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葬送前奏曲

あ、綾ー!こんなところにいたんだ。

折角お見舞いに来てみたら病室にいないんだもんユウが血相を変えて飛び出して行っちゃってさあ、探しちゃったよ。

こんな所でどうしたの?自殺?あの高さから飛び降りて死にぞこなっちゃったの?

ごめんね、助けてあげられないや。果物ナイフなら持ってきてたんだけど病室に置いて探しに出て来ちゃった。

ああ泣かないで。俺が綾を泣かしたのユウに知られたら怒られちゃうよ。

ほらほら、痛いかもしれないけど時間の問題だからさ。即死じゃなかったのが不思議じゃないくらい見事な死体っぷりだよ!


大丈夫、待ってて。絶対皆と会わせてあげる。約束したもんね。綾は俺の友達なんだから。俺は友達との約束はちゃんと守る人間だって知ってるでしょ?

だからね、安心しておやすみなさい!



「そろそろ戻ろっか」


斉賀さんが立ち上がる。黙ってくるは斉賀さんに続いた。

2階段への階段を上る前に廊下の奥に視線をやるとまだ職員室の灯りが廊下に漏れていた。先生も大変なんだなあ…

階段を上って右手奥に音楽室がある。

退出する時は賑やかだったのに物音が一切漏れてこない。さすが防音。

音楽室の扉を開けると「わっ」と斉賀さんが驚いた声をあげた。

中を覗くと全員床に倒れている。辺りには1.5リットルのペットボトルがたくさん転がっていて、中にはウイスキーや焼酎等のアルコール飲料が見える。

おいこら未成年共。

酔い潰れてる所を先生に見つかったらどんな言い訳も通用しないだろうに何を考えているんだ。まったく呆れた。

あ、でもこれは隆弘さん達の寝顔を拝めるチャンスかもしれない!


「ねえ斉賀さん」


寝顔に浮き足立つ私とは違い、散らかった空き缶空き瓶空のペットボトルが我慢ならなかったようで、一カ所に集めはじめていたくるが何かに気付いたらしく、その動きを止めて呟く。


「息してない奴がいるんだけど」


は?

くるの視線の先にいた子に斉賀さんが近づいて呼吸を確かめている。

どうしたというのだろう。


「くる君、窓開けて」

「え」

「いいから早く!」


言われた通りくるが窓を開けようとするも窓がサッシから離れないようだ。舌打ちが聞こえた。


「割って!」


斉賀さんが叫ぶよりも先にくるが懐からはさみを取り出して窓ガラスに突き立てた。

幸いこの音楽室の窓は強化ガラスへの改修していなかったようで、けたたましい音を鳴り響かせながら窓ガラスが割れた。ガラスの破片が自らの腕を傷付ける事に躊躇せず次々に割っていく。

音楽室の窓を全部叩き割ったところでくるが斉賀さんの傍に駆け寄る。


「何だったの」

「いや、この部屋締め切ってたしガス漏れでもしてたのかなって思って」


斉賀さんが恐ろしい推測を口にした。

でも確かにあれだけの騒音が鳴り響いて誰一人目を覚まさない。ぴくりとも動かない。


「くる君、AEDどこにあるか分かる?」

「昔のままなら一階にある筈だけど」

「取ってきてくれる?僕は救急車呼ぶから」


くるが頷いて音楽室の出入り口に向かおうと立ち上がった瞬間、後ろから緊張感の欠片も感じられない声が響いた。


「わあ!どしたのこれ!何なのこれ!」


振り返ると出入り口にヨシノとユウの姿があった。ユウは未開封の酒瓶を数本抱えている。新たに飲むつもりでいたのだろうか。中にはスピリタスの文字も見える。自分達でも飲むつもりだったのか、強者だな…いや、今はそれどころじゃなくて。


「これ、くるちゃんがしたの?」

「僕達が来た時にはこうなってたんだよ」


軽率に惨状の犯人扱いされ鋏を握り直しヨシノに詰め寄ろうとするくるを斉賀さんが制す。

折角斉賀さんがくるを止めてくれたのにヨシノは空気が読めないのかくるの神経を逆撫でしたいのか、ぼやきながらくるの方にすたすたと近づく。


「折角夏休みにわざわざ学校に忍び込んで窓溶接したのにー!」

「この学校この夏休み中に強化ガラスに改修予定なんだって」

「それもっと早く教えてよ!とっくに全教室改修済みだと思ってたよ!俺の努力が水の泡じゃん!」

「いやまさか窓ガラス割られるなんて思わないよ、睡眠導入剤だってちゃんと飲ませたし。出る時人数確認しなかったヨシノが悪い」

「にゃー!斉賀さんとくるちゃんが抜け出してるなんて思うもんか!」


倒れてる同級生を踏み超えながらくるに一直線に近付く。


「でも」


困り眉だった表情をぱっとほころばせ、隣にいるユウが抱えている酒瓶から一本抜き取る。


「さすがくるちゃん素敵な想定外!だから好き!」


そのままくるの側頭部めがけて叩き付けた。

血の飛沫が床に飛び散った。

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