、人様に迷惑かけないところで一人勝手に楽しめ。


「隆弘クンは知ってるかな、スピリタスってアルコール度数が96%もあるんだって」


言いながらヨシノがくるを殴るために使った酒瓶の先端部分を壁に叩き付けて割った。

そして容器の中身を傾ける。隆弘さんに中身が浴びせられた。驚いて思わず隆弘さんがヨシノの足を掴む手を離してしまう。


「それってもうただのアルコールだよねー」


掴まれていた足が解放されヨシノは隆弘さんから距離を取った。

隆弘さんがむせる様子を暫く見ていたが、立ち上がる事は出来ないと判断したのかヨシノはユウが置いた酒瓶に近付いて、一つを手に取り、今度は机の角目掛けて酒瓶の角を叩き付けた。

転がっている酒瓶の蓋は綺麗に外されているから栓抜きを使っていたのだろうが、恐らくヨシノは栓抜きが見当たらないからあのような横着をしているのだろう。子供の発想か。

二つ目を割って両手に一つずつ持ち、中身を倒れている人達に万遍なく零しながら歩き回る。空になるとまた新しく割って、また零しながら先程とは違う所を歩き回る。


「スピリタス持ってきてて良かったー、これね、よく燃えるんだよ」


窓は全部割られ風通しが良いとは言え、ひどいにおいだ。


「集団自殺に見せかけるのはやっぱり無理があったかなー。同窓会中にガス爆発。プランBはこれだね」


うんうん、と一人頷きながら私の遺骨が入った骨箱を抱え軽い足取りでヨシノが出入り口に向かう。


「お酒かお薬のどちらかが効いてたら苦しまずに逝けたのにね」

「待てよ…!」

「大丈夫だよ。ほら、よく言うでしょ。皆で死んだら怖くない!」


隆弘さんは苦笑いを返すのが精一杯のようだった。


「言わねえよ」


ヨシノは人差し指を口元に添えながらそうだっけーとぼやく。


「隆弘クン、今日は楽しかったよ」

「そうかよ」

「うん」


扉の前で振り返ったヨシノは、笑顔で隆弘さんに手を振った。

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